25 変身と戦乙女
お姫様達の応急処置は出来たし……。さて、これからどうしようか。
イージスの盾があるお陰で俺達は無傷だ。だがそれもずっとは続かない。
イージスの盾は高性能だ。それに見合った魔力が消費される。絶対防御と範囲防御の能力は常に展開されているようなものなので、維持コストはかなりキツイ。
これからの行動案は二つある。
まずは逃げるという案だ。
そもそも、中ボスに挑むつもりは無かったのだ。お姫様達の回復を待って、この場を脱出。これが一番しっくりくる。
その場合、問題になるのは、お姫様達の回復がどれくらい掛かるかだ。それまで、イージスの盾――俺の魔力がもつかどうかがポイントだ。最悪、お姫様達を担ぎつつこの場から逃げるという事になるだろう。
……もちろん俺が担ぐのは、爺さんか女の子になるだろう。さすがにお姫様を俺が運ぶのは、まずいんじゃないかと思う。俺が爺さんを運べるかどうかも不安だけど。
二つ目の案は、あのデカイのを倒す事だ。
何を馬鹿な事をと思われるかもしれない。俺だって最初はそう思っていた。
でも、イージスの盾が思っていたよりも頑丈だったため、これはいけるのかもしれない。そう思い始めたのだ。
そうなると、あの魔法を撃ってくる奴が邪魔になる。デカイの一匹ならば、うまく囲めばなんとかなるかもしれない。まずはあの魔法を撃ってくる二匹をなんとかするのが先決だろう。見た目からして、取り巻きっぽいし。ボスは取り巻きから倒すのは鉄則だよね。
だがここで問題になるのが、誰が倒すかだ。あの魔法を普通に喰らった場合、どれだけのダメージになるのだろうか。俺達の防具では厳しいだろうか。
守る対象は、マリアにアルル、お姫様達三人に、そして俺だ。イージスの盾で守られている今は安心だ。でもそれはいつか俺の魔力切れという結果で崩壊する。
ならば、勝負に出てみるしかないのか?
パーティメンバーの意見も聞いてみないとだな。
「このままじゃいつか盾も破られる。その前に逃げるか倒すかしないといけないんだが、どう思う?」
「あのデカイのは厄介そうだけど、それよりもあの魔法も厄介ね。避けるのも難しそうだし……。倒せるかしら?」
「デカイのはとっても強そうです。魔法は……すみません、分かりません」
意外にも真面目な分析結果、それも倒す方向で返ってきたので、少し驚いた。やはり脳筋なのだろうか……?
「やってみないと分からないけどな。まずはあの魔法の奴をどうにかしないと、デカイのに集中できない」
二人に作戦を伝えてからもう一回判断して貰ったほうがいいかな、と思って俺の作戦を伝える。
「まずマリアが魔法の奴を担当。安全に、かつ急ぎで倒す。その間、Jrとベアルカスであのデカイのを引き付けておく。その後マリアと合流して皆でデカイのを倒す」
簡単だがこれしかない。問題は、デカイ奴を安全に引き付けられるのかと、そもそも倒せるのかという事、それに、マリアの装備だ。
マリアの装備は王都に売っていた普通の防具だ。なんの特性もないただの物理防御力だけの防具だ。そんな装備で魔物の魔法を耐えられるだろうか?
