被災
私が覚えているのは眩しい光と、体が宙に浮かぶ感覚だった。
まるで白い世界に放り出されるかのような感じでした。スローモーション映像を見るかのように、何人もの人がゆっくりと飛んでいたのも、体がくるくると回転して、何かのアトラクションかと思った。木々に吊るされていた鐘がたくさん宙を舞っていたけど、音は聞こえなかった。私は途中で気絶したのでしょう。視界が真っ暗になった。
それから私が目を覚まして、周りを見渡した時にわかったことは世界の破滅だったことを……。
201X年12月25日 午前??時??分
本来、この時間帯だったら鐘木市のクリスマスパレードは、大きな歓声と繁盛を迎えていたはずだった。
しかし、迎えていたのは悲鳴だけだった。鐘木市の街は、崩落して瓦礫の山と化した。
助けを求める人々、泣き崩れ動けない人々、瓦礫の下敷きになって死んだ人々、あの楽しんでいた街は混乱と化していた。そんな瓦礫の中から何か動くところがあった。
「……う、…んー」
夢楽だった。夢楽は運よくけがをすることなく、瓦礫も街路樹のおかげで下敷きになることなく、彼女の力だけでも抜け出ることができた。
夢楽は自分の状況を把握するために周りを見た。
それは崩落という惨状だった。
ビルなどの建物は瓦礫と化し、大きな木々はもぎ取れあるように倒れ、炎が燃え上がっている場所もあり、人々は瓦礫の下敷きになり、怪我をして動けないもの、助けを求めるものと、人々の声や悲鳴が響き渡っていた。
「……何、これ? 」
これは夢なのだろうか。夢なら覚めてほしい。今まで楽しかったパレードは地獄絵図と化していた。
そんな夢楽はそんな地獄絵図から逃げるかのように、よろめきながらも歩いた。
(そうだ、これは夢なんだ。目が覚めたら温かい布団に入っているんだ)
未だに夢の中にいるのだと思い、歩き続けている。どこに行けばいいのかわからない。どこに進んでいるのか分からない。炎が上がって周りは明るいはずなのに、今の自分は暗闇の中を手さぐりで、何かを探すかのように彷徨っていた。
夢楽がどのくらいか彷徨っていた時だった。瓦礫から頭から血を出している男性が、死に物狂いで夢楽に助けを求めて来た。
「おーい、助けてくれーー」
「ひっ! 」
突如の声かけに夢楽は驚き、尻もちをついてしまった。
「ねぇ、助けてくれよー」
男性は必死に夢楽に助けを求めた。夢楽も最初は驚いたが何とかたちあがって涙目ながらも男性に近づこうとした。………だが、男性に触れることはできなくなった。なぜならば。
「ぐえべれ!! 」
男性の頭はなぜか爆裂したからだ。
「ひっ!!! 」
流石に夢楽は驚愕して腰を抜かしてしまった。一体何が起きたのか。腰を抜かしながらも周りを見た。
少し離れたところに少し大きめの戦車の玩具のようなものがあった。車輪はなく、4つの脚のようなもので可愛らしく歩いてくる。しかし、砲台らしきところからこちらに砲撃をしてきた。
「うわーーーーー!!! 」
腰を抜かしたと言ったが、そんなこと言っている場合ではないと、いわんばかりに叫びながら走り逃げた。すると座っていたところが爆発したのだ。咄嗟の逃走が夢楽を九死に一生を得たのだ。
しかし、爆風で前のめりに倒れこんだしまった。
夢楽が全身に響く痛みをこらえて、立ちあがろうとした時だった。
目の前に人だった物に何かがたくさんひっついている。
それはソフトボールくらいの大きさで、形は頭と尻尾は普通の蛇であるが、胴体部分は徳利のように極端に大きい。まるでツチノコのような生物が、人だった物にたくさんひっついて何かをしている。何をしているのと見ていると、すぐに理解ができた。とある1匹がそれから離れると、そこだけが赤い肉が見えた。つまり、こいつらは食事をしていたのだ。するとツチノコみたいな生物が夢楽の前に現れた。ツチノコとは違うが大きな赤い瞳に茶色い鱗のようなものに覆われている。見た目は可愛らしかったが、それも一瞬だった。
先端から4本の牙が生えており、口らしきものを広げる。その奥にはスクリューのような複数の牙が複雑に動いていた。
この生き物は今、目の前の自分を食い物だと考えている。
「ひ、ひゃーーーーーーーーー!!! 」
あまりの恐さに勢いよく逃げ出した。
走った。走った。走った。走って、走って、走った、はしって、はしって、走り走りはしりはしりはしりはしりハシリハシリハシリハシリ。
………。
……。
…。
どのくらい走ったのかよくわからない。ただ、自分の周りはさっきとは違う状況になっていた。
ある人はわからない生き物に襲われてしまい、ある人は戦車のようなものに射殺され、ある人はツチノコみたいな生き物の大群に押しつぶされたり、ある人は………。
右も左も人々が異形に襲われている状況しかなかった。もはや、この町は化け物に襲われていた。
夢楽は願った。もう、何でもいいから助けが欲しい。これ以上の惨状と苦痛から解放してほしい。これが夢ならば覚めてほしい。これ以上の贅沢はいらなかった。ただただ、これから逃げ出したい。ただそれだけが今の夢楽の願いだった。
夢楽が無我夢中にあっちこっち走り回っていた。走りつかれて途中で休んだ時だった。
「……あ」
周りを見れば、ずいぶんと破損はひどいが今いる場所は、あの変なことを言う怖いおじさんの住んでいた家の道路であることに気が付いた。
「うへぇ、またこんなところに? 」
どうして今日は、嫌なことが起こっているのだろうか。ましてや嫌な道にまたも来てしまうとは、これ以上は起きてほしくない。
「……早くここから逃げないと」
これ以上休む時間はないと考えた。あの異形がもうここまで来ているのではないか。とすぐさま立って走ろうとした。
「うわっ、ととと」
思いのほか足が思うように走れず、疲れが原因だろう。千鳥足のようにふらふらと歩くような形になってしまった。
「あ!! 」
不意に足がつまずき、壁に手をかけたときだった。
壁が壊れて、夢楽は成す統べなく、そのまま階段へと転び落ちてしまった。
「ひゃーーーーー!!? 」
夢楽は廃墟と化した家の中へと姿を消した。