魔人紋解除
そのうちだれ視点かというのを追加しようと思います……読みにくくてすみません……
ギルドに戻ってきたらすさまじい魔力を探知しました。魔族の客でも来たのかと思って気にしてなかったんだが、ギルマスの話によると俺に用事があるらしい。
ホールへ向かうと、黒竜人と白竜人とこのギルドの息子二人はいなかったが、それ以外――つまるところ、ギルドメンバーは全員いた。
「こんにちは」
「やあ、こんにちは」
「こんにちはー」
青紫の髪の細身の魔人の男と人間の赤毛美人さん、杖持ってるから多分魔導士だな。エグザが二人に挟まれてるのが少し気になる。
「無斗、お帰り。待ってた」
「ただいまエグザ。そちらの御人たちは?」
「俺の両親」
「あ、そうなんだ。息子さんにお世話になってます」
なんとなく流れで。
「ゼノンという」
「エレノアです」
「無斗です」
自己紹介をして、ふと気付いた。ゼノンって聖魔王じゃね?
「……エグザ……お前、聖魔王の息子だったんだな……」
「俺だって先日知ったばかりなんだからそう言うな」
エグザは苦笑した。
聖魔王が来てるってことは、考えられる可能性はいくつかあるが、こちらへの移住がメインだろうか。
……ん?
俺、関係あるか?
「自分との関係が見出せねえって顔してるぞ」
「……何でライガーには表情読まれるようになったんだ?」
「慣れたわ」
ライガーがナイフをこちらに投げてよこした。
それで俺は何を彼らがしようとしているのかを理解した。
「魔人紋の解呪を?」
「ああ。無月のことだから、軽減のためにいろいろ策を弄しているとは思っていたけれどね、もうそれも限界ラインだ」
「……ライガー、いつ気付いた」
「けっ、サンドドレイク対策でテメーがガラスの壁作った時だよ」
「チッ」
アレで気付かれたのか。やっぱ同系統の術を使うやつがいると見破られやすいな。
本来俺は周りに水のマナがあまりない状態でガラスの壁を作った程度で倒れたりはしない。木属性をよく使うがゆえに余計にだ。火耐性がそもそも俺は高いので砂漠地帯だろうが関係ない。凍土は行ったことねえけど。
「無茶は禁物だ。……まったく、無月も素直に言ってやればいいのに」
「……は?」
え?
そういや聖魔王がさっきから俺の親父を親しげに呼び捨てしてるんですけど?
「親父とは知り合いなのか?」
「知り合いも何も、殺し合った勇者パーティだけど」
「~~!!」
俺の声にならない悲鳴が分かるか。
「はは、固まらなくていい。エイルガレラとガルバスタードも同じパーティにいた」
「結局勝てなかったけどな」
「無月にはあれで引退するような傷負わせちゃったからなあ」
親父の若年引退の原因はあんたか。
「……限界が近いと分かってたってことは、それなりに対策をしているんだね?」
「……まあ。一番は、あんまりクロガネやライガーの傍を離れないこと。まあ、今回離れたから……」
あんま体調は良くない。
「左腕を折ったことに気付かなかったんで、かなりヤバくなってるかと」
「……無茶をするわね……」
エレノアさんが呆れたように苦笑した。まあ、その自覚は俺にもある。
しかし、それだと親父が散々俺に言っていた理由は半分嘘ってことじゃねえか。くっそ、騙された!
あれのせいで親父と喧嘩別れみたいになったのに!!
「……クソ親父め……」
ああくそ、涙声になってる。
真っ直ぐ言ってくれたらよかったのに――いや、無理か。
迷惑になるなら切腹だもんな。
たぶん俺もそっち選んでたな。
「もう大丈夫。……さあ、魔人紋を解除しよう。皆、マナと魔力を集めるのを手伝ってくれ」
聖魔王がそう言って陣形を組んで、魔法陣を組む。聖魔王が俺の額に触れた瞬間、俺は意識を失った。
ゼノンはてきぱきと魔人紋を解除していく。
上位といっても所詮は魔王以下なのである。
魔力量、術式共に特に問題はない。パキパキと音を立てながら魔人紋が崩壊を始めた。
「これで良い」
ゼノンはそう言って崩壊を最後まで見届ける。
単純な作業ではあるしほとんどが見守っている状態である。しかし。
其れで経った時間はバカにならぬほど長かった。
「……魔力をごっそり持っていかれたな」
「そうだね。まあ、悪魔公だったみたいだし、仕方ないんじゃないかね」
「蟲がいなくて助かったな」
「まあ、そうさね」
エイルガレラとガルバスタードはケロッとしているが、他の協力者たちは皆足元がおぼつかなくなっている。いや、ライガーだけはさっさと壁にもたれかかっているが。
獣人族は元々魔力量が総じて低いのである。
体調を崩しかけた直後にこんなことをすればライガーが倒れるのは必然というものだった。
比較的魔力量の高い人間ばかりであるため、シュリフトとエグザにライガーとクロガネを任せて、エイルガレラは食事を作りに奥へと戻っていった。
「……バケモンか……」
「クロガネは気絶してるのに気絶していない時点でライガーもバケモノだと思うが」
「……寝る」
「ああ」
ちなみにライガーを運べるのはエイルガレラ、ガルバスタードのみである。体躯が大きいためどうしてもそれより細身の人間では運べないのだった。結果的にクロガネを運んで戻ってきたシュリフトとともにエグザが二人掛かりでライガーを無斗の寝室まで運んだ。
