18 トーダの日々と出航
「風が……気持ちいいな」
俺達は今、船に乗っている。
トーダから見て東側の大陸、ウィックに向かう船だ。
ウィック大陸の王都ドックトンへと――イヴァン達に合流するためだ。
あの凄まじい龍との対決の後、龍人のなんやかんやを含めて、船までの間、トーダで忙しい日々を過ごした。
「そこでじゃ……。是非アキヒト殿の力が欲しいのじゃ。じゃから……アキヒト殿の子種をくれんかの?」
子種っていうと、あれか?
「それって、子種をはいどうぞって欲しいって事……か?」
実験とかで、そういう場面もある、はずだよな?
「いやいや、わらわが欲しいのは、赤ん坊じゃよ」
「赤ん坊……って、龍人なのに出来るのか?」
今は人形態だけど、実際は龍だろ? 出来るのか?
「もちろん出来るぞえ。そのための人形態なのじゃからな」
って事はつまり……?
「じゃから、わらわと交尾して、子作りをして欲しいのじゃ」
交尾って言い方はあれだけど、ようは性行為って事ですよね。
グラビアアイドルみたいに可愛いお姉さんにそんな事言われちゃうと、ドキドキしちゃうぞ。
だってそういう経験ないし、日本にいた頃は女の子に縁は無かったし。
「ダ、ダメよ!」
「だめ、です!」
「なんじゃ、マリア殿にアルル殿。駄目なのかえ?」
む? 俺は別に構わないんですけど、二人は嫌なのか?
「なんでアキと……。じゃなくて! パーティに加わるなら、そういうのはきちんとしないとダメなのよ!」
「そ、そうです! 恋愛絡みでパーティが壊れる事もあるって、聞いたこと、あります!」
「むぅ。別にわらわはアキヒト殿が好きという訳ではないのじゃよ? 単に強い雄の遺伝子が欲しいだけなのじゃが……」
「それでもダメよ!」
「わかった、わかったのじゃ。……カタリーナ殿は別に構わぬのか?」
「私は気にしないわね。でも、マリアお姉様が駄目って言うなら駄目」
ふーむ……。
男女でパーティを組むと、恋愛云々の問題が発生するのか……。
そう考えると、今の俺のパーティって、俺以外全員女性なんだよな。そういう意味では、俺のパーティはやばいって事になるのか?
……早くイヴァン達と合流したい。
「ふむ。ならばマリア殿とアルル殿の後という事じゃな。妾という事になるのかえ? その時にはよろしく頼むぞ、アキヒト殿」
「なっ! ち、ちがっ」
「アルルと……アキヒト様……?」
「ひとまずその話は終わりにしようか。俺達はパーティメンバーって事で、な?」
マリアはなんか慌てているし、アルルはぼ~っとしちゃってるし、カタリーナは我関せずだ。
女の子はよく分からないな。
「冒険者ギルドには話を付けておいたので、龍人様が登録に行かれても大丈夫です」
「ありがとうございます。ではこれから行ってみますね」
「それが良いでしょう。あぁ、それと。ロベルタが何か話があるそうなので、時間がある時に来てください」
龍人が冒険者になりたいと言うので、国が冒険者ギルドに話を付けてくれた。
いきなり行って、龍? とかになると混乱してしまうためだ。
その都合が付いたとのことなので、宰相のステフェンさんが連絡してくれたのだ。
「ロベルタさんが、ですか? なんでしょう」
「詳しくは私にも。恐らく、召喚関連でしょう」
伝えましたからね、お願いします。とステフェンさんは城へと戻っていった。宰相だし、忙しい身なんだろうな。
……王様は政治向きって感じじゃなさそうだしなぁ。良くも悪くも普通のおっさんだったし。
「それじゃ行くとするか」
「うむ。そこでパーティ登録もするのかえ?」
「あぁ、そうだよ」
龍人の加入は、みんな特に問題ないみたいだった。
俺としては、五人になってしまうけど、最悪俺とマリアとアルルのトリオと、カタリーナと龍人のペアで分かれても、戦力的には向こうのが上だろう。
それもありかな。
龍人は、別に敬語とかは必要ないという事だ。同じパーティメンバーだし、見た目は普通の人間だしで、敬語である方が変という事だった。
それでもアルルが敬語を使っているけど、アルルも曲げなかったので、最終的には龍人が折れた。
「すみません、この人の新規登録と、後俺達のパ―ティ加入をお願いします」
冒険者ギルドのカウンターで要件を言う。
そういえば龍人が行くとは言ってあるらしいけど、誰が龍人かっていうのは分かるのだろうか?
