02 チェックインと召喚解除
「っと、宿屋はここかな。本当に門からすぐだな」
宿屋に向かっていた俺たちだが、宿屋はすぐに見つかった。看板には宿屋タルブテルンと書いてあった。民宿みたいな感じだろうか。どうでもいいがやっぱ見たことない文字だが、何故か読める。
街並みを見るに、田舎って訳でもなさそうだ。外壁も立派だし、結構規模としてはでかい街かもしれない。よく知らないが中世ヨーロッパって感じかな?
宿屋は営業しているようだし、中に入る。
前面には受付が、右側には恐らく飲食が出来るのだろうか、そんなスペースが広がっていた。
受付には三十歳くらいの女性がいた。女将だろうか。
「いらっしゃい、宿屋タルブテルンへようこそ」
「おはようございます。宿泊と食事をお願いしたいのですが」
「はいよ、宿泊は一部屋一泊で銅板ニ枚になるよ。食事は朝昼晩同じ値段で、一食銅貨が三枚ね。食事は他の店で食べてもいいけど、出来ればウチで食べてくれると嬉しいね」
ふむ。銅板は銅貨十枚だから、一人当たり一日三食で銅貨二十九枚ってことになるのか。結構な金額になるのか? まだ銅貨と銅板しか把握できていないが、手持ちには銀の硬貨と板があった。銅貨と銅板からすると、銅板の上が銀貨でその上が銀板になるのだろう。
「分かりました。ではまずは宿を五日分。えっとニ部屋ですね」
「アキ、一部屋でいいわ。節約できるお金は節約しないと」
女の子だし一緒の部屋はさすがにマズイと思って、部屋を別々にしようと提案したのにマリアに一部屋でいいと言われてしまった。
平気なのか? それとも一緒の部屋でいいってことは、何か期待しちゃうぞ?
「あらあら、しっかりした妹さんね。それとも冒険者のパーティかしら。一部屋で五日ね。銀貨一枚だよ」
女将さんも一部屋で大丈夫と考えたようだ。妹と勘違いしているのか、それとも冒険者同士なら異性同士でも同じ部屋は普通なのかな。
まぁ節約するのは同意見だ。
銀貨一枚ってことは、やはり銅板十枚で銀貨一枚になるのか。それでいくと銀板は銀貨十枚ってことになるのかな、この法則だと。
一部屋になるなら、一泊三食で銅貨三十八枚か。約銅板四枚だな。
ちなみに手持ちのお金の内訳は、銀板ニ枚、銀貨十五枚、銅板八枚、銅貨六枚だ。銀貨だけでも一ヶ月くらいはいけるな。
他の宿も気になるが、女将も気さくな感じだし、悪い宿じゃないだろう。俺は女将に銀貨一枚と銅貨六枚を渡した。
「それでは一部屋でお願いします。食事はすぐに欲しいのですが大丈夫でしょうか?」
「あいよ、確かに。食事も大丈夫だよ。食事はそこの席だよ。先に部屋を案内しようか?」
「いえ、食事からで大丈夫です」
「あいよ。んじゃ座って待っててね」
女将はお金を仕舞うと、奥へと消えた。厨房にでも行ったのだろう。俺達は座って待つことにする。
しばらくはお金の心配もないし、まずは生活基盤を整えないとな。飯を食べた後に色々考えよう。
「んじゃ座ってようぜ、マリア。そういや一部屋でよかったのか? その女の子だし」
「えぇ。節約するのは本当だけど、ワタシは召喚獣だし気にしないわ。それに、召喚解除すればそもそも一部屋で十分じゃない」
召喚獣だから一緒の部屋が大丈夫って、俺が大丈夫じゃないんだがな。
「あー、そうか。もしかしてご飯って必要なかったりするのか? つい頼んじゃったけど」
「そうね、ワタシ達召喚獣は召喚士の魔力をエネルギーにしているから、食事は必要ないわ。でも食べることで少しだけエネルギーにすることも出来るみたいだし、全く無意味って事でもないみたい」
「ならよかった。俺だけ食べてマリアは無しってのは、なんかおかしいだろ? それに一人で飯っていうのは寂しいんだぜ」
一人暮らしをしてきたせいか、誰かと御飯を食べるっていうのは新鮮だ。結構自分で料理して一人で食べてたしな。
マリアも料理は出来るんだろう、能力的に。なら色んな料理を食べるのも勉強になる。ってかいつかはマリアの手料理を食べることも出来るのか、もしかして。それはなんというか、嬉しいな。
しばらく待っていると、女将が料理を持ってきた。パンにスープにサラダみたいだ。まさに洋食風朝ごはんって感じだ。結構ちゃんとした内容で嬉しい。異世界物って料理に困ったりするのが多いからな。
