04 ホームと話し合い
「ふむ……。ここでは何だし、我々のホームで話し合ってはどうかな?」
「ホーム、ですか?」
当たらに登場した女性は、ノーラさんという。ヴィータネンの副代表をしている人で、副長と呼ばれているみたいだ。
この女性は冷静なようで、スサンナのように俺を殴り飛ばしたりはしなかった。
俺達よりも年齢は上のようだし、クランの頼れるお姉さんと言った所だろうか。
軽く事情を説明したところ、続きはホームでと提案をされたのだけど、また新しい単語である。
「あぁ。我々の溜まり場みたいなものだよ。そんなに遠くはないし、客人を迎えるのも問題はないよ」
「はぁ、まぁずっと店にいる訳にもいきませんし、いいですよ」
「よし。スサンナにミネットもだ。客人を案内するよ」
「は、はい!」
「分かりましたです」
ノーラさんにスサンナ、そしてミネットの案内に付いて行く俺達であった。
所で、だ。
俺はスサンナに殴り飛ばれた訳だ。幸い、怪我も無かったのだけれど、なんで俺は殴られたのだろうか。
もちろん原因は分かっている。スサンナの誤解だ。
俺がミネットをナンパしていると勘違いしたせいだけど、問題は、誰も止めなかったということだ。
さすがにいきなり殴り飛ばされた訳だけど、マリアなら止められたのではないだろうか? そんなに早いようにも見えなかったし。
まぁ俺が避ければよかっただけの話だけど、さすがに椅子に座っている状態だと早く動けないしね。座ってたせいだよ、うん。
さらにだ。
ヴァルマならマリアよりも実力は上だろうし、尚更余裕だったのではないだろうか? 一応、俺に惚れているみたいだし?
聞いてみたい気もするけど、助けないといけなかったかしら? とか言われると凹む。
でも気になる……。
結構派手に吹き飛んだ割には、怪我といっていい怪我もしてないのには驚いたけど。
殴られた後は、マリアも皆も心配してくれたから、俺の事をどうでもいいとかは思っていないと思うけど。
うーん……。
女性陣は、歩きながらも和気あいあいと語っている。
ちょうどアルルが近くにいるし、アルルに聞いてみるかな。
「なぁ、アルル」
「はい、なんでしょうか。アキヒト様」
「さっき俺が吹っ飛ばされた時の事なんだけどさ。あの時、誰か助けようとしてくれたり……とかなかった?」
「……すみません、アキヒト様。アルルも助けようとしたのですが、カタリーナちゃんが止めたほうがいいって……。それにヴァルマさんも大丈夫だろうって」
アルルはいい子だな。それにしてもカタリーナとヴァルマはどういう事なんだ?
「下手に男性を守ると面倒な事になりそうだって。後、威力はそこまでないから、アキヒト殿なら問題ないのじゃって言ってました」
確かに見た目の派手さに比べると、威力はなかったかもしれないけど。でも俺としては怖かったんだけどなぁ……。
うーん……。まぁ女性に守られるというのもあれなのかなぁ。
「ここが我々のホームだよ。といっても、持ち家ではないのだがね」
そうノーラさんが案内したのは……。
「ここ、宿屋ですよね?」
宿屋だったのだ。
他の建物と同じく、例によって綺麗な宿屋。少し大きめの洋館といった感じだ。
「あぁ、そうだよ。我々のクランは規模が小さいからね。宿屋の一部を借りて活動しているんだ。さぁ、中へ」
勧められるままに中へと入ってみる。
「わぁ、凄いです!」
「確かに広い宿ね」
「ほぉ……中々じゃな」
「いい宿そうですね」
確かに、これまでこの国で滞在した宿でも一番といってもいい宿だ。
「そうでしょー。ここはこの街の中でも評判の宿なのよ!」
「そう言って貰えるとありがたいね。ここはうちの親が経営している宿でね。それで我々のクランに使わせて貰っているんだ。もちろん他の客もいるから、占有している訳じゃないけどね」
なるほど。ここはノーラさんの実家って事になるのか。
「さぁ、こちらに。会議室という訳じゃないけど、ちょっとした部屋があるからそこを使おうか。今は皆出ているのかな。じゃあスサンナはお茶の用意を。ミネットは私と一緒に来るんだ」
「はい、ノーラ副長」
「分かりました」
今は俺達以外は誰もいないみたいだ。確か一○人のクランって言っていたけど、誰もいない。他に客もいないみたいだ。
ノーラさんに案内されたのは、確かに客室ではなかった。大きめのテーブルに椅子が複数だ。
「皆さん好きな位置へ」
俺達は好きな位置へ――といっても、片方に固まるような感じで座ると。
「さて、では最初から話を伺おうか」
「なるほど……。元パーティメンバーのミネットを探しに、この大陸まで来たと。見つけたはいいが、ミネットのパーティは解散済でうちで預かっているという話の所でスサンナが乱入したのか」
「はい、そうです」
俺達がこの大陸に来た理由、ミネットと話をしていた理由などを最初からノーラさんに説明しなおした。
