09 ボス戦と撃破……
二回目のダンジョン。今回の目的は、大本命のボスと戦うことだ。
さすがに二回目と言えど途中の難易度は低く、既にマッピングもしてあるので、ボス手前までは順調に進むことが出来た。
ボスは強い。されど危険は少ない。
「まずは普段通りに戦ってみよう。アルルとベアルカスが前衛でマリアは遊撃。俺とカタリーナはサポートだ」
「わらわは何をすれば良いのじゃ?」
「俺達に危険があった場合は助けて欲しい。それまではあまり手を出さずに」
「ヴァルマが前に出てくれれば、それだけでなんとかなりそうだけど……。ワタシ達の力も試したいから、ごめんなさいね」
「いや、良いのじゃ。何かあればわらわの力を見せるとしよう」
ヴァルマの力はチートと言ってもいいだろう。ぶっちゃけヴァルマだけで戦った方が強いだろう。
でもそれでは俺達の力を見せるとはいえない。もちろん、ヴァルマも俺達の大切な仲間であり、ヴァルマの力は俺達の力でもあるのだけれど。
「作戦は決まった?」
「えぇ、まずは普段通りですね」
目の前の扉の奥が、ボスがいるというボス部屋になる。
仰々しい扉というよりかは、どこにである普通の扉という感じで、ダンジョンという事を忘れさせてしまうような平凡なドアだ。
ヴィータネンの人達も一緒に来ている。
ボス部屋といっても、他のパーティが入れないという事はなく、施錠されるということもなく、自由に出入りが出来る。
そのため、過去には大人数でボスに挑んだ事もあるらしいが、それでも倒せなかったらしい。
ヴィータネンの人達にも一緒のボス部屋に来てもらい、それで俺達の戦いを鑑賞してもらう算段だ。
手は出さない。もちろん、俺達や自分たち――ヴィータネンの人達自身に危険が及べばその限りではない。
まずは普段通りに戦う。
それで駄目なら、イージスの盾を召喚してマリアに戦って貰うしかないだろう。防御特化と言えど、全体的な底上げが期待できるので、戦力は上がるだろう。
グングニルを召喚して、アルルに使って貰う方が攻撃の面では強い。だけどアルルでは消耗が激しいので、ここ一番という場面でないと厳しいだろう。
最悪はヴァルマに前に出てきて貰うのがいい。しかしそれは最終手段だ。
さすがにヴァルマの実力は晒すのは避けたい。俺達だけならいいけど、ヴィータネンの人達も見ているからだ。
信頼はしていない訳ではないけど、龍人というのを説明するのが手間だし、それでヴァルマは変に思われてもかわいそうだ。
せっかく外の世界を旅しているのだから、その大きな力を畏怖されて迫害でもされたら意味がない。
「それじゃ……みんな準備はいいな? それじゃ行くぞ!」
皆も準備万全のようだ。ここまでの消耗は少ない。まさに万全だ。
扉に手を掛け、そして中へと……。
「ピピ……。パーティ ヲ カクニン」
「あれが……ボス、なのか?」
見るからに異形だ。これまでのどの魔物とも違う。生物のように見えない。どちらかと言うとゴーレムだろう。
「そうだよ。あれがボス。変なゴーレムでしょ? それに喋るんだよね。その奥の扉を護るように立っているから、ガーディアンって呼ぶ人もいるんだよ」
一緒に入ってきたシグネ団長は、驚いている俺達を楽しそうに見ている。そして、ボスの影響がないと言われている位置――通称観客席へと移動していた。
ガーディアンか。確かにゴーレムのようだけど、何かを護る騎士のような風貌だ。
「シレン ヲ カイシ シマス。ファーストフェイズ」
「それじゃ、私達はこっちから見てるからねー。あんまり頑張らないでねー」
くそ、ヴィータネンの人達は気楽そうだ。
それに頑張るなって……。俺達が頑張ってしまうと、ミネットがヴィータネンから脱退してしまうからだけど、今はそんな事を考えている場合じゃない。
見るからに機械のようなボス。
何かを護っていると言われており、確かに護るかのように奥への扉を塞ぐように立っている。
そして喋るというか、語ってくる内容だ。試練? ファーストフェイズって、まずは小手調べって事なのか?
