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エルフと砂丘の旅

2話目です。

「大人数になって来たわね」

「そうだな。でも、はは、無斗とライガーが経験豊富でよかった」


そんな会話を交わすギルドマスター夫婦。この経験というのは、無斗がほとんどの家事をこなせることと、ライガーが薬草や鉱物の見分けの目利きだったことを指している。

獣人なんてただの粗暴な輩だと思っていたけれど、その認識を改めなければならない。本人の話によると王族なので特殊だということだったけれど。


「アウリエラ、今日は頑張ろうね!」

「う、ん……」


現在私とアレイナの前には無斗とライガーがいる。ああ、無斗はやっぱり怖い。私はこれ以上ずっと人間恐怖症でいてもいけないのでとりあえずしっかり人間の目を見れるくらいにはなろうということで、私のような反応に慣れていると言っていた無斗に協力してもらうことになった。


一緒に依頼を受けることで少しでも距離を縮めようという作戦なのだけれど……。だからって、あんまり簡単な依頼はね、ということで、ちょうどよさそうな小型モンスターの複数討伐を受けて私たちは現場である砂丘に来ていた。


「とりあえずポジション確認だな」

「そうね」


アレイナは戦闘なんて経験がないから基本的に物陰に隠れることしかしない。最悪の場合は持たされている護身用の銃で威嚇みたいなものはするらしいけれど、はっきり言って相手を怒らせるだけだと思う。使わせないのが一番いい。


それと、無斗は今日なぜか顔の半分を布で覆っていた。邪魔じゃないのかとか思ったけれど、これが仕事着なのだそうです。ライガー曰く、あまり表情を見せない方が私が話しやすい傾向に気付いているとのこと。エルフ族はあんまり表情が動かないから、確かにそうなんだけれど。顔がちゃんと見えないのは逆に怖かったりする。


「それはわかってるさ。な、無斗?」

「まあな。もう一つ理由はある。単に口元を読まれねーようにってのが一番大きいよ、今回は」

「?」


確かに、無斗はここに来るまでは普通にしていた。あー、とライガーが言って、耳を指し示した。私は音に集中する。

そこまで近くないけど、歩き方からして、人間のパーティがいる。


「……どうして警戒してるの?」

「この付近にサソリの蟲人の巣がある。危険だが金になる、と言ったら?」

「え……」


奴隷商かそれに雇われたパーティということだろうか。


「なんで?」

「仙人嘗めんな。そんなに離れてない、俺には見えるし会話も聞こうと思えば聞こえる。蟲人よりエルフの方が高く取引されるから、見つかれば追われるだろう。この地形と俺の得意属性の式術は相性が悪いから、完全に俺は白兵戦に回ることになる。足止めとか今回できないんだ」


一気に聞こうとしていた他のことまで答えて、無斗はごめん、と言った。

受けた日、一昨日のことだけど、思い出して納得した。


――え、砂丘のやつをやりに行くのか?

――そうよ……何か?

――あー、いや、なんでもねえ。


森の方が私は慣れているけれどアレイナが動けなくなることも考えて、人間の出入りが少なくて日差しと水分補給にさえ気を付ければいいこちらを選んだのだけれど、ちょっと私の都合を優先し過ぎてしまったみたい。


「砂の上とか走れんのか、無斗?」

「ああ、得意じゃないが一通りは。師匠に叩き込まれたんでな」

「その師匠がお前に獣紋を刻んだやつか」

「まあな」


無斗は真っ黒な衣装なのでかなり暑いはずなのだけれど、涼しげな顔をしている。暑さに慣れている獣人ならまだしも!

私とアレイナは日差し避けの布を被っている状態なのに。


「ま、一目見ただけじゃエルフと人間の見分けはつかないだろう。魔導士もいないようだし、砂丘を駆るようなモンスターを向こうが飼っていなければ俺らなら逃げ切れるな」

「俺に荷物運びをしろと?」

「ただでさえこの環境に慣れない女の子を二人も荷物持たせて走らす気か?」

「お前も持てっつってんだよ!」


ライガーが無斗に掴みかかる。二人のやり取りを見ていて、私は笑ってしまった。


「ふふっ……」


しまった、と思って慌てて表情を戻す。そこには、驚いたような表情の無斗とライガーが取っ組み合った状態で止まっていて、それが何とも言えない体勢だったので私はまた笑ってしまった。


だって、先日すごく強いってことを示してきたような二人が、喧嘩するような普通の人たちだってことが分かったのだもの。

未知のものは怖い。

今二人は私の中で、”未知の者”から”未知の部分が多い者”に変わった。


「……あ、あー、ちょっと日差しの下にいすぎたな、日陰に入ろうぜ」

「おー。そうするか」


ちなみにとんでもない体勢のせいで無斗が倒れそうになったのか、ライガーの手が無斗の腰辺りに回っていたことを言っておきます。

気付いたんだろうね、無斗。そして華麗に話題を変えていきました、こっちは気付いたわよと言わんばかりにライガーの手を見てるアレイナに私は気付いた。

アレイナ――その趣味は健在なんだね……。


砂丘に囲まれた洞窟がある。そこの奥を無斗が見てきて、大丈夫そうだということで中に入ってしばらく休憩を取った。途中でライガーが無斗に何か言うと、無斗が何か唱えて、外の砂を火のマナで何かいじって、出入り口に持ってきて、強烈な熱気とともに一気に板状に広げて入り口をふさいだ。


