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アヴェンジャー

何で――なんでウチなんだ。どうして。父さんも母さんも何も悪いことなんかしていないというのに。

こんなところにやってきて一体何があるっていうんだ。






少年は一般的な家庭に生まれ育った。少し特殊だったことと言えば、親が孤児院を経営していたことぐらいだろう。ゆえに、彼の家庭は子供の数がとても多かった。血の繋がりはないが、家族と呼ぶにふさわしい育ちを辿って来たのだ。


生き残ったのは当時学校に行くために出払っていた6名のみ。

生き残りの中に含まれていた孤児院経営者の息子は王立騎士養成学校へ通っていたが、この事件を受けて退学。その後は行方知れずになっているという。


そして――。






学校からの帰宅道中、少年は周りの大人の騒がしさに驚き、その渦中にあるらしい方角が自宅と同一でないことを祈っていた。

石畳を駆け、必死になって少年は家へたどり着く。

人混みが出来ており、その中で少年は敏感に鉄の臭いを嗅ぎ取った。


そんな嘘だ嘘だ嘘だ


少年は人込みをかき分けて最前列に出る。


そして絶望するのだ。


衛兵が自宅を囲んでいる。血痕の散らばる庭、大きな布の掛けられた何か、割れた窓ガラス。衛兵のうちの一人が少年に気付いて近付いてくる。


「こら、立ち入り禁止だ」


しかしその声は悲しみの色がありありと。

少年は衛兵にしがみついた。

衛兵は――騎士だった。少年の憧れの人でもあった。師匠でもあった。先生でもあった。所属こそ衛兵だが、実力は王国内でもトップクラスであった。


何が起きているのかを瞬時に理解してしまったであろうことが伺える少年に、衛兵はそれ以上の言葉を掛けない。神経を逆撫でするだけだ。その判断は正しい。

同じように騒ぎを聞きつけてきたであろう少年の友人、そしてきょうだいたちが来て、困惑した表情を浮かべた。


まだ幼い子供たちにこれを見せるわけにはいかないな、と衛兵は小さく言った。少年は寄ってきたきょうだいたちに気付く。


「にーちゃ?」


その声で我に返った少年。表情の抜け落ちていたその顔にハッと生気が戻った。


「……どうした、皆?」


なるべく笑おうと努めて、そんなことしない方がいいとすぐに判断した。少年の目に涙が浮かんだ。


「兄さん、なんで泣いてるの?」


状況をはっきりとは理解していないきょうだいは少年の服の袖を引く。一方で理解してしまって泣き崩れたきょうだいたちの姿を認め、少年は幼いきょうだいを連れて少し離れたところへと向かった。


ここで自分まで泣き崩れるわけにはいかなかった。皆が不安がってしまうから。






「――」


ああ、またこの夢か。何度見ても後味の悪い夢だ。

ここ最近見慣れてきた天井を見上げて、ふと思う。

みんなどうしているだろうか。

元気だろうか。もう僕が旅に出て1年近く経っている。


体を起こして体を軽く動かし、洗面等をすませて片刃の剣と銃を装備して、食堂へ向かう。


僕のいた国とちょっとギルドの作りが違うのが難点のヴォッテニア十三都市連邦。王国を形成していないという点ではちょっと不思議な感じがしていたが、ここにきてすぐに理由を理解した。


ヴォッテニアの都市間の空間は強力なモンスターが出現するためうかつに手出しができないようなのだ。都市の建設のために掛かる費用も、傭兵を雇うにしても金がかかる。渋っているというよりは、メリットがないのではないだろうか。そう思わせるぐらいに強力なモンスターに頻繁に出会った。


驚くべきはドレイクだろう。通常知られるのはファイアドレイクとフロストドレイクというそれぞれ火属性、氷属性の下位ドラゴン種だが、これら以外にも存在する。先日サンドドレイクの目撃情報が上がっていた。


僕は子供の上位ドラゴン種の子供と思しき2メートルぐらいのドラゴンに襲われ、というか引っ付きまわって来たので木の上に登ったらその先に巣を見つけ、それを見てドラゴンが何かしら訴えてくるような瞳でこちらを見上げてきたのでしぶしぶロープと半重力魔弾を使用して巣に引き上げるという大仕事を昨日終えてきたばかりだ。


森にはフォレストドラゴンとフォレストドレイクがいる。フォレストドラゴンは一部森龍や山龍と呼ばれる巨体を誇る古龍種が多いため数は少ないらしいが、フォレストドレイクとなると話は別で……最初は樹だと思っていたらフォレストドレイクの脚だったりしたなあ。


