表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/28

第1話

楽しんでいただければ幸いです。不定期更新となります。

「ここがエッデガラだな」


黒く艶やかな長髪を無造作に結び、服を黒と灰色だけでまとめ上げている金目の少年が言った。


「ここが……」


淡い青紫の長髪を結い上げ、青と緑の袿を着ている碧眼の少年は耳が尖っており、髪の間から小さな角が見えている。竜人と呼ばれる人種である。


黒髪の少年は闇姫無斗、竜人の少年は(クロガネ)という。


無斗の故郷は島国“日々羅華”。

2人はそこからわざわざこの大陸へとやって来たのだ。


無斗は父親から放り出されたため。鐵はそんな無斗にくっついてやってきた形である。

無斗としては鐵には故郷に残っていてもらいたかったのだが、元より鐵は無斗を気に入って無斗の家に留まっていたのである。無斗が居ないのであればそこに残るいわれはない。


2人の目の前には立派な城壁がそびえたっている。

きっちりと積み上げられた石の壁は堅牢。

魔物の襲撃から守るためだと2人が理解したのは、城門の中に街が見えたからである。


「こんなもんで守れんのか……」

「大陸の魔物って案外弱かったりして」

「ありそうだ」


2人はそんな会話を交わし、城門内部へ入るための手続きを待っている列に並んだ。


日々羅華には城壁がない。

そんなもの作るならば城は山に建てる。

民衆はいつでも家を畳めるように木造の簡易的な家に住んでいることが多い。きちんと家を建てているのは本当に安全な地帯に住んでいるごく一部の部落の民のみだ。


2人の番になり、門番の兵が2人を見て口を開いた。


「許可証は?」

「持ってないです」

「行く当てはあるのか?」

「紹介を受けたギルドで登録する予定です」

「分かった。後で見せに来い。2人で銀貨2枚、見せに来たら釣りは返す」

「はい」


この地域で使われている硬貨は銅貨、銀貨、金貨、白金貨、霊銀貨、霊金貨の6種類となる。

それぞれが100枚で次の硬貨単位に移る。


入場料は本来ならば銅貨10枚程度だが、身分が証明できない場合はこうして10倍ほどかかるのだ。

無斗と鐵は銀貨2枚を払って街中へ踏み出した。


「無斗、建物全部石だよ」

「すっげーなァ」


2人は石造りの建物など見たことが無かったのだ、このような反応になってもまあ当然と言えよう。


「……」

「どうした?」


鐵が立ち止まり凝視する方向へ無斗は視線を向け、眉を顰めた。


重い鉄の鎖に繋がれた竜人の青年の姿がある。

同族が囚われていることへの嫌悪を滲ませ、鐵は顔を背けた。


無斗は青年を観察する。

黒ずんだ緑の鱗、ボロボロに割れた爪や角。

奴隷の管理をするなんて考えられない事ではあるけれども、ロクに食わせてもらえていないことを読み取る。


竜人は餓死しない。

ただひたすら弱り、辛い思いをするだけだ。

自然に愛された竜人たちには、自然死というものが存在しない。

その首を搔き切らねば、その心臓を貫かねば、死ぬことはないのだ。


「行こう。どうせ今の俺たちにできることなんざ何もない」

「……ん」


無斗は鐵を引っ張って移動を再開する。


奴隷を買うには多大な金額が必要であるし、それを稼ぐ手段はこれからという時に何ができるわけもない。


無斗の持っている金はある程度まとめて父が持たせたものではあるが、生活費なのであって、奴隷を買うためではないし、そも、2人分の生活費としてもかなり少なめの金額を渡されていた。