「なんでこいつ部屋ないんだ?」
「まったくだな」
ライガーがなぜ無斗の部屋で寝泊まりしているのかはまあ置いておくとしても。
「……どこに寝かせりゃいいんだ」
「確か無斗は、ライガーは白って言ってた気がするが」
「あ」
ライガー、この字読めなかったんだな……シュリフトは内心無斗に苦笑した。崩して書いてあり、分かりづらいが神聖魔法を書くときに使われるほとんど死語みたいな言語で書かれている内容が、『ライガー用』ならば、笑うほかないのである。
なんでこんなもん書いてるんだとかいろいろと言いたいことはあったが、シュリフトは指示に従ってそこを開ける。中から白いシーツと白いタオルケットが出てきた。
「……」
本来これを西側に設置すべきである。と書いてある。
「西ってどっちだ?」
「あっち」
エグザがあっさり答えた。
「ソファを移動させる必要があるみたいだ」
「風水と言っていたか。面倒なものだな」
無斗の部屋にはいつの間にか家具が増えているのだが、2人はそんなことは知らない。
ソファをエグザが移動させ(魔人の怪力)、そこにシーツをかけてライガーを転がしタオルケットをかけて終了。
「……何か大仕事をした気分だ」
「同感だ」
2人は顔を見合わせて小さく笑うと、無斗の部屋から出て行った。まだ無斗を運ばねばならないからである。
とはいっても、無斗は階段を上がってきていた。
「無斗……無茶をするなよ」
「おう……はは、引っ張ってってくんね……? 目が霞んで何も見えねえ」
「分かった……」
シュリフトとエグザは無斗を部屋に入れて、カラーリングの大体の状況を伝え、及第点をもらった。無斗は北側に寝るためにベッドを使えないとのことで、シュリフトがわずかながら自分のコートが黒であることから効果があると判断し、無斗にかけてやったのだが――これに気付いた無斗が後日シュリフトの下僕になるだのと言い出してひと騒ぎ起こすのをまだ彼らは知らないのだった。
「無事に解除できて何よりだ」
満足気な笑みを浮かべるゼノンにガルバスタードは苦笑した。
無斗は案外自分の身を顧みずに敵に突っ込んでいくところがあるようで、しかしそれは彼の戦闘スタイルと言ってもいいものであった。ただ強いて言うならば、無斗の身体と力の均整がとれていないと感じるのであった。
ライガーはやたら無斗のことが目に入るらしく、本人もよくわからないといってはいたが、ライガーの関係者が無斗に獣人紋を刻んでいるらしいため、そのせいかとも考えられた。だが、根本はもっと別の所にあるのだろう。
「浮かない顔だな、ガルバスタード?」
「ん? ああ……」
通常、仙人に成る人間が高齢な理由はいくつかある。
それ以上の老化を防ぎ、魔法の研究に勤しむため。無斗とは少々理由は違うが、病気の進行を食い止めるため。
しかしどちらも命を長らえさせるためのものである。無斗もそのためにやっていた。
では、仙人に成ったことによるリスクは?
何故盛りの時期に仙人に成ろうとする者が少ないのか。理由は主に2つである。
まず、仙人に成るためにはそれ相応の実力がなければならない。人間が仙人に成るのと獣人や竜人が獣仙や竜仙になるのとでは話が違うのである。
獣人や竜人は本来の姿に近付くだけに過ぎない。彼らは元をただせば精霊の眷属である。たかが精霊の受肉した姿に過ぎない。
しかし人間はどうだ。
本体ともいえる人間の魂は、精霊たちのそれとは違って、入れ物がなければただ霧散するだけのものだ。肉体あってこその人間である。仙人は半分ほど精霊化していると言っていい。本来ならば、そんな、消えるかもしれない領域に子供が足を踏み入れることはありえない。
「……無月の息子のことか?」
「……まあ、な……」
あの齢で仙人であるというのも驚きなのにもかかわらず、それが5年前に成ったというのだから、無斗の才能を窺わせるものだ。
だが逆を言うならば。
「確かに、あのまま才能を遊ばせておくのはよくないな」
「……もしかすると、無月のやつはそこまで見越してあの子をこちらに寄越したのかもしれないね」
エイルガレラが戻ってきていた。ゼノンはクスッと笑った。
「エイルガレラ。君ならばどうする」
「……仙人化を解くしかないね。あのままじゃどうせ体の制限が大きすぎてあの子は使い物にならなくなるよ」
無斗とクロガネだけが入ったならばまだしも、とエイルガレラは付け足した。
「……ライガー、エグザ、シュリフト。全員規格外だからな……」
「規格外の更に上を行ってるわ……あと、無斗はまだほかにもおかしいところがあるから、専門職に今度診せてくるわ。モンクじゃいじれない」
「そんなに酷いのか?」
「根本が違うのよ。そうね……雷が本質なのに、風ばかり使っている感じ?」
「ああ……それは感じたな」
一緒にクエスト行けば多少わかるのかね、とガルバスタードは苦笑した。エイルガレラはさて、と切り替えるように手を叩いた。
「ゼノン、エレノア。ご飯食べてくでしょ?」
「是非お願いしよう」
「はい、はい!」
ガルバスタードも腰を上げた。無斗がこれからどうしたいか、どれだけでこれからが変わってくる。逆を言うならば、無斗が動かねば何も始まらない。
ここで悩んでいたって仕方がないのである。
感想等お待ちしております。




