08 デートとデート
ダンジョン散策から戻った翌日。今日も休みだ。
昨日はあれから部屋で休んだおかげで、疲れもしっかりと取れている。
さて、今日も部屋に引きこもっている訳にはいかないし、買い物がてら散歩でもしたい所だが……。
問題は、この国だと俺一人では何をするにも大変ということだ。買い物も禄に出来ないだろう。
という訳で、誰か同行者を連れて行くのが良い訳だけど……。
さて、誰にしようか。さすがに全員というのは多い。皆も休日だし、俺の我がままに付き合わせるのも悪い。
ヴィータネンの人達はきっと駄目だろう。シグネ団長やノーラ副長、ミネット辺りなら平気だと思うけど、他のメンバーには嫌われている。
そうすると、やはりパーティの中からになるけど……。
とりあえず食事かな。まだ少し早い気もするけど、時間的には平気だろう。
食事スペースに向かうと、そこにはアルルが一人でご飯を食べていた。
「お? 早いなアルル。おはよう」
「おはようございます、アキヒト様」
「他の皆はまだ部屋か?」
「はい、まだお休みですね」
昨日は寝るのが早かったせいか、いつもより少し早く目が覚めてしまった。それでもアルルは既に起きていて、食事を摂っている。
「いつもこんなに早いのか?」
「はい。皆さまよりも早く起きるようにしています。アキヒト様も、お早いですね」
うちらの中で一番幼く、一番睡眠が必要であるはずのアルルが、こんなにも早起きだとは……。
「目が覚めてなー。俺も飯食うか」
「あ、はい。すみません、お食事をお願いします」
アルルは良い子だ。こうして俺の分の飯まで、店員さんに声を掛けてくれる。
奴隷だからというのもあるのかもしれないけど、アルル本人が良い子な方が大きいだろう。
「あぁ、ありがとう。それと、俺達のために早く起きているなら別にいいんだぞ? 子供が無理しなくていいし。それに、寝ないと大きくなれないぞ?」
アルルは確か十二歳くらいだったっけか。日本ならば中学に入るかどうかくらいだ。
過去に大きな怪我をしたせいか、それともそのあとの貧乏冒険者時代のせいか、はたまた奴隷商にいた頃の生活のせいか、年齢にしては少し小さい。
見た目は十歳くらいの小学生だ。成長期なはずなので、睡眠と食事は大事だ。
「ア、アキヒト様は大きい方が好みなのでしょうか?」
うん? そりゃきちんと大きくならないとなぁ。
女性の平均身長がどれくらいかは分からないけど、後二○センチくらいないと、大人なのに子供と間違われてしまうだろう。
それで困るというか、嫌な思いをするのはアルルだし。
「そうだなぁ。ヴァルマくらいだと大きいって思うけど、マリアくらいが普通なんじゃないか?」
「そ、そうですか……。分かりました、アルル頑張ります!」
良く分からないけどやる気なようだ。無理はしないで欲しいけど、まぁ大丈夫だろう。
「おや? アルル殿は相変わらず早いの。それに今日はアキヒト殿も一緒かの」
「ヴァルマ、おはよう」
「ヴァルマさん、おはようございます」
アルルと二人でご飯を食べていたら、ヴァルマが起きてきた。ヴァルマもこの時間なのか。マリア辺りは早く起きてきそうなものだけど。
「わらわも朝ご飯といこうかの」
「あぁそうだ。二人は今日は暇か?」
「はい、特に用事はありません」
「わらわもないの」
ちょうどいい。二人に同行して貰おうかな。
「今日は消耗品の買い物とかも含めて、街を歩こうと思っているんだけど、一緒にいかないか? というか、一緒に行ってください」
俺一人で街を歩くのは危ないからな。誰か誘おうと思っていたけど、二人が暇ならば丁度いい。
「わらわは大丈夫じゃが、アルルは二人のが良いのではないのか?」
「は、はい! ……じゃなくて、ヴァルマさんも一緒にお願いします。二人では、その……恥ずかしいです」
