30 日常と呼び出し
あれから大変だった。
なんか大勢で来た冒険者は、お姫様を探しに来た貴族の私兵だったようだ。
なのに、いきなり三人ほどが拘束されて何が何やらだったけど、どうやら今回の事件の首謀者がいたらしい。犯人は現場に戻るって事か? それで捕まったら駄目だろうに。悪さは出来ないって事だな。
それで、残りの私兵さんと一緒王都へと帰還した。爺さんは目覚めてなかったけど、私兵さんが二人掛かりで運んでくれたので助かった。
道中は魔物も少なく、俺達は安心して歩く事が出来た。私兵さんが優しかったが、どうやら命の恩人とお姫様に説明されたようだ。感謝もされて、少し照れ臭かった。
冒険者ギルドに無事に着いたのはいいけど、着くや否や大騒ぎだった。
お姫様の無事を喜ぶ人。爺さんが意識不明なのを心配する人。捕まってる人を見て驚く人などなど。明らかに俺達は場違いである。さっさと俺達の受けた依頼を報告して休みたかったが、それどころではなかった。
なので、諦めて宿に戻ろうとした所でお姫様に話しかけられてしまい、注目を浴びてしまったのだ。
どうやら、後でお礼をしたいという事で、利用している宿を聞きたかったようだ。
速やかに、だけど丁寧な返答をして、俺達も疲れているのですみません、と断って抜けてきた。
数日後にという事なので、なるべく連絡が取れるように、らしい。
冒険者ギルドを一歩出ると、そこはいつも通りの風景だった。今回の騒動は表に出ていないのかもしれない。冒険者ギルドの中は騒がしいが、それでも情報は漏れていないようだ。
追撃の心配もなく、宿に戻った俺達だったが。
「さすがに色々と疲れた……。みんなは平気か?」
「ワタシはそこまでは疲れてないわね。あの盾……鎧のお陰かしら」
「アルルは疲れました……です」
「お姫様からの連絡がいつ来るか分からんな……。数日って事だったけど、まぁしばらくダンジョンに行く気もないし、休むか」
「そうね。さすがにあのオークは大物だったし、少し休息も大事よね」
「アルルもお休みします、です」
みんな大きな怪我が無かったのは幸いだが、あんな奴とは二度と戦いたくない。いや、いつかは戦う必要もあるんだろうけど、それでも今回のは成り行きすぎた。もっと準備をしてから挑む系だろう。
ともあれ、今回は疲れたので、お姫様の件が無くとも数日は休もうと決めていた。さすがに一週間とかになると身体が鈍ってしまうが、二、三日ならいいだろう。
それから三日後。
あの騒動で報告をしていなかったクエストの報告を早々と済ませ、後は適当に王都を散歩する日々を送っていた。
街は平和だった。お姫様が危なかったというのに、いつもと変わらない様子だった。それだけ、お姫様の強さが信頼されているか、もしくは秘匿されているかだろうか。
知らせが来たのは、そんなまったりな過ごし方をしていた日々の夕暮れ時だった。
マリアとアルルと一緒に、宿で少し早めの夕食を取っていた所だ。
「失礼致します。お食事中に申し訳御座いません。アキヒト殿という冒険者の方はこちらにいらっしゃるでしょうか」
丁寧な言葉を発したのは鎧を纏った――恐らく国の兵士なのだろう。この人が連絡員? なのだろうか。
「アキヒトは私ですが……」
「失礼ですが、冒険証を……ありがとうございます。確認が取れました。急で申し訳ありませんが、今からお越し頂きたいのですが……」
冒険証の名前の部分を提示させ、身分を証明したのはいいが、今からだと? ちょうど食べ終わるし、別にこの後の予定なんてないんだけど、こんな時間にお姫様に会うのか?
「構いませんが……今からでしょうか?」
「はい、今からです」
やっぱり今からみたいだ。これはどうにも出来なさそうだし、行くしかないか。
「……分かりました。マリア、アルル。そういう事だから、ちょっと行ってくるよ」
「いえ、お連れ様もご一緒にという事ですので、お願い致します」
え? 俺だけじゃなく皆か? まぁいいって言うならいいのかな?
「分かりました。後着替えた方がいいんでしょうか? こんな服装なんですけど」
夕食を取っていた俺達だ。格好は部屋着と行かないまでも、普段着である。冒険者といえども、さすがに宿の中では武具は身に着けていないので、まったりである。
「はい、そのままで大丈夫です。冒険者の方々なのは承知しておりますし、お綺麗な服装ですので」
いいのか……。そりゃ汚れとかもないし、ほつれてもいないけど、普段着だぞ……? 逆に申し訳ない気持ちになるけど、いいならいいんだろう……。
「外に馬車を待たせていますので、そちらにお願い致します」
馬車……だと……。
馬車に揺られる事十数分。初めて乗ったけど、乗り心地は中々だった。
どこに向かっているのか気になったけど、王都からは出ていないようだ。それどころか、少し登っているような?
