無斗と爆弾
待ってくださってた方、居ます?
作者は生きてます、細々と。
読んでいただきありがとうございます。
では、どうぞ。
「なんだとっ!?」
ガルバスタードが大声を上げて叫んだ。
帰還したアウリエラからの報告を受け取ったのである。
「それは本当なのか?」
「はい、私以外五人は残りました」
アウリエラはそう報告だけして退出する。
無斗たちが早く居なくなれというかのように彼女を退かせようとしたわけ、それは彼女らハイエルフが極端にアンデット耐性を持ち合わせていないためであった。
アウリエラの足元は既におぼつかなくなっている。
大地の最高峰の精霊である白虎の眷属たるライガーがいたがゆえにアウリエラもあの場所まで耐えきっていただけのこと。ライガーと白虎の加護の無くなった状態の今では、体内に蓄積されたダメージだけでアウリエラを危険に晒していた。
アウリエラは思う。
彼らはおそらくハイエルフを知らなかったのだろうと。
そうでなければ、ガルバスタードのように激怒するはずなのだ。
ドラゴンゾンビがいたと報告したとたんガルバスタードはまずアウリエラに『近付かなかっただろうな?』と問うたのである。
答えは否であり、この状態に陥っているが、そもそもハイエルフと接触がなければあの反応はあり得ない。現に無斗たちはあそこまでの同行を許した。
案外世話焼きな無斗とライガーのことである。帰ってきたら叱られるだろうなあとアウリエラはぼんやりと思い、自室に入るとベッドに倒れ込む。
気分が悪い。
胸やけがする。
無斗たちが最初に引き返せと言って来た時に引き返していればよかったのだろうか。しかしそうなれば誰もガルバスタードに報告しなかったに違いない。彼らは出会って数日だが、同じ年頃の男子が仲良くなるのに時間はいらない。
彼らはきっと、彼らだけであったとしても報告せずに残ってしまったことだろう。
特にライガーとクロガネはその可能性が高いなあ、などと思ってしまう。
あの二人、仲は悪いように見えるがどちらも眷属であるだけあって人間を置いていったりはしないのである。
人間を守ることを信条とすることを刻まれた種族である以上、彼らが見捨てるのはよくて自分、半分人間であるエグザは人間区分に入ることだろう。
アウリエラの様子を見に来たアレイナが慌ててスクロールを持ってくる。どうやら回復魔法のスクロールらしい。横には青いクリスタルのビンも見えた。
「ポーション……?」
「そうだよ、ハイエルフはハイポーションしか効かなかったよね?」
「いいのに……」
「だめ、ドラゴンゾンビなんてバケモノに対峙したんでしょ、本当は身を清めてとか言いたいけど教会は嫌いでしょ?」
アレイナの言葉に微かな反応を返しつつ治療を受け、落ち着いたアウリエラは意識を手放した。
ドラゴンゾンビは無抵抗でこそないものの、微かな抵抗をするにとどまっていた。5人の青少年で相手取れる相手ではないはずのドラゴンゾンビだが、まあ、今回は相性が悪かったといえる。
何せ白虎と青竜の眷属がいるのである。まして足を引っ張るであろう人間のうち一人は仙であり眷属たちと何ら遜色ない身体能力を発揮する。もう一人の人間もアンデットモンスターの天敵である聖属性魔法の使い手であった。
「あっけなかったなー」
「ま、チビスケだったし、親父より若いんじゃねえか」
「ライガーの親父さんとかいくつだよ?」
「300ぐらいだぞ。詳しくは知らん」
「……お前それで長男とか言う?」
「――それ以上言うな、御袋がいたたまれねえわ」
女には齢を聞くものではない。
まあ、白虎直系であるのだし、はっきり言って寿命などないに等しいだろうと考えていた無斗はケラケラと笑った。
「まあほら、獣人は子供産むの現役引退後だって話だし、男が300ならまだ若い方だと思うけど?」
「え、そうなのか?」
「長寿と性欲の無さはイコールだからなー」
現在はとりあえずドラゴンゾンビを泉から引き揚げたところである。具体的な調査はこれからになる。クロガネはライガーを見つめていた。
ライガーがそれに気付いた。
「なんだ?」
「……別に」
クロガネはそっぽを向く。ライガーははてと首を傾げるが、無斗が気付く。
「何クロガネ、ライガーに嫉妬でもした?」
「……なんで俺がこの単細胞に嫉妬するわけ?」
「いや、なんとなく」
「……俺、無斗以外の世話焼くの嫌だから」
クロガネはそのまま離れて行った。ライガーは無斗を見る。
「……なんかあったのか?」
「おう、俺が本気出したら白虎にとられんのが分かってるから怖がってんだろ」
「本気? なんで白虎?」
「俺に最初に紋を刻んだのが虎化族だからさ」
無斗とライガーはドラゴンゾンビの調査に戻る。特段気にすることではないだろうに、なぜそこまでクロガネは無斗にこだわり、恐れているのか。ライガーにはわからない。
そう。
分かるわけがないのだ。
『全部聞こえてるんだけどな――』
『言うなエグザ。アレは直接目の前に突き出されるまで気付かないタイプだと思うよ』
勝手にドラゴンゾンビの体をつつきながらエグザとシュリフトの念話は成立している。
少なくとも、かなり若い竜であることはわかった。ということは、この泉またはこの先の湖にこのドラゴンの親がいると考えた方がいいだろうということになった。
「クロガネ君は?」
「いじけた」
「ほっときゃ治るさ」