「そうか、よかった。俺一人だとこの街はきついからな。二人が一緒なら安心だよ」
これで今日の憂いは無くなったな。早起きはするものだ。もしも二人が、というかマリア達全員が出かけてしまっていたら、誘う事すら出来なかったからな。
マリア達もすぐに起きてくると思っていたけど、起きて来なかったので、声は掛けずに宿を出た。
さすがにマリア達も一緒にとなると、大人数になって散歩しずらくなるからな。三人くらいが丁度いいだろう。
ちなみに、マリア達は昨晩遅くまでヴィータネンの人達をお喋りをしていたそうだ。アルルとヴァルマは早めに抜け出したらしい。
「やっぱ賑やかだな」
さすがは国一番の街だ。人が多く活気もある。
「それにちらほらと男もいるな」
人数も多いので、比率では少ないはずの男の姿も結構見かける。他の街ではレアもレアの激レアだったのにだ。
それを言うと、俺自身もレアな存在だった。これまでの街では、値踏みするような視線や、珍しい物でも見るかのような視線が多かった。
そういう意味では、この街は少しは過ごしやすいという事になるかもしれない。
……もちろん、男性が多いという事は、それ以上に女性も多いということだけれど。
「そうじゃな。じゃが、アキヒト殿に適う男はおらぬな」
おいおい。変な事言うなよ。誰かに――この場合は女性にだけど、絡まれたら大変になるだろ……。
男の多くは女性を連れている。冒険者なのはパートナーなのは、それともハーレムなのかまでは分からないけれど、男のみというのは少ない。
「それで、買い物というのは何を買うのでしょうか? 言って頂ければアルルが買ってきますが」
買い物も用事の一つだけど、こうして散歩すること、後はダンジョンのボスについての情報が得られればと思って出かけているんだけど、まずは買い物から済ませるか。
「不足している消耗品とか無いか、とかだな。こうして実際に見に来てみると思いだす事もあるしな。だから適当に店を見て回ろう」
ウィンドウショッピングという訳ではないが、実際に店に来てみると欲しい物とか見つけたりするしな。
と言っても、ここの街というか国では、男性用の商品は少ない。街全体がレディ用でメンズ用は少ないのだ。
「そ、それなら、ヴィータネンの人達がいいお店があると幾つか教えて貰ったので、そちらに行きませんか?」
「わらわも教えて貰ったな。せっかくだし、色々な店に行ってみるのも楽しそうじゃしな」
「お、そうか? じゃあ行ってみるか」
「やっぱり、男性向けの商品は少なかったな……」
ヴィータネンの人達のおすすめのお店。まぁ行く前から分かってはいたけど、女性向けのお店ばかりだった。
消耗品でも可愛い系とかいい香りがするとか、そういうのだ。
「す、すみませんでした……」
「いや、仕方ないさ。アルルとヴァルマは楽しかったんだろ? なら俺も楽しかったさ」
「アキヒト殿は女子を褒めるのも上手いのじゃな」
「はは、そうか? おっと、そろそろ昼か……。どこかで食べるか? 何か食事処のおすすめもあるのか?」
「は、はい。そうですね……。ヴィータネンの人達に聞いたのは、カフェなどの軽食系ばかりなのですが……」
あぁ、やっぱり食事処もそういう系か。
「アキヒト殿は男じゃしの。もっとがっつりとしたお店がいいのではないか?」
うーん、まぁがっつり系な食事のがいいのはいいけど、そういう店を探すのも苦労しそうだしなぁ……。
昼食ならカフェとかでもいいかな。
「いや、大丈夫だぞ。さすがに夜にカフェで甘い物とかはきついけど、昼だしな」
「分かりました! ではご案内致します」
さっきもだけど、アルルはこの街の地図を覚えているのだろうか。店も知っているし案内も出来る。いい子だな。
