09 報せと分裂
サブナックの風の人が行ってからどれくらい経ったろうか。 依然、外は騒がしいままで、マリア達も不安なのか落ち着きが無いように見てる。
このままではらちが明かない。
「サブナックの人帰ってこないし、俺も様子を見てくるよ」
「大丈夫なの? アキ」
「それを確かめにいくのさ」
騒がしいだけで、何が起きているのか不明だが、さすがに危険はないだろう。
「それじゃ行ってくるよ。皆は待っててね」
さて、この騒ぎは何だろうか。経験と勘からして、いい騒ぎには思えない。良くて俺達のパーティの誰かダッシュ大方大剣野郎が問題を起こしたとかだろう。
しかしそれにしては妙だ。パニックというか威圧というか、そんな空気を感じる。
「ん? あれは確か、トーダの国の兵士だったか。何をそんなに慌てているんだ?」
ちゃんと顔合わせをした訳ではないが、道中見た事がある顔だった。何より、ここエルフの里にいる人間と言えば、今回の護衛関連しかいないだろう。
向こうがこちらに気付いた風な感じで近寄ってくる。
俺に――いや、冒険者に用か?
「す、すみません……。ぼ、冒険者のかた、ですよね?」
「そうですが、何をそんなに慌てているんですか?」
よほど慌てているのか、息が荒い。何事も無ければ、こんな慌てる事もないだろう。つまり、何があったという事だ。
そして、兵士が慌てているという事は……。
「今すぐエルフ達の避難と本国に連絡を。龍が……龍が復活しました!」
最悪の事態だ。
エルフの里に来た時からなんか違和感というか、居心地が悪いというか、こんなに自然豊かなのに空気が悪いというか。そんなのを感じていた。
そして俺は今、その気持ち悪い方向に向かっている。
サブナックの風の人は見つからない。
マリア達も心配しているだろうし、誰かに事情を聞きたいんだけど、来るエルフ来るエルフは取り乱していて、会話にならない。
なので彼らが来ている方向に向かっている訳だ。
「しかし……何だこれは?」
ずっと感じていた何か。それがさっきから大きく膨れ上がっているのを感じる。
この感じは……召喚獣に似ている。マリアよりも、俺が使っている召喚獣のどれよりも遥かに大きな存在だ。
封印の儀式とやらのために、召喚しているのだろうか。
……それにしては何か嫌な気配だ。
結局、サブナックの風の人にも会えず、事情も分からないまま、その召喚獣らしい気配の場所まで来てしまった。
さすがに封印の儀式の邪魔になってしまうだろう。仕方ない。戻りながら考えるとするかな。
……少しくらい、見てもいいよね? だって龍だよ? 封印されているし、覗くくらいなら……。ダメなら兵士さんが止めてくれるはずだしね。
その兵士さんもいないみたいだし、ここはまだ平気なんでしょ。
さーてと。あれ、下に降りるのか?
なんかすり鉢状というか、ちょっとした盆地みたいになってるのか?
神殿とか祠とかが建てられてるのをイメージしてたんだけどなぁ。
……お、階段だ。降りるか。
それにしても、下に見えているのが龍なのかな。大きいなー。
段々と降りていくと、違和感に気づく。
「あれ……。あの龍、動いてね?」
封印の儀式とやらで、龍が動いてしまうのだろうか?そんな事は言ってなかったと思うけど。
動いてるけど、実は弱まってるとかかな?本気の龍はヤバイらしいし、きっとそうなんだろう。
しかし、見張りとかいないのかね。虹隊の人達がやるんじゃないっけ?サボり?
……もう少し進んでみるか。封印の儀式にも興味あるし。
「皆いるか!」
トーダの兵士から聞かされた龍復活の報告。それを聞いてすぐに小屋へと向かった。
一大事である。万が一、何かあった時のための俺達。その万が一が起こってしまったのだ。
やるべき事は、エルフの避難誘導とトーダへの連絡だ。どちらも重要である。
「どうかしましたか、リーダー」
小屋に戻ると、いつの間に戻っていたのか、散歩していたはずの三人が戻っており、全員が集合していた。
何かを感じ、集合してたか。何だかんだで、やはりいいメンバーだ。
「さっきトーダからこの騒動の訳を聞いた。結論から言えば、有事だ」
集まっていたメンバーに、今回の護衛の目的ダッシュ龍の事について説明し、それが復活した事を告げた。
「龍……ですか。なんかヤバイ系と思ってはいましたが」
「それで、どうするんですか?エルフの皆さんを避難させるのと、トーダに連絡でしたっけ?」
避難誘導と連絡。どちらも重要だが、さてどう分けるか。
「あれ、向こうのパーティはこの事知っているんですか?」
「む。そういえば伝えてなかった。向こうと相談するとしよう。少し待っていてくれ」
そうだった。この騒ぎの理由を調べて、向こうのリーダーに伝えるって言ってあったな。今も待っているに違いない。
それを忘れるとはな。さすがに動揺していたのかもしれない。
「ザフナックの風の者だ。待たせたな」
有事で動揺しているとはいえ、ノックは忘れない。うちらもだが、女性がいるパーティだと余計に必要なマナーだ。
「ん……?」
反応が無い。向こうのリーダーがいるはずだが……。
お、ドアが開い……。
「えっと……。何か用かしら?」
出てきたのはリーダーではなかった。確かメンバーの女性だったか。
「ザフナックの風の者だ。そちらのリーダーに話があるのだが……」
てっきりリーダーが出てくると思っていたが、何かの作業中だろうか。
「アキなら、外の様子を見てくるって出て行ったわよ」
「何?! クソ、どこかですれ違ったのか」
