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召喚獣による召喚で異世界で召喚士になりました  作者: bamleace
三章 ~エルフの里と封印竜~
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15 激走と爆槍

 マリアのお陰でなんとかブレスを防いだ俺達。

 だけど、龍は依然として健在であり、事態は好転していない。

 これまで攻撃を行ってきた兵士達の消耗も激しく、まともに戦える人材は俺達――俺を除く俺達くらいだろう。

 そうは言っても、カタリーナの弓や魔法は効果がない。

 アルルの攻撃も効果がない。

 マリアも、イージスの盾を装備している状態とはいえ、あの龍に有効打を与えるほどの攻撃力を有しているとは考えにくい。

 ……ブレスを防いだ事は驚きだが、さすがに好都合は続かないだろう。

 頼みの綱の槍は……そういえばどこにいったんだろうか。

 俺が創った槍だから場所くらいは……。うん、龍の辺りにあるのは確かだな。外れたという訳ではないのか?

 もっと注意深く……あった! 龍の尻尾辺りか。

 刺さってはいるけど、でも頭を狙ったはずなんだけど、なんで尻尾に刺さっているんだ?

 ……尻尾を盾にした? そんな器用な事が出来るんだろうか。しかし、実際に龍は無事だし、尻尾には槍が刺さっているし。

 ともあれ、龍にダメージを負わせることが出来る事は分かった。ならば、あの槍を再度使えば……。

 って、槍の所に誰かいるな。あれって……アルルか? なんだってあんな所に。

 もしかして、槍を抜こうとしている?

 そんな事しなくても、俺の魔力を使えば操作出来るんだけど……。ひとまず引き抜くか。

 あ……れ……。なんかクラクラする……。

 思ったよりも魔力を消耗している、のか? そもそも体力気力もやばい気がするけど。でもここで魔力を切らしたら、槍も盾も消えてしまう。その前に……。

 ……アルルが槍を抜いてくれるなら、その方が魔力の節約になるな。こっちに持ってきてくれれば尚更だし。

 でも、龍に肉薄していて危ないと思うし、やはりここはアルルは下がらせて俺が頑張るしかないだろう。

 あ……やばい。龍がアルルに気付いたみたいだ。尻尾に掴まっているアルルを振り落とそうとしている?

 でもアルルはなんとか耐えているみたいだ。槍に掴まっているっぽいけど、それでも抜けないのな、槍。

 やはり危険だ。アルル、龍が本気でアルルを狙う前に下がるんだ。

 ……早く。もういいから。じゃないと……。

 それまで尻尾を振り回したりしていた龍が、顔をアルルに向けた。こちらからすれば、格好の隙だ。

 それでも、俺達は動く事は出来なかった。顔を向けたと言う事は、まさか……。

 俺の心配は杞憂だった。顔という事は口も向いている。アルル一人にブレスを撃つのかと思っていたけど、そうではないみたいだ。

 だけど、龍に標的にされていることに変わりはない。そう、龍はブレスを撃つつもりだったんじゃない。

 その大きな腕を振り上げ、そしてアルル目掛けて振り下ろしたのだ。


 誰も動けなかった。龍の攻撃ならば、イージスの盾を装備しているマリアなら防ぐ事は可能だろう。

 でも、マリアは俺のそばから動かなかった。動けなかった。

 龍の腕が振り下ろされ、アルルが引き裂かれそうになるその瞬間まで、誰も動けず、誰も何も出来なかった。

 誰かの悲鳴や自分じゃなくて良かったという安堵の声、そしてこれまで重症や魔力切れくらいだった被害状況での、初の犠牲者。

 最悪の状況である。

 龍の腕が振り下ろされた先、アルルが立っていた箇所には、龍の尻尾が悠々と揺れていた。

 その凄まじい力と鋭い爪で、アルルはおろか槍までも跡形もなく……、ん? アルルも槍も跡形もない?

 おかしいな……、槍の魔力反応はまだある。アルルは槍をしっかりと掴んでいたはずだ。その槍が無事な訳なんだが、じゃあアルルも無事なのか?

 一体どこだ!

