04 マリアの決意と契約
雑貨屋っぽい店でカバンと、財布っぽい巾着みたいな物が買えた。二つで銅貨三枚だ。飯一回分と考えると結構安く思える。
日本で飯一回というとピンキリはあるが、外食となると平均五百円くらいか? ファーストフードとかならもっと安いだろう。
朝食べた宿の飯の内容からすると、さすがに五百円とは言い難い。銅貨一枚が百円くらいと考えていいのかな。となると、本二冊で八千円か……。参考書と思っても高いな……。
でも宿は一泊二千円になるのか。ホテルとか旅館って訳でもないし、この世界では冒険者とかがメインになるだろうから、そこの値段設定は違うのかな。
って事は、銀板は十万円になるのか。三枚分あるから三十万円……。日本基準で考えるのは間違いだと思うが、マリアを創った爺さんは三十万円を持ち歩いていたってことになる。不用心だな。そのお陰で俺達は助かっている訳だが。
さて、後は……そういえば服も買わないとダメかな。今って着ていた部屋着にローブだし、この世界では怪しい格好だろう。あー、マリアの服もか。可愛い服って売ってるのかな。
そんな感じで、他に何を買うか考えていた時。
「アキ、ワタシ武器屋に行きたいわ。武器が欲しいの。後防具も」
ずっと黙っていたマリアが突然言い出した。マリアサン、何を仰ってるんですか。
「さっきのステータ石っていうので思ったの。ワタシって召喚獣なの
は確かだけど、『人』なんじゃないかって。んーと、うまく言えないわね」
「よく分からないぞ……。『彼女』の召喚獣ってことだから、『人』の性質も持っているって事か?」
「そうそう、分かってるじゃない。戦闘系の能力はないけど、『人』だから成長も出来るというか、普『人』として戦えるんじゃないかなって思ったのよ。もちろんまだ見た目相応の戦闘力しかないけどね」
ふーむ。召喚獣ではなく人としてか。冒険者ギルドで、冒険証を見て言っていたのはこの事か。しかし、だ。
「ダメだ、マリアを戦わせることはしない。俺が戦うから大丈夫だ」
可愛いマリアに戦いなんて似合わない。そういうのは男である俺の仕事だ。確かに俺は戦いなんてしたことはない。自慢じゃないが部活はいつも文化系だったが、人なりには体力はあると思っている。
「そういうと思っていたわ。でもね、アキ。アナタは後衛でしょ? 後衛だけで魔物と戦うのは無謀よ。他にパーティでも組めば別だろうけど」
「ぐ……、それは正論だ。だけど前衛が出来る召喚獣とか覚えれば、一人でもいけるだろ」
「だから、それがワタシなのよ。ワタシだってアキの召喚獣なのよ。ただ『彼女』なだけじゃなくて何かしたいのよ。いやすべきなのよ」
気持ちは分かる。だけど……。
「それに、アキが冒険している間ワタシは何をしていればいいの? 宿屋にいればいいの? アキの後ろにいればいいの? だったら召喚解除してくれてたほうがいいわ」
マリアの気持ちか。一人の召喚獣として、一人の人として役に立ちたいと。召喚獣の、マリアの思い。
俺が異世界に召喚されてから、隣にはいつもマリアがいた。マリアがいて、俺は楽しかったし嬉しかった。
しかし、マリアはずっと抱え込んでいたのかもしれない。俺をこの世界に召喚してしまい、巻き込んでしまった事を後悔しているかもしれない。
俺は気にしていないし後悔していない。そしてマリアも後悔させたくなんかない。
「……危険なこともあるかもしれない。怪我もするかもしれない。それでもいいのか?」
「ワタシは召喚獣よ。怪我をしても、アキが無事なら大丈夫よ。だからワタシがアキを守るわ」
「そうか……。分かった。それじゃ俺を守ってくれ。俺はマリアを守るから。それでお互い様だ」
それじゃ意味ないじゃないのよと、困った顔をするマリア。
誰かが傷つくところを、俺は見たくない。それは召喚獣だってそうだし、マリアもそうだ。それで俺は後悔はしない。互いに助け助けられ、一緒に冒険をするんだ。
「それじゃ、改めてよろしくな、マリア」
俺はマリアに手を差し出す。
「仕方ないわね。……それでいいわよ」
マリアが俺の手を取る。俺とマリアは握手をした。
名前を付けるだけの契約。宣言するだけの契約。召喚士と召喚獣としてはそれでいいだろう。
しかし、俺達は互いに思いをぶつけ、理解し合えた、信頼し合えた。俺とマリアの契約は、この時本当に成されたのだと思った。
「決着が付いたばかりで悪いんだが、このまま武器屋まで走るぞ」
思い返せば結構恥ずかしい会話をしていた。そこまで大きな声じゃなかったし、人通りも少なかったんだが、若いカップルの痴話喧嘩と勘違いされたのか、おばちゃん達の「若いのはいいわねぇ」みたいな目線をチラホラ感じていた。
実際俺も恥ずかしい。これは異世界で舞い上がったテンションなのか? マリアが可愛いせいもあるだろう。
今だって握手しちゃってるしな。冷静になると、マリアの手はぷにぷに柔らかくて小さくて温かい。こんな手で戦えるのだろうか。
おっといかんいかん。共に戦うって決めたんだよ。マリアは仲間なんだ。
しかし、やはり友達以上彼女未満だった間柄から、一歩前進しました! って空気じゃないか。そうじゃない、そうじゃないんだよ。
マリアは従妹、そう従妹だ。だから何の問題もない。
とりあえずこの雰囲気から逃れるために、この場から逃げるとするか。
「よっしゃ、行くぞマリア!」
「え? あ、ちょっと。いきなり走らないでよー」
あ、マリアと握手、もとい手を繋いだままだった。
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