治らないと思う。
そう思ったシュリフトだった。
「とりあえず水の浄化もやってみようか」
「そうだな。……おれ、ギルマスに報告しとくわ」
「あー。叱られるんじゃね俺ら」
「可能性あるな」
「……まあ、ここに二十代がいないことを考えると確かに無謀だった、な」
エグザは苦笑する。人間の中で面白いのは、こうやって心配してくれる人物がいるということである。なかなかそんな心の広い人物に巡り合わせることは少ないが、数日過ごしたエグザには、ガルバスタードとエイルガレラの人となりがそれなりにわかってきていた。
「『ガキだけで挑んでんじゃねえ、死ぬかもしれなかったんだぞ!』とか言われそうだな」
「ま、この場合死ぬの無斗だけだけどな」
「それを言うなよ」
無斗はガルバスタードへの報告を兼ねて離れて行った。タイミングを見計らってライガーが切り出した。
「エグザ、シュリフト。クロガネのことでちょいと相談がある」
「どうした?」
「何?」
ライガーは空を見上げる。
「……クロガネと無斗、あんまり相性良くねえのかもしれない」
「「……」」
それはそうだろう、と思えるものである。そもそもクロガネは無斗といるときはほとんど気弱な面が占めているのだが、ライガーがいる場合は非常に気を張って強い物言いをするのだ。単に白虎と青竜の仲が悪いため、だけではないだろう。
「んでな、無斗がちょいと、紋について誤解してる節がある」
「え?」
「……誤解、というより、理解の阻害が掛かってる――か?」
「そうだ」
シュリフトが一気に話から引き離された。首を傾げるシュリフトに、ライガーは紋についての説明をした。
「……なるほど、それで、少し性質が違う魔人紋も無斗は持っている、と」
「ああ」
「……魔人紋はどちらかというと呪い(カース)に近い。本来なら長期間――そうだな、平均して五年ってところ、それ以上は通常生きられない」
「……そんな危険なもの、どうして」
「日々羅華には全種族居るからな」
ライガー、なんだか苦労人気質のようである。いや、散々無斗と馬鹿をやって楽しくなってきたのだろう、だから無斗の心配をするようになったのかもしれない。獣人は、特に古獣化虎化族は、人やら物やら地位やらと言ったものに対してほとんど愛着を持たず、使えるか使えないかで判断するという一見して残虐冷徹な、そしていたって合理的な思考を本能的に行うタイプの種族である。
「……それだけ無斗を気に入ったってことなんだね」
「あー。そうかもな。よくわかんねーわ。ただちょっと、気になるって程度だからな」
幸い、虎化族本人、半分魔人、聖魔法使用者が一様に揃っているのだ。クロガネの協力を取り付けるのはおそらく難しいだろうが。
「ところで、エグザはいつから気付いてた?」
「見せられたからな。普通はあんなすぐ見せるものではないし、あんなことをすれば手駒にいいと思われたってのがまるわかりだ。――そうか、無斗が光魔法を知らないのは」
「日々羅華には光魔法も闇魔法もなかったらしい。つーことは」
「聖魔法がない。呪い(カース)の解除ができないのか!」
日々羅華などの一部を除いて、基本的に使用されている魔法の系統は四大精霊の力を借りるもの。通常は火、風、水、土、これに光と闇を合わせて六つの属性魔法が存在する。しかし、これはあくまでも大まかなものの話である。
無斗の話からこれに対応するものは確認できている。火は火、水は水、風は木、土は土。しかし、特徴的なのが金という属性である。ライガーは自分の最も得意とし、司る属性であるため違和感は全くないのだが、これが通常の魔法を扱うエグザとシュリフトになると話は変わってくる。
金には四大属性に氷、雷、鋼を加えた七大属性の鋼が対応している。しかし鋼である。金は金属全般を指すが、鋼はそれこそ鉄類しか干渉できない。通常金属への干渉は火と土で行うものなのだ。
通常の属性でもこの差があるが、顕著なのは風と木である。木は風、植物、天候を含んだマルチ属性であることをエグザたちは理解した。つまり、無斗の使う木は、風と土と、七大属性からさらに細かく分けたうちの空が対応するということ。
そしてライガーが驚くべきことを告げた。
「何より、陰陽の考えには光と闇は互いに干渉しあうものでしかない。どちらがなくなっても世界は成り立たない。シュリフトは騎士候補生だったって聞いてるが、教義に反する考えだろう?」
「……あ、ああ……そうか――それじゃ、そもそも……その陰と陽は、具体例でいえば何を指す?」
「太陽と月だな、わかりやすいだろ」
大陸ではどちらも光の象徴である。
「……無斗は月、か?」
「そうだな。あれだけ黒で固めてりゃ陰の気が集まるってもんだ――それよりも、そもそも光が善で闇が悪とか、日々羅華は言わねえんだ。陰陽の考えが根付いた国の特徴は、その四季折々の天災の規模のでかさにあるからな」
「……」
神は恵みと災いをもたらすもの――無斗はそう思っているがゆえにその時々しか祈らないと言ったことがあった。神がそもそも善悪両方持っているというのならば、悪によってかけられた呪いはどうやって解除するのか!
「打ち返すんだよ」
凜、とした声。三人は声のした方を振り向いた。
クロガネが立っていた。
改めて読み返したらコレジャナイ感が半端ない。
そのうち改稿するはず。
誤字脱字、感想等お待ちしています。