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03 報告とクラン

 冒険者という職業は、数ある職業の中でも特殊だ。

 高リスク高リターンの職業だ。

 クエストを受注し、それを達成することで得るお金で生活をする。

 低ランクのうちは、得る事のできるお金は小遣い程度で、まともな生活は厳しい。

 ランクが上がるにつれ、報酬も上がってくる。高ランクになれば、豪勢な暮らしも可能になる。

 また、貴族などの目に止まれば、専属契約など安定かつ高給な仕事にチェンジする事も可能になる。

 反面、実力が無ければ低ランクのままだし、魔物などに襲われ死ぬケースもある。

 そうなる前に冒険者という職業に見切りをつけて、農業や商人など他に転ずるケースも多い。それが冒険者の引退だ。

「引退……? イヴァンとローザが? まさか怪我とか?」

 冒険者の引退には力不足の場合もあるが、うちのアルルがそうだったように、怪我などのため冒険者としての活動を諦めるケースもある。

 イヴァン達はまだまだこれからだったはずだし、力不足という事でもなかったはずだ。

 それなのに、何故?

「いえ、怪我とかではないです。お二人ともとっても元気です」

「じゃあ何で?」

 俺もマリアも訳が分からないという顔をしているだろう。いや、マリアはなんか察しが付いている?

「実は……アキヒトさんたちと別れた後、兄さんとローザさんは、仲が良くなったんですが……。その結果、ローザさんに赤ちゃんが出来たんです」

「……は?」

「あら、まさかそこまでとはワタシも思ってなかったわ」

 イヴァンとローザが? 仲が良いって事は、所謂男女のか? しかも赤ちゃんだと……?

