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貫牙とシュリフト

2話目です。

「……ここは」

「よ、シュリフト」


真っ白な空間でさっきの二人組に会った。


「“貫牙”が、見せたいものがあるんだとよ」


二人は僕と一緒に引き込まれたらしい。


そもそも貫牙というのは、神代に作られたとされる銃だ。国によって神器とか、宝具とか言い方はいろいろあるが、そういう類のマジックアイテムであるということだ。

ただし、人間が使用するには多大な代償を払わなければならないとされている。


真っ白だった空間がどこかの部屋に変わった。

そこには、クロウ・ドライトネッサがいた。どこかで待たされているようだ。

そこに現れたのは――国王陛下。


「久しいな、クロウ」

「お久しぶりでございます、陛下」

「こら、二人の時は畏まらなくていいと言っただろう」

「では――クリス」


クロウはまさか、建国当初からのメンバーだったのか。


「それで、いったいどうしたんだ。また表沙汰にできないようなアイテムが出てきたのか?」

「ああ。しかもこれがちょっと厄介でな」

「なんだ?」

「魔銃“貫牙”だ」

「!! なんでまたそんな危険なものを!」


危険性は苦労も認識していたのか――。


「これを今度闇で競売にかけるらしい。落としてきてはくれんか」

「……それは構わんが……待て、貫牙の選んだ使い手は誰なんだ」

「……月光街の孤児院の息子だ」

「!! ふざけるな! あんな優しい子を巻き込めっていうのか!!」


月光街の孤児院。僕の家だ。

ということは、孤児院の誰かが――いや。これは――僕、なのか。


「だからお前に言っているのだ」

「……くっ、わかった……だが“押爪”でどこまで抑えられるかはわからんぞ」

「構わん」


押爪は、さっき溶けてしまった僕が使っていた魔銃だ。

そして場面が変わる。

いきなり銃撃戦だ。


「……」


そこに広がった光景に僕は絶句した。

皆声を上げずに倒れていくだけなのだ。まるで何かの術にかかったように。無抵抗のまま殺されていく皆――僕はそれがなぜなのかを理解した。


この時、僕は既に押爪を所持していた。押爪は自我を持つものの話すことはなかった。しかしこの一連の流れを抑えようとする意志を持っていたのだろう――それが失われてこうなった……。


「……とうとうここまで来ちまったなぁ……はは。どんな顔してあの子に会えばいいんだよ……」


ふらりふらり。

クロウは幽鬼のように歩き出した。泣きながら。


あとに残った惨劇からは、そこに至る経緯を推し量ることが出来ない。こうして僕は彼を憎んだのか。憎むように仕向けられたような気もしてくる。


場面が変わる。

陛下とクロウが同じ部屋に入っている。


「もうそこまで浸食がすすんだか……」

「シュリフトの行動が早くて困っているよ。学校までやめちまって」

「やはり貫牙はこの国に置いておくべきではない。かつての持ち主がかつてこの土地に縛られたことをいまだに呪っておるわ」

「ふむ。ならば移動しよう。シュリフトに追われた形にすれば感づかれまいよ」


――そうか。

僕は、陛下とクロウの謀にまんまと嵌められて移動してきたのか。しかしそれでいいと思っている自分がいた。

たぶん――この銃が貫牙であると知っているからだろう。


貫牙の伝説。

とある旅人が神より授けられた銃であるとするもの。旅人は非常に腕のいいガンナーだったという。その腕を見込んで国に来てくれと願った王がいた。旅人はそれを断ったが、どうしてもガンナーと貫牙が欲しかった王はガンナーの家族を人質に取ってガンナーを国に縛り付けた。ガンナーは戦死した。

それ以来貫牙は人間に試練を与えるようになった。

大切なものを失うという試練を。

ゆえに力無き貫牙の使い手は旅に出る必要にかられる。一所にとどまり貫牙の魔力に中てられれば発狂する者もいるだろう――


僕らは魔力に中てられたのか。


理不尽だと思う半面、悲しい銃だと思ったのを覚えている。

黒長髪と獣人が言った。


「奪われたから奪ってそこに割り込む銃、か」

「めんどくせえな。自分がされたことをどれだけの人間にやってきたのやら」

「そういう呪いだろ。人間は簡単に呪を結ぶ」


元の白い空間に戻っていくのと同時に、意識が浮上する。

僕は目を開けた。


「……」


体を起こすと、僕らはまだ地下室にいた。僕の手には貫牙が乗っていて、僕は貫牙を握りしめた。

何で主人を選ぶのか――何か訴えようとしているんじゃないのか。そうじゃなきゃあんなのを見せるはずがない。少なくとも僕はそう思う。


「……貴方方は、この呪いを解く方法を知っていますか」

「ああ、まあな」

「ん」


黒長髪と獣人に問いかければそう返ってきた。


「どうすればいいですか」

「特殊なことは必要ない。時間がかかるだけだ」

「お前がずっと持ってりゃいい」

「逃げずにな」


つまり――ひとところに留まれということのようだ。僕は貫牙を見つめる。

今から戻る?

