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召喚獣による召喚で異世界で召喚士になりました  作者: bamleace
三章 ~エルフの里と封印竜~
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12 その龍と援軍

 思わぬ参戦だったが、今のところは順調に守れている。

 しばらく受けてみて、龍の事も少し分かってきた。

 まずはブレスだ。

 炎と氷のブレスの二種類があるが、一発目は炎のブレスだ。

 炎のブレスを撃った後に氷のブレスが来るが、撃たない時もある。氷のブレスを撃たない場合は、しばらくしてまた炎のブレスが来る。

 氷のブレスを撃った場合は、再チャージに時間が掛かるのか、次の炎のブレスは大分後になる。

 それでも、一発一発が強力で、直撃すれば被害は甚大だろう。イージスの盾でも、正面から受けなければ防ぎきれない威力だ。

 脅威なのはブレスだけじゃない。

 その大きな腕と鉤爪から放たれる単純なひっかき攻撃。それですら、人の身ではイコール死に繋がる攻撃だ。

 さらに龍からすれば、鞭のような尾による攻撃も侮れない。むしろブレスの次点に注意すべき攻撃だ。そう。鞭のような攻撃だが、人間からすればそれは大きな鉄の塊を振り廻しているに近いだろう。

 どの攻撃も、まともに受ければ即死を意味するであろう攻撃。幸いな事に、現状、死者は出ていない。

 だが、余波で怪我をしたり、代わりに受けた召喚獣が消え去るなど、こちらの被害はゼロではない。

 対して、龍の被害はというと……。精々がブレスによる、魔力の消耗くらいだろう。どれくらいの魔力を保有しているのか、分からない。

 四つの脚にそれぞれに大きな爪。明らかに硬いであろう表面の鱗に、ブレス攻撃。そして巨体。

 こんな龍を相手に持久戦を行うのは、愚かな行為だろう。

 しかし、逃げる術もない。

 大きく動き回る事がない点は救いだ。体勢を直すなどで、体力を消耗する事がない。

 ……その分、気力と体力の消耗は激しい。

 俺に出来るのは……龍の攻撃を防いで、ロベルタさんの封印を待つだけだ。

 しかし、依然として龍は元気なままだ。トーダの兵士達も果敢に攻撃しているが、徐々に攻撃用の召喚獣の数も減ってきた。

 もちろん召喚士以外の兵士達もいるが、剣で攻撃しても鱗で弾かれ、魔法も効いているように見えない。

 打つ手なしだった。

 このままでは……龍が虚勢を張っていて、実は瀕死で疲労困憊とかじゃない限り、厳しい状況だろう。

 何か、今の状態を挽回できる何かが欲しい……。

 強力な援軍が来る?

 倒れている隊長さんが復活して、さっきの大きな召喚獣を加えればなんとかなるのか?

 いや、無理だろう。

 さっきの大きな召喚獣は、ブレスにやられていた。仮に同じレベルの召喚獣を出せるとしても、そもそも龍は対して効いていないように見えていた。

 エルフ達が力を合わせて、封印に協力してくれる?

 それも難しいと思う。確かにエルフの力量は未だに分からないけど、カティや長老さんの様子を見る限りでは難しいだろう。何か秘策があれば、とっくにやっているだろうし。

 状況が変わらない中、思いもよらぬ援軍が飛び込んできた。




 ここね……。

 アキがいる場所。そして大きな力の何かがいる場所。

 途中、どれだけ逃げ惑うエルフ達とすれ違ったかしらね。

 本当なら、逃げるのが正解よね。ワタシだって本当は逃げていたでしょうね。アキが横にいたならば。

 でも、今アキはここにいない。アキが何かと戦っているというのなら、ワタシも戦うまでよ!

