23 想像と創造
いつもより奥深くで狩りをしていて、そろそろ帰ろうかと思っていた頃。あの嫌な貴族パーティに遭遇しそうになったので、寸前のところで回避した。
ところが、聞こえてきた会話がなんともきな臭かったのだ。なので帰還の予定を止めて、奥まで行ってみる事にした。
「方向はこっちでいいのか?」
「はい……多分ですが、さっきの人たちの匂いはこっちから続いてます」
奥まで行こうとしたはいいが、道が分からなかった。だが、アルルが匂いを辿る事でなんとか進んでいる、はずだ。
幸い、敵はいないようだ。さっきの貴族私兵達が倒していったのかもしれない。
「いいか。中の様子を探って、何もなければそのまま戻るからな」
別にビビりな訳ではない。普通の雑魚敵にすら慎重になるのが普通な世界だ。中ボスなんていう存在は、慎重に慎重を重ねて、準備や情報、人数を集めて挑むべき存在だ。
「分かってるわ……。でも何かあったらどうするの?」
問題はそこだ。ただ中ボスがいるだけならいい。もしくは他のパーティが戦っているならそれでもいい。
でも、明らかに異常な状態。例えば、パーティが全滅しかかっているとか、その人たちが助けを求めてきたらとか、そういう時どうすればいいだろう。
俺達の戦力が加わった程度で打開出来るのだろうか? なら素直に戻って、さっきの会話は忘れるべきだろうか?
でもここまで来てしまったんだ。後はその場の判断で切り抜けるしかない。
残酷だが、他のパーティに助けを求められても、俺はマリアとアルルの無事を選択するだろう。このまま俺達で中ボスに挑んでも、全滅するのが目に見えている。
「……急ごう」
「近いです!」
結構歩いたような気がする。ここまで一回も敵と遭遇していないのは運がいいのか、それともそういう領域なのだろうか。
ゲームなんかだと、ボス前とかの如何にもっていう雰囲気があるものだが……。気のせいかもしれないが、少し前から少し空気が重い感じがする。
「そうか、少し慎重に進むぞ。何か聞こえたり人間の匂いがするか?」
歩く速度を緩める。一気に進んで中ボスが目の前に! なんていうのは嫌だしな。
ここまで進めてきたのはアルルのお陰だ。
「大きな者が歩くような音と……血の匂いが、します」
「……血。くそ、遅かったのか?」
「どうするの、アキ?」
「……一応様子を見に行く。道はこっちでいいんだよな?」
恐らく、何か大型の魔物がいるんだろう。歩いているということが、まだ戦闘中か、それとも終わってうろついているだけなのか。
血の匂いがする以上、手遅れなのかもしれない。
「はい、こちらです」
アルルが指差した方向に慎重に進む。
足が重い。息が苦しい。寒気もしてきた。
……緊張しているのだ。どうして俺はここにいるんだろうか。
戻っていれば、今頃は何か美味しい物でも食べている頃かもしれない。少なくとも、中ボスという領域に向かってはいない。
今ならまだ間に合う。戻ろうと言い、回れ右をすればいいのだ。マリアとアルルが幻滅するだろうか? いや。皆を危険な目に合わせないためだ。
「……道が開けたわね。あれは!」
止められなかった歩みは、ついに目的地に到達してしまったようだ。マリアの言う通り、道が開けてきた。先の方には広間もあるようだ。
「何かデカイのがいます! 凄く大きいです!」
まるで広間に入るのを威圧するかのように、戻れと言うかのように、デカイ魔物がデカイ武器を振り上げて立っていた。
「デカ過ぎだろ……。あんなの倒せるのか?」
まだ詳しい姿は分からないが、どうみてもパワータイプだ。一撃喰らってしまえば、俺はもちろんスクトゥムゴーレムJrだって危ないかもしれない。
まだアイツはこっちに気づいていないようだ。逃げよう。そう告げようとした時。
「手前に誰かいます……。二人? 座っているようです」
座っている人がいる? 生きているのか? おいおい。あのまま武器を振り下ろされたら……。
助けられるのか? どうする、どうすれば助けられるんだ。
Jrを魔物の目の前に召喚して盾で防ぐか? いや、さっきも思ったが、Jrで真正面から防げる保証はない。最悪、Jr諸共、だ。
ならマリアとべアルカスを召喚して、座っている人を抱えて逃げるか? それも確実じゃないだろう。抱えられるかどうかも不明だし、魔物の追撃の可能性もある。
ならどうする。今の手持ちの駒じゃ、どうにも出来ない。なら諦めるのか? 目の前で人が死にそうになっているのに?
