13 槍と勝利?
マリアにアルル、それにカタリーナとトーダの兵士達。
皆が皆、奮闘している。
それでも成果は見えない。
龍は疲弊しているように見えない。
最初に比べれば、ブレスの間隔も長くなってきたように思えるけど、実際にどうかは分からない。
希望的観測が入っているのは当たり前の事だろう。
ロベルタさんの封印は、試せて二回。その機を伺わないといけないけど、このままで封印を試す前にこちらが全滅してしまうかもしれない。
試して貰うか……?
しかし俺に決定権は無い。俺にあるのは、ブレスから皆を守る仕事だけだ。
そのブレスは間隔は開いて来たけど、一発一発の威力は上がっているように思える。……単に俺が疲弊しているだけかもしれないけど、実際にきつくはなってきている。
このまま持ちこたえた所で、こちらが先に参ってしまうくらいは俺にだって分かる。
……このままここでやられる訳にはいかない。
「ロベルタさん。封印を一回試してみませんか?」
隣で待機しているロベルタさんに提案をしてみる。
二回出来るのならば、ここで龍が実は弱っているいるかどうかに賭けてみてもいいのではないか。弱っていたら、そのまま封印出来てめでたしだ。
逆に封印出来なければ、ロベルタさんは消耗し、そして龍に狙われてしまう事になる。
まさに賭けだ。
「……部下達も消耗してきていますね。これ以上となると……。ですが、仮に失敗した場合、アキヒトさんの消耗も激しくなりますが?」
封印を試すロベルタさんはもちろん、失敗した後、龍の攻撃は一部に集中するだろう。そうなると、俺の負担も増えてしまう事になる。
その状況で、二回目の封印にチャレンジできるのかと言うと……、まず無理だろう。
「そうですね……。封印はまだ難しいのでしょうか?」
「……分かりません。なにしろ、龍相手に封印するのは初めての事なので。他の魔物の場合は、もっと弱らせてから行っていましたが、今の龍の様子からすると、恐らくまだ無理でしょう」
もっと弱らせないといけないのか……。
今のままで戦っていても、大したダメージを与える事も出来ず、ブレスを撃たせて疲弊させるのを待つだけだ。なら他のメンバーの攻撃は止めさせた方がいいのか?
……さすがに、ダメージゼロという訳でもないだろう。と、思いたい。効率を考えると、止めさせた方がいいのだろうけど……。
俺も攻勢に出るべきか。
ブレスのみで削るのではなく、俺も攻撃を……、召喚獣で攻撃を行えば、少しはダメージを与えられるはずだ。
「なるほど……。このままでは無理、でしょうね。いっそ私も攻撃に出た方がいいでしょうか」
「何か……攻撃系の召喚獣もお持ちなんでしょうか? 失礼ですが、隊長の召喚獣クラスでないと厳しいかと思います」
隊長の召喚獣。最初にいた、あの大きい奴だな。確かに、あのクラスでないと、龍相手に有効ではないだろう。今闘っている兵士達の召喚獣では力不足ということだ。
俺の手持ちの召喚獣だと、一番攻撃力があるのはベアルカスだろうか。それでも龍に通じるとは思えないけど、やってみるしかない。
「さすがにあれクラスはいないですが、それでも攻撃が得意なのはいます。あぁ、もちろんブレスからは守りますので」
「……分かりました。魔力切れには注意して下さい」
ロベルタさんが一瞬考え、そして許可を出してくれた。
ずっと守ってきたが、ここからは攻撃もさせてもらおう。ずっとまもってばかりで疲れていたのだ。
それを言うなら、部下や俺達がずっと戦っているのに、ずっと待機をしているロベルタさんが一番辛いのかもしれないけどね。
「よし、行くか。ベアルカス!!」
俺の掛け声と共に現れる可愛い熊。外見から侮ってはいけない。ベラルカスは立派な召喚獣であり、その拳は重い。
「マリア。ベアルカスを召喚した。協力して攻撃してくれ」
「アキ? 攻撃って……。ワタシ達の攻撃は効いているように見えないけど……。大丈夫なの?」
「もっと龍にダメージを与えないと封印は出来ないそうだ。魔力もきついけど、このままじゃどっちにしろ勝てないだろ」
これで少しでも好転してくれればいいけど……。
既に、魔力が切れたのか、兵士達の召喚獣の数も少ない。
龍の動きは少しは悪くなってきているように見えるが、目立った傷は見えない。剣も弓も魔法でも有効な傷を付ける事が出来ないからだ。
ならば殴打すればと思うが、最初のでかい――隊長の召喚獣でもそこまでのダメージがあるようには見えなかった。
そして、新たにベアルカスを動員したが、その攻撃は重く鋭い。だが、それでも龍に大きなダメージがあるようには見えない。
多少は効いているように見えるので、やはり龍も少しは疲れているし、魔力も消耗はしているんだろう。
しかし、決定的なダメージはない。
「くそ……」
「……アキヒトさんの召喚獣が弱い訳ではありません。むしろ強いでしょう。しかし、相手が悪かった。それだけです」
どうする……。ベアルカスを召喚したはいいけど、効果は薄い。ロベルタさんも言うように、ベアルカスが悪い訳ではない。
兵士達の召喚獣、それにマリアやアルルの武器でも歯が立たないのだ。魔法も駄目だ。
硬い鱗で覆われていて、そこらの武器では通じない。殴っても硬くて通じない。魔法も防がれて通じない。
今の俺の手持ちはどうか?