 だけど……。

「マリア様……。あれって……」

 耳がいいアルルはとっくに気づいていたんでしょうけど、実際にここで見るまでは信じられなかったのでしょうね。

 ワタシだって信じられないわ。

「えぇ、そうみたいね。アキは龍と戦っているみたいね」

 大きな穴のような――まるで大きな何かを落としたかのような穴の上からでも解るわ。

 グーベラッハで戦ったオークが可愛く見えるほどの大きさと……強さ。

「アルル、カタリーナ。一緒に来てくれてありがとうね。でも、ここまででいいわ」

 二人はアキとは何の関係も無い……ただの冒険者の仲間。ちょっとした魔物相手ならば共闘するのがパーティでしょうけど、あれと一緒に闘ってとは言えない。

 ……だって、確実に死ぬからね。

 だから、ここでお別れ。

 ワタシは行かないといけないの。アキの元に。主の元に。

 だって、ワタシは召喚獣だから。

 穴の底に降りる手段を考えるのも憚れるわ。ここまで、大分時間は経っているはず。

 きつい坂――穴がすり鉢状になっているから、なんとかこのまま降りられそう。

「それじゃ……ね」

 二人に別れを告げて、一気に駆け下りる!

「マ、マリア様!」

「マリアお姉様?!」

 私を呼ぶ二人の声がだんだん遠くなるにつれて、聞こえてくるのは、轟音。目に飛び込んでくるのは、煙。肌に感じるのは熱気と冷気。嗅ぎ取れるのは、鉄の匂い。

 ……まるで地獄ね。

 でも、アキがそこにいるというのなら、地獄だってなんだって!




 龍の攻撃をどれだけ防いだだろう。どれだけの時間が経っただろう。

「アキー!!」

 俺の名を呼ぶ、聞きなれた声が聞こえたのはそんな時だった。

 叫び声と共に、まるで吹っ飛んできたかのように俺の元に来たのは、俺の良く知る仲間だった。

「マリア?!」

「アキ! 無事……みたいね。よかったぁ」

「マリア。なんでここに。というかなんで俺の場所が分かったんだ」

「忘れたの? ワタシはアキの魔力を感じ取れるのよ。それにパーティなんだから、ね」

 そうだった。パーティならば、冒険証でお互いの大体の位置を把握することが可能だった。

 それに、俺とマリアは召喚契約で結ばれている関係だ。お互いの魔力を感じ取れるのは当たり前だ。むしろ、今までマリアの接近に気づかなかった方がおかしい。それだけ気が張っていたという事かもしれない。

