29 報告と捕縛
忘れてました……
多少勢いに任せてしまったが、結果としては無事にオークを倒す事が出来た。
「さて……色々聞きたい事もあるが、まずは礼を言わせて欲しい。貴殿らの助けが無ければ、我々はここで死んでいた。ありがとう」
「い、いえ。大した事はしてませんし、倒せたのもお姫様のお陰です。頭を上げてください」
お姫様が頭を下げて礼を言ってきたので、慌ててしまう。貴族よりも高い地位の人が頭を下げてきたのだ。慌てるのも当然だ。
「あれを大した事ではないと……? ふむ、謙遜するのもいいが、誇るべき戦果なのだぞ?」
倒せたのは奇跡とまではいかないかもしれないが、それでも色々な要素がいい方向に重なったからだと思う。
イージスの盾が思い通りの働きをしたのもそうだし、お姫様の助言も大きい。
「そ、それよりも、そちらの御老人は大丈夫でしょうか?」
女の子は目を覚まし、平気そうな感じに見えるが、爺さんはまだ目覚めていない。助けられなかったとか言えるような立場ではないが、出来るなら助けたいし、目覚めが悪い。
「うむ。セバスはこの程度でくたばる奴ではない。その内目を覚ますであろう。そなた達も疲れたであろう? しばらく休むといい」
「ここは安全なのですか?」
さっきまででかいオークが闊歩していた場所だ。休みたいのは山々だけど、またあれが出てきたらと思うと、安心できない。
「それは問題ない。中ボスの復活には数日は掛かるのでな。それにここには他の魔物は入ってこない。オークジェネラルさえ倒してしまえば、この山でここほど安全な場所もないぞ?」
「そうですか、それならば休憩しましょうか。正直、疲れましたし」
体ももちろんだが、精神的にも魔力的にもきつかった。本当に倒す事が出来てよかった。
「マリアもアルルも気にしないで休んでくれ」
「わ、分かりました」
「そうね、さすがに疲れたのだけれど……。この装備はどうにかならないの? さすがにこの格好は気が休まらないわ」
イージスの盾製のプレート装備がそのままだった。色々と効果はあるけど、さすがにもう不要だろう。
「あぁ、そうだな。解除しておこう。ベアルカス、君もお疲れ様だ。休んでくれ」
残っていたイージスの盾とマリアのプレート、それにベアルカスと俺の召喚物を全て解除する。
これで本当に休憩できるという訳だ。
「うーむ……。やはり召喚士。それもかなりの使い手か……。これはどうなるのか解らぬな。それにしても、今回の黒幕は……。そちらも重要事項だな」
「そ、それは本当でしょうか? 姫騎士様がほぼ単身でオークジェネラルと対峙しているというのは?!」
「我々もはっきりと見たわけではありませんが、パーティの方もいなかったように見えました」
「それで報告に?」
「はい。我々が助力したとしても、足手まといになるだけですので……。急ぎ報告をするのが務めだと思いましたので」
「……分かりました。報告、ありがとうございます。姫騎士様なら単身でも負けないとは思いますが……援軍の準備を。貴方達は戻って構いません」
さてさて、これで最後の仕事も終わりましたね。援軍ですか……。今頃はもうお姫様は肉塊になっていると思いますが……。それはそれで、どうやって姫様だったと判断するんですかね……? まぁ、何かあるのでしょう。
「さて皆さん。冒険者ギルドに報告もしましたし、お言葉に甘えて休みましょうか」
今回のように表で派手に動く仕事は久々でしたし、早い所雲隠れしたいところですね。もう帰っていいみたいですし。帰りましょうか。
それにしても……。姫様を害して、一体依頼主はどうするんですかね。まぁそれはこの国に任せて、帰り……おや?
「これは一体何の騒ぎかね? そこの受付の者、何か知っておるか」
「これはこれは。クルーグハルト伯爵様にクニュッペル子爵様ではないですか。本日は何の御用でしょうか?」
「挨拶は良い。何やら騒がしいが、何かあったのか?」
「実は、姫騎士様が単独でオークジェネラルと戦っているという報告が、先ほどありまして。どうして単独なのかは不明ですが、何かあってはいけませんので、急ぎ調査と援軍の準備をしている所でございます」
あれは……今回の依頼主ですね。こんな所にまで来てしまうとは……。それだけ待ちきれなかったのでしょうか?
ともあれ、もう依頼は済みましたし、顔を合わせるものでもないですね。早く立ち去りましょうかね。
「なるほど、それは一大事ではないか。その役目、このクルーグハルトに任せてもらおうか。我が私兵の練度はオークジェネラル相手でも十分だ。これからダンジョンに潜るつもりだったしな。このまま行くぞ。クニュッペル子爵、念のため城に報告を頼む」
「クルーグハルト伯爵様を行かせる訳には……」
「姫様の一大事かもしれぬのだ。それに、万が一にも何かあった場合、その責任はどう取るのだ。私の部隊ならば助けられる事が出来るのだぞ!」
「わ、分かりました……」
やれやれ……。まさか自分で確認しに行くだなんて……。もしかして、我々の仕事を疑っているのですかね? そうならばこちらにも考えがありますが……。さすがに今は無理ですね。置いておきましょうかね。
「それでは出発しよう……ん? そこに兵士風の二人。お前らは国の兵士じゃないか。見た事があるぞ。姫様の、国のために働くのだ。一緒に来い」
「え、あの……。はっ!」
おやおや、今回の協力者の二人が連れて行かれちゃいましたね。まぁあれくらいなら我々には不要ですし、待つのもあれですしね。諦めますか。あれは報酬とは別でしたしね。さて……。この国ともおさらばですね。
体力も魔力も結構回復してきたな。オークがいた広場――こんな所でだけど食事もしたし。……お姫様の口にあったかどうか分からないけど、俺らだけ食事というのもなんだし、提供したけど……。
「美味しいですね、姫様!」
「う、うむ? これは……。高級な素材が使われている訳でもないのに、この味……。これほどの料理の腕とは……」
なんか好評だった。まぁマズイと言われるよりはいい。マリアの飯は最高だしな!