ベアルカスの拳はまだ弱い。Jrの盾は武器ではないが、それで殴れば……。いや、まだ弱い。
ならばマリアを守護聖母マリアにして見るか? 今よりは攻撃力は上がるだろうが、それでもあれは防御重視だ。攻撃特化ではないから、まだ弱い。
……今の俺の魔力とタイミング的に、チャンスは一度。失敗すれば、ブレスの餌食になるだろう。
どうする……。
「アキ、何か策があるのね? あの龍をどうにかする策が」
揺らぐ心に、マリアが話しかけてくる。
「あぁ……。だけど成功する保障はない。失敗すれば、ここで全滅さ」
「……大丈夫よ。だってアキだもの。それに何が起こってもワタシがアキだけは守ってみせるわ」
「マリア……。ありがとう」
心は決まった。元はと言えば、この世界に来てしまった時点で、俺の命はあってないような物だ。もちろん、死にたくはないけどね。
「ロベルタさん。次の氷のブレスの後に、一気に攻撃に出ます。それが有効だった場合は、お願いします。失敗したら……その、すみません」
「……分かりました。元々こちらからお願いしている事です。どちらにしろ、このままではどうにもならないでしょう。少しでも抗えられるのであれば」
よし、チャンスは次の氷のブレスの後。氷の後は、つぎの炎のブレスまで時間が掛かる。つまり、しばらくは盾に集中せずに攻撃出来る訳だ。
そのチャンスはすぐにやってきた。
「氷のブレス……。くそ、やっぱり威力が上がってないか?」
間隔は長くなっているが、威力は上がっているように……。いや、範囲を狭めて、威力重視にしているのか?
やはり、賢い龍だ。だけど、これで終わりだ。どっちがどう終わるかは分からないけどな!
よし、防いだ! これでしばらくはブレスは来ない。
「テレパス!!」
俺の頭を読み、絵を描くだけのテレパスを召喚する。
……武器だ。武器がいる。あいつを倒すことが出来る武器が必要だ。
「アキヒトさん……、何を?」
――考えろ。
龍を貫く槍を。
――考えろ。
龍を穿つ槍を。
――考えろ。
突撃する大きな槍を。
――感じろ。
「|龍を屠れ! グングニル!!」
ゲームなどではド定番のグングニルだ。
俺が創ったこの槍は、どんなモノも貫く大きな槍だ。龍であろうとなんであろうと、そこに大きな風穴を開ける事が出来る大きな槍だ。
槍とは思えない大きな槍。バリスタか何かで射出するような大きな槍だ。
……イージスの盾とグングニルをぶつけるとどうなってしまうのだろうかという、矛盾が生まれてしまうのが蛇足だ。
「さすがに……きついか」
創造には大きな魔力を要する。消耗している現状では、創造はかなりきつい行動だった。
「それは……槍、ですか? そんな召喚は聞いた事が……。まさか?!」
「さて、一気に決めさせて貰おうか」
ロベルタさんが何か言っているけど、俺にはもうそんな余裕はない。
大きくても俺が創った槍。イージスの盾同様に魔力で操作する事が可能だ。
龍はこちらに注目しているようだ。それもそうだろう。盾の次は槍だからな。
狙いを付ける……。あの龍は、素早い行動は出来ないはずだ。それでも外してしまっては元も子もない。
おあつらえ向きに頭がこちらを向いている。このまま頭を貫いて、倒してしまっても構わないだろう。
ブレスもまだ来ないはずだ。盾は一応残したままだけど、この槍で決めてしまえば……!
「行くぜ、トカゲ野郎! グングニル……発射!!」
まるで大砲のように、バリスタのように、魔力で操作され飛んでいくその槍は、すさまじいスピードで龍の元に飛んでいった。
「やったか?!」
速く飛ばしすぎたせいか、砂煙が凄い。龍のブレスでの煙でそもそもの視界もよくはなかったけど。
手ごたえはあった。あの速さで飛ばしたんだ。いくら龍と言えど、防ぐのは不可能だろう。
あぁ、駄目だ。一気に疲れが出てきた。
そうだ、倒したにしろ封印はした方がいいんだろう。ロベルタさんにお願いしないと……。
槍も盾も戻して魔力を節約しないと……。ちなみにベアルカスは早々と戻って貰った。次は活躍する機会を与えてあげよう。
ご意見ご感想があれば嬉しいです。
が、豆腐メンタルなのでお手柔らかに……