「到着いたしました。こちらにお願い致します」
馬車を降りると、目の前には大きな建物が建っていた。恐らくは……この王都で一番でかい建物だろう。
「あの……ここって……」
「ご案内致しますので、こちらへ。問題ないと思いますが、発言や行動にはご注意くださいませ」
王都で一番でかい建物で、言動に注意しろって……。ここ、お城じゃないですか!
だけどここは正面ではないようだ。裏口……があるのか分からないけど、入口も小さいしもしかしたらお城じゃないのかも?
兵士の案内に着いて、建物の中に入ったはいいけど、途中には警備と思われる兵士が立っているだけの通路が続いている。
通路は広いし、途中には立派な装飾品だったり、部屋があったりした。お城かどうか分からないけど、明らかに生活水準のレベルが違う事は確かだった。
「こちらの部屋でお待ちください。中にメイドが控えておりますので、何かありましたらお伝えください。それでは私はここまでですので、失礼致します」
「ありがとう……ございます」
案内された中に入ると……、そこは俺達が泊まっている宿屋なんて目じゃないくらいの豪華な部屋だった。椅子に机、壁に掛かっている絵画なんて、一体いくらになるのか分からない。
そして中には一人――メイドさんが立っていた。お城じゃないにしろ、どこかの上級貴族とかの家なのか?
「まだ少しお待たせすることになりますので、どうぞお座りになってお待ち下さいませ。お飲み物はいかがでしょうか?」
「あぁ、じゃあ……何か飲みやすいので」
「ワタシも同じのでいいわ」
「……」
「アルル……? あ、この娘にも同じので……」
マリアは何とも無さそうに見えるが、アルルは緊張しているのか、半分気絶しているような感じに見えた。俺も緊張しているけどね。
メイド さんはお茶を準備してくれた。その動きは綺麗で、本当にメイドさんだった。……そのお茶の味はよく分からなかったです、すみません。
「あの……ここってどこなんでしょうか?」
「私からはお伝え出来かねます」
「えーっと、お茶美味しかったです」
「ありがとうございます」
何か雑談でも出来れば気が紛れるかとも思ったけど、メイドさんは仕事に真面目なのか、それともそういう人間なのか、会話が続かなかった。
一番気になっていた、ここがどこなのかも分からないし……。
普通に考えれば、お姫様のお礼って事でお城になるんだろう。でも一介の冒険者をお城に迎え入れるのはどうなのだろうか?
ゲームとかだと、ずかずかと主人公たちはお城に侵入したりするけど、あれはゲームだしなぁ。
そうすると、お姫様の家? でも家ってお城だよな? 自分用の部屋というか建物を持っているのかな?
考えても分からん……。危険な事はないとは思うけど。
緊張しながら、何もしないで待った。何分経ったのか分からない。
コンコン、とドアをノックする音が救いの音に聞こえた。
「失礼致します。準備が整いましたので、お客人方はこちらにお願い致します」
そういって入ってきたのは、同じくメイドさんだった。いや、部屋にいたのは若かったけど、部屋に入ってきたのは熟練のメイドさんという感じだ。
今気づいたけど、この部屋にはドアが二つあるようだ。入ってきたのとは別のドアへと案内された。
メイドの案内されるまま進むと、すぐに大きなドアが見えてきた。ここだろうか?
「こちらになります。中に入りましたら、中ほどまでお進み下さい。礼儀にはうるさくない方ですが、言動にはご注意下さいませ。兵士やメイドにして頂いた態度で結構で御座いますので」
「え? えっと、中にはどなたが……」
「どうぞ」
俺の心の準備や質問を受け付けずに、そのドアは開かれた。
普通の部屋よりも広い空間だ。ここも何かの部屋なのだろうか。
恐る恐る中へと進むと、椅子のような物と、そこに座っている人。そしてその横に立っている人が二人、その二歩ほど手前に立っている人が一人いた。
「そのまま前へ……。あぁ、そこでいい」
よく分からないまま言う通りに進むと、そこでストップが掛かった。これ以上はいけないのだろう。
「突然の呼び出し、申し訳ない。あぁ、体勢を楽にしてよいが……緊張しているのか……。まぁいいか」
誘導してくれたその手前の人がそう言ってくれるが、楽に出来る訳もないだろう。
さて、ここはどこで、目の前の椅子の人は誰なのかな。大体想像が付くけど、当たっていて欲しいような、欲しくないような。
「では、陛下。お願い致します」
ご意見ご感想があれば嬉しいです。
プロットは(脳内に)ありますが、大体アドリブです。
細かい所で食い違っていたらすみません。