「はい……えっと、こちらのパーティですね、少々お待ちください」
俺達のパーティへの加入もさせるため、俺の冒険証も提示したのだが、パーティ名を見た途端に受付の人が奥へと引っ込んでいった。
……俺達のパーティ名で知らせていたのか?
しばらくすると、さっきの受け人の人ではない人が出てきた。
「お待たせ致しました。本来ならば応接室にご案内したい所ですが、このままで失礼致します」
龍人は、あまり大事にして欲しくはないという要望をしていたので、そのせいだろう。
「うむ。ではわらわの登録を頼むのじゃ」
登録は特に問題もなく終わった。龍でもきちんと登録出来たみたいな。
まぁ能力値とかは新人のそれではないみたいだったけど。当人は別に能力値とか気にしてないみたいだしなぁ。
「それと、皆様のランクですが、今回の護衛とエルフの里での戦闘を鑑みて、皆さまをランクCとさせて頂きます」
「昇級ですか? クエストとかしてないんですけど」
「ランクCに求められるのは力もですが、品格も求められます。今回の王室からの護衛依頼の成功で、それを満たしているということです。龍人様もいらっしゃることですしね」
そう。登録したばかりの龍人のランクもCになっていた。
「はい。こちらでパーティ登録は完了です」
「ありがとうございます。しかし、これで五人か」
「おぉ! ありがとうの! ふむ。パーティといっても、何も変わらぬのじゃな」
「いや、一応パーティメンバーとか参照出来るはずだぞ。えっと……ヴァルマ?」
「おぉ、そうじゃな。それがわらわの名前なのじゃ」
ヴァルマは龍人の名前だった。今まで名前とか気にしてなかったというか、名前あったんだね。今まで龍人って呼んでいたけど、悪い事をしていたのかもしれないな。
「それじゃ……ヴァルマさん? でいいのか?」
「ヴァルマでよいぞ。あぁ、アルルも呼び捨てで……いや、好きに呼んでよいわ」
それにしてもランクCか……。確か、サブナックの風の人達もランクCだったな。ランク上では並んだ事になるんだろうけど、今の俺達はまだまだ経験が足りないと思う。
戦力だけは過剰と言えるだろうけど。なんせ龍人がいるんだし。
「それじゃ……なんかクエストでも受けるか?」
「討伐系がいいと思うわよ、アキ。ヴァルマの戦いも見てみたいし」
「だな。それじゃ適当に討伐系を……。ランクCのは怖いからランクD向けのだな」
未だに人形態の戦闘能力を知らない俺達だったので、パーティ加入記念も兼ねてヴァルマの戦いを確認した。
昇級したとはいえ、いきなりランクC向けのは怖い。そのためランクD向けの魔物討伐をしたのだが……。
「なんというか、すさまじいな」
武器は不要と言っていたので、武器は無い。使うなら鈍器系がいいと言っていたので、街に戻ったら用意してみようと思っていたのだけど。
「ふむ……。やはりあまり慣れぬな」
と言いつつも、口からブレス――龍の時よりも小さいとは言え、炎と氷のブレスを使い分け、近づいてくる魔物を蹴る殴るで倒し、何物も近づけさせない強さだった。
言うなれば、炎と氷で中遠距離を、近距離は武器でというオールレンジな上に、ランクD向けの魔物とは言え、どの魔物も一発で倒しており威力も高い。
「……これ、俺達いらないんじゃね?」
強い戦士に強い魔導士を併せ持った強さ、それがヴァルマだろう。
まぁ弱いよりは強い方が冒険者としては有難いけど、ヴァルマならすぐにランクも上がっちゃうんだろうな……。
船が出るまでの数日間、俺達はクエストを受けたり街でゆっくりしたりしていた。
途中、ロベルタさんに呼ばれていたのを思い出し、城に行ったのだけど。
「召喚関係の話っぽいし、みんなで行く必要はないと思うんだけど?」
「いいじゃない、別に。それにワタシ達がいないと、アキとロベルタさんの二人になっちゃうじゃないかしら?」
「いや……。護衛とか部下くらいはいるだろ」
何故かみんな付いて来たのだ。
「お待たせしました……あら、みなさんもご一緒ですか。丁度良かったです」
さほど待たない内に、ロベルタさんが来た。みんなも一緒で丁度いいとは?