しかし、聞き上手な上に話をまとめるのが上手だな、この人。頭脳派だ。
「スサンナにも非はあるが……。この国ではむやみに女性に声は掛けない方がいいよ。悪質な場合は、罪となる場合もあるからね。まぁスサンナが殴ったのはやりすぎだけれどね」
「うぅ……ごめんなさい」
俺はナンパじゃなかったけど、ナンパと思われたらアウトなのか。うーむ、この国はやっぱ慣れないか。
「いえ、そうと知らずにいたのは俺ですし。幸い、怪我も無かったですしね」
「そう言って貰えると助かるよ。スサンナも本気で殴った訳じゃないだろうし、この話はこれで終わりにしようか。それで、君達はどうするんだい?」
「どうする、とは?」
当初の目的は、イヴァン達との合流。そしてパーティをどうするかの相談だ。
しかし、当のイヴァン達は引退。残るミネットも他のパーティ――クランで活動しているので、俺としては残念だけど仕方ないかなって。
「そうですね……。ミネットにも会えたことですし、イヴァン達にも会いに行ってみようかと思います。まぁしばらくはこの国に滞在するかもしれませんけど」
俺は大変だけど、色々目を瞑れば、この国も楽しそうだし、しばらくは活動してみるのもいいかもしれない。
その後で、イヴァン達に会いに行ってみようかなと考えている。場所はミネットに聞けば分かるだろうし。
「ふむ。ミネットはどうする?」
「私は……。ヴィータネンの皆さんにはお世話になっています。それは大変感謝していますが……。出来ればアキヒトさん達と一緒に行きたいです」
「それは、兄達に会いに行きたいという意味かな? それともパーティに入りたいという意味かな?」
「……後者です」
「なるほどね。アキヒトさん達は現在五人だし、パーティとしても問題はない。こちらのクランとしても、私は問題とは思わないが……。団長がなんと言うか……」
話を聞く限り、このヴィータネンというクランは厳しくはなく、緩いクランのようだ。
クランの中には軍隊のように厳しい所もあるし、友達の集まりといった所もある。人数が多いだけで、パーティと同じような集まりなのだ。
そして、クランからの脱退も基本自由となる。もちろん、本人が望んで脱退する事もあれば、クランから追放という形になる場合もある。
ミネットが望むならば、クランから脱退して俺達のパーティに加入という事になる。
「ミネットは我々の中でも最年少でね。しかも可愛いとあって、クラン内の人気は高いんだよ。特にうちの団長が一番気に入っていてね……」
そのため、ミネットの脱退は難しいのではというのがノーラさんの見解だ。
「一応団長に話を通してみるよ。今日は……確かなんかのクエストに出かけているのかな。もう遅いし、今日は泊まっていくといい」
「えっと、この宿にですか?」
「あぁ。別に男性を泊めて駄目というのはないよ。皆はお客様だからね。この宿にいれば話もしやすいしね。どうかな?」
マリア達と相談した結果、この宿に泊まる事にした。値段もお手頃だし、何より皆ここが気にいったようだ。
「では、お願いします」
もちろん、俺は一番小さな一人部屋だ。といっても粗末なものではないし、十分な部屋と言える。
色々あって疲れたな。
従業員がアキヒト達が部屋へと案内した後、会議室では話が続いていた。
「ノーラ副長。本当にいいんですか?」
ミネットに男が訪ねて来たのは驚いた。
「なんだスサンナ。ミネットの事か?」
スサンナの気持ちも分かる。
クランをやっていれば、出会いと別れを経験するのは多い。他のパーティやクランに引き抜かれるというケースもある。
「はい……。確かにクランから脱退する人もこれまでいましたが、団長は……」
「私がどうかしたのかな、スサンナちゃん!」
「だ、団長?! いつの間に? あ、触っちゃダメですぅ」
スサンナの後ろにいきなり現れた女性。その手はスサンナの胸を揉んでいる。
「はぁ……団長。いきなり現れるのは止めて下さいといつも言っているじゃないですか」
「あっはっは! カワイイ子は私のためにあるのだ!」
「んもぅ……」
「それで、シグネ団長。いつ戻ったんですか」
「んー? さっきだよ。皆ももうすぐ戻ってくると思うけどね」
「そうですか。団長、相談したい事があります。少しいいですか?」
ミネットの事をシグネ団長に相談しておかないといけない。
可愛い子が好きで元気で自由奔放な女性。それがシグネであり、ヴィータネンの代表だ。
まるで可愛い子を侍らせるかのようにクランを作り、毎日可愛い子に囲まれて楽しく過ごしている女性。
特に最近ではミネットをお気に入りにしていて、セクハラちっくなコミュニケーションを行っている。
「うん、いいよ。……男絡み、かな?」
そして、変な所で勘がいい。
ご意見ご感想があれば嬉しいです。
が、豆腐メンタルなのでお手柔らかに……




