19 貴族私兵遭遇と回避
山のダンジョンは順調の進み具合である。これが慢心なのかどうかあれだけど、少なくともクエストは余裕をもってクリア出来ている。ならば少しくらいはいいだろう。危なそうならすぐに引き返すしね。
「ちょっと奥まで進んでみようか。危なそうならすぐに引き返すけど」
「大丈夫? まぁアキがそう言うなら……。でも危険だったらすぐに撤退するわよ」
「だいじょぶです!」
「まぁ慎重にいこう。Jr、頼んだぞ」
少しは反対意見もあると思っていたけど、こいつら……。
あれからあの嫌な貴族には出くわしていない。正確には、会いそうになる手前でアルルが気付くのだ。獣族の嗅覚というのはすごいものだ。犬並みなんだろうか? だとしたら、普段はどうしているんだろうか……。
鼻もいいけど、耳もいいのだ。フワフワっぽいけど、おそらく人間のそれよりもいいはずだ。
匂いと音で、魔物だけではなく貴族様も見つけてくれるのだ。なので、見つけ次第会わないように回避している。
と言っても、その貴族様自体はあれから来ていないみたいだ。私兵達だけで来ているようだけど、会わないに越したとこはない。
いつもよりも少し奥まで来ているけど、まだまだ余裕だ。
いや、余裕と思っているうちに引き返した方がいいのかも?
魔物の傾向は、大きく変わってはいない。中腹までは似たような感じで、数が増えるだけだ。
それでも、まだ初見で対応出来る数だ。
Jrが敵の半数以上を受け持ってくれる。個体でJrの防御を突破出来そうな魔物はまだいない。さすがに数が多いとキツそうだが、Jrが稼いだ時間で、マリアとアルルが各個撃破して数を減らしてフォローをしている。
俺? 俺は都度支援と指示だ。俺の腕力と武器では、もう物理攻撃は効かないだろう。
……毛虫のようなファブという魔物がいて、それなら杖で殴って倒せるかなと思ったけど、実行していない。
なんか、ネチャってしそうだし……。
そんな訳で完璧に後衛だ。召喚士なんだし、これでいいのだ。
「やっと終わったわね……」
「お疲れ様。さすがに数が多くなってきたな。怪我はないか?」
「だいじょぶです!」
「ワタシも平気よ。それにしても、数だけはスゴイわね」
周りはひどい惨状だ。倒した敵が散乱している。主にファブとその羽化した蛾のようなファブガという魔物だ。
数は多いが、強さはそんなでもない。炎の魔法とかあれば、一掃出来るのではないだろうか。
……その手があったか! 今頃気付いた。ま、まぁ次回からそうしようか? でに延焼とか、こっちにまで火が回ってきそうだな。……止めておこう。
「んじゃ、取るもの取るか」
数は多かったが、解体は簡単だ。
ファブ側は特になく、ファブガは、その羽と付着している鱗粉が素材になる。なので羽だけ取ればいい。
楽は楽だけど、数が多い。手分けをしたが、さすがに疲れたな。これ以上の数となると、この先は不安だな……。
「よしっと……。終わったぞ。さて、さすがに疲れたし、そろそろ引き返すか?」
「まだ大丈夫だと思うけど……、そうね。戻りましょうか。アルルもいいわね?」
「わかりま……、誰か来ます! この匂いは……あの貴族の私兵のようです。ただ、少し違う人もいます」
あの貴族の私兵か。メンバーが違う? それでも横柄な奴だったし、こんな所でニアミスとか嫌だな。奥から来ているし、向こうも戻る所だろうか。ならば休憩がてら少し横道に退避でもしよう。
それにしても、よく気付けるものだ。アルル凄い。
「こっちの道でやり過ごそう。会いたくないしな」
仕事を終えての帰り道。
メンバーは来る時とは変わっています。二人減って二人増えました。
「はしゃぐのはいいですが、ここはまだダンジョンです。注意して下さい」
主にはしゃいでいるのは、増えた二人のようですね。それもそうでしょう。私の部下は真面目で訓練済ですからね。
この二人も仕事はきっちりやってくれましたが、落ち着きがないのもちょっとどうでしょうか。
「分かってるよ。でもはしゃぐのも仕方ないだろ? いつも偉そうにしていた姫騎士が終わるんだぜ?」
「そうそう! あんな状態じゃいくら何でもねぇ」
うーん、この二人は元々表の兵士のようですし、一から教育しないとダメそうですねぇ……。全部終わったら少しの間隠れるつもりですが、二人には色々と働いて貰いましょうか。別に潰れても痛くありませんし。
「無駄口を叩かずに急げ。一応冒険者ギルドに報告する任務もあるんだ」
「分かってるさ。姫騎士パーティの件だろ? にしても、あの麻痺毒とか凄いよな。魔法でも似たような事は出来るけど、さすがに姫騎士には抵抗されちゃうだろうし」
「さすがの姫騎士も、怪我した上に麻痺ってる状態で実質一人で中ボス相手は無理だよね。だからこその作戦なんだろうけど」
「口よりも足を動かして下さい。それとも、姫騎士と一緒に死にますか?」
「お、おう。すまん……」
部下も注意してくれましたが、それでも煩いので、思わず私も口が出ちゃいました。手が出なくてよかったです、はい。
それにしても、魔物が少ないですね。近くに冒険者でもいるのでしょうか? 別に今の状態を見られても構いませんが……。会話が聞かれていると厄介ですね。だからこそ、この二人には黙って欲しいのですが。
……気配もないですし、いないのでしょうか。まぁいいでしょう。早く戻って仕事を終えましょうか。
「行ったか?」
「はい、通り過ぎました」
貴族の私兵をやり過ごすため、少し横道に入っていた。同時に休憩だ。
改良をした土のノームに役立って貰っている。ちょっとしたテントのような、椅子とテーブルを作って貰ったのだ。同時に、魔物に気付かれないように、結界のようなもので覆って貰っている。
これまでもそうしてきて大丈夫だったが、今日はメンバーが違うということなので、気付かれてしまうかもとドキドキしていた。
アルルが気付くくらいだ。向こうにも獣族とか、気配察知が出来る人だっているかもしれない。もしくは、気付いている上で、俺達を放置しているのか? まぁ絡まれる理由もないしなぁ。
「それじゃ少ししたら俺達も戻るか」
「料理ももうすぐ出来るからね」
あの私兵達に追いつく事はないだろうけど、少し時間を置いた方がいいだろう。まだ休憩も始めたばかりだしな。
「あ、あの……。会話が途切れ途切れですが、聞こえました」
喋りながらダンジョン散策か。余裕なんだな。それにしても、よく聞こえるものだ。索敵用の召喚は必要ないから楽だ。
「何か言ってたのか? 俺達に気付いてたりとか?」
「い、いえ……。姫騎士が終わるとか、報告、麻痺毒、一人で中ボスとかです……。すみません、これくらいしか聞こえませんでした」
姫騎士……? って確か、この国のお姫様だよな。武闘派で、ダンジョンにも潜っている。冒険者にも優しい、いい人だ。何より可愛いし、オーラもある。
それが一人で中ボス? 姫騎士というのは、そんなに強いのか。でも麻痺毒とか終わるとか……。
何が起こっているんだ? 仮に姫騎士が一人で中ボスを倒せるんだとしても、護衛やらお供やらはいるだろ。ならば万が一という事はないだろうけど、報告…麻痺毒……。
「予定変更だ。奥に進んで中ボスの様子を見よう。何も無ければ問題はない。中ボスは放置で逃げるぞ」
嫌な予感がする……。
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