「うんうん、良いの。アキヒト殿もじゃが、アルル殿もポイントを稼いでおるのぉ」
ポイントって何だ……。
アルルに連れて行って貰った店。まぁカフェだったけど、食事に力を入れていて、体力が資本の冒険者に人気の店だった。
なので食事も軽い物ではなく、結構がっつりとした物があって、俺としては大満足だった。
ダンジョンとかではいくら女性と言っても、肉や塩分が多く濃い食事を食べる機会が多い。
その分、休日の街ではお洒落な食事を好む傾向があるけれど、この店はお洒落なだけじゃない品揃えだった。
「ふぅ~。うまかったな、ここ。いい店じゃないか」
さすがはヴィータネンお墨付きの店だ。冒険者のみのクランならば、こういう店も知っているという事だな。
「わらわも満足じゃ」
「そうでしたね。アキヒト様にも満足頂けて良かったです」
さて、思いの他食べてしまったので、腹ごなしにウィンドウショッピングという名の散歩を続けるかな。
「それじゃまた色々見て回るか」
「はい。アルルももっと歩きたいです」
「そうじゃな。こうしてアキヒト殿と……アルル殿もいるが、歩ける機会はないしの」
確かにこうしてアルルとヴァルマと歩くのは珍しいな。
こうして考えると……これは両手に華状態というやつなのか? これはこれで、目立ちそうだなぁ……。
アルルは年齢も見た目も女児。対してヴァルマは長身の大人の女性。対照的な二人を連れて歩く俺は、一体何者なのだろうか。
……まぁいいか。なんか俺も成長したというか、慣れてきたというか。日本にいたら、絶対に有り得ない状況だしな。
アルルみたいな子供と一緒に歩いていたら、不審者扱いされてしまうだろう。
ヴァルマみたいな女性と歩いていたら、モデルとか勧誘が多いだろう。
そう考えると、異世界なんだなと再度思ってしまう。
それから大分歩いてさすがに疲れてもきたし、時間も時間なので宿に戻った。
「今日はありがとうな、二人とも。色々回れて楽しかったよ」
「いえ、アルルも楽しかったですし、アキヒト様のお役に立てて嬉しいです」
「わらわも楽しかったのじゃ。また一緒に出掛けたいものじゃな」
さて、夜まで部屋で休んでいるかな……と、あれはマリアか?
「帰ったのね、アキ。……アルルとヴァルマと出かけていたの?」
「あぁ、朝からな。マリア達はまだ部屋にいたみたいだし、丁度アルルとヴァルマがいたから、二人に着いてきて貰ったんだよ」
「はい。ご一緒させて頂きました」
「ふむ。楽しかったのじゃよ」
「そう……」
あれ、なんか元気ない? 黙って出かけた事で心配でも掛けたかな。
「アキ。明日も休みよね?」
「あぁ、そうだな。ダンジョンは明後日に挑むつもりだけど……」
「なら、明日はワタシが一緒に出掛けるわ」
明日は少しゴロゴロしようと思っていたんだけど……。
「マリアお姉様が行くのでしたら、カタリーナも行きますわ!」
と、いつからいたのか、カタリーナも一緒か?
「えーっと……。あぁ、分かったよ。じゃあ明日はマリアとカタリーナと出掛ける事にするよ」
「ほほぉ。明日は三人でお出掛けという訳じゃな? ならアルルとわらわは宿でゆっくりしているかの」
なんか分からないけど、明日も出かける事になってしまった。
うーん……。まぁ今日見れなかった所もあるし、またあの店で食事もしたいしな。
翌日もマリアとカタリーナと出掛けた。
アルルとヴァルマとやったように、色々な店を見て回ったり、あの店で食事をしたりだ。
マリアは機嫌も良く満足していたようだし、カタリーナもそんなマリアと一緒に出掛けられて満足していたようだった。
こうして、俺達の短い休日は終わり、再びダンジョンに挑む日がやってきた。
ご意見ご感想があれば嬉しいです。
が、豆腐メンタルなのでお手柔らかに……




