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リターン

お久しぶりです。


「で、お前らはお前らでなんか俺たちに話があるんだろ?」


サタンは笑って言った。屈託のないその笑顔、悪魔王サタンなどと呼ばれるからどんな人物なのかと内心気になっていたのだが、どうやらそんなに恐ろしい人物というわけではないらしい。


人間は自分たちにとって都合の悪いことは書き換えてしまうから。そう言う部分は否めないし、長い寿命を持つ種族ではない分伝えていくうちに話の内容が変わってしまうことだってある。


ライガー、クロガネ、僕はサタンを前に交渉に挑むことになったけれど、二人とも顔色が悪かった。


「大丈夫?」

「……なんとかな……」

「俺はもう無理……」


クロガネは気力で立っていたらしい。慌てて支えると、サタンはふむ、なるほど、などと何か言っていた。


「ルー、スーツェとシェンウをここに呼べ。バイフーとチンロンは任意」

「了解しました」


執事が立ち去った。


「で、ここまで危険を冒してんだから相当な入り用だろうな」


ライガーがここまで弱るのは珍しいんじゃなかろうか。僕が交渉するしかないか。どうせ術者は僕なのだろうから。


「……シュリフトと申します、悪魔王サタン」

「おう、気軽にサタンでいいぞ。敬語もいらん。どれで、どうした」

「……日々羅華は知ってるかな」

「ああ、あののほほん戦国」


どんな戦国だ。


「お前は日々羅華の民じゃなさそうだが」

「ああ。僕ではなくて、ギルドのメンバーの中にいる」

「ふむ」

「……そいつは、魔人紋を受けている」

「なっ!?」


サタンが大声を上げたのでこちらも驚いた。くそ、と小さくつぶやくサタン。


「……闇姫の末弟だな」

「!!」


無斗を知ってるのか!?

いや待て、落ち着け。


「……彼の見立てだと、あまり長くない。だから、魔人紋を解除したい」

「……ああ。わかった。それに関しては俺に弁明の余地はない。俺の角を持って行け」

「――え?」

「……俺、ヒューマノイドじゃなくてエンシェントドラゴンだからね?」


驚愕の事実をいろいろと並べたてられた気分だ。


目の前で盛大に角を折るサタンを見て、いい人過ぎると思った。

痛いって涙目になってたからヒーリングと痛み止めの魔法をかけて……。


「あと、術者はお前よりゼノンが適任だろう。今度行くと言っていたから、ちょっと予定が早まるだけだ」


サタンがそう言い終わると同時にドアが開かれた。


「呼ばれて参上朱雀です」

「玄武です」

「参ったぞ、サタン」

「よーライガー久しぶりー」


約一名名指しでライガーを呼んでいるが気にしたら負けだろうか。と思って振り返ると、そこには、各種魔王と呼ばれる者たちが出そろっていた。


「四神眷属以外呼んだ覚えないんだけど?」

「皆人間には興味があるのでしょう。申し訳ありません」

「ルーが焦げてるから仕方ないな」


執事は服が焦げていた。どうやらこの一同に出そろった魔王たちを止めようとしたが止められなかったらしい。


「とりあえずその二人は聖魔法が使えないみたいだから結界よろしく」

「了解」


結界と言っても、挨拶と声掛けをしてきた四名の張る結界は魔法の詠唱も何もなく、四方向にそれぞれが立っただけで終わったらしかった。


「ライガーお前情けねえなー」

「……親父ィ……」


おっと、エグザが魔王の息子だからといって驚いてはいけなかったようだな。恨めしそうな目で浅黒い肌とプラチナブロンドの髪の獣人を睨むライガー。クロガネは完全に伸びているようだった。


「ま、玄武いねえしよく保った方だろ。そう言ってやるな、レオーネ」

「……ま、いいか」


レオーネというらしいライガーの父親は、静かに僕を見つめてきた。


「?」

「……西の騎士だな。おもしれえ、そうかそうか」


何が面白いのかさっぱりわからない。

じきに聖魔王ゼノン殿とエグザ、そして母親であろう女性が戻ってきて、僕らはその場にいる魔王たちの自己紹介を受ける羽目になった。


魔王と通常呼べばサタンを指す。それくらいにゼノンの存在は希薄に扱われているが、時折出る青い髪の魔王という話はどうもゼノンを指しているらしい。黒い魔王だの紅玉魔王だのはサタンのことを指しているとのことだった。


