05 ロマンとコーディネート
「はぁ……はぁ……、ちょっと……マリア、止まって……」
「えー? 走ろうって言ったのはアキよー?」
マリアと手を繋いだまま走っていたのはいいが、早くも俺の体力に限界が来てしまった。道も適当に進んでいたし、随分走った感じがする。
マリアはまだ余裕そうだ。俺よりも体力のステータスが高かっただけはある。
「いくらなんでも、もうちょっと体力つけたほうがいいわよ? そんな時に魔物に攻撃されたら、ひとたまりもないし」
「はぁ……はぁ……。そ、その時はマリアが守ってくれるんだろ? なら平気じゃないか」
「ふふ、そうね」
とは言うが、さすがにこの体力の無さは辛い。人並みには自信があったんだが少し鍛えた方がいいかな。いや、持ってきた杖のせいだよ、きっと。だよね?
まぁ走ったお陰でさっきの空気からは脱することができた。
無茶苦茶に走った割には武器屋にも到着したし、問題なしだ。
武器屋。RPGの定番だ。剣に槍に鈍器に弓に杖にと色々ある。棚に壁にカウンターの向こうにと、乱雑ではないが所狭しと展示してある。
カウンターには、いかついおっちゃんがいる。まさに武器屋だ。
マリアの武器目的で来たが、俺も男の子だ。ワクワクしてくる。
「らっしゃい! 自由に見て行ってくれ!」
いいねぇ、武器屋のおっちゃんって感じじゃないか。お言葉に甘えて、近くの剣を持ってみる。
持って……、持ち上がらない。剣ってこんなに重いの?
「おいおい、持てないのか? 非力だなぁ。杖持ってるってことは魔法タイプだろ? なのに剣が欲しいのか?」
持てなかったのを店員おっちゃんに見られて声を掛けられてしまった。恥ずかしい。
そう、俺は魔法タイプ。剣はいらない。でもRPGと言えば剣だろ!
「剣はロマンですから!」
「がはは、ロマンね。いい事言うじゃねーか」
「えぇ、ロマンです。ですが今回は私ではなく、この子の武器を買いに来たのです」
「冒険者登録をしたけど、武器がないのよ。だから何か武器が欲しいの」
そう、あくまでマリアの武器を買いに来たのだ。いやー、残念だなー。剣も欲しいけど仕方ないなー。今回はマリアに譲っちゃうわー。
「お、こっちの嬢ちゃんか。坊主は後衛なんだよな。なら嬢ちゃんは前衛か」
「そう、いい武器ある?」
「能力値はどんなもんなんだ?」
む? 能力値が関係するのか? あまり教えるのはなんとなく嫌なんだよな。こっちの手の内を見せるみたいで。
俺達が渋っているのを見て、おっちゃんが続ける。
「ん? 武器を買うのは初めてか?」
「えぇ、初めてです。能力値って必要なんですか?」
「あぁ。いくら強い武器や防具でも、能力値が低すぎるとうまく扱えないんだ。だから能力値にあったものを選ぶのがいい」
なるほど。レベルとかで装備制限があるのはゲームではよくあるシステムだが、必要能力値みたいのがあるのかな。
つまり、超強い武器を手に入れても、能力が低ければ意味ないって事か。うまく出来てるな。
「もちろん能力値を全部教えてくれって訳じゃねぇぞ。秘密にしたいのも分かるしな。大体でいい」
たまに見栄を張って、大きい数値で申告して、後から文句言ってくる奴もいるんだがなと愚痴るおっちゃん。
そういうことか。マリアが俺の方を見ていたので、了承の意味で頷く。
マリアは自分の冒険証を見ながら申告した。
「その能力値だと、この辺りだな」
おっちゃんはいくつかの武器をカウンターに並べた。大振りの剣、それより一回り小さい剣、ナイフ、細い剣だった。さすがに斧や鈍器は勧めてこないのか。それとも必要な能力が高いのかも?
