14 召喚陣と不人気理由
書き溜めをして、ばぁ~んとぉ! 投稿してみたいけど、遅筆なので難しいです……。
これまで召喚は偶然の産物であったが、トダ・ユイはその手法を確立、召喚陣を発明し、召喚の創始者となった。
本にはそう書かれていた。
……なんか日本人っぽい名前だけど、二千年前だしな……。もちろん聞いた事も無い名前だけど、漢字で書くなら戸田になるだろう。
うーん……。謎が増えてしまった……。でも、さすがに日本人ではないだろう。時代が違いすぎる。二千年前なんて、そもそも名前とかいう文明は無かったはずだし。まして、こんな近代的な名前はおかしいだろう。
たまたまそれっぽい名前の人がいた。それだけのはずだ。
……ふぅ。結構な文章量があったけど、読み終えた。中々に読み応えのある本だった。
召喚の歴史やその時代の偉人の話、伝説となっている召喚獣など、御伽噺ちっくな部分もあったので、楽しく読めた。
どうやら、その創始者であるトダ・ユイという人物が興した国があるそうだ。今も続いているらしく、召喚大国と言われているらしい。
不遇の召喚士がメインの国があるとは思っていなかったけど、行ってみるのもいいかもなぁ。未だに他の召喚士らしき人を見掛けた事もないし、その国ならきっと沢山いるのだろう。
まぁいつか、という話になるけど。
さて、少し疲れてきたけど、次は召喚の研究本を読むことにしよう。
召喚とは。
召喚とは、既に存在するモノをこちらの世界に呼び現す手法の事である。また、存在しないモノを生成し現す事も可能である。後者は特に、創造と言われる高等技術である。
召喚には召喚陣を用いるのが一般的である。呼びたいモノについての情報を描き表した召喚陣に、己の魔力を注ぐ事で召喚陣が発動する。
召喚によって呼ばれたモノは召喚獣と呼ばれ、召喚主と契約が成され、この世に留まる事が出来る。
召喚獣は、特殊な能力を保有している場合がある。また、外見や強さなども様々である。基本的に、強い個体ほど召喚は難しくなるが、これに当てはまらない個体もいる。
うーむ。
これまで解っている情報の再確認もあるけど、強い召喚獣でも、召喚が簡単なのもいるって事だな。ベアルカスがそうなるのかな?
それに創造だ。これが出来れば何でも出来そうだけど、さすがに難しいみたいだ。もっと情報は欲しい所だけど、簡単な物なら創れるのかな?
続きを読もう。
召喚陣の描き方は様々である。
中身は呼びたい召喚獣の情報を描くのは共通しているが、その情報量に決まりはない。情報が足らない場合は、召喚に必要な魔力が増えたり、召喚失敗や他の召喚獣が召喚される場合もある。
召喚獣には、それぞれキーとなる情報があり、これを含めるのが絶対である。これ以外は比較的自由であり、最悪このキー情報だけでも十分ではある。その分、召喚難易度は高くなってしまう。
また、キー情報が完全でないと同様に難易度は高くなる。
創始者であり大召喚士でもあったトダ・ユイは、このキー情報を見つけ、さらに使いやすいような召喚陣を考案することで、召喚が一般的になった。
このキー情報を含むトダ・ユイの召喚陣はこれまでに伝えられてきているが、描き写す際のミスなどによって、原型が失われつつある。情報が誤っていたり、無駄な情報が追加されているなど、召喚陣の肥大化の原因にもなっている。
これらが昨今の召喚の難しさに繋がっている。
ふーむ。色々と解った事が多い。
まずは召喚陣は基本的に自由という点だ。
今までの本に載っているのが正解で、それが唯一の召喚陣だと思っていた。実際、何冊か見比べてみても、違いは無かったと思う。ところがこの本によれば、キー情報というのが重要で、それ以外はオプションみたいだ。
そしてそのキー情報というか召喚陣だ。
悲しいかな。これが手描きでの情報を残すという行為の弊害だろうか。それとも伝言ゲームの弊害なのだろうか。つまりは、今残っている召喚陣はトダ・ユイのそれとは違うって事だな!
召喚が難しい? 人気がない? 召喚陣がグダグダなせいじゃないか!
強さの割に召喚が簡単なのも、たまたま原型に近い形で残っているだけじゃないのか? ベアルカスがその例だ。反対に、スクトゥムゴーレムの召喚陣は崩れているって事だ。本当ならば、ベアルカスくらいな難易度で召喚出来たって事になるぞ。
……この手描きが続く限り、時代が経つに連れてもっと召喚陣は劣化するだろう。そうなると、もっと難しくなる。
召喚士の未来は暗い……。
何か嬉しいニュースは無いのか? 本にはまだ続きがある。頼む……。希望を!
