11 参戦と鉄壁の盾
あっぶねぇ!
なんでこうもいつもギリギリの展開なんだ。いやまぁ、それが盾の役目なんだし、間に合ったならいいんだけど。
それにしても、防げてよかった。さすがにやばいかも? って思ったけどね。
あの赤く熱いブレスの後。トーダの兵士達が物凄く慌てている感じだった。
それもそうだろう。あのでかい強そうな召喚獣がやられて、龍はピンピンしているのだから。
封印失敗ってことか? 隊長がやられたとか、副隊長に任せるとか、そんな叫び声が聞こえる。
何でこうなった。
相手は龍だぞ。ファンタジーの世界の最強格だ。オークなんかとは比べようがない。それなのに、何で俺は様子を見たいだなんて……。
いやだって、封印されていたはずだろ? だからこうして来ちゃったんだし。いや、愚痴るのは後だ。まずは逃げないと……。
だけど、俺の足が動く前に龍の行動の方が早かった。
さっきと同じような魔力の集まりに、口に意識が向いている動作だ。
まさか連発出来るのかよ……。必殺技は普通は連発出来ないものだろ? クールタイムなり、使用制限なりあるのが常識だ。
……いや、相手は龍だったな。常識なんて通じないか。
龍の口はこっちには向いていない。というか、俺には誰も―― 龍でさえ気付いていないみたいだ。逃げるなら今の……。
いやまて……。あの龍、どこを向いているんだ? どっちを攻撃するつもりだ?
あの方向には……!
まずい! もうブレスが来る!
……今度は熱くない? いや、そんなのどうだっていい。間に合え!
「防いでくれ、イージスの盾!!」
結果的に間に合ったし、防げたしで良かったけど、どうしようか、これ。
最初は見るだけのつもりだったし、さっきも逃げ出そうと思っていたのに……。
「えーっと、大丈夫ですか。ロベルタさん、カティ」
龍の口がロベルタさんとカティに向いていて、無我夢中で前に出てしまった。
とりあえず何が起こったか困惑気味なので、駆け寄って声を掛けてみたけど……。
「貴方は……アキヒトさん? なんでこんな所に? それにこの壁は一体……」
混乱材料が増えてしまった。
「説明は後にしましょう。ひとまず逃げないと。立てますか?」
「私は平気です。カティさんも無事ですか?」
「ボクも大丈夫……。だけど何が起こったの?」
「詳しくは後。早く逃げないと、龍が来ます」
またあのブレスが来るかどうかは分からない。さっきの熱いブレスの後に、そう間を空けずに冷たいブレスが来た。
……火と氷のブレスが出せるのか? 相場は火と思っていたけど、確かにアイスドラゴンっていうのもいたかな。ファンタジーでだけど。
でも二つ出せるなんて……。二属性って奴なのか? 魔法なら複数の属性が使えるらしいけど……。でも火と氷って、相反するだろうに。どういう身体してるんだ。それとも龍ってそういうもんなのか?
ともかく。そういうのは後だ。
一撃は防げたけど、次はどうか分からない。一応、イージスの盾は問題無く機能していて、周囲も守ってはいるけれど、ずっとこのままという訳にもいかない。
俺の魔力が尽きれば消えてしまうし、ずっとブレスを耐えられるかどうかも分からない。
「ほら早く。ロベルタさんも今のうちに逃げましょう」
「私は逃げる訳にはいきません。あの龍をこのままにしてはおけませんし。……貴方達だけで逃げて……」
確かに龍はこのままにはしておけない。だけど打つ手はあるのだろうか。
「……アキヒトさん。あの壁は貴方の力と見込んで、お願いがあります。力を貸して下さい」
「今の音は……!」
「……何かが燃えている音がします!」
「急ぎましょう、マリアお姉様、アルルちゃん」
アキがいる方向。その方向から大きな魔力と大きな音、それに大きな力を感じたわ。
召喚獣であるワタシは、人間よりも五感多少優れているはずだけれど、獣族であるアルルには及ばない。でも純粋な人間であるカタリーナも何かを感じたみたいね。
それほどの何か。アキヒトの方向にいる何か。龍云々って、まさか……。
「んもぅ! アキは一体、何をしているのよ!」
守るって誓った。守ってくれるって誓ってくれた。それなのに、今のワタシは何をしているのだろう。
こんな事になるなら、アキを一人で行かせなければ良かった。
今のワタシに出来るのは、ただひたすらにアキの所に駆けるだけ。……アルルもカタリーナも一緒にね。
また大きな魔力と大きな音……! アキは……大丈夫みたいね。うん、アキなら大丈夫。だって、アキはワタシの主だもん。
「お願い、ですか?」
「はい。あの龍はこのままにしておけません、再度封印を施します」
この状態から封印出来るのか。封印出来るならそうしたい所だけど、難しいんじゃないのかな? あのブレスが飛んできたら、避けるのも一苦労だし、防ぐのだって……。