「とりあえず作戦通りに行くぞ!」
「行け、ベアルカス!」
まずは普段通りだ。攻撃と防御のバランスがいい、アルルとベアルカスが前衛で敵を攻撃。
その二人の相手をしている間にマリアが遊撃。
俺とカタリーナはそのサポートだ。
ボスは防御に定評があるから、それを切り崩せるかがポイントだ。対して攻撃はそんなにしてこないので、安心して攻めに徹底できる。
「アルル、行きます!」
アルルとベアルカスが接近していく。お互いをサポートしながらのコンビネーション攻撃だ。
「たぁ!」
まずはアルルが殴りこんでいく。その鋭く重いパンチは当たればダメージは確実だろう。
だが、そのパンチは空を斬った。
さすがといった所だろうか。アルルのパンチを予想していたかのように、ボスが動いて避けていたのだ。
さらに驚く事に、アルルの追撃をしていたベアルカスの攻撃までも避けていた。
……これくらいの攻撃では触れる事すら出来ないという事か。
「さすがに当てさせてはくれないか。俺もサポートに徹する。ベアルカスはそのまま攻撃を続けてくれ」
最近ではあまり使う事のなかった風の基本の召喚獣、シルフを召喚する。
「シルフ、マリアとアルルとベアルカスに補助を頼む」
基本と言っても、俺が改良を加えてある召喚獣なので、既に別物と言っていいだろう。
雀の涙ほどだった効果も、今では使う魔力の割に上昇率が良いという、コスパがいい召喚獣に仕上がっている。
「はぁ……久しぶりだねー、マスター? 最近は全然呼んでくれないから忘れられたのかと思ったよー」
シルフは敏捷性が上がる効果を持つ。元は手のひらに乗るような妖精みたいな感じだったけど、今では一回り大きくなり、頭や肩に乗るのがやっとのサイズだ。
「ごめんな。それよりも頼むよ」
「はいはいー。まぁいいんだけどねー」
「よし、ありがとうな、シルフ」
まずは攻撃を当てる事が重要だ。そのために敏捷を上げる。これでさっきよりもましになったはずだ。
「さすがに硬すぎないか……」
しばらく戦闘を続けているが、有効打は与えられていない。牽制攻撃は当たっているが、大きな攻撃は当たっていない。
むしろ、大きな攻撃を確実に避けたり対処するために、受けてもいい攻撃を受けているようにも見える。
もちろん、皆も頑張ってくれている。
アルルとベアルカスのコンビ攻撃は激しい。ボスは避けるだけでも大変だろう。
マリアの攻撃も鋭いが、あのゴーレムみたいな相手には武器との相性が悪い。掠ったりなどはしているが、大きなダメージにはなっていないだろう。
カタリーナは皆の攻撃の間に弓での攻撃をしているが、同じく相性が悪い。
さすがはボスといった所か。
このまま何も出来ないで終わるのは嫌だな。少し疲れるけど、ベアルカスだけじゃなくてJrも召喚して、一斉攻撃をしてみるか。
Jrは防御に特化した召喚獣だけど、その大きさと重量は攻撃にも有効だ。
「頼む、Jr! 一斉に攻撃するぞ!」
まずはカタリーナの弓での援護の元、マリアが突撃する。
今まで以上の突撃だ。相手からすれば、当たっても大したダメージでは無かったはずだが、今回は違うだろう。
当たればダメージは確実に通るはずだ。そうなると、相手は……。
「よし! 次はJrだ!」
「グゴゴ……」
マリアの攻撃は避けられた。目論見通りだ。
次はJrがプレッシャーを掛けにいく。その巨体で相手の動きを封じるのだ。これで相手の行動は制限される。
Jrがボスに近づく。相手からすれば初見の召喚獣のはずだ。何をするかどうか分からないから、その対応は遅れるだろう。
そこを狙う。Jrは何もしない。ただ近づいて、あわよくば相手を押さえつけるだけだ。
その目論見通りに、相手は攻撃してこないJrに対して何もすることは無かった。いや、避けようとはしたのかもしれないけど、マリアの攻撃を避けている最中なので、何も出来なかったのだ。
「よし、Jr。そのまま押さえつけておけ! サラマンダー、一瞬でいい。アルルとベアルカスに援護を!」
サラマンダーは、シルフ同様、火の基本的な召喚獣だったが、今では立派な召喚獣へと変貌している。
大型の犬のような、火に包まれたその風貌は、まるで小さなドラゴンのようにも見える。
「グガァ!」
これでアルルとベアルカスの攻撃力は一時的に上がっているはずだ。
「頼む、二人とも!」
「行くよ、ベアちゃん。アルルとベアちゃん、行きます!」
動きが完全に制限されているボス目がけて、アルルとベアルカスが突撃していく。飛んでいくような猛撃だ。
二人の一撃で駄目だった場合は、さすがに消耗が激しい。引くことになるだろう。
これが最後の一撃という訳だ。
「うりゃあぁぁあ!!」
小さな体から発せられる、アルルの大きな咆哮から少し遅れて、ドゴォッという大きな音が一つ聞こえた。
「ギギギ……」
Jrの体でここからでは見えにくいけど、どうやら二人の攻撃は当たったようだ。
初めてのクリーンヒットだ。これで駄目なら、退却をしないといけないけど、どうだ……?