大振りの剣は大剣、両手剣だ。高い威力を持つ武器である。刀身でガードも出来るが、基本的に攻撃が最大の防御という力技の武器だ。
大剣を一回り小さくしたのは片手剣。片手で扱い、もう片方は盾を装備することで、攻防のバランスがいいらしい。
ナイフは見たまんまのナイフだ。手に持って攻撃してもよし、投げてもよしで、メインにもサブにも出来る武器だ。
細い剣は、いわゆるレイピアという武器だった。突く系の武器で、切るのはあまり出来ないらしい。片手で持って、敵の攻撃は受け流したり、躱す風に戦うらしい。
両手剣や片手剣は腕力と体力に大きく影響し、ナイフやレイピアは敏捷と器用に大きく影響するらしい。使っていけば、それらの能力値も上がっていくとのことだ。
だから武器を選ぶ際は、今の能力値と、将来的にどう育てたいかを考えて選ぶのがいいらしい。レベル制ではなく武器熟練によるステータスアップってところか。
「悩むわね……。アキはどれがいいと思う?」
マリアが聞いてきた。武器が欲しいとか言っていたが、具体的な路線は考えてなかったようだ。
そうだな、この中で言うとレイピアかな。大剣で女騎士っぽいのも格好いいが、蝶のように舞い、蜂のように刺すって感じでレイピアだな。華麗そうだし。
それに昔のとある偉人も言っていた。当たらなければどうということはない、と。
「レイピアかな。マリアに似合うと思うし」
「似合う似合わねぇで武器を選ぶか、面白いな坊主。でもまぁそういうのは重要なんだがな。好きな武器って奴だな。で、嬢ちゃんはレイピアでいいのか?」
「えぇ、折角だしこれにするわ」
マリアがレイピアを手に取り感触を確かめて、そう言った。
「それじゃこのレイピアだな。他に何か欲しいのあるか?」
欲しいものだと? ならば言うしかあるまい。
「私も腕力を上げれば、剣を使えるでしょうか?」
剣はロマンだ。今はダメでもいつかは……! 剣も使えて魔法も使える魔法剣士なんて、いいじゃないか。さぁ、俺でも使える剣を教えて!
「あー……、さっきの剣でも無理なら、坊主に剣は無理かもなぁ。あの剣は一番初心者用のなんだが……」
ガーン……。俺には剣は無理なのか……。この世界に来て一番悲しいかもしれない。筋トレでもするか……。
「でもまぁ魔力は高いんだろ? その杖もいい杖だし。多分魔力三十くらいはないとうまく扱えないんだが、大丈夫なんだろ? どうしても剣が使いたければ、杖で殴ったりしても腕力は上がるぞ」
おっちゃんの励ましが心に響くぜ。ってかこの杖の性能は知らなかったな。さすが武器屋のおっちゃんだ。鑑定みたいのが出来るのかな。武器屋に来てよかったぜ。
おっちゃんには大丈夫ですといい、レイピアを購入した。ついでにサブ用にナイフを二本買った。ナイフなら俺でも扱えるようだ。
代金はレイピアが銅板一枚にナイフが二本で銅貨六枚だ。
まだまだ銀板三枚以上はあるし、結構余裕だな。名前も知らない育ての親(設定)には感謝しかない。
お次は防具屋だ。ご丁寧に武器屋の隣が防具屋だった。RPGのお約束だな。
マリアの武器はレイピアで敏捷重視だし、防具も軽装備のがいいんだろうな。
女性の店員さんがいたので、マリアの防具を見繕って貰った。体に装備するものだし、同じ女性視点のがいいだろう。
店員が見繕っている間、俺は適当に店の中を見ていた。ごつい鎧とかでかい盾とかの戦士系の装備もあれば、羽衣やローブといった恐らく魔力が上がりそうな装備もあった。
面積が少なくて、明らかに防御力ないだろって装備もあったが、手の空いている他の店員に聞いた所、魔法効果のある素材で出来ているので結構しっかりしているとの事だ。値段もそれなりにするらしい。
しばらくすると、マリアの装備も決まったようだ。
「アキ、どうかな?」
マリアの格好を見る。上に羽織っていたコートのような物は脱いでいるようだ。
頭には恐らく皮で出来ているんだろう。ベレー帽みたいな帽子被っていた。ワンポイントに鳥の羽根が刺さっており、皮の羽根帽子という感じだろうか。
上半身も皮製だろう。茶色っぽい胸当てを装備している。コートを着ている時には気付かなかったが、胸が強調される感じだ。大きさはC位だろうか。この世界の平均って物は分からないが、日本の女子中学生と考えればいいサイズだろう。