「そ、それは……おめでとう?」

 つまり……。ヤリやがったな、イヴァンめ。

 確かに、あの二人はお似合いだろう。同郷で同じ冒険者。一緒のパーティだったときも雰囲気は良かった。

 しかし、付き合うならまだしも、赤ちゃんだぞ……。展開早すぎるだろ。

「という訳で、二人は結婚して、 ローザさん――義姉さんと兄さんは故郷に戻って、そこで暮らしているです」

「だから冒険者を引退したのか……」

 冒険者は危険が伴う職業だ。冒険者同士での恋愛は珍しくないが、パートナーが傷付く可能性がある冒険者のままでは、安心して生活出来ない。

 そのため、結婚を機に引退するケースも多い。

 増してや妊娠ともなれば、本人は冒険者を続ける事は無理だろう。

 残念ではあるけど、めでたい事なのだ。


「それじゃあ、ミネットはなんでここにいるんだ? 一緒に故郷に戻らなかったのか?」

 イヴァンとローザについては分かった。結婚、そして子供が出来たとなれば冒険者のままではきついだろう。

 ……いつか会いに行くのもいいかもしれないな。

 だけど、じゃあなんでミネットは一人でここにいるのか? ということになる。

 他の冒険者が引退となると、残された冒険者はどうするか。他のパーティを探すか、ソロで活動するか、もしくは引退するか、だ。

 ここにいるという事は、冒険者を続けているという事になるはず。冒険者ギルドに来ていたし、続けているのだろう。

「そうですね。戻りたいとも思ったのですけど、兄さんと義姉さん達の三人で幸せにと思いましたですから……。それに、まだ私は魔導士として頑張れると思ったからです」

「どこかのパーティに入っているのかしら?」

 女の子が、それも魔導士がソロでやっていけるほど、冒険者業は甘くはない。

 採取や弱い魔物討伐なら可能だろうけど、それでは満足に暮らせるだけの報酬を得る事は出来ないだろう。

 ミネットは他のパーティに入っているのだろうと俺も思っていた。イヴァン達がミネットをソロで活動させるはずはないと思っての考えだ。

「いえ、私は……」

 マリアの問いに対する、ミネットの解答は最後まで聞こえなかった。

「ちょっとアンタ! ミネットに何しようとしてるのよ!!」

 いきなり女の子の声を共に、俺は吹き飛ばれたのだから。


「本ッ当にごめんなさい!」

 俺は今、女の子に謝られている。謝っている女の子は、さっき俺を吹き飛ばした子だ。

 幸い、俺に大きな怪我はなく、周りにも被害はない。

 痛いながらも何でこんな事をしたのか事情を聞いてみると、どうも彼女の早とちりだったようだ。

「あぁ、大丈夫だよ……」

「彼女はスサンナ。クラン、ヴィータネンに所属する冒険者です」

「どうも……。スサンナです」

「クラン?」

 聞きなれない言葉だ。

「はい、私も同じクランに属しているです」

「クランって何だ?」

「あぁ、お兄さんこの辺りの人じゃないのね。ならクランの事は知らなくても無理じゃないわね」

 クランについて、そしてミネットとスサンナの事について話を聞くことが出来た。

 クランというのはパーティとも違う集合の事を言う。

 パーティは冒険者ギルドで正式に扱われている制度であり、冒険者ギルドはソロやパーティで冒険者を管理している。

 対してクランというのはそのどちらでもない集まりだ。冒険者ギルドが管理する正式な集まりではなく、非公式な集まりだ。

 パーティは通常上限が六人だが、クランは非公式なため上限は無い。

 仲が良かったり、仕事を行う上で一緒にいたいと思う人達が集まり、クランを形成している。

 他の国にはなくこの国独自の制度だが、非公式ながら冒険者ギルドにその存在は知られており、実施パーティの延長という扱いだ。

 クエストの内容に応じて、流動的に動的にクラン内の人員でパーティもどきを作り挑むというのが通例だ。

 クラン、ヴィータネンは一○人の中規模クラン。もちろん全員女の子で構成されている。

 その中でもミネットは一番の新入りで、一番の年下で、クランのマスコットになっているらしい。

 そんなミネットが男と一緒にいて、ナンパ?! 私達のミネットになんてことを! と思ったスサンナがいきなり俺を吹き飛ばしたという訳だ。

「ミネットは一番年下で、みんなの妹みたいな感じなのよね」

 確かにミネットは妹キャラだ。というか、実際にイヴァンの妹だしな。

 しかしクランか。そういうのもあるんだな。ソロでもパーティでもない集まり……。

 それが可能なのもこの国ならではだろう。女性の冒険者が多いというか、ほぼ女性しかいないから、パーティという枠組みでは収まらない事のが多いのだろう。

「なるほどなぁ。じゃあミネットはパーティって訳じゃなく、そのクランにいるのか」

「はい、そうです」

 パーティではないけどソロじゃないなら安心かな。

「うーん。イヴァン達もいないし、ミネットもそのクランにいるなら、こりゃ同じパーティは無理か」

 元々はイヴァン達と一緒のパーティになるつもりでここまで来たのだ。

 それが、イヴァンとローザは冒険者を引退、ミネットは他のパーティ――クランに属しているという。

 なら、同じパーティになるのは無理だろう。今からイヴァン達に戻ってきて貰うのは無理だし、ミネットも今ではクランのマスコットだ。

「同じパーティ? 貴方はミネットと同じパーティになりたいの?」

「元々、ミネットの兄達のパーティと一緒になろうって話だったんだよ。色々あって別れていたけどな」

「そうです。それもあって私は冒険者を続けているんです。兄さんも義姉さんも、アキヒトさん達の事を心配していました……。後、ごめん、と」

「そうか……。ありがとうな。イヴァン達にもいつか会いに行かないとな」

「うーん……。事情は分からないけど、ミネットはどうしたいの? 昔一緒のパーティだったなら、元に戻るっていうのも冒険者としてはありだと思うけど」

 冒険者は自由だ。何者にも縛られず、誰にも属さず。誰かに仕える事もあるけど、それはもう冒険者ではない。傭兵や、もしくはその部下扱いという事になる。

「私は……」

「おや? そこにいるのはミネットにスサンナじゃないか。それにこちらの男性はどちらさんかな?」

「ノ、ノーラ副長!」

 また新たな女性の登場である。


ご意見ご感想があれば嬉しいです。

が、豆腐メンタルなのでお手柔らかに……


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