「こんにちはです、ロベルタさん。聞きましたよ、隊長に昇格したって。おめでとうございます」
「うふふ。どうもありがとう。とは言えないのよね。前隊長はあんな事があったから降格だから、ただ単に上が空いただけなのよね」
ロベルタさんは召喚を担う四神隊の副隊長だったが、龍との戦いのときに隊長がやらかしたため、降格。なので、副隊長だったロベルタさんが隊長に昇格したらしい。
「そういうものなんですか……。それで、用っていうのは?」
「言ったでしょ。色々聞きたい事もあるって。龍との戦いのときの、貴方の召喚よ」
あぁ~。そういえば盾とか槍とか出したときに、なんかそんな感じの事を言ってた気がするなぁ……。
「話したくない事もあるかもしれないけれど、出来れば協力してくれると助かるわね。召喚の国としても、貴方の召喚は特殊だから」
冒険者にとって、自らの力というのは生命線だ。何が出来る出来ないで、命に関わる事もある。
なので内緒にしておきたい事もあるけど、俺としては、マリアとアルルの身体の事を内緒にしておけばいいかなと思っている。もちろん、武器を装着出来ることは誤魔化すしかない。
「まずなんだけど……あの盾は何?」
「あれは俺が創った盾なんですよ」
「盾が変形してマリアさんが装備したように見えたのは?」
「盾の機能の一つで、武具を装備出来ないかなって」
「あの槍もそうなのね……。それにしても、簡単に創るっていうけど、本当は難しいものなんだけど」
「魔力が高いらしいので……」
その後も色々と質問をされたけど、ロベルタさんが気になっていたのは、どうして簡単に強い武具が創造出来るのかという事だったみたいだ。
それらをマリアやアルルが装着するのは、発想が面白いから四神隊でも試してみるというくらいだった。
「ただのゴーレムでも、でかい石の盾でも持たせれば、かなり強固になるわね……。その分、維持をする魔力は増えるのだけど。でも効果はありそうね」
俺への質問もだけど、盾や槍を装着するコツや感想などを、マリアとアルルに聞いたり、その効果をヴァルマに聞いたりと、ロベルタさんの質疑は長い時間を要した。
……カタリーナも付いては来たけど、召喚士ではない彼女には特に興味はなかったようだ。
代わりになのか、カタリーナはどうすれば召喚士になれるのかといって質問を、ロベルタさんに聞いていた。
……召喚士に成りたいのか? 俺が言うのもなんだけど、不遇だぞ? マリア目当てなんだろうけど。
そんなこんなでトーダでの少ない日々を忙しく過ごしたのだ。
トーダでは忙しかったけど、船に乗ってしまえば暇のそれでしかない。
急ぐ事も出来ないし、予定通りの日数が経つまでは陸はお預けだ。
そうそう、冒険者ギルドで聞くことが出来たけど、俺達に掛かっていた罰則――イヴァン達との接触禁止は解かれたらしい。
実力不足という事でもないし、もう他の冒険者に迷惑も掛ける心配もない。というか、グーベラッハでオークジェネラル討伐とお姫様救出という貢献に加え、こんかいの護衛と龍対峙の貢献で、縛っておく必要がないという判断らしい。
なので、大手を振るってイヴァン達に会いに行けるという訳だ。
待ち遠しいな、ウィック大陸!
ご意見ご感想があれば嬉しいです。
が、豆腐メンタルなのでお手柔らかに……