パンは黒っぽい。黒パンっていうのか? 結構固かった。こういう物なのか。スープは細かい野菜が入っている。コンソメとまではいかないが、味付けがされていて美味しい。サラダは葉っぱの野菜でヘルシーだ。
俺達は残さず食べた。
「結構美味しかったわね、料理」
「うん、美味かったな」
飯を食べ終えた俺達は、女将に案内された部屋にいた。食後の一休みだ。
部屋にはトイレはあったが風呂はなかった。やっぱり風呂っていうのは贅沢な設備なのだろうか。ならどうやって汗を流すんだろ。後で女将に聞いておこう。
ベッドはニつあった。一つだとどうしようかと思っていたので良かった。小さめのテーブルに椅子もニ脚あったので、ニ人部屋なのだろう。
さて、とりあえずは今後どうするかだな。
「まずは五日だけ宿を取ったけど、手持ちの金でも数ヶ月は過ごしていけるみたいだな。その間に生活基盤を整えないといけないんだけど、ってどうしたマリア」
どうもマリアの元気がない。さっきまで料理を美味しそうに食べていたのに。
「うーん。ワタシって召喚獣なのよね? なんか自信が無くなってきたわ」
あぁ、ステータ石のことを引きずっているのか。それに女将さんにも妹扱いされてたしなぁ。どうみても人間にしか見えないけど、召喚獣としてのプライドが傷つけられたのかな。
「マリアはマリアだろ。マリアのお陰で街まで来れたし、助かったよ。ありがとうな」
俺の素直な気持ちを伝える。召喚獣だろうが何だろうが、マリアはマリアだ。美少女だ。
それにマリアがいなければ、俺は今ここにはいない。まぁ異世界にも召喚される事も無かったんだろうが、それはそれだ。
「え……、うん。ありがとう」
そう答えた俺に対し、マリアは軽く笑ってくれた。うん、やっぱ可愛い子は笑顔がいいしな。少しは元気になっただろう。
さて、改めて今後についての相談だが……。
「一回、ワタシを解除してみない? 一応さ。ずっと召喚したままだし、召喚と解除ってやっておいたほうがいいと思うのよ」
相談前にマリアが提案してきた。ふむ、確かにずっと出したままだし、今後のことも考えると練習しておいたほうがいいだろう。
それにマリアはまだ自分に自信がないようだ。召喚と解除が出来れば、召喚獣であることが証明出来るだろう。
さっきのフォローだけじゃ足りなかったみたいだし、ここはやっておくか。
「そうだな、やってみよう。ってどうやるんだ?」
召喚と解除の方法についてマリアから教えて教えて貰った。召喚獣から召喚を教わるっていうのも変な話だ。
召喚するには出るように念じればいいらしい。逆に解除する場合も念じればいいらしい。
その際に多少魔力を使うらしいが、そんなに消費しない。それに召喚士の魔力が枯渇するときに、召喚してある召喚獣は強制的に解除されてしまうとのことだ。
俺の魔力量では、マリアだけならばそんな心配もないのだが。
「戻れ、マリア!」
念じながらそう発言する。するとマリアの体が光始めて、徐々に光の粒となって消えていった。これが召喚解除か。
なんだか言っちゃ悪いが、泡と消えるというか、死んでしまったような消え方だな。
……大丈夫だよね? これでサヨナラとかってないよね? すごい不安になってきたよ。俺、今一人じゃん。
「で、出てこいマリア!」
慌ててマリアを召喚してみる。すると光の粒が沢山現れて、徐々に集まり人型になっていった。
光が消えると、そこにはマリアがいた。
「ただいま、アキ。数秒振りねって、なんで泣いてるの?」
「いや……、マリアが消えちゃってね、一人になっちゃってね、もうニ度と会えないんじゃないかと不安に……」
「バカねー。アキが召喚すればいつでも会えるじゃないの。でも良かったわ、やっぱりワタシって召喚獣ね。あ、それと念じるだけでいいから、言葉にしなくてもいいのよ」
ぐ……、さっきまでの元気の無さはなんだったんだよ。俺の気遣いと悲しみを返してくれ。
一人暮らしはしていた訳だし別に一人が寂しいって訳じゃないけど、さすがに目の前でいきなり消えちゃうと、なんか死みたいに思えて仕方なかった。
でもまぁ、マリアも召喚獣だと証明できて元気になったみたいだし、良しとしよう。
もうマリアの召喚解除はしないぞ。べ、別に寂しいとかじゃないんだからなっ!