地図を頼りに父親が紹介してくれたギルドを探して回る。

かつて無斗の父が所属していたギルド――元は、パーティ名だったのだという。


その名は、ソラトワ。


日々羅華等一部の言葉で様々な意味にとることのできる名前だが、どういった意味なのかは不明である。名付けたのは無斗の父だと聞いている。


地図に目を落とす。

大通りにはない。

裏通りにあることが示されたその地図は実に大雑把なものだが、分からなくはない。


「こっちだな」


無斗は路地が通り抜けられるのを確認し、そちらへ向かって歩き出した。


途中、ガラの悪い簡素な鎧を着た男たちに手を掴まれる。

無斗は男たちの装備に目を走らせ、武器が片手剣とナイフであることを確認した。

3人の男たちは皆どこかのギルド員なのか、はたまたあぶれ者なのか。


「オイ坊ちゃん、魔族に随分と綺麗な服を着せてるなァ?」

「奴隷風情にそんな服着せちゃ駄目だろォ?」


男たちの下卑た笑みを見て、無斗は鐵を見やった。

鐵は冷めた目で男たちを見ている。

無斗はあまり大陸のことに詳しくない。


「鐵、こいつら殺してもいいのか?」

「殺しちゃ駄目、問題になるから。イチモツ切り落とすくらいなら許されるんじゃない?」

「ふーん、めんどくせーな」


無斗は鐵と言葉を交わし、男に視線を戻す。

男たちは無斗を品定めするような目で見ていた。


「……俺の実家にもアンタらみたいなのいるけど、もっとマシなカッコしてんぞ?」

「ああ? 馬鹿にしてんのかこのガキ」


男が無斗の手を掴む力を強めた。

無斗は小さく息を吐き、男の腕をそのままゆっくりとひねる。男はすぐに気付き手を放す。すかさず無斗は男の顎を蹴り上げた。


「がッ……!?」

「な、このガキ!」

「うるさいなあ、【アイシクル】」

「ギャッ、魔術!?」


鐵が残り2人の男を黙らせるために魔術を行使した。

本来ならば詠唱を必要とするが、それはあくまでも人間の話であって、竜人である彼には関係がない。

それでも、魔法を使う際に鐵は詠唱を必要とするのだが。


「鐵、早く行くぞ。俺ら不利だわ」

「身分証明?」

「今なら攫われても文句言えないからな」


早く目的地に着かねばならないと無斗は歩を進める。

竜人はどれもこれも見目がいいものが多く、魔族排斥の機運が高い地域では狙われやすい。無斗はそれを此処までの道中いやというほど学んだため多少強引な手段に出ただけだ。


人だかりができてしまった大通りから路地を抜けて裏通りへ入れば、すぐ傍に目的地のギルド館を見つける。

木造で、周りの石造りの建物からするとかなり浮いた建物だが、なるほど分かりやすいものである。


「ここがソラトワか」

「親父の話ではどんな種族も受け付けてるって話だっただろ」


鐵を安心して任せられる人――つまり偏見のない人がギルドマスターであることを条件にギルドへの紹介状を書いてもらった結果、ここ一択である。


無斗たち日々羅華の民は竜人も獣人も鳥人も、現在魔族と呼ばれる者は全て神と呼んでいた節がある。

その名残か、現在も魔族排斥の動きはごく小さなものだ。故に魔族は日々羅華に集まる傾向がある。


木製のドアを開けて中に入ると、左側にカウンター、右側にテーブルがある。

無斗はカウンター側を見て、目を丸くした少女を見つめた。


種族は人間であろう。

蜂蜜色の髪、焦げ茶の瞳の少女は無斗と鐵ににこりと笑いかけてくる。


「ようこそ、ギルドソラトワへ。どういった御用件でしょう?」

「あ、闇姫一族の者です。ガルバスタード殿とエイルガレラ殿への紹介状を持って来ました」


無斗は少女の言葉に答える。

少女はすぐに誰かを呼ぶ。現れたのはエルフの少女で、淡い金髪にエメラルドグリーンの瞳が訝しげに細められた。


(人間嫌いが多すぎないか……?)


無斗はそんなことを思いつつ鐵へ目を向ける。

鐵は殺気から忙しなく辺りを見ており、この場に居るのがこの少女ら2人だけではないことを示していた。


無斗も感じてはいるが、精霊の類であろうことが伺える。

無斗は精霊を感じ取る素養は高い方に分類される。しかし相手の実力が正確に分かるわけではないので、漠然と「ああ、めちゃくちゃ強そうだな」くらいの感覚しかないのだが。


エルフの少女が立ち去ると、カウンターの少女が謝罪を口にした。


「ごめんなさい。あの子もいろいろあって」

「お気になさらず。こいつも似たようなものですから」


無斗が鐵を示してみせると、少女は苦笑を返した。

そも、鐵の折れた角は人間にやられたものである。人間を気に入るはずがない、と無斗は思いつつ、ひときわ魔力の塊を感じる方向へ目を向ける。


一体何者なのかくらいは知りたい、と思うのは致し方ないことだろう。

しかし無斗が視線を向けたのとほぼ同時に、そこに3人の人影が姿を現した。


「流石だねー」

「気付かれてたねぇ」

「……すごい」


1人は青い髪と上向きのアシンメトリーの夜空の如き角、金色の瞳。

1人は青紫の髪と下向きのアシンメトリーの夜空の如き角、金色の瞳。

1人は金髪に小振りな琥珀色の一本角、赤味がかったオレンジの瞳。


翼と尾は鱗に覆われ、武器はそれぞれスピア、スピア、双剣。

3人とも似たような姿をしている。

無斗は彼らが何なのかを理解する。


「七眼竜の眷属か?」

「そうだよー」

「よろしく?」

「よろしくお願いします」


七眼竜の眷属。

精霊の類である。


精霊というのは、この世界の“上位”といわれる世界の住人たちのことを指している。

魔法を行使する際に時折力を貸してくれることがある存在であり、契約すれば常時力を貸してくれる。


その中でも七眼竜は、空間属性を司る竜とされる精霊である。あくまでも日々羅華では神扱いだが。


「よろしくお願いします」


じゃあねと言って3人が再び姿を消したころ、筋骨隆々な男がやってくる。


「おう、お前さんたちが無斗と鐵だな?」

「はい」

「無月から話は聞いてる。俺がガルバスタードだ。よろしくな」


ガルバスタードが紙を2枚取り出し、2人に名を書かせたところで女がやってくる。


「こっちはエイルガレラだ」

「無月の息子かい。そっちは竜人の鐵だね。しかし、あの無月が私たちを頼るとはね」


エイルガレラは簡単に2人に簡単な説明をするからといって通常運転に戻れとガルバスタードに告げた。これではどっちがギルマスか分からない。


無斗と鐵は、ソラトワに所属した。

この後発行されたギルド章を門番に見せに行ったところでこの日の営業時間は終わったのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