おっと、胸を見過ぎるのは駄目だな。そのまま目線を下に動かす。腰の辺りには、これまた皮っぽいスカートのような物を装備している。ニーソとの絶対領域は存在していた。
足は膝当てと脛当てだろうか。それらが一体に成っている物を装備していた。これまた皮製みたいだ。動きにくそうにも見えたが、うまいこと出来ているようで、大丈夫そうだ。
帽子のワンポイントはおしゃれだが、これはあれだな。皮シリーズの装備だな。RPGで一番最初にお世話になる防具だ。その辺は分かってはいるが、しかし可愛さはない。それは贅沢か。
「お、剣士って感じだな。いいんじゃないか? しかし全部皮なのか、これ?」
「そうねー。この子可愛いから可愛い装備をさせたいんだけどー。能力値からすると、これくらいしかないのー」
感想を言うと、見繕ってくれた店員さんが説明をしてくれた。やはり防具も能力値が必要なのか。
「可愛い装備は、必要な能力値も高いんだけどー、素材効果とか魔法効果で防御力も高いのー。後値段も高いのー」
なるほど、現状可能な最高のコーディネートって訳か。ふーむ、まぁ見た目よりも防御力があってこその防具だしな。仕方ない。マリアも気に入っているみたいだしな。
それにしても、語尾に特徴がある店員だな。しかし仕事はしっかりしているようだし、こういうキャラなんだろうな。
「分かりました。ではこれ全部お願いします。後、私も防具が欲しいのですが、いいのあるでしょうか?」
今の俺は部屋着にローブ姿だ。防御も何もあったもんじゃない。能力値が必要にあるとはいえ、さすがにこの状態はマズイだろう。
そう相談すると、その女性店員は俺にも防具を見繕ってくれた。服屋で店員に絡まれると戸惑うが、ここは店員さんに任せるしかない。
おしゃれでも何でもない皮の帽子に、マリアと同じ皮の胸当て、丈夫そうな布のズボン、同じ素材のローブだ。デニムっぽい素材だな。そこそこ動きやすいし、普段着にも使えそうだ。
店員さんにお礼を言って、全部購入した。全部で銅板一枚に銅貨四枚だった。
「ありがと、アキ」
「中々いいのが買えてよかったな。他に買い忘れとかはないか?」
武器も防具も買って、一段落だろうか。服も買おうと思ったが、俺のは防具が兼用するしいいだろう。肌着とか、マリアの服は買ったほうがいいかな。
「うーん、他にも冒険者として必要な物もあると思うけど、とりあえずはいいんじゃないかしら」
「そっか、宿に戻ったら冒険者ギルドで貰った冊子を読んで、その辺りを確認だな。後、服とかっていらないのか? いま着ている一着しかないだろ?」
「え? あぁそうね。ワタシは召喚獣だから、服とか汚れてもアキの魔力で元に戻るわよ」
簡単な怪我なら魔力を注ぎ込めば治せるし、ひどい怪我でも召喚解除してしばらくすると治るらしい。それと同じという訳だ。
ひどい怪我を負って維持出来なくなった時は、勝手に召喚解除されて、怪我が治るまでのしばらく間、召喚出来なくなるとの事だ。
服とか怪我の状態も含めて、元の状態に戻るって感じなのかな。召喚解除している間は勝手に治るが、召喚士の魔力を消費しない代わりに治りも遅いらしい。
よく知っているな、マリア。
「って事は、仮に召喚解除した時って、さっき買った装備はどうなるんだ?」
宿でマリアを召喚解除した時は、着ていた服なども一緒に消えていた。恐らく、服もマリアの一部と認識されていたのだろう。
さすがにさっき買った装備が、それと同じ扱いになるとは思えない。召喚解除したら装備だけ残って地面に落ちる、とかだと回収も大変そうだ。
「その辺りは分からないわね。後でやってみる?」
「そうだな。宿に戻ったらやってみるか」
何事もやってみないと分からんしな。実験のための召喚解除だ。今度は泣かないでよねーと弄ってくるが、生意気な従妹の言葉と思い込み、ここは大人の対応でスルーだ。
俺の分の肌着……、トランクスタイプみたいだが、よく分からない下着だけ買った。
「それじゃ宿屋に戻るか」
「はーい」
他に買う物もないし、買った本も読みたいので宿に戻る事にした。
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