それは……恰好悪いだろう。
「マリア、アルル。あの人達を助けるぞ」
「分かったわ……。でもどうやって?」
「手は考えてある。俺を信じて、今は待っていてくれ」
「テレパス!」
俺の召喚獣で、一番便利で一番弱い召喚獣――テレパスを召喚する。名前の通り、出来るのは特殊能力はテレパシーのみ。それも俺のみ対象だ。それ以外は、絵が上手いというだけだ。
このテレパスは、俺の考えを読んでそれを絵に起こす事が出来る。その際、テレパス自身の魔力を注ぎながらも可能だ。
テレパスの魔力は、俺の魔力だ。つまり、俺の思った内容を俺の魔力で絵に出来る召喚獣、それがテレパスなのだ。
俺は絵が下手だ。なら絵が上手い召喚獣を創ればいいだけじゃないか! って事で創った召喚獣だ。
目を瞑る。別に開いていてもいいけど、なんとなくだ。俺は思うだけでいい。召喚陣はテレパスが描いてくれる。
「よし……。準備出来た」
想像しろ。
――どんな強大な攻撃をも防ぐ強い盾を。
想像しろ。
――どんな巨大な攻撃をも防ぐ大きな盾を。
想像しろ。
――駆ける戦乙女の姿を。
創造しろ!
「皆を守れ! イージスの盾!!」
目を開けば、そこには光輝く召喚陣があった。そして魔物の目の前に、全てを守るかのように鎮座する、ちょっとした壁のように大きな盾が出現していた。
一応実験はしてあったけど、この規模ので成功してくれて助かったのが本音だ。少し疲れたが、思ったよりも魔力の消費は少ないように思える。
魔物の武器が、今まさに振り下ろされようとしていた所だった。
あぶねぇ。ギリギリだ。かなりのギリギリじゃん。
そして魔物の武器がイージスの盾にぶつかり……。
ガキィィィィィン!! と大きな音がした。
思わず、それだけで怯んでしまいそうになるくらいの大きな音だったが、イージスの盾は出現したままの姿と位置にあった。
どんな強い攻撃――中ボス程度の全力の攻撃くらいでどうにかなるように創ってはいない。
イージスという名前は、RPG好きなら一度は見たことはあるだろう。かなり強い部類の盾で登場することが多いだろう。ミスリルとかドラゴンとかの素材よりも強いはずだ。
まぁ最終防具に残るかというと、そうでない場合が多い。固有の装備とか、専用装備とかには劣るが、汎用的な盾では最強クラスという程度だ。
それに、イージス艦という言葉にも聞き覚えがあるかもしれない。ものすごい防空能力を持った艦艇の事だ。
詳しくはさすがに知らないけど、イージス艦がいれば、ミサイルを撃たれても迎撃できるという程度の知識しかない。
そもそもの由来は、ギリシャ神話に出てくるアテナが持っていたと言われる盾だ。
つまりは、イージスというのは防御に長けているという代名詞のようなものであり、盾というのが一般的だ。
俺にはそのくらいのイメージでしかない。いや、それだけのイメージで十分なのだ。
「アキ……あの壁は……。いいえ、なんでもないわ。それよりも攻撃を防いだのね」
「アキヒト様、さすがです!」
さて、今の一撃は防いだけれど、あの人達はそもそも無事だったのだろうか?
「強い盾を創ったんだよ。よし、助けに行くぞ」
魔物は、攻撃は防がれた事に驚いているのか、追撃はないようだった。今のうちに盾の所まで行くことにしよう。
近くまで来てみて分かったけど、イージスの盾、少しデカ過ぎたかなぁ。俺の身長と同じくらいか? まぁこれくらい大きくないと、皆を守れないからな。大丈夫、大丈夫。
っと。その盾で守った人達は無事かな?
「ぎりぎり……間に合ったのか、これは?」
かなり憔悴しきっている三人の男女が、そこに蹲っていた。
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