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代償はいかほどか

久しぶり過ぎる……なかなかまとまらないという悲しさです

「――無斗に隠して何話してるのかと思ったら」


まさか無斗のことを考えてくれてるなんて。


無斗がずっとライガーと喋っているのを、もやもやする気持ちで眺めていたのがバカみたいだ。その時、ライガーが金色の瞳で俺を睨みつけてきた。


「……お前、無斗があの状態なのに何かしなかったのか?」

「……しなかったよ。できなかった」


むしろ、今は――無斗の父親に感謝さえしている。

だって俺は――無斗に、大陸へ行くなって言ったんだから!!

俺が残っていたいから、もう外に出たくなかったから、それだけで。

白虎が動くほど酷い状態になってたことにも気付けなかった。


「……ま、聖魔法云々は眷属にはどうしようもねえからな。できるだけ情報をよこせ」

「……分かった」


皮肉ってしまいそうになるのを必死で止めた。虎化族は短気だ。乗り気になっているのにぶち壊したらむしろ無斗を殺される可能性だってある。

そう。

無斗は人間なんだ。

忍仙なんて言ったって。


「ただいまー」

「お帰りー」


シュリフトがすごい切り替えの早さで不自然さを一切残さず無斗に笑顔を向けた。なんという男だ、無斗を完全に欺いたりはできないまでも、腹黒に見えた。


ギルマスにはこっぴどく叱られた。

なんでドラゴンゾンビに挑んだんだとか死ぬかもしれなかったんだぞとか、予想通りで笑えた。エイルガレラさんは罰として俺にギルドのある通りの掃除を言いつけられてしまった。最悪。


まあ今日はもうそれも終わって、無斗はアウリエラと採集の依頼を受けて行ってしまった。行くのに三日はかかる場所だからそう警戒しなくてもいい。

ライガーとシュリフト、エグザと俺でテーブルを囲んだ。


「何から知りたい?」

「まずは無斗に魔人紋を刻んだ魔人のクラスが知りたい。上位になってくるとそれこそちゃんと準備をしないとシュリフトにダメージが残る」

「そっか」


シュリフトは聖属性を使うとか言っていたけれど、その影響でなのか、あまり他種族から嫌われないと言っていた。実際俺にもそれが適応されているのがちょっと憎たらしい。


「魔人を俺が直接見たわけじゃなかったけど、そうだな――たぶん、悪魔公(デューク)

「……俺はハーフであることをこんなに呪ったことはないぞ」

「……そんなに酷いの?」

「もはや伝説だぞ。なんてことだ……」


エグザがいろんな意味で打ちひしがれているらしい横で、シュリフトも青ざめていたから、相当ヤバいんだろうね。日々羅華にはゴロゴロしてたけど。言わない方がよさそうね。


「他には?」

「無斗はいつ仙に成った?」


ライガーからの問いだった。


「5年前だよ。ああ、そう言えば魔人紋を刻まれたすぐ後だったな」


そもそも無斗に仙人に成るように言ったのは無斗の姉だ。俺は嫌だった、離れるのが嫌だった。でも無斗の父親は家長命令で無斗を無理矢理修行に行かせた。怖いくらいに無斗は従順に従っていたなあ。


「――確定だな」


ライガーが言った。


「え?」

「いいか。本来仙になるってことは、それまでの力関係が劇的に変化するほどのことだ。同等のやつがつけた程度の紋なら無効になるほどにな。でも、それがもしとんでもない格上からの紋だったら」

「!」


まさか。

それ、つまり。


「無斗は既にギリギリだって言いたいのか!?」

「ああ。人間の生命力は嘗めてると痛い目見るが、注意してりゃ案外あっけねえもんだ。……仙だから保ってるって状態だろうぜ。アイツあんまり怪我の治り早くねえし、普通意識してても仙を名乗るのは止められないらしい。それを止めてるアイツは何だ? つまり、仙としての力はほとんどが生命維持に回って、表に出てくる力は微々たるものになってるってことだ。アイツ国から放り出されたって言ってたけど、違うね。アイツの親父は聖魔法でなら魔人紋が解除できると知って、聖魔法使いのいる大陸にアイツを渡ってこさせたんだ」


最後の方はまくしたてるようにライガーが言った。

確かに、それならあの有無を言わさぬ態度にも納得できる――

散々崇め奉ってきた俺に脅しをかけてでも無斗を国外に出そうとした理由はこれか。


「……何か思い当たる節がありそうだな」

「……まあね。おかしいとは思ってた。無斗ほど闇姫の跡継ぎにぴったりの素材はないのに、無斗はと言えば食い扶持を稼ぐとか末子相続じゃないからとかいろいろ言ってるし」

「その辺で言いくるめられたんだろうな」


しかし、無斗を言い負かす親父さんか……ライガー、目が遠くなってるけど、無斗に何を言われたんだろう。


「――そうと決まれば無斗の魔人紋の解除に必要なものをそろえなきゃならないけど、何がいるの?」

「ああ――」


エグザに話を振ると、こともなげにこう言い放ちやがった。


「エンシェントドラゴンの角がいる」


「……俺たちに死ねって言うんだね、エグザ」

「無斗を助けるためだろう?」

「角を折られたドラゴンの怒りはすさまじいからな」

「問題なし」

「「「お前の中ではドラゴンも青竜扱いか」」」

「そんな格下とるに足らんと言ってるんだ」


ライガーにとってエンシェントドラゴンが格下だとっ――!?


