31 謁見と褒美?
「この度の活躍、真に大儀であった」
……さて、このおっさんは誰なんでしょうか。自己紹介くらい欲しいものである。
「これは失礼。順番が逆だった。こちらにおわすは、この国の王。ジークムント・ブリッツェ・グーベラッハ 様で御座います」
そう紹介してくれたのは、さっき誘導してくれたおっさんだ。
ですよねー。やっぱ王様ですよね。
「む。そうであったな。名乗るのが先であったか。まぁなんとなく分かっていたであろう?」
「い、いえ……。何分このような場は初めてですので……」
「あぁ、無理に振る舞わなくても良い。貴殿が冒険者というのは知っておるし、何より我が娘、エリーゼの命の恩人なのだ。硬くならなくとも良い」
「ありがとうございます」
そうは言ってくれたものの、とりあえず敬語っぽいのを使って、それらしく振る舞っていればいいのかな?
「さて……。王として、そして一人の父親として改めて礼を言おう。ありがとう」
「いえいえ……たまたまです。運が良かっただけです」
頭は下げていないけど、王様が自らお礼を言っているのだ。かなり異質な状況のはずだ。
「聞いた通りの人物のようだな。あぁ、貴殿の事はエリーゼから聞いているぞ。おっと、自己紹介を続けねばな。私の右側が私の妻、ツェツィーリアだ」
「初めまして。私からも礼を言わせてくださいね。本当にありがとう」
「左側にいるのは知っているだろう。エリーゼだ」
「うむ。久しいな。貴殿に命を助けて貰ったエリーゼだ。父様と母様も言っているが、本当に感謝している」
王様は威厳があるけど、どこか優しそうにも見える、そんな王様だ。父親の顔と王様の顔を持っているのだろうか。今はどちらかというと、父親寄り?
その妻と紹介された人は、綺麗な女性だ。そして若く見える。お姫様のお姉さんと言っても通じるくらいだろう。本当に若いのか、それともそういう人なのかな。
そしてお姫様――エリーゼ様だ。ダンジョンで会ったような冒険者の格好ではなく、ドレスを着用している。そのせいで、誰だか分からなかったほどだ。正直綺麗だ。これがお姫様ってやつなのか。
「そしてそこにいる男がギュンターだ。騎士団の団長をしておる」
「ギュンターです」
騎士団の団長か……。なんか威圧があると思ったら、騎士だったのか。護衛って事なのかな?
「こんな狭い所で申し訳ない。こちらも色々事情があってな。いつもの謁見の間を使う訳にはいかなかったのでな。詳しくはギュンターから報告して貰おう。貴殿にも聞く権利はあるはずだ」
「では僭越ながら、私から説明させて頂きます。今回の事件のあらましについて――」
貴族が魔物を倒したり、ダンジョンに潜る制度はこの国ならではの規則だ。机に座っているだけでは、貴族としての責務を全うしているかどうか分かりにくい。特に、平民に対しては顕著だ。
そのため、この国では貴族であろうと武を示すのが習わしとなってきた。
もちろん反発もあった。貴族といえば、権力と金で何でも思いのままの階級で、平民なんて気にしなくていいと思う派閥だ。
それを抑えてきたのが代々の王族だった。
特に今の代の王女であり姫騎士たるエリーゼ姫は、王族として率先して前に立っており、まさに象徴とも言えた。
もちろん、武を前向きに取り組んでいる貴族もいる。面白くないのは、反対派である。王女が率先してやっているため、貴族ももっとやらねばという雰囲気になっているのが気にくわないのである。
反対派の動向には注意を払っている国であったが。
「まさかクルーグハルト伯爵が反対派だとは、誰も思わなかったのです。象徴たる姫騎士を害し、この制度に異を唱えるつもりだったようです。さらに、あわよくば自分の娘をいなくなったエリーゼ様の代わりに養子に出し、自らの地位をより高めるつもりだったようですね」