 槍の反応を頼りにアルルを探してみると、龍から離れた位置――クレーターとなっているこの穴の壁にアルルらしき人物がいた。

 アルルっぽいけど、見た目が変わっている。槍の反応はそのアルルっぽい人物にある。

 あの格好はなんだ?

 全身は流線型のフォルムになっている。兜はまるで角のような形。鎧は凹凸が少なく、それでいてしっかりと鎧になっている。

 武器も異質だ。手甲のようにはなってはいるが、その先には刃――剣が付いている。あれはジャマダハルという武器だったか。

 脚も特徴的だ。まるでSFに出てくるジェットブーツのような造りになっている。

 そうして改めて見ると、あれはアルルであり、そして俺の創ったグングニルだ。




「アキヒト様を守る、力が欲しいの!」

 マリア様に憧れていました。

 強くて可憐で何でも出来て、そしてアキヒト様の(しもべ)

 対してアルルは、弱くて胸も小さくて、獣族としての耳と鼻くらいしか役に立たないアキヒト様の奴隷。

 せめて獣族としてもっと活躍したい。もっと力と速さが欲しい。そうなれば……。

 この龍を倒せるくらいの力があれば、そうすればきっとアルルもアキヒト様の(しもべ)として活躍出来る!

 だから、力を。龍を傷つけられるこの槍の力を、アルルに下さい! アキヒト様のために!

 そう願いながら槍を引き抜こうとしていましたけど、やっぱり、アルルはダメダメだったみたいです。

 気付いた時にはもう遅かったです。龍の爪が、アルルを引き裂くのがもう分かります……。

 それでも、この槍だけは、この槍だけはアキヒト様の所に……。

 アキヒト様のために!

 そう願った時でした。今まで、どうやっても抜けなかった槍が抜けたのです。

 いえ、そればかりか大きく光って……。

 その光に思わず眼を瞑ってしまいました。

 次に眼を開けた時には、龍は遠くに移動していました。

 ……いえ、アルルが遠くに移動したようです。さっきまでの龍の尻尾ではなく、壁に()()()いるようです。

 それに、なんだか力が湧いてきます。さっきまで、諦めていたはずなのに、あの龍だって倒せそうな感じがします。

 ……ふぇ?! あれ、なんだかアルルの格好、変わってませんか?

 アキヒト様に買って頂いた手甲もなんだか変わってますし……。なにより先に剣が付いてます。

 それに、防具もなんだか綺麗で格好良くなってます。……なんかごついですけど、動きにくくはないみたいです。

 この力はきっとアキヒト様の力です。もしかして、アルルもマリア様と同じように変身したのでしょうか。

 あの槍が光って、そして……。

 良く分かりませんけど、分かりました。

 アルルのご主人様を虐める悪い龍を、懲らしめちゃいましょう!


 まずは壁を蹴って龍に近づき……わっとっと!

 軽く蹴っただけなのに、物凄い速さです。龍があっという間に近くに来てしまいました。

 急停止です! ……さっきは気づきませんでしたけど、この脚もなんか凄いです。物凄い速さだったはずなのに、一気に止止まれました。

 うーん、少し慣れました。後は戦いながら慣れます。

 地面を思いっきり蹴って龍に突撃、手甲の刃の部分で切り付けて、そのまま龍から離れます。

 ヒットアンドウェイです。この武器と防具、確かに強いですけど、多分マリア様のよりは脆いでしょう。攻撃を受けてしまえばそれでおしまいです。

 なので、アルルは跳び続けます。右から左へ。下から上へと縦横無尽に跳び続けます。走り続けます。

 アキヒト様も、他の人も龍から遠くにいるのも幸いです。ほかの人を気にすることなく、跳べます。

 地面を、壁を思いっきり蹴って斬りつけてまた地面や壁に着地。その繰り返しです。

 何回繰り返したでしょうか。

 何回も斬りつけたとはいえ、さすがは龍です。血が出てはいますが、その傷は深くないでしょう。

 最初の方に斬った箇所は既に血が止まっています。

 ……この武具、魔力を使うのでしょうか。獣族であるアルルは魔力が少ないです。

 なので、普段は魔力を使う事はしませんが、以前に少し使ったときと同じような感覚、疲れを感じます。

 この形態は長く持たない。一気に決めないと、ですね。

 龍から大きく離れます。

 これまでよりも大きく、強く地面を蹴ります。

 そして、まるで最初から知っていたかのように、手を前に突き出し手甲を合わせます。両方の刃が合わさるように。まるで一つの刃になるように。

 地面と平行に、まるで飛んでいるかのように。自分が真っすぐになるように。前に出した刃が槍の穂先――自分自身が槍となって龍の頭目がけて跳びます。

 ……龍と目が合いました。その大きなお口も、これでおしまいです!