「……確かにそれが一番確実そうだけど、デカイのは倒せるかしら? こちらの攻撃が通ればいいのだけど」
「アキヒト様のために、戦い、ます!」
「少し戦って、どうしようもないなら即逃げる。幸い、あのデカイのは足は速くなさそうだしな。魔法の奴をなんとか出来れば逃げやすくなるだろう」
「それなら……分かったわ。でもアキは無理しちゃ駄目よ」
「あぁ分かってるさ。それにマリアもだけどな。そんなマリアに、世界一の装備をプレゼントしてやろう」
どんな攻撃を受けようとも、どんな魔法を受けようとも、イージスの盾は揺るがず、ヒビ一つ入っていなかった。
そのイージスの盾全体にヒビが入り、そして砕けた。
オークジェネラルやオークメイジからすれば朗報だろう。絶対要塞だった壁が崩壊したのだから。
姫騎士からすれば絶望だろう。絶対要塞だった壁が崩壊したのだから。
しかし、これを生み出した張本人である昌人は不敵な笑みを浮かべていた。
俺がイージスの盾に込めた能力は三つ。絶対防御と範囲防御とそれに……。
少しこちらの守りが薄くなるが、マリアの守りも大事だ。俺は決心して、イージスの盾に命令する。
「イージスの盾……展開! 我が僕を守る、盾となれ!」
俺の言葉と共に、ヒビが入り砕け散るイージスの盾。
その砕け散った破片がマリアの周りに漂い、そしてマリアに装着される。
盾だったある部分は頭を守るヘルメットに。ある部分は上半身を守るプレートに。ある部分は下半身を守るスカートに。ある部分は脚を守るグリーブに。ある部分は腕を守るガントレットに。ある部分は身を守るシールドに。ある部分は敵を切り裂くソードに。
「出でよ! 守護聖母マリア!!」
目の前には、白く輝くプレートアーマーを身に着けたマリアが立っていた。
その姿はまるで、アニメやゲームに出てくるヴァルキリーのように美しく、気高く、そして強そうだ。
これこそが俺がイージスの盾に込めた最後の能力。自らをパーツとしてマリアに装着させ、マリアを守る盾となることだ。
その結果、イージスの盾は大分小さく……普通の盾程度の大きさになってしまったので、守りは薄くなる。それでも俺達を守るには十分だろう。
マリアが纏っている鎧も、元はイージスの盾だ。名付けるならイージスの鎧とかになるのだろうか? ヴァルキリーアーマーとかでいいだろうか。
その性能も、もちろん良い。イージスの盾だった時と比べれば、少し落ちるけど、それでもそんじょそこらの鎧よりもいいだろう。物理はもちろん、魔法だって平気な鎧だ。
マリアには似つかわしくない盾と片手剣だが、ヴァルキリーといえばこれだろう。そちらも性能は折り紙付きだ。盾を構えればさらに鉄壁になるし、剣で魔法を切る事だって出来るだろう。
「来てくれ、ベアルカス、Jr! 二人はあのデカイのを頼む。引き付けるだけでいい。無駄な攻撃はしなくていい。相手の攻撃も真正面から受けずに、避けるか反らすんだ。マリアは魔法の奴を頼む。その鎧なら、魔法を喰らっても平気だ。アルルはここで俺と待機だ。よし、作戦開始だ!」
壁が崩れたと思ったら、軽戦士風の女の装備が変わっていた。何がどうなったのか分からない。最初は、あんな装備で大丈夫だろうか? と思っていたのだが、今の装備は見た目は一級品だ。恐らく、私が装備しているのよりもいいだろう。
その見た目は美しかった。姫騎士と言われている私よりも姫騎士らしかった。立派な鎧に盾に剣。
一体何が起こっているのだろうか。
先ほどの会話――作戦会議のような事をしていたが、どうやらあの中ボスを倒す方向のようだ。
たった三人で……。いや、私たちのパーティならば、三人でも倒すことは可能だ。……今ではセバスだけになってしまったが。
確かにオークメイジから倒すのは定石だ。
オークメイジの魔法は二種類ある。今まで使っていたのとは別に、矢のように小さく数が多い魔法も使ってくる。威力は下がるが、それでも当たればそれなりのダメージになる。回避も難しいので、幾つかは受ける覚悟でいかないと駄目だ。
だからこそ、多少は喰らう覚悟で魔法対策の防具を揃えておかないと厳しいのだが、あの鎧ならば問題はなさそうだ。
それにオークジェネラル。あいつは見た通り攻撃力が高い。だが、動きと防御はそうでもない。ここまでの魔物を倒せるのなら、それは問題ないだろう。だが体力は高いから、長期戦にはなる。
つまり、魔法をどうにか出来るのと、オークジェネラルの攻撃を避ける、もしくは受け切るだけの技量と体力、もしくはその前に屠れる攻撃力があれば、この中ボスは問題はない。
大抵は、魔法対策が疎かでやられるか、もしくはオークジェネラルを倒しきれずにやられるパターンになると聞いた事がある。
だがこの三人……いや、いつの間にか二人? 増えている。先ほどの治療してくれた女性といい、いつの間に? 増えた二人は人間のようには見えないが……。まさか召喚獣か? あれほどの強そうな召喚獣を召喚出来るとは……。この男は何者なのだ!
無事に帰る事が出来たら、問い詰めて……、いや、命の恩人になるのだ。穏便に聞き出すとしよう。王家の諜報部に頼ってもいいか。
一度は死を覚悟したというのに、今では戻った時の事を考えるなど……。この男達のお蔭だな。
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