召喚の創造についてはこの限りではない。
通常の召喚が現存する個体をこの世に呼び表すのに対し、創造はゼロから創る技術である。ゼロから創るため、キー情報と呼ばれるものはなく、召喚士が創りたい個体を考え、描くだけでよい。この時に描く情報は、絵や文字、数字など召喚士自体が把握していれば良い。
しかし、キー情報はその個体の膨大な情報を含むとされており、キー情報のお陰で召喚が容易になっている。創造にはそのキー情報が無いため、膨大な情報量が必要になり、召喚陣の肥大化や大量の魔力が必要になる。
そのため創造は安易に行うものではなく、簡単に出来るレベルの創造ならば、普通に既存の個体を召喚したほうが有益である。
創造についてはさらに自由のようだ。だけど、やはり難しいのか。
次のページには、ほぼ同じ能力の召喚獣を召喚する場合、普通の召喚と創造をした場合の召喚陣の比較、難易度が書かれていた。
普通の方はよく見る感じの召喚陣だった。それでも結構ごちゃごちゃと良く分からない絵ではある。
だけど創造の方はその比ではなかった。恐らく、本に描ききれるように縮小されているのだろうけど、なんとか読むことが出来る。小さい文字で色々な文章や数値が描かれている。
その量もだけど、全体的に分かりにくい。普通の召喚陣のは絵にしか見えないけど、創造の召喚陣は文字が読める。だけど、それが分かりにくいのだ。
何故か文字が読めるのは今更だけど、文章になっているのかどうかも怪しいし、数値も計算をしている感じに見えるけど、良く分からない。
例えるなら、全部が平仮名だったり、足し算だけで描かれているような感じだった。
こんな描き方では、量も多くなるし正確な表現は出来ないだろう。もしかして、この本を書いた人は学力が低いのだろうか? いやいやそんなまさか……。この世界の標準がそうなのだろうか?
比較対象の召喚獣は犬だ。ただの犬だ。まぁ索敵とか出来るのかもしれないけど、戦闘用というよりかは、ペット向けの犬だ。それでも召喚陣はこのボリュームである。そして、創造の方の難易度が結構高い。中級の入り口くらいである。
ぶっちゃけ、漢字で『犬』一文字でも十分ではないかという位の犬なのに、だ。
召喚に関する本を読み終えたのでその他の本も読んでみた。魔法に魔物のダンジョンに生活本に御伽噺に……。
気がついたら随分と時間が経っていたようだ。暗くなり始めていた。夕方くらいに戻る約束だったのに、これでは遅れてしまう。
結局アルルの体の事は解らなかった。
召喚の相性はあるのかどうかは解らなかったけど、ベアルカスの召喚のしやすさは召喚陣の内容だろう。恐らくベアルカスの召喚陣は情報の落ちが少ないのだろう。昔のままというか、そのせいで召喚しやすいのだと思う。
色々解った事も多く、有意義な図書館だった。もっと通えばもっと解る事もあるとは思うが……、アルルについての情報は無さそうだし、あったとしても時間が掛かりそうだ。
図書館を後にし、宿屋へ戻る。
入館の際に払った銀貨はそのまま返して貰えた。特に問題は起こさなかったしな。当然だ。
部屋に戻ると――一応ノックはしてから入ったら、マリアもアルルも既に戻っていた。
「ごめん、今戻ったよ。遅れたかな?」
「大丈夫よ。ワタシ達もさっき戻ったくらいだから」
「ならよかったけど……。アルルの服は……買えたんだな。似合ってるじゃないか、可愛いぞ」
「あ、ありがとう、ございます。アキヒト様」
アルルは奴隷商店から着ていた服ではなく、新しい服になっていた。
ヘソ出しシャツにホットパンツで動きやすく健康的だ。アルルの見た目も相まって、まるで夏休みの女児みたいな格好だ。
少し露出が多い気もするけど、子供なんだしこれくらい元気そうでいいだろう。
「武具はアキの意見も聞いたほうが良いと思ったから、買っていないわ」
「良い服が買えたじゃないか……ってそうか、武具も買わないといけないんだな」
服ばかりに気を取られていたが、アルルも冒険者なんだし武具が必要になるな。一緒に買って来ても良かったんだけど、確かに俺も一緒の方がいいか。
「そうだな。ありがとう。明日買いにいくか」
「図書館はもういいの?」
「あぁ、大分解ったし……、あぁ。アルルの事は解らなかった、ごめん」
「い、いえ……。アルルは大丈夫、ですので」
図書館を教えてくれて、アルルの事を調べてきたのに何も解らなかった。申し訳ない気持ちだったけど。
「ん? アルル?」
今、自分の事をアルルと言っていなかったか? 前は私だった気がするんだけど。
「も、申し訳ございません。わ、私は大丈夫です」
いきなり焦って言い直した。もしかして、名前が気に入ってくれているのだろうか。それにそんなに畏まられると困る。
「いや、名前が気に入ってくれているならいいよ。それじゃ明日は武具とか買いに行くか」
「そうね、分かったわ」
「承知、致しました」
ご意見ご感想があれば嬉しいです。