武の象徴であり、民にも人気があった姫騎士がダンジョン内で死ぬことになれば……。なんでそんな危ない事を認めているんだ! という流れになる。
姫騎士を殺したのは制度であり、そして国であり、王の責任という事になる。制度が廃止、王の力も弱まるだろう。そうなれば、貴族がより貴族らしくなれる国に出来る、してやるというのが反対派の作戦だったようだ。
「作戦の立案と実行犯、関わった者は全員処分しました。もう二度とこのような事は起こしません」
「……クルーグハルト伯爵は私にとっても、国にとっても頼りになる人物であった。それがこのような事になり、残念である。今回の事を受け、この制度を少し見直すつもりだ。もちろん反対派に屈するつもりもないが、歩み寄らなければならないのだ」
今回の経緯を説明してくれたのはいいけど、俺達に関係あるのだろうか……。国に関係の無い冒険者だし、結構重い背景があったし、処分とか出て来たし……。
「数日掛かってしまい貴殿らを迎えるのが遅くなってしまったのだ。それにそういう事情のため、表立って貴殿らを迎える訳にも行かない。そのため、こんな時間にこんな所でという訳なのだ」
……まぁ表立って迎えられても困るから別にいいけどね。
「さて、重い話はここまでにして、報酬の話に移ろうか」
報酬? 貰える……のか?
「報酬……ですか?」
「そうだ。仮に、エリーゼが死んでいたら、この国は無くなっていたかもしれない。そう考えると、貴殿らはこの国を救った救世主と言えるのかもしれぬ」
いやいや、それは言い過ぎでしょ?
「ともあれ、エリーゼを救ってくれた事は事実だ。話を聞く限りでは、オークジェネラルの攻撃から救い、さらにオークジェネラルを撃破したというではないか」
「いえ、最後に倒したのは、お姫さ……エリーゼ様です」
「とはいうがな。私が最後の一撃を与える事が出来たのも、貴殿らのお蔭だ。貴殿らいなければ、毒のせいで碌に動けなかったろうしな」
「という訳だ。姫を救い、その脅威を取り除くために尽力した貴殿らに、褒美として金貨二○○枚を与える。ギュンター」
「はっ! こちらになります」
確か、前の盗賊を倒した時が金貨五○枚だったはずだ。それの四倍。姫の命を考えれば安いのか?
「あ、ありがとうございます……」
金貨二○○枚となるとずっしりと重い。大金すぎて重い。これだけで暮らしていけるんじゃないだろうか……。
「さて……。褒美とは別に、お願いがあるのだが、聞いて貰えるかな?」
お願い? 金貨を受け取った後にお願いって、罠かよ!
「実はな。今回の事で、身寄りを無くした子供がいるのだ。普通ならば、どこかの養子や孤児院に預けるのだが、本人は冒険者を希望していてな。実際、冒険者としての実力はあるため、こちらとしても問題はないのだが」
「はい、実力は十分にあります。騎士団で預かるのもいいのですが、事情と本人の希望により、冒険者がいいと」
「それで、我々としても我が国の子供を一人で野に放つのにも抵抗があってな。出来れば、どこかのパーティに加えてやりたい考えているのだ」
確かに、ソロの冒険者というのは珍しいだろう。実力はあっても、一人では敵わない場合もあるだろうし、野宿なども一人では大変だろう。それだけの実力が伴っていれば平気なのかもしれないけど。
「そこでだ。どこかのパーティに入るにしても、パーティの能力面と性格面などで難儀しておってない。いくつか候補となったパーティはあったが、どれと言われると厳しいのだ」
「騎士団の人間から立候補者も募りましたが……。さすがに騎士を辞めてまでという者はいませんでした」
「だがな。幸いな事に、我々は能力も性格も十分に満たしているパーティに心当たりがあるのだ。エリーゼの推薦もあったのもあるが」
「あぁ。私もいくつかのパーティに覚えはあるが、その中でも最高の者と思っているのだ!」