魔力節約のために、Jrは帰還させる。同じ手をしようとしても、もうあのボスには効かないだろうし、Jrの今の役目は終わったからだ。
Jrを帰還させると同時に、何かが倒れるような、大きな音が聞こえた。
見ると、今まで何かを護るように立っていたそボスは、今は地面に伏していた。
「……どうなった? ボスの様子はどうだ?」
まだ倒れただけだ。まだ安心は出来ない。ここから立ち上がってくる可能性もある。
「……動きそうもないみたいよ?」
「倒し……たんでしょうか?」
おいおい、まじか。いくら強化されたアルルとベアルカスのコンビ攻撃といっても、一撃で倒せるようなボスだったのか?
確かにこれまでの防御は素晴らしかったが、これくらいなら、数と質を揃えれば、誰にでも倒せそうな敵に思えるけど。
とにかく、勝ったって事でいいのかな?
「とりあえず警戒だ。皆、一応ボスから離れて置いてくれ。ヴァルマは何かあった時のためにいつでも動けるようにしておいてくれ」
「えぇ、そうね」
「分かりました」
「ふぅ……疲れましたけど、さすがはマリアお姉様ですわ!」
「これならわらわの出番は無いように思えるのじゃがな」
確かに手強かったけど、どうにか出来る相手だった。ヴァルマの出番も無かったし、マリアやアルルに武具を装着させるまでもなかった。
これなら、いつかのオークの方がよっぽど強かったんじゃないだろうか?
「うっわー、アキヒト君、本当に倒しちゃったの? びっくりだよ。というか、思ってたほど強くないボスだったね」
「そう、ですね。これなら私達でも倒せるでしょう」
「確かに皆凄かったですけど、あのボスってあんなに弱かったでしたっけ?」
「アキヒトさん、沢山の召喚獣がいるんですね……。すごい」
観戦していたヴィータネンの人達も微妙な感想のようだ。俺達が弱かったという訳ではない。ボスが弱すぎたという方だ。
確かに、これくらいならばヴィータネンの人達でも倒せただろう。なのになんで今まで倒されなかったのだろうか……。
「アキヒト殿、ボスの様子がおかしいようじゃが?」
「何?!」
やはりあれでは倒れていなかったか。ここからがボスの真骨頂って事か?
ボスは倒れているままだ。これから立ち上がるというのか? それとも変身とかしちゃうのか?
「ピピ……。ファーストフェイズ シュウリョウ。セカンドフェイズ ニ イコウシマス」
「喋った……」
ファーストフェイズ終了? セカンドフェイズに移行?
やっぱり、このボス。おかしい。いや、それよりも、今までは第一段階で、これから第二段階って事か。やってくれるぜ……。
もうこちらの消耗は激しい。さすがにそのまま戦うのはキツイ。ここは一旦退却して……。
「ピピ……。タイムリープ ヲ カイシシマス。セカンドフェイズ デ オアイシマショウ」
ご意見ご感想があれば嬉しいです。
が、豆腐メンタルなのでお手柔らかに……