「他の奴らも魔王って呼ばれるんだが、前になんかつくよな」

「獣魔王レオーネ、とかな」

「鳥魔王とか蛇魔王とかね。亀だっつの」

「最近蟲魔王って出たらしいよ」

「蟲人の突然変異種だろそれ」


会話がカオス。

僕らはひたすら聞きに徹した。そして有益な情報をいくつも得ることになった。


「こいつらに教えてもいいのか?」

「ああ、彼らなら問題はあるまいよ。それに、上司はガルバスタードとエイルガレラあたりだろうから」

「あー、あいつらか」

「ジジイが鍛えたんだからエイルガレラはめっちゃつえーぞ」


いつの間にか宴会の雰囲気になってしまっていたのだけれど執事が思いっきり怒鳴った。


「仕事に戻らんか愚か者どもっ!! お前たちが苦手だというから書類はこちらで処理しているのだ、そんなに暇ならすべて振り分けるが構わんのだな!!」

「「「ルシフェルのケチ!!」」」


ルーさんことルシフェル……どうやら傲慢の魔王(ルシフェル)だったらしい。悪魔族は基本的に名を名乗らないからな。


「平和だねえ」

「そうだな」


ゼノンとサタンは少し話をして、ゼノンが僕らの方を見た。


「お話聞いたよ。喜んで引き受けよう、闇姫の子は必ず助ける」


僕らは顔を見合わせた。

エグザが会いに来ただけだったにしては、大きなリターンだった。






「では、行ってきます」

「行ってらー」

「気を付けてねー」


転移魔法でゼノンとエレノアを含めたエグザ一行を見送ったサタンは踵を返した。


「サタン、計画どうすんだよ。遅らすのか」

「当たり前だ。闇姫の子に掛けた魔人紋のツケをきっちりと払わせなければならない。いくら悪魔公(デューク)といえども、言いつけを守らなかったやつが悪い。それと、北上軍はヨカに任せるとゼノンが言っていた」

「伝えとく」


サタンははあ、と小さく息を吐いた。


「思ったより計画を前倒しにしてもらわなきゃいけなさそうだな……」


傍に控えるルシフェルは静かに紙を出す。


「それは?」

「報告です。重要度は低いかと思っておりましたが、この場で奏上します」

「ああ」


サタンはうなずく。ルシフェルは紙を読み上げた。


「白虎が王族を仙にしておりました。おそらくあの場にいた古獣化の青年がそれかと」

「……レオーネの奴め、身内だけで終わらす気だったな……」

「まあ、仙になったら徴集は免れませんので」

「……だが、レオーネの息子は幸い俺たちの目的地側にいるわけか」

「はい。……時間をかけて彼らも改善する努力を積み重ねてはいるようですが、北部の魔導士の妨害が入ったようです」

「……よし、部隊長を集めろ。ヨカを呼び忘れるなよ」

「はい」


ルシフェルは指示を受けて退出する。サタンは口元に微かな笑みを浮かべたのだった。






「……懐かしいなあ」

「そうね……」


これで皆が生きていたらどれだけよかったか、とエレノアがつぶやいた。それは言うな、とゼノンがエレノアの肩を抱き寄せた。エグザはそれを見て、やはり面識はあったのだと理解した。


教えてもらえなかったのには何か理由があるだろうが、今ではもう口を利くことすらできない。ネクロマンシーに手を出す気はないし、まだアルヴェムだけは生きているのだから。


「……エイルガレラとガルバスタードに顔を出しておきたいな」

「こっちです」


ゼノンの言葉にソラトワへの道を歩み始めたシュリフト。エグザはボンヤリと思った。シュリフトも勇者としての才は秘めているだろうに、黒勇者じみているなあ、と。

何度か一緒にクエストをこなしていくうちに、シュリフトが正義漢であることが分かってきたのである。また、お節介というか、世話焼きでもあった。


ふと、白勇者はどうしているのだろうかと考えた。

相変わらずダウンしているクロガネを何とか復帰したライガーが抱えて移動した。


「体力ねえな……」

「肉弾戦最弱種族に肉弾戦最強種族からそれ言って何になるの?」

「……あのなあ、竜人でも人間より腕力あるんだぞ?」

「……」

「怠惰竜」

「黙れ脳筋虎」


静かに火花が散った。エグザがそれに気付いて二人を押しとどめ、足早にギルドへ帰還したのだった。


ぐだってきたなー(´・ω・`)と思いつつ書いてます。浮気しまくってるせいでとっても進みが遅いです。


感想等お待ちしております。

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