「ですが、あのブレス。あれは厄介という代物ではありません。防ぐ事は実質不可能、でした。しかし、アキヒトさんのあの壁。あれなら防ぐ事も可能、ですよね?」
確かに防げました。でも俺だって早く逃げたいんだ。だから、ロベルタさんもカティも……。
「お願いです。トーダの国に仕える一人の兵士として、貴方に依頼します。私が封印をしている間、私達を守って下さい」
封印の召喚獣を使えるのは、隊長と副隊長のみ。隊長は気を失っているため、今動けるのは副隊長であるロベルタさんだけ。
だからロベルタさんが封印を施し、その他の兵士が龍を抑える。その間の攻撃――最優先はブレスを俺が防ぐという作戦のようだ。
「カティやエルフの長老はどうするんですか?」
エルフがどのくらいの力を有しているのか知らないけど、少なくともあの龍に相対する力量があるとは思えない。
俺は仕方ないとして、この二人は避難させたほうがいいのではないだろうか。
「……長老さんは残るそうです。カティさんは、他の隊員に頼んで避難させます。いいですね、ハハリ さん、カティさん」
「うむ。カティは逃げなさい。ワシは見届けねばならん」
「……ボクも……カティも残るよ!」
「いけないよ、カティ。お前は生きて……今日の事を伝えなければならない。龍に手を出しては駄目だと。それがエルフが出来る、今我々に出来る唯一の事じゃ。頼む……」
なんとも言えない空気だ。どっちの気持ちも分かる。孫を生かし逃がしたい長老と、一緒に残りたいカティ。
だけどさ。
「カティ。早く逃げるんだ」
龍が俺達の事を待ってくれるって訳じゃないんだよね。
ブレスが来る気配はないけど、イージスの盾の向こうで大きく咆哮しているのが聞こえる。
自慢のブレスが防がれた事に苛立っているのか?
「ロベルタさん。俺は防ぐので手一杯です。ブレスは防ぎます。それでいいなら、守ります。長老さんも守ってみせます。だからカティ、君は逃げるんだ」
ロベルタさん達も長老も、みんな守ってやる。それなら何も問題ないだろ?
「でも……」
「誰か。カティさんをお願いします。上に残っているエルフがいたら、冒険者と協力して避難を。その他は龍に攻撃を!」
ロベルタさんが声を掛けると、兵士が颯爽とカティを連れて階段へと向かっていった。
それもそうか。逃げる口実が欲しい兵士もいたって事だろう。ちゃんとした理由で逃げる事が出来る訳だからな。
さて……。龍はどうしてるかな。
このイージスの盾。性能は文句無しだけど、一見ただのでかい壁なので、向こう側が見えないっていうのが欠点だ。
魔力の集まりもないし、他の兵士達が攻撃を開始しているみたいだし、まだ俺の出番はないだろう。
カティも無事に逃げたし、ブレスが来たら防ぎますかね。
……っと、いきなりブレスか! 本当に常識外れな生き物だな。こんだけ乱発されると、困っちゃうぜ。
まぁイージスの盾ならば問題なく防ぐ事が出来るから、ブレスは相手が消耗するだけになる。……もちろん、俺が毎回防げればの話だけど。
さて、どこだ。どこを狙うんだ? 魔力の集まりと位置、それに口の動作で狙いが分かるのが救いだけど……。
ん? あいつ、誰もいない方向を狙っている? 近くにいる召喚獣達でもなく、少し離れた位置にいる兵士達でもなく、もちろん俺でもない。
「どっち向いてるんでしょうか、あの龍」
「……さぁ? 混乱でもしているのでしょうか。それとも疲れている? どちらにしろ、好機です。暴れられると封印は出来ませんが、あのブレスはさすがに消耗が大きいのでしょう」
封印のために俺のそばで待機しているロベルタさんにも、あの龍の考えは分からないみたいだ。
……あの方向……。
「そうか! まずい、このままじゃ!」
「アキヒトさん、何を?」
あの龍が向いている方向。それは……。
「……くっ。間に合わなかったか」
さっきカティが向かった先。龍が狙ったのは。
「階段が……。まさか、あの龍はこれを狙って?」
「すみません……。盾が間に合いませんでした」
「いいえ。まさかここまで知能があるとは思っていませんでしたので……。これで封印しないと戻れなくなりましたね……」
混乱? 疲れている? とんでもない。意図的にやったのだとしたら、あの龍はとんでもない奴だ。
炎のブレスを直撃した階段は、階段としての機能を失っていた。これで俺達はここから逃げられなくなった訳だ。
壁を登るなり、階段を復旧するなりすれば逃げられるけど、あの龍がそれを許すはずもないだろう。
これは……俺も逃げておけばよかったかな……。
ご意見ご感想があれば嬉しいです。
が、豆腐メンタルなのでお手柔らかに……




