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もやし

作者: 三角 仁

 朝の十時頃、僕は目覚めた。

 眠気がなくなるまで、土下座のようなポーズで伸びをする。

 今日は仕事も休みだ。休みだが、僕は時計を見て、少しため息をつく。休みだから、ゆっくりしていいのだけれど、遅く起きてしまうのはなんだか損をしているような気がするからだ。

 やっとこさ体を起こして、僕は鏡の前に立つ。

 顔を洗って、歯を磨いて、ぼさぼさの頭に手を伸ばしたときにふと気づいた。

 頭に何か乗っている。

 鏡をよく見てみると、それは豆もやしだった。

 なんでこんなものが。昨日はもやしなんか食べたっけ。いや、それより頭に乗るってどんな状況だよ。あー、今日は掃除をしよう。

 と、そんなことを考えながら、頭に乗ったもやしを取ろうとした。

「ん。」

 取れない。髪の毛が絡んでいるのだろうか。

 少し力を入れる。

「む。」

 もっと力を入れる。

「え。」

 力の限りを尽くす。

「いったあ!」

 身の危険を感じるほどの激痛を感じた。

 なんだこれ、生えてる?

 何が起こっているのかわからないが、どうやらこのもやしは僕の頭に生えているようだ。

 少し怖くなった。病気だろうか、それとも本当に頭から植物が生えているのだろうか。宿り木みたいなものなんだろうか。

 とにかく、今日はあまり外に出たくないな。やっぱり家の掃除をしよう。

 と、思っていると携帯電話が鳴った。母からだった。

「ちょっと、あんた、今大変なことになっとらんね?」

「急にどうしたの。」

「あんた、もしかして、頭になんか生えとらんか?」

 なんで、知っているんだ。

「い、いや、生えてないよ。」

 思わず、ごまかしてしまった。ふと、鏡を見ると、にょきっともやしが大きくなった気がした。これ、成長するのか。

「なんもないならいいんだけどね。テレビでも騒いどったからね。」

「ああ、わかった。大丈夫だよ。」

 そういって、通話を切った。

 テレビをつけてみる。テレビのアナウンサーも街ゆく人も、みんな頭に豆もやしを乗っけている。どうやら全国的な規模で起こっていることのようだ。

 やっぱり今日は外に出たくないな。と、考えながら朝飯を食べようと冷蔵庫を開けた。

「あれ?」

 空だった。最近仕事で忙しくて買ってなかったか。じゃあ、米だけでもと、見てみると米びつも空だった。みそ汁だけでもいいやと考えたが、味噌もなかった。どうやら、外に出て買い出しをしなければいけないようだ。

 仕方がないが、行ってこよう。頭がどうしても気になったので、帽子をかぶっていくことにした。

 外に出てみると、僕と同じ考えの人が多いのか帽子をかぶっている人がいつもより多い。

 それにしても、このもやしは成長するようだ。大きくなってしまったら、僕はどうなってしまうのか。あまり考えたくないね。

 街の人々は思ったよりも普通に過ごしていた。商店街の八百屋さんは、

「そこのおねえさん!(にょきっ) 買っていかないかい!」

 なんて、おばさんを捕まえて元気な声をあげている。今、八百屋のもやしが少し大きくなったな。

 とりあえずスーパーに入って、食料品を買い込む。レジを出て、袋に詰めていると、おばちゃんが二人、話をしている。

「この間、岐阜の方に行ったのよ。」

「あら、いいじゃない。」

「温泉にね、行ってきたの。」

「いいわねえ。」

「ほら、この間、うちの主人が昇進したでしょ。そのお祝いでね。」

 どうやら、一方のおばちゃんは自慢をしたいらしい。もう片方のおばちゃんの眉がぴくんと動いた。まあ、あからさまな自慢は気分は良くないよね。

「へえ、温泉旅行ね。私も行こうかしら。(にょき)」

「あらあら、このご時世よ。無理しない方がいいわよ。」

 にやにやしながら言うおばちゃん。嫌なやつだな。

「いえいえ、どうせ今度の長期のお休みには海外にいく予定でしたから。(にょきっ)」

「あらあら、どちらに。」

「ハワイよ、ハワイ。そのくらいの余裕はありますから。(にょききっ)」

 見栄を張るにも、もっとうまくしないとね。バレバレすぎて、相手のおばちゃんは苦笑いしてるよ。それにしても、今の会話の中で、おばちゃんのもやしがずいぶん育ったな。

 ふと、まわりを見て、帽子をかぶっていない人の頭を見ると、みんながみんな同じ大きさには育っていないようだった。どうやら個人差があるようだ。成長の条件があるのだろうか。

 思い返してみる。僕や八百屋やおばちゃんのもやしが大きくなったとき、何かあっただろうか。

 そこで、ピンときた。

 そうか、どれも嘘をついたときに大きくなっているのか。

 わかってから、しばらく他人を確認していたが、やはり思ったとおりだった。

 条件としては、意識的に嘘をついたときに大きくなるようだ。勘違いなどには反応をしない。

 わかれば簡単だ。嘘をつかなければいい。難しいときには黙ってしまえばいい。とりあえず、僕は安心した。


 一週間が経った。

 不思議なことに成長の法則に気づいたのは僕だけのようだった。

 街の人も頭を隠すことを面倒くさくなったのか、帽子をかぶる人も減ってきた。みんなのもやしの成長具合も人それぞれである。

 もはや、もやしとは言えないかもしれない。すくすくと育っているそれはもう、だいたいの人は若木のようになってしまっている。

 家のテレビをつける。

 ポンッときれいな花を頭に咲かせたアナウンサーが同じくらいきれいな笑みで今日のトピックスを話している。あのもやしは花も咲くようだ。

 チャンネルを変える。

 医療の特集をやっている。がん治療の権威が映る。頭のもやしは大きい。顎髭を生やしているのかと思ったら、ガジュマルの木のように垂らした根っこだった。がんの告知っていうのはなかなか正直にできないのだろう。

 チャンネルを変える。

 ニュースをやっていた。詐欺グループのリーダーが逮捕されたようで、ヤシの木のように大きくなった木には実がついている。頭がつっかえてパトカーに乗るのに四苦八苦している。

 もう一度、チャンネルを変えると鬱蒼(うっそう)とした森が映った。ネイチャー系の番組だろうか。

 よく見てみると右上に「LIVE」の文字がある。どこの生放送だ。

 チャンネル番号を見て気づいた。

 番組は国会中継だった。

 

昔に読んだ、「ほらふきだんしゃく」。

弾が足りなくなって、食べてたサクランボの種を詰めて鹿に撃ったなら。

次会うときには、鹿の頭から桜の花が咲いていた。


このシーンが頭にあって、作った作品です。

今の子たちって「ほらふきだんしゃく」知ってるんですかね。

絵本コーナーをたまに見ますが、そういえば見ない気がします。

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