「……直系?」

「おう」

「……無斗と相性がいいわけだ、こんチクショウ」

「傍系か、よく今まで取られなかったな」


ライガーに同情された!!屈辱だ!!


「獣人も竜人もなんかそういうシステムがあるのか?」

「言葉通りだけどな。傍系は周りの奴らよりも強力な眷属、さらに強力なのが直系。しかも別の種族でも適応される」

「つまりクロガネに勝機はないと」


ズバッと言ってくるあたり魔人だよね、エグザって。

エンシェントドラゴンは精霊みたいなやつだ。青竜の眷属傍系に匹敵する力を持っている。直系とじゃ戦闘力は比べものにならないくらい劣ってしまう傍系。俺は傍系なうえに角まで折られてほとんど力を出せない。


「どうすりゃいい」

「聖魔法の力だけじゃどちみち悪魔公(デューク)の刻んだ魔人紋は解除できない。聖魔導国家ステイトルの聖騎士王でも死んでしまうだろう」

「やっぱエンシェントドラゴンのとこにはいかなきゃならんか――」


そんなことを話しているところへ、カラン、と涼しげな音を鳴らしてドアを開けた人間。

そちらを振り返って、ぎょっとした。

なんて魔力量!?

金と黒の髪のそいつは、明らかに。


「……勇者」


ぽつりと、シュリフトが言った。






カラン、と小気味よい音を立ててドアが開く。

まず目に入ったのは、四人の少年たちだった。獣人、竜人、人間、そして――魔人がいる。とやかく言う気はないし、彼はどうやら聖魔族のようだから気にする必要はない。でも、明らかに混乱している。


「――勇者」


人間の少年がつぶやいた。なるほど、どうやら魔人もそれを察知したらしい。この子、見覚えがないこともない気がするなあ。依頼したらちょっと声をかけてみようかな。

俺が笑いかけて手を振ったら人間の少年はぺこりと頭を下げた。


あの子、たぶん騎士候補生だな。旅行中かな?

獣人は恐ろしいことに覇気を纏っている。

竜人の方は角が折れている。可哀そうに、奴隷から解放されたってところだろうか。

魔人は随分と落ち着いている。


受付嬢はどうやら戦闘経験はほとんどないらしくて、動揺もなければこちらの魔力に何かするわけでもなかった。ふむ。俺が言うのもなんだけど、ここかなり平均年齢低いんじゃないか。


「いらっしゃいませ」

「こんにちは」

「どういったご用件でしょうか?」

「依頼をしたい」

「はい、この書類に書き込んでください」


渡されたのはたくさんの絵が描いてある紙だった。なるほど、字が読めない依頼者でも大丈夫なようにか。


「イラストの説明はいりますか?」

「いや、大丈夫」


分かりやすい。これ誰が考えたんだろう。ギルドマスター?

いや、ガルバスタード先輩に限ってそれはないな。

エイルガレラ先輩は絵を描くのが壊滅的だから、この受け付け嬢か、他のギルドメンバーだろう。


捜索らしきイラスト。これペット探しのイラストだったらどうしよう。

その他に書いとこう……。


紙を提出すると受付嬢は苦笑した。


「すみません、このイラスト分かりづらかったですね」

「あ、いや、俺もそんなに学があるわけじゃないから」


そう言いつつ。


「これを受けるのはそこで固まってる男子集団なので、説明をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「ああ」


俺は受付嬢に促されてテーブルを囲んで座っている少年たちの方へ近づいた。受付嬢もやってくる。少年たちは何か話し込んでいた。


「――ギルドの構成員にハーフとはいえ魔人がいるのは珍しいね」

「……拾われたばかりですが」


魔人が答えてきた。おや?

魔力をよく見ると、どうにも――。


まさか。


一瞬脳裏をかすめた可能性。これが当たっていれば、彼女はすぐにでも回復するだろう!


いや待て、落ち着け。怖がらせてはいけない。彼らは言っていたのだ、”私たちの子は私たちを覚えてはいない”と。


「……君たちは、俺を勇者と言ったね。俺はどちらかわかるかい」


そう、問いかけた。


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