今更だし、もう彼らに会わせる顔なんてない。自分勝手にこの道を1年も進んできたのだ。


「――どうするかはお前さんの勝手だ。……帰ろう、報告しねーと」

「だな」

「!」


僕は二人を呼び止めた。


「待って!」

「「?」」

「貴方たちは、どこのギルドの方ですか」


二人は顔を見合わせて、ただ一言。


「「ソラトワ」」


そして、一瞬で姿を消した。


「……ソラトワ」


行こう、ソラトワというギルドに。

あの二人がこちらに声を掛けたそうにしていた理由はわかる。これは僕が決めなくてはいけないからだ。もし提案してそれに僕が乗ったら、無理やり留め置かれたガンナーと類似したものになってしまう。


これは僕の意思だということを、貫牙に認識させなければならない。

僕はひとまずクロウのアクセサリを外す。彼に送ろう。父親が確かに死んだということを伝えるために。






「後味の悪いもんだな」

「ま、白虎からすりゃそうだろうな」


ライガーと無斗は帰り道途中で買い物に出ていたアレイナとエグザに会った。


「しかし、貫牙か。随分と懐かしいものを」

「……思ってたけど、エグザっていくつだよ」

「16か7らしい」

「懐かしいって、見たことあったのか?」

「まあな。人間につけられた傷は人間が癒さねばならない。貫牙の別名を知っているか」


エグザは遠い空を見上げる。アレイナが口を開く。


「ライブラ、だっけ」

「ああ。伝わっているものなんだな」

「まあ、ギルマスが言ってたのを覚えてただけだけど」

「なるほど、ギルマスなら知っていそうだ」


エグザは簡潔に貫牙についての説明をした。


「貫牙は特殊な発生のために制約を背負っている。それが、“公正”、ゆえに天秤の二つ名を持つ。貫牙は意思を持つが、話はしない。誰にも肩入れしないが、持ち主を不幸に叩き落された時、その時の相手と同じ種族に報復する。今回の場合は、大切なものを奪うというある意味人間には一番効果的なやり方だな」

「復讐法みたいね」

「もともと白虎なんだしそんなもんじゃねえの?」

「え?」

「「「え?」」」


四人は立ち止まる。アレイナは首を傾げた。


「え、白虎?」

「……魔銃って言うからわからなくなるんだよな」

「一番白虎からかけ離れたもんになってるな」

「むしろ魔法使えねーから獣人あれ撃つんだぞ?」


アレイナは自分が持っている情報が少なすぎると判断した。


「ちょっと詳しく教えて」


3人の話を要約するとこうである。


カンガという古獣化虎化族の青年がいた。まだ玄武の眷属もここに住んでいたころの話である。まだ人間という種族はおらず、古人族というエルダーヒューマンのみが人間のようなものとして認識されていたころ。古人族は小柄だったがパワーと速度、しなやかな肉体を持っており、手先が非常に器用だった。彼らは非常に信心深いというか、何でもないことで祈ったり数多の神々の名を呼んだりしたという。


そんな古人族の中にいたカンガは、ある時古人族の少年を庇って死に至る。少年は嘆き悲しんだ。己には何もないと。少年は学があるわけでもなければ、周りと比べて一段と小さな体しかない。細身でとても皆の使うような重量のある武器は扱えない。カンガを殺した者への復讐のため、少年はずっと、自分でも扱える武器を考えていた。


白虎の権能は“求める者に力を”。カンガの持っていた神性は少年の願いを聞き届け、肉体を変化させ、銃の元となるものを少年に提供した。

少年はそれを得て、銃を完成させ、無事に復讐を果たした。


「こんなもん」

「昔話調だったわね」

「たぶん昔話だよな」

「結局この少年が獣人族に銃を提供したって話だ」


ライガーはそう言って無斗を見やった。無斗はそれに気づくと辺りを見回し、何かに目を留めた。


「どうしたの?」

「いや、ちょっとな」

「迷惑にならない程度ならいいんじゃないか」

「皆目がよすぎるわ」


アレイナは自分の目の届く範囲ではないと悟って息を吐いた。


「それじゃ、二人とも、あんまり遅くならないうちにね」

「分かった」

「ああ」


二人が立ち去った後、エグザとアレイナも荷物を抱え直して帰路に着いたのだが、


「「「ぎゃあああああああっ!!」」」


二人に絡まれたであろう悲鳴は聞かなかったことにしてソラトワへ戻ったのだった。


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