09 リベンジとそれぞれの活躍
「ありがとうございました」
マリアの武器も新調した。順当にランクアップしたレイピアだ。このランクの武器には珍しく、ちょっとした魔法効果が加えられている。
といっても、極僅か、敏捷が上昇するというだけのものだ。
「いいのが買えたな」
「ありがとうね、アキ。これでもっと戦えるわ」
怪我をして欲しくないので、そんなに戦いがられても困るのだが……。まぁ、ゴーレムがしっかりカバーしてくれれば大丈夫だろう。
「明日から、また頑張りましょうね」
「そうだな」
装備も整えたし、盾役もいる。それに攻撃面だって大丈夫なはずだ。前回のような戦略的撤退は、もうしなくて済むだろう。
翌日。何日かぶりにクエストに挑むため、冒険者ギルドを訪ねた。
「さて、今日はどの依頼を受注するか……。ん?」
「むぅ……。今日も駄目でした……。お父様も駄目だっていうし、もう! どうしたらいいのよ!」
なんのクエストを受注するか考えながら冒険者ギルドに入ると、そこには女の子がいた。この前、冒険者ギルドから出て行ったあの女の子だ。ベテランメイドさんも一緒にいる。
改めて見ると、場違いだ。
女の子は一ニ歳くらいだろうか。綺麗で高そうな服を着ているし、上品に見える。この前もお嬢様とか呼ばれていたし、メイドさんも連れているし、やはりお嬢様?
その女の子は、何やら怒っているように見えるが、やはり俺達に気づかずに勢い良く出て行った。
「お、お嬢様! お待ちくださいませ!」
そして、これまたベテランのメイドさんが後から追いかけていった。
「なんだったんだ……」
「さぁ……?」
訳も分からないまま、賑やかないつものギルドの風景が広がっている。
誰も不思議がらないのだろうか?
とりあえずクエストを選ぶ事にする。
前回は、木の魔物のトレントの討伐と、その素材納品だった。今回は……これだ!
クエストを選び、受付へと提出する。ちなみに、受付には女性しかいない。特に知り合いもいないので、空いている所に向かった。
「すみません、これをお願いします」
「はい……。ヨーモンキーの討伐ですね。こちらが五匹が達成基準となっております。冒険証を……あ、ありがとうございます。では確かに。頑張ってください」
そう、前回の敵――猿だ!
「どうもです。それで聞きたい事があるんですけど」
「はい? クエストに関する事でしょうか?」
「いえ……。さっきの女の子って、何かあったんですか? なんか怒ってましたけど」
誰かに聞いてみたかったけど、知り合いの冒険者もいないし。ならば、受付の人に聞くのが確実だろう。
「ワタシも気になっていたわ。冒険者なのかしら?」
「えーとですね……。先ほどの方は、貴族様でして。ダンジョンに潜ろうとされていたのですが……。その、人数が余ってしまったので、待機という訳でですね」
本物のお嬢様だった。王都なので、貴族様がいるのはそうだが、何故こんな所に……って貴族ってダンジョンに潜るのか?
「ダンジョンに、ですか?」
「はい、そうです」
「貴族様がですか?」
「はい。……もしかして、王都は初めてだったりしますか?」
その後、受付嬢から色々と教えて貰った。
王族や貴族は、自治のため、そして民の安全のために、戦闘訓練をしていたり、魔物を倒すのが責務らしい。武闘派と呼ばれているそうだ。
さっきの女の子――貴族も、そのためにダンジョンに潜ろうとしたが、他のパーティに断られてしまっているそうだ。貴族を断るなんて……。大丈夫なのだろうか、と思ったのだが……。
その断っているパーティというのが……なんと、この国のお姫様が率いるパーティらしい。
その断る光景も、ここ王都の冒険者ギルドでは、日常の事のようだ。
貴族のお嬢様の次は、お姫様です。なんか一気に、王都感が出てきました。というか、さっきの女の子は既に二回、そのお姫様にしろ、今後遭遇する可能性があるという事になる。
……何か失礼をしてしまって、捕らえられたりしないだろうか……。もしかして、既に失礼をしてしまっているかも!
不安になったのだが、さすがに魔物を倒している武闘派の方々は、細かい程度では問題にしないようだ。
それもそうかもしれない。ダンジョンにいる冒険者全員に、敬う態度を徹底させる不可能だし、戦闘中にはそんな事やっていられないだろう。
武闘派もそれが分かっているので、冒険者ギルドなどに降りてきているときは、常識的に敬ってくれればいいそうだ。
そういう意味で、俺はセーフなのだろうか? 何もしていないし……。まぁ何も言われなかったし、平気なんだろう、うん。
「まさか王族や貴族がこっちにまで来ているなんてね……」
「びっくりしたぞ……。今度からは気を付けないとなぁ」
その辺にいる冒険者に見える人が、実は貴族だったりするかもしれない。
「あまり気にしないで、変に失礼な態度を取らなければ大丈夫よ。……多分」
多分では困る……。まぁ、それっぽい人がいたら、会釈をするなりすればいいだろう。それに、元々他の人には礼儀正しく接しているつもりだ。敬語とかは怪しい部分もあるかもしれないけど、ですます調で話せばそれっぽいだろう。
「気をつけるようにするか。まぁ遭遇する機会も少ないだろうし、平気だろう」
「えぇ、気を付けるわ。それじゃ行きましょうか」
王族や貴族の事を頭の隅っこに置いて、ヨーモンキーの討伐へと向かった。
「はぁはぁ……これは……疲れるな……」
「アキ、大丈夫? 一旦戻る?」
「あぁ……。ごめん、ちょっと休憩したい」
万全の体制で挑んだヨーモンキーだったが、その戦績はというと、引き分けだ。
いや、クエスト自体は達成しているから、勝利か? それでも、思ったようにいかなかった。
スクゥトムゴーレムは十分に活躍してくれた。
思った通りの防御力で、盾役として敵に対応していた。ヨーモンキー二匹相手には防戦一方だったが、危なげもなく盾役として安心して任せていられた。
ベアルカスも活躍した。
簡単に契約出来たから、もしかして弱いのかもと思っていたが、そうではなかった。ベアルカス、ごめん。
熊故の、力強さと素早さでヨーモンキーと交戦。多少の攻撃を喰らっても、体力も十分にあるらしく問題がない。タイマンならば十分に戦えて、二匹相手になると少し危なっかしい感じがした。
装備を新調したマリアも大活躍だ。持ち前の素早い動きで、スクゥトムゴーレムが抱えているヨーモンキーを攻撃したり、ベアルカスが劣勢の時は助けに行くなど、遊撃として文句の付けようがない。
問題は俺だ。スクゥトムゴーレムとベアルカスは、うまく指示をしないとうまく動いてくれない。遊撃として、自己で判断し行動するマリアとは違うのだ。
今までは、補助や遠距離からの攻撃指示だったので、楽ではあった。
だが今回からは前衛二匹を加えての召喚術となる。
目まぐるしく変わる戦局。敵の状態や増援、奇襲などに注意しながら、その都度指示をしないといけない。
例えば、スクゥトムゴーレムに対して、ヨーモンキー二匹の対応を指示すