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決着

今回は2話投稿させていただきます。もう1話は夜ということで。

大人数で来れば客じゃないから一気に叩く、そんな手はずだったんだろうな。


「何なんだよお前はぁああ!!」


眼下に広がるスプラッタ、僕は淡々と銃のトリガーを引いていた。

男が叫ぶけれど僕はこう答えることしかできない。


「お前たちが襲った孤児院の息子だよ」


どうして僕の両親は殺されなければならなかったのか。マフィアの世界のことなんて知ったことじゃないけれど、当時向こうは金が必要だったらしい。

僕の出身、フレバラット王国は、社会福祉が手厚いことで有名で、貴族がそれなりに高いプライドと品格を持った国家だ。それもそのはずで、新興王国なのだ。


新しく起こった国はよっぽど規律がしっかり守られていたりするだろう。それは、建国するに至った辛酸を嘗めた世代が頑張るからだ。

もうすぐ二代目に代わろうかとしている王国だった、あそこは居心地がよかったなあ。


国王陛下は孤児だったらしい。故の孤児院への手厚い補助――そしてそれが、ドライトネッサが孤児院を襲撃した理由だった。


お金がたくさんおりていたから。

単にそれだけだ。

何人もの幹部クラスに話を聞いた。皆ただ金が必要だと言われたからだとしか言わなかった。皆口の堅いこと。


僕は彼らがそれだけ口を閉ざす理由を知りたかった。

僕の家族が殺された理由に正当性を求めていた。愚かだと思う、今ならば。


今は何も思わない。

ただ、なんとなく今までのが惰性でそのまま続いて、幹部クラスに会うと今まで通り聞いてしまうだけだ。


玄蝶亭、表向きはただの食事処だが、売春宿だね。ここの法律がどうなってるのか知らないから何とも言えないけれど、環境自体は最悪だ。

造りはシンプル、奥の部屋は4部屋のみ、既に全て回って、居たのは下っ端と新人らしき若い男たち。下っ端の一人は顔を知っていた。


「やめろ、お前らじゃこいつにゃ敵わねえよ」

「でも、」

「アヴェンジャー」

「!」


面識のあるそいつは僕を指して言った。


「こいつがアヴェンジャーだ」


次の瞬間、若い男の一人が魔法を無詠唱で放ってきた。火属性。ならば水で打ち消す。

銃のトリガーを引くと青い魔法陣が淡く光って、火炎魔法を撃ち消した。


「っ! 魔銃かよ!!」

「抵抗すんな、お前らにゃ関係ねえ!」

「入ったんだから関係あるんすよ!!」


仲間内で口論を始める。ああ、彼らはこうなんだ、だから嫌なんだ。

彼らも緩やかな家族のようなまとまりをもっている。

僕らよりもずっと緩やかで、殺されたからと言って特段憎しみが湧くわけではないにしても。


「……僕は、敵を討ちたいだけだ。でも退かないようなら、全て切り刻ませてもらおう」

「うるせえクソガキ!! 何が敵だ、ただの人殺しじゃねえか! しかも! ただの、自己満足の!!」

「……」


ああ。

確かにそうだ。

僕のこれは正義のためでもなければ誰かからの依頼でもない。僕は依頼を受けていない。情報を手に入れたからこちらへ来ただけだ。


自己満足。

そうだ。

その通り。

そして何も生み出さない不毛な行為だ。


それでもこれをやめないのは。


「言っただろう? 僕はただ、敵をとりたいだけだ」


彼らから奪った明日がお前たちに来ると思わないことだ。






男は殺気すら含んでいないその達観した視線に射抜かれて動けなくなった。目の前のシュリフトという少年が分からなくなった。そして考えた刹那。

男の首は胴から離れていた。


「ひぃっ! た、助けてくれぇっ!」


若い男の一人が悲鳴を上げた。シュリフトに顔を覚えられていた男は若い男を庇うように前へ出る。


「……」

「……」


互いに睨み合って、一瞬のこと。

男の体が袈裟懸けに切り捨てられた。


シュリフトは男のダガーを手に取って、若い男に投げつけた。


「っぎゃああああ!!」


若い男は悲鳴を上げる。掌を床に縫い止められたのである。シュリフトはそのまま近くの床板を持ち上げてあっさりと地下への階段を見つけ出し、降りていってしまった。


直後そこに来た黒髪の少年と獣人の二人組は、若い男に一瞥くれただけで地下へと向かっていった。

無情過ぎると思った。

なぜ自分たちがこんな目に遭わなければならないのかと若い男は思った。

目の前で死んでいる兄と慕った男に、虚空に問う。


「なんで俺がこんな目に」






後ろから誰か来たらしい。僕はこのマフィアが代替わりしていることに気付いた。僕が毎度取り逃がしていたメンツだったからだ。

バトラー服の男が僕を見て、ドアを開けた。

中には、ソファにゆったりと座った、白髪交じりの初老の男性がいた。


「……クク。若いのに執念深いな、シュリフト」

「……僕は、僕がやらなくてはと思ったことを貫いてきただけだ」

「そうか……」


彼が、クロウ・ドライトネッサ。ドライトネッサのボス。いや、今は――元ボスか。


「お前があんまり若いのまで殺してくれるものだから、息子の方に行くんじゃないかと思ってひやひやしていたよ」

「彼は――友達だから」

「……甘いな、シュリフト」


どうして僕が学校をやめたのか。

衛兵ではマフィアを捕らえられないと悟ったからだ。

何故マフィアを捕らえられないのか。

上層部とマフィアが繋がっているからだ。

建国者本人とその協力者ではなく、その他のところから引いてきた騎士団経験者を起用したために生まれた小さな腐敗。それが明るみに出た。


「なあ。どうして孤児院を狙った?」

「金が必要だったからさ」

「そんなの他の所からでもよかったんじゃないのか」

「ああ、金だけならな」


単独でドライトネッサを追うことにした僕は、その名を聞いて愕然とした。僕の親友の姓だったからだ。まだ当時本当に復讐の執念が渦巻いていたころの僕は唯一無二の親友の命を奪うことを恐れた。これ以上何も失いたくない。