「行きます……。爆ぜろ!!」

 脚と靴から、残り少ない魔力を噴出させてさらに加速します。

 龍の大きなお口……ブレスが来ます。

 今更方向転換なんて出来ません。アルルに出来るのは、ただ激走して突っ込むだけ。

 槍はなんでも貫きます。龍の硬い鱗も。

「龍のブレスさえも……。切り進みます!!」




 目の前の光景が信じられない。

 あの人物はやはりアルルだし、そして何故かグングニルを装備……変身しているようだ。

 だが何故だ?

 確かに、イージスの盾と同じように、グングニルもいずれは装着できるようにイメージして創ったけれど、それでも何故アルルが装着できているんだ?

 俺の創った武器を扱えるのは、俺の召喚獣だけだ。今のところはマリアだけ。

 アルルは俺の召喚獣ではないし、何より普通の獣族のはずだ。

 なのになんでだ。あり得ない……。いや、だけど現実にそれは起こっている。

 ……それはいい。気になるが置いておこう。後で考えるとして……。

 今大事なのは、そのアルルが龍と戦っているということだ。

 物凄い速さ……正確には見えないけど、アルルが立っていて、それが消えて線が走って、またアルルが現れると龍に傷が出来ているのだ。

 速すぎて見えないのだ。

 壁を、地面を蹴って、四方八方へと線が動く。

 まるで、小さな空間にスーパーボールを思いっきり叩き付けたかのように線が走っている。

 グングニルは、なんでも貫く大きな槍。なんでも貫き通す大きな槍。

 あの速さはその特性なんだろうけど、それにしても速い。

 これはこのまま龍を消耗させることが出来るのではないだろうか。

 もちろん、アルルもずっと動ける訳ではないだろうけど、あの龍に大分傷を負わせている。

 封印のチャンスも近いはずだ。

 ……アルルが止まった? 気のせいか、少し疲れているみたいだ。あれは……魔力が減っている? あの形態は魔力を消費するのか。

 力と魔力を溜めているな。大技か?

 と、アルルが消え……、龍がアルルのいた方向を向いている? あの感じ……。ブレスだ! 危ないアルル!


 龍のブレスが空中――アルルに向かって放たれた。

 今度こそ……、いや、槍はまだ生きている。

 どこだ、アルルはどこだ? 恐らく槍のそばに……。いた!

 さっきの場所から大分進んだ所、龍を越えた箇所に、アルルと槍は倒れていた。

 ……槍は解除されたのか。それにしてもブレスを受けて無事だったとかどういう事なんだ。

「マリア、ここはいいからアルルの保護を」

「でも……分かったわ」

「アキヒトさん。貴方のお仲間は随分と不思議ですね……。生き残れたらいろいろお話を伺いたいのですけど。それよりも、アキヒトさんのお陰で、龍に大分ダメージを負わすことが出来ました」

 そうだ。アルルのお陰で、龍に傷を幾つか負わすことが出来ている。もうこれ以上の攻撃は無理だろう。

 封印するならば、今しかない。

「はい、もう俺の魔力も限界です。ロベルタさん、お願いできますか?」

「分かりました……。それでは封印を試してみます」

 これが最初で最後のチャンスだろう。これで封印出来なければ……足掻くしかないか。

 俺を含め、皆が決心していたはずだ。重い空気。緊張した空気。

 そんな時だ。誰の声か分からない、大きな声が前方から聞こえた。

「ふわぁ……。目が覚めた目が覚めた……。おや? お主らは一体なんじゃ?」


ご意見ご感想があれば嬉しいです。

が、豆腐メンタルなのでお手柔らかに……


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