いくら王様からの命令と言えど、今更誰かを加えるパーティがあるのかな? さすがに面と向かっては断れないと思うけど、生意気だったり変な奴を紹介されたらと思うと、そのパーティが可愛そうだ。まぁ何かしらの考えがあるのだろう。
それにしても……。何故俺達のこの話をしているのだろうか? これも今回の事件の報告に含まれるのか? さっきのお願いって何だろう。
「さて、そのパーティだがな……。それは、貴殿らの事だ」
な、なんだってー! ってまぁ薄々気づいていたけどね。
「お褒め頂き、ありがとうございます。ですが我々は事情がありまして、パーティはこの三名でと」
そうだ。イヴァン達と合流する事を考えたら、俺とマリアとアルル、イヴァン達が三人でパーティの上限六名になる。そこに誰かが入り込む余地はない。
「貴殿らの事情も承知しておる。それまでの間でもよいのだ。パーティの控えでもいい。何より、本人が同行したいと言っておるしな。それに……、一国の王の私が口添えをすれば、冒険者ギルドへの要望も聞き届けられやすくなると思うのだが、どうするか?」
これはつまりあれですね。反対すれば、圧力を掛けるぞっていう脅迫みたいなものですよね……。
いくら王様の命令と言えど……言えど……。
「分かりました……。合流するまではパーティに加えましょう」
「うむ。賢明な判断だ。では、その子を呼ぶとしよう。ギュンター」
「はっ! カタリーナ、入りたまえ」
入ってきた女の子は、たまに冒険者ギルドで見かけた貴族っぽい子だ。そして、あのオークとの戦闘の時に、お姫様と一緒にいた女の子だ。
「名前はカタリーナ。後衛だな。弓と魔法が扱える」
「カタリーナです。今回は皆様のパーティに加えて頂きありがとうございます。マリアお姉様のお役に立てるよう、精一杯頑張ります」
そうだ。確かカタリーナって名前だったな。ってあれ? 貴族じゃないのかな。なら姓を名乗ると思うんだけど、気のせいだったのか?
それに、マリアお姉 様?
「カタリーナは……実は今回の主犯のクルーグハルト伯爵の娘だったのだ。クルーグハルト伯爵らは全員処分したが、カタリーナはその計画を知らなかった事、そして命掛けでエリーゼを守った事を評価し、貴族位を剥奪という処分に落ち着いた」
「しかし、表向きは死罪となっております。ですので、カタリーナがこの王都で暮らすのは難しいため、冒険者の道を勧めました。それが無ければ騎士団でも優秀な使い手になれたのですが」
確かに。こんな小さな子供――まだ小学生を卒業はしていないくらいの子供が、そんな事に加担する訳もないよなぁ。
「今回の事情を知らん者も多いが、知ってる者からすれば、カタリーナは反乱者の娘だ。その点でも、王都で面倒はみれない」
「カタリーナは私の妹のような子だ。離れ離れになるのは悲しいが、それもカタリーナが決めた事。ならばせめてと、アキヒト殿達にお任せしたい。本人もマリア殿を慕っているようだしな」
「はい、マリアお姉様は私の憧れです! マリアお姉様のように、強く美しくなりたいです!」
「といった訳だ。アキヒト殿、マリア殿、アルル殿。カタリーナをよろしく頼む」
この子、俺の方を見てくれないんだけど、よっぽどマリアの事が好きなのか?
多分、イージスの盾を装着した守護聖母マリアのマリアを見て感動したんだろうな。あれは俺も感動したし。
「分かりました。お任せください」
元貴族だし、仲良くなるのは難しいと思ったけど、マリアに任せよう。後衛が増えるのは嬉しい事だしな。
「うむ。願いを聞き入れてくれて助かるよ。あぁ、そうだ。先も言ったが、カタリーナが王都にいるのは非常にマズイ。なので、そのパーティである貴殿らは、近日中に王都から出て行って貰いたい。すまんがな」
な、なんだってー!
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