それにしてもドレイクが多すぎる。ドラゴン種の秘境の如き土地だ、ここは。

住む場所を失えばドラゴンたちは人間に牙を剝くだろう。それくらいは考えが及ぶ。


そして、ドレイクやドラゴンには及ばないとはいえワイバーンの巣もたくさん見かけたし、マンティコアや魔族たちも多く見かけた。

魔族の奴隷が多いのが多少気になったが、北部の扱いは特に酷かった。見ていられなくて途中で2人ほど勢いで買い受けてしまったりもした。


しかしそれも台地を抜けるとあまり気にならなくなるほど緩やかなものになった。それと同時に、風は強いが穏やかだと感じた。

マナの流れが風に乗っているのだろう。マナが濃いということになるだろうか。


北部は部外者に厳しい視線を向けてきた。僕はろくに動けなかったと言っていい。奴らは政治にも首を突っ込んでいる可能性があるからもう少し探りたかったのだが……。

だがもう仕方ないということで、僕は南に進むことにした。


どうせなら北上する形がいいのではないかとも思ったが、情報が手に入ったのでそちらを先に潰しに行くことにする。


どれだけ汚名を被ろうと構わない。

罵ってくれて構わない。

僕は悪鬼だ。

僕が正しいなんて思っちゃいない。


食事を終えて、フリーの傭兵に依頼を斡旋してくれる“紅月”というギルドへ足を運んだ。

つい最近ギルドマスターが倒れたとかで通常の業務はお休みして、こうして僕らの国にあったような、同業者ギルドの形態をとって凌いでいるとのことだ。

ちょっと仲良くなった光希という紅月のメンバーから教えてもらった。


「おはよう、光希」

「おはよう! あ、今日新しい依頼がたくさん入ったんだぜ」

「へー、見せてくれるかな」

「おう」


光希はギルドメンバーとしての活動は止められているらしい。つまりこうして働いても給料は出ない。それでもやっているのだから、きっと彼は紅月が好きなのだろう。


見せてもらった依頼はもっぱらが小型モンスターの討伐依頼で、やはりドレイクが出ると住処から逃げ出してくるモンスターが多くなるらしい。


「――おや?」

「あ!」


光希がしまったというような顔をした。見せるなと言われた依頼案件までこちらに入れていたらしい。


「か、返してそれ、お前には受けさせられないんだ」

「フリーのやつには頼めない、と」

「ああ、だから」


僕はじっと依頼書を見てから返した。


「どこ行くんだ」

「その依頼の場所を潰してくる」

「えっ? 金出せないぞ!?」

「金が欲しくてやるわけじゃない」


そう。これは僕のエゴだから。


「いいんだ、僕がやりたくてやるだけだから」

「え――」


僕は光希に笑いかけて、紅月のギルド会館を足早に出た。

紅月は随分と黒い裏側の仕事まで扱っているようだ。でも仕方ないかもしれない。彼らのギルドはなんといってもこのヴォッテニアでは異端のギルド。


何が正義かなんて、人それぞれなんだから。






「すんませんっ!」

「?」


朝から光希が飛び込んできて、俺たちは驚いた。


「光希? どうした?」

「ガルバスタードさんいないっすか!? エイルガレラさんでもいいんすけど!」

「?」

「なんだ?」


光希の手には赤いハンコが押された紙が――相手が組織だったり暗殺依頼だったりするときの紙じゃねえか。


「ダチにこの依頼をうっかり見せちゃって、そしたらそいつ飛び出して行っちゃって、どうすりゃいいかわかんなくて、」


パニックになっている光希。そりゃそうだろう。まさか自分の友達がこんなどす黒いことしてるなんて思わねえだろうし。


「ギルマス、どんな依頼ですか?」

「……ああ、最近こっちに移って来たマフィアを南方から追い出そうってやつだな。フレバラット王国から来てるって話だったが」


依頼内容

ドライトネッサを潰したい


報酬 金貨50枚


場所 4番街の玄蝶亭

備考 この店は奴らの根城と思われる。少数はお勧めしない。


「……罠だな」

「だろうな。そいつ、強いのか」

「腕は確かだけど……得物がちょっと」

「長いのか」

「ああ」


建物の中だと長い得物は不利になりやすい。それとおそらく、少数でいかないとまずい罠でもあるんじゃなかろうかと思うのだが。しかもこれ分かりやすすぎる。馬鹿が書いたのか。


「無斗、行ってくれるか」

「了解。ライガー、行こうぜ」

「……お前そろそろ角折の相手してやれよ? 俺に魔法めっちゃ飛んでくんだけど?」


気にしない。

クロガネに話しかけてもシカトするから多分変わんないし。


「最悪逃げること、いいな」

「「了解」」


俺とライガーは先に行っているそいつの特徴を聞いた。


黒い髪は短くてツンツン。軍服の中身を彷彿とさせるような服で、鍔が長い刀を所持している。古めかしい銃を下げていることから、おそらくオールラウンダー。


そして、名前を聞いて、俺とライガーはギルドを全力で飛び出して行くことになった。


「そいつの名前は、シュリフト」

「――アヴェンジャーかよおおおおっ!?」

「ダークナイトとか渾名ついてるやつじゃねえか。マフィア殺しのシュリフト。――まずい、北部と繋がってる気がしてきた」

「行くぞ」

「むしろ乗れ。遅い」


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