「何のために金が必要だったんだ」

「あるマジックアイテムを手に入れるためだ」


そして気付いたんだ。

これはただのエゴだと。

だって僕が復讐すれば、僕の親友は僕と同じく親を喪うことになるのだから。


そこから僕は自分の中に理由があれば大義名分なんていらないと思うようになった。

もう、ただ、それだけ。


「お前の中の正義は死んだか」

「死んではいない。ただ、ここに一般的な美しい正義はないよ」

「つまりこの行為はお前の正義の押しつけか」

「そうだ」


クロウ・ドライトネッサはくつくつと笑って僕に銃口を向けた。


「ヒーローになる気はないと見える」

「ヒーローなんて絵空事だ――僕は、そうなりたかったけれど……でも」


僕も銃口を相手に向ける。


「親友の親を殺してなるのはヒーローじゃないと、僕は思うね」


ガアンッ


同時にトリガーを引いた。

僕の銃の弾がクロウ・ドライトネッサの銃の弾に魔法陣を砕かれたのを見た。中れば死ぬだろうな、なんて思って――誰かに突き飛ばされた。


「――っ!?」


いったいどういう体勢で入って来たというんだ、僕はほぼ出入り口ギリギリに立っていたんだぞ。なのに横から突っ込んでくるなんて。


真っ黒な長い髪のそいつは僕と目を合わせて言った。


「馬鹿野郎、魔銃の見分けもできねーのか! 死ぬどころじゃなかったぞ!!」


突然の乱入者に僕もクロウ・ドライトネッサも驚いてしばらく声が出なかった。

が、クロウ・ドライトネッサが笑い出した。


「?」


睨みつけると、笑いながらこう言ったのだ。


「はっはっは! どうやら彼は君を守るべきだと思ったようだね」

「……邪魔をしないでくれ」

「今思いっきりいい雰囲気だったのは知ってる。でもこっちとしちゃあどっちに死なれても困るんだよ」


黒長髪のそいつは小太刀を抜いて構えた。


「どういうこと?」

「そうかそうか、わからねえのか。じゃあ言っとこう。これからお前に起きることほど理不尽なことはないぜ、シュリフトさんよお」


マフィア殺しだのアヴェンジャーだのと随分と有名になってしまったもので、僕は彼にも名を覚えられているらしい。


「まったく、これだから日々羅華の忍者というのは嫌いなのだよ。いったいどこから情報を掴んできたのかね」

「精霊が騒いでいた、とでも言っておこうかね」


黒長髪のそいつはクロウ・ドライトネッサが銃を降ろしたのを見て構えを解いた。

僕は銃を見た。溶けている。火炎系の魔弾だったのだろう。


「……クロウ・ドライトネッサ。あなたがさっき言っていたマジックアイテムというのはいったい何だ?」

「なに、今撃ったこいつだよ」


僕は顔を上げて銃をまじまじと見た。古めかしいというか。とにかく何やら年代物のような雰囲気が何とも言えないが、それがいったい何だと言うのだろうか。


「……魔銃一丁で国から降りている莫大な補助金を狙うほどの金額を持っていくものと言ったらもう、世界に一つしか存在しねーだろーよ」


黒長髪のやつよりも低い声がして、そちらを見ると獣人がいた。浅黒い肌とシルバーブロンドの髪、目はまさしく金色というにふさわしかった。


「……確かに、そんな魔銃は一丁しかないだろう。でも、それをどうして――貴方が持っている状態になるっていうんだ」

「はっは! 決まっているだろう。私はこれを買うために手段を選ばなかっただけだ」


クロウ・ドライトネッサはそう言って、バトラー服の男を傍に呼んだ。


「さて、もうこいつを抑えておくのも限界だよ。先に逝っていてくれるかい」

「承知いたしました、旦那様」


次の瞬間、バトラー服の男の頭が吹き飛んだ。


「……え?」


仲間じゃ、ないのか?


「……彼は私の家族だよ。だからすぐに私も後を追うことになる」

「?」

「では――君たちにシュリフトと、この“貫牙”を任せる」


クロウ・ドライトネッサは自分に銃口を向けた。

僕が一番望まない結末。

だって彼は僕が殺さなくては、彼になんて言えばいいのさ。


かすめていくのは、普通に隣人として笑っていたころの記憶。

僕らは確かに、家族ぐるみで付き合っていたはずなのに。


「ここまで貫いてきた己の中の正論にここで終止符を打つがいい。そして次の牙を研ぐのだ」


次の瞬間、銃声と同時に僕は頭が割れるような激痛に襲われて、意識を手放した。


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