そろそろ戻るのもいいけど、問題は爺さんだ。未だ目覚めないし、運ぶとなるとそれだけで重労働だ。体格的にはJrが一番だけど、Jr無しでこのダンジョンを進むのは不安要素だ。
馬車とまではいかないけど、担架、もしくはリアカーのような物があれば楽なんだけど……。さすがにそれを創るのはどうだろうか?
「アキヒト様、誰かここに近づいています。人数は……多いです。六人よりも多いです」
そんなまったりとしていた所に、アルルからの報告が成された。
「ほぅ? まだ私は気づけないが……。さすがは獣族といった所か? 恐らくは冒険者だと思うが……。さて、ここまで来る冒険者というのも珍しいが、大方オークジェネラル目的だろう。もう倒されてしまっているがな」
アルルはさすがだが、お姫様の冷静さも凄い。
六人よりも多いということは、一パーティではないという事だ。二パーティかもしれないし、護衛や荷物持ちなんかかもしれない。それほどの準備ということは、ここの中ボス狙いって事か。
「ふむ。警戒しながらも近づいてくるな。どれ、私が説明してきてやろう。其方らは休んでいろ」
「姫様、ならば私が!」
「カタリーナ。其方も休んでいるんだ。怪我はないとはいえ、疲れてるだろう? それに私が前に出た方が向うの冒険者も安心するだろう。私の身体も十分に回復したしな」
俺も行こうかと思っていたけど、なるほど。冒険者同士の揉め事は基本避けるというルールだが、中ボス目当てに来たのに倒されていたとなると、向うのパーティが苛立つかもしれないな。だけど、お姫様ならば、それは安心という事か?
「では……。お願いします」
さて、ああ言ったものの、こんな所に来る冒険者は少ないはずだ。あのアヒキトとかいう冒険者が来たのも稀有な事なのだが、それは置いておこう。
「気を付けろ。オークジェネラルがいるかもしれない。さすがの姫様も……」
「……戦闘音がしません。オークがいる気配も……?」
「もしかして、姫騎士様が倒されたのでは……?」
人数も多いし、それにどこぞの私兵のようだな。もしや私を助けに捜索隊でも来たのか? まだ私には気づいていないようだが、それもそうか。ここは本来はオークジェネラルの領域。警戒しているのは当然か。
「そこで止まれ。其方達は冒険者か?」
余りにも近寄ってこないので、こちらから声を掛けることにした。
「私は第三王女、エリーザ・ブリッツェ・グーベラッハだ。其方達は何者だ!」
「姫様……?」
「おい、誰だよ。姫様がやられたかもって言った奴は!」
「ご無事ですか、エリーザ様!」
喜びの声を掛けてきてくれるのは嬉しいが、され、代表者は誰だ
「うむ。私は無事だ。それで其方達を率いているのは……。おや、そこに居られるのはクルーグハルト伯爵ではないか。伯爵自らとは、ご苦労だな」
見知った顔を見つけ一安心といきたい所だが、誰が敵か分からない現状では、例えクルーグハルト伯爵といえど安心は出来ない。
「それで、これは何のパーティなのだ? 残念ながらオークジェネラルは我々が倒してしまったのだが? それとも他の用事でもあるのか?」
「姫……様? ご無事で……? 怪我や毒などは大丈夫なのでしょうか? いや、何故無事なんだ! あの麻痺毒は特注のもので、常人ならば動くことも出来なくなるはず。次第に麻痺で死んでしまうか、もしくはオークジェネラルに殺されるはずだ!」
ほぉ。さすがにこの展開は驚きだ。まさかクルーグハルト伯爵が黒幕なのか? それとももっと上の――王族の誰か?
「まるで私に死んでほしかったみたいに聞こえるが? おや? それにそっちの二人はさっき振りの顔じゃないか。私を殺そうとした者がな何故戻ってきたんだ?」
「なっ……! いえ、これは誤解で……。ええぃ、お前ら、この姫をここで殺せ! 殺した者には褒美を与えるぞ!」
「クルーグハルト伯爵様……?」
他の私兵と思われる者は衝撃を受けているようだ。うろたえている。ということは、少なくともこの数人は裏切り者ではないか?
「もうよい。其方ら、クルーグハルト伯爵とそこの二名を拘束せよ。罪状は反逆罪だ。これは命令である」
「えっと……はっ!」
「ま……、くそ、離せ! 私はクルーグハルト伯爵だぞ! お前らの雇い主なんだぞ!」
「ここで首を落とされたくなければ、大人しくすることだな、クルーグハルト伯爵。弁明は後で聞こう」
さて、とんだ結果になったが、反逆と思われる者三名を捕縛出来たか。実行したあの冒険者風の男は、既にここから脱しているだろうな……。
この三名以外の七名は、クルーグハルト伯爵の私兵のようだが、私を害する派ではなかったようだ。手の空いている私兵を連れて来ただけなのだろう。
「そうだ、手の空いている者は手伝って欲しい事がある。重傷者がいるので、運んでくれ」
ともあれ、これで人手は確保出来た。セバスをどう運ぼうか悩んでいたが、この者達が来てくれて助かった。
それにしても……。今後の事を考えると、さすがの私も気が重いな。
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