「アキヒトさん。そちらはパーティメンバーの方ですよね? こちらに来てしまって大丈夫なんですか?」

 ロベルタさんの疑問はご尤もだ。

「そうだマリア。ここは危険だから、今すぐに逃げるんだ」

 実際は逃げることも困難だけど、召喚獣であるマリアならば、逃げる事も可能だろう。最悪は、召喚解除してしまえば安心だ。

「逃げるならアキも一緒じゃないとダメよ」

「俺は……」

 言い掛けた所でマリアが顔を近づけて小声で。

「忘れたの? ワタシは召喚獣。アキが死ねば、ワタシは消えるだけなのに」

 そうだ。召喚獣がやられるだけならば、時間経過で復活は可能になる。

 しかし、召喚士――俺が死んでしまえば、残された召喚獣はいずれ魔力切れになり消えてしまう。俺が名付け、俺が契約をしたマリアという召喚獣が、この世から消えてしまう。

「でも俺は……」

 俺が逃げてしまえば、ブレス攻撃を防ぐ術はなくなる。事前の魔力と予備動作から避ける事も不可能ではないが、範囲は広く威力も高いため、完全に避けきらないと駄目だ。

 ひっかきや尾の攻撃も侮れないが、ブレスに比べれば範囲は狭い。そのため、ブレスをいかに無力化するかが、この闘いの生命線になる。

「俺は残るよ」

 俺が逃げれば、ここにいる皆が消えてしまう。死んでしまう。

 俺だけ生き残るだろう。でもそれは姑息な手に過ぎない。逃げたとしても、常にこの龍に怯え逃げ続けなくてはならなくなる。

 ならば、封印出来る可能性がある今。頑張る方が望みはあるだろう。……と思いたい。

「……わかったわ。ならワタシも闘うわ」

「あぁ……ありがとう。アルル達も、いいのか?」

 マリアの後ろには、いつの間にいたのか、アルルとカタリーナが立っていた。

「え! アルル……。カタリーナ……。なんでここに……」

「アルルも……アキヒト様のお役に、です」

「私は……マリアお姉様のためにですから!」

「みんな……。ありがとう」

 皆は俺が守ってやる。イージスの盾があれば、防御だけなら龍にすら負けないさ!

「みなさん……。ありがとうございます」


 援軍――俺にとっては強力で心強い援軍だけど、数だけを見れば、たったのプラス三だ。

 俺や周りの心配をよそに、龍に華麗に向かっていったマリア。何度か斬りつけているようだが。

「ダメね……。鱗が硬すぎるわ」

 マリアの武器では、あの龍には刃が立たなかった。

 マリアに負けじと、アルルが龍の腕に力いっぱいの拳をぶつける。

「か、硬い……」

 岩をも砕くアルルの攻撃も、龍の前では痛くも痒くもないという感じだ。

 アルルが飛び去った後、龍の腕の関節部にカタリーナの魔法の矢が降りかかる。氷で出来たその鋭い矢だが、龍には突き刺さることなく砕け散った。

「魔法も駄目なんですか……」

 援軍を加えた攻撃だが、そのどれもが龍には効いてはいない。

「アキ、オークの時みたいに、その盾をワタシに装着すれば、なんとかなるんじゃない?」

 今のマリアの装備は、普通の装備だ。

 オークの時のように、イージスの盾の能力の一つ。展開し武具としてマリアに装着させれば、攻撃力も防御力も各段に上がるだろう。

「それは出来ない」

 確かに攻撃面では有効な手かもしれない。

 しかし、マリアに装着させれば、生命線となっているこの壁のような大きな盾は小さくなる。つまり、こちらの防御範囲が小さくなるということだ。一応、盾以外の範囲も防ぐ事は出来るけど、防御力は盾の部分よりは落ちる。

 ブレスを受け止めた際に、防ぎきれない部分が出てきてしまう、周りに被害が出てしまうだろう。

 それだけではない。マリアに装着させた場合、その防御力は盾自体だったときよりも劣る。つまり、イージスの盾を装備したマリアでは、龍のブレスを防ぐ事は出来ないだろう。

 つまり、その防御力を分散させる事になり、ブレスに耐え切れない事になってしまう。

「じゃあどうするっていうのよ……。やっぱりアキだけでも逃げて……」

「ロベルタさん。封印はまだ駄目なんですか?」

 逃げたい気持ちもあるし、実際、士気も落ちている。しかし、封印さえしてしまえば、それで終わりなのだ。

「……私の魔力にも限界はあります。封印を試みるのは、出来て二回です。確実な時を狙わなければいけません」

 そんなに魔力を消費する召喚獣なのか。二回。たった二回なのか、二回()なのかは取りようだけど、あの龍の事だ。

 一回目で失敗した場合。その封印の元であるロベルタさんを狙ってくるかもしれない。

「くそ……」

 攻撃を加え、疲労させ、龍が封印に抵抗出来ないようにしないといけない。

 防御面は心配はない。しかし、攻撃面ではどうしようもない。

 こちらの疲労が先に来てしまうだろう。俺も兵士たちの魔力も無限ではない。既に魔力が切れ始めて、召喚が維持できなくなっている兵士もいる。

 大きな召喚獣の打撃すらも、多くの召喚獣の攻撃さえも、大規模な魔法でさえも、魔物すらをも切り裂く剣さえも効かない龍。

 万事休す……か。

ご意見ご感想があれば嬉しいです。

が、豆腐メンタルなのでお手柔らかに……


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