落ち着いた所で、改めて今後の方針を決める相談をする。
お金はあるが、有限だ。何もしないでいたら、いつかは無一文になってしまう。この世界に慣れるって事と、お金稼ぎをする方法を考えないといけない。
まぁ冒険者業をするっていうのが順当だろう。魔物との戦闘は恐いが、他に金稼ぎ出来る方法が思いつかない。それに異世界ものは冒険者になるっていうのがテンプレだ。魔法とか楽しみだし。
「まずは冒険者登録をして、色々勉強しながら冒険者業をやってお金を稼ぐっていうのが筋かな?」
「うんそうね。でも冒険者だと魔物と戦う事になるけど、アキは大丈夫なの? 泣いちゃわない?」
「ま、まぁ戦ってみない事には分からないけどな。それに泣かないわ!」
くそ、さっきのことで弄ってきやがった。召喚解除してやろうか。しないけど。
「ふふふ。戦えるなら冒険者が楽ね。でも戦うにしても、ワタシは戦闘系の能力はないし、アキは他の召喚獣を持ってないしで戦えないわよワタシ達」
そうなんだよね。俺達って戦闘力ないんだよね。
俺の魔力は高いって言うし、魔法とか覚えればいけないかなぁとか思ってる。もちろん戦闘向けの召喚獣を契約するのもいいしな。
金に余裕があるうちにその辺りを強化していけばいいだろう。問題はどう覚えるかって事だが。
「それはもちろん分かってるさ。今のうちに覚えればいいだけだろ。で、魔法とか召喚獣ってどうやって増やすの?」
「あぁ、分かっていたのね。えっと、誰かに教わるとか、本とかで覚えるのがいいと思うわよ。ワタシは簡単な知識はあっても、実演は出来ないから教えることは出来ないし、本のがいいと思うわ。この街にも本は売っているでしょうしね」
本ね。受験勉強の気分転換のためにゲームをしていたのに、異世界で勉強をすることになるなんてな。まぁ仕方ない。魔法使いたいしな。
「それじゃ冒険者ギルドに行って登録して、後は本屋だな。他にも必要なものもあるだろうし色々と店を見るか。んじゃ早速行くか」
善は急げだ。だが、部屋のドアに手を掛けているのに、マリアはまだ椅子に座ったままだった。
「ん、どうしたマリア、行こうぜ」
「ワタシも一緒に行っていいの? アキはワタシが召喚獣だとバレる事を嫌がっているように感じたから、なるべく人目に付かないほうが良いと思ったのだけど」
「あー、確かにそう思っていたけどさ。さっきも言ったが、マリアはマリアだろ? 仮に何かあったとして、困るのは俺だしな。なら別にいい。だから一緒に行こうぜ」
「ふふふ。はいはい、アキは寂しがり屋さんなのね。うん、一緒に行きましょ」
全く、歳下のくせに生意気を言いやがる。まぁ知らない土地で一人っていうの寂しいっていうのも本当だし、マリアを解除したくないもの本当だ。
魔力が高いとはいえ、召喚獣をずっと召喚したままにしておくのは馬鹿なのかもしれない。でもマリアは俺の召喚獣であり、仲間だ。これが人型で美少女じゃなければ、そうは思っていなかったのかもしれない。マリアだからそう思えたんだ。
もしかしたら俺は甘いのかもしれないが、なら甘ちゃんでいい。
そんな俺の想いを知ってか知らずか、マリアはウキウキとしながら俺に付いて来た。うん、元気な美少女だ。
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