そんなに時間が経ったとは思えないが、待っていられなかったか。こうゆう時は個別行動は避けた方がいいのだが、やはりまだ経験が浅いパーティか。
「ねぇ。何があったの?」
「……封印し直そうとしていた龍が復活したらしい。一刻も早くフォローしなければならないのだ」
アキが様子を見てくるといって外に出て行って、まだそれほど経っていない時。ドアのノックする音が聞こえたの。
アキならノックはしないだろうし、ならお客様かしら? でも誰かしら……。
「ザフナックの風の者だ。待たせたな」
サブナックの風。確か一緒に護衛任務を受けていたパーティよね。
「えっと……。何か用かしら?」
パーティ同士での交流とかかしら? でも仕事だけの付き合いみたいな感じじゃなかったかしらね。
どうやらアキに用があるみたいね。……何かあったのかしら。
「ねぇ。何があったの?」
外はまだ騒がしい。ここにいては何が起きているか分からないけれど、でも今は待つしか出来ない。
それでも、今目の前にいる人は何か情報を持っているみたいね。
「……封印し直そうとしていた龍が復活したらしい。一刻も早くフォローしなければならないのだ」
龍……。そうなのね。それが今回のトーダの目的だったのね。龍なんてものは見た事はないけれど、それでも強敵と言うのは知っている。
「役割は二つだ。エルフの避難誘導と、トーダへの連絡だ。で、誰をどうするかを決めたいのだが……リーダーの居場所は分かるか?」
そうね。エルフ達を逃がすのとトーダに連絡しないといけないのね。
アキの居場所……。召喚獣であるワタシなら、その契約者であるアキの居場所は分かる。それにパーティなら場所もなんとなく分かるはず。
アキのいる場所は分かるけど、その場所がどんな所かまでは分からない。
ワタシは、言い様のない不安を――。
「……ねぇ。その龍ってどこにいるの?」
「龍か? すまない。場所までは分からんが、伝えに来てくれた兵士は……あっちから走ってきたな」
指挿された方向は、ワタシが思っていた――思いたくなかった方向だった。
「アキ……!!」
「あ、おい! どこに行くんだ!」
「マリア様?」
「マリアお姉様?」
ワタシは止めるのを無視して、指挿された方向に、アキがいる場所へと駆ける。
「おい、ちょっと待て! 全員かよ!」
後ろからアルルとカタリーナが来ているのが分かるわ。追いかけているのか着いてきているのか分からないけど、たぶん後者よね。
「全く……。なんだっていうんだ。はぁ、どうしたものか」
向こうのパーティ――リーダーはいなかったが、メンバーには騒動の訳を伝える事ができた。そして兵士が来た方向、恐らくは龍がいる場所だろうが、そこを示した途端にその方向に走っていってしまった。
しかも一人ではなく、メンバー全員でだ。
「仕方ない……。恐らくリーダーを探しにいったか、エルフの避難に向かったのだろう」
ならばこちらはトーダへの連絡に人員を割くとしよう。
「戻ったぞ」
「お帰り、リーダー。向こうはどうだった?」
「あぁ……リーダーは不在だったが、エルフの避難に向かったぞ」
「それじゃうちらはトーダに戻るの?」
全員で行ってもいいが、それでも速度が劣る。少数で行ったほうがいいだろう。
それに……エルフの誘導だけで済めばいいが、仮に避難が難しい事態になった場合は、覚悟を決めるしかないが、果たしてそれでいいだろうか。
「あぁ、そうだな。出来るだけ早いほうがいいだろう」
「んじゃ準備するかぁ~。はぁ、結局エルフ娘と遊べなかったなぁ」
「いや……。そこで皆に相談なのだが、パーティを分けようと思う。トーダに戻る組とエルフの誘導に向かう組だ」
エルフが何人いるか分からんが、冒険者が多いに越したことはないだろう。
「まぁ護衛対象なしでトーダに戻るくらいなら、全員じゃなくても楽だろうけど……。でも避難誘導ってことはさ、龍とその……」
「あぁ。最悪は対峙する可能性もあるだろう。それを踏まえた上で、だ」
「……残ります!」
俺を一番慕ってくれている片手だ。気概はいい。しかし。
「勝手ですまんが、俺が選ばせてもらうぞ。……この三人だ」
片手に魔法組の女の子二人の三人がトーダに戻る組。残りの俺と大剣に短剣の三人だ。
「なんでですか、リーダー! 俺も残ります!!」
「いやだめだ。魔法や召喚があれば、移動も楽だろう。そしてお前はトーダに戻るこの二人を守って欲しい。盾を分散するのは当然の事だしな」
人選は最も理由を付けたが、簡単な事だ。若いメンバー三人をトーダに戻す。道中ももちろん危険だろうが、龍よりはマシだろう。それに魔法や召喚があれば、道中の相手には手間取らないだろう。
「二人には済まないが、俺と一緒にエルフを救うぞ」
「ふーん、なるほどね。分かったよリーダー。じゃあ残り組の俺は、頑張ってエルフちゃんを救いますかね」
「……御意」
「ほら、お前ら! 時間が惜しい。早く行動だ、いいな! 三人も十分気をつけてな」
「……はい、リーダもお気をつけて……。その、トーダに連絡したら、絶対に戻ってきますから!」
「……あぁ。待ってるさ」
俺に出来たのは、うちらの三人を守ることだけだ。
向こうのパーティも全員若かったな……。女性も多かったし、向こうのパーティにトーダに戻って欲しかったが、それも今となっては無理だな。
出来れば龍とは対峙したくないものだが……。出てきたら守る事にしよう。
ご意見ご感想があれば嬉しいです。
が、豆腐メンタルなのでお手柔らかに……