「どうしたの?」

「”砂嵐”が来る。ここは縄張りじゃねえ。安心しな」


ライガーから返ってきたのはそんな返答で、私はアレイナを見た。アレイナは解説をくれた。


「森の民にはなじみもないけど……”砂嵐”は”サンドドレイク”のことよ」


ドレイク系統のモンスターというのは、基本的にドラゴンの系統に分類される。ドラゴンの眷属という形になっているけれど、要するに下位のドラゴンだ。

サンドドレイクは砂地に住むドレイク。砂を自在に飛ばしてくることと、風の魔力を常に纏っていて、砂を大量に巻き上げていることから付いた通称が”砂嵐”らしい。


「……あ」


熱気を下げるために一気に水のマナを無斗が動かした。すると、砂だった板状のものが半透明になっていった。

向こう側が見える、薄っすら黒いから人間にはうまく見えないかもなあ。


「すげえな」

「なに、熱してガラスにしただけだ」


ライガーが水筒に手を伸ばした。そしてそれを私に投げてきた。


「?」

「……」


ライガーは何事もなかったようにガラスの向こうを見つめている。アレイナが小声で言った。


「無斗に渡すの、絶好のチャンスなので」


ライガーが渡せばよかったのに!

って、それじゃあ今日私の訓練に付いて来てもらった意味がないわね。

私は気を取り直して、無斗に水筒を差し出した。ていうか、無斗さっきの会話聞こえてたよね?


「はい」

「さんきゅーな」


無斗は自然に私の手から掴むのではなく、私が無斗の手に置くような形になるように、手の平を上に向けて差し出してきた。私は何とかその手に水筒を置いた。


「進歩ありね」

「無斗の気遣いの上になってたわよね今の!?」


無斗は苦笑して水筒の水を飲んで、ライガーの横に座った。


「バーカ、無茶すんなよ」

「はは。でもここ結構浅いし、ドレイク系をなめてかかると痛い目を見る。表にミラーでもできりゃよかったんだが、さすがに……」


無斗の体が横に倒れる。ライガーがそれを支えてゆっくり下した。


「……わりぃ……ちょっと、寝る……」

「おう、ゆっくり寝とけ」


私とアレイナは顔を見合わせた。

アレイナにはわからないと思うけれど、無斗の中の水のマナが極端に減っている。きっとさっきの術のせいだ。


「……睡眠魔法掛けれるか」

「え、ええ……」


私はスリープを丁寧に無斗に掛けた。


「……さっきの魔法のせい?」

「ああ。アレは本来大気中にあるマナを使うモンだ。それを体内のマナだけでやりやがった。自滅だな」


ライガーはそう言いつつも少しずつ水のマナを作り出している。これが白虎のすごいところだ。普通は精霊やその眷属はマナを作るなんてことはできない。でも最上級精霊とその眷属だけは別。彼は最上級精霊白虎の眷属だからマナを作り出すことが出来る。ただし、無からは作れない。今少しずつ変化しているのは鋼のマナ。すり減りつつ水のマナを生んでいる。


「水のマナ、ここ少ないのに、無茶させたのね」

「そういうことだ。幸いここには土のマナと火のマナが溢れかえってる。俺はいくらでも回復できる。俺はマナが作れる。俺が作れる範囲のマナがこいつには必要。最悪にして最高の状況だな」


何そのおいしいシチュエーション、とかアレイナが何か意味不明なこと口走っていたけど私は知らない、理解したくない……。


ちょっと詳しく聞いてみると、無斗とライガーは五行説という法則に則って術を使用しているらしい。

火が土を、土が金属を、金属が水を、水が樹木を、樹木が火を生む関係なのだそうで、白虎は金属。私たちで言う鋼に当たるらしい。無斗が得意な属性はこの砂地と相性が悪いと言っていたことから樹木だと考えられる。樹木は単に木と呼ぶそうだけれど、これは風に当たるのだとか。


樹木を支えるにはここの火と土のマナだけでは役不足だけれど、ライガーの金属が間に入ることで水を生むことが出来る。水があれば樹木が回復していく。水を生むことですり減った金属は溢れている土のマナから金属のマナを生んで回復すればいい。


そういうことらしい。

自分の属性の相性というのが存在する彼らのことは、私たちエルフにはわからない。エルフには得意属性というものがないからだ。

エルフはエレメンタルの眷属で、そのため精霊魔法が得意。エレメンタルは火のサラマンダー、水のウンディーネ、風のシルフィード、土のノームの四種類。私たちはそれぞれの精霊たちの力を借りる。だから苦手も得意もないのだ。しいて言うなら、闇属性魔法は全くと言っていいほどエルフは使用できない。


ガラスから外を見ていると、地下から音がした。まさかと思って横目に洞窟の奥を見ると、モコ、と地面が盛り上がって、人が顔を出した。

人じゃないのはわかっている。

サソリの蟲人だ。


ライガーは既に無斗を抱え込むようにして構えていた。私も投擲用のダガーを抜いて構えた。後ろにはアレイナがいる。


「……ふぇ……?」


首を傾げながら穴から這い出して来た蟲人は、黒いサソリの尾を持っていて、しかし――小さかった。子供だったのだ。


「……ダイオウサソリの子供だな。どうした?」


ライガーが声をかけると、その蟲人は後ろを振り返り、穴を踏み固めて寄ってきた。


「人間が来た、から……」

「……そうか。……やっぱ奴隷商の雇われだったのか?」

「わ、わかんない……煮るって、言われて、逃げて、来た」


ダイオウサソリは確か、あまり強力な毒は持ってない。アレイナもそれは知っていたようで、落ち着きを取り戻していた。


「あ」

「?」


アレイナがふとガラスの向こうを見たらしい。声を上げたので私もつられて外を見た。そこには、なんてことだろう。


こっちをじっと見ているサンドドレイクがいた。


感想、誤字脱字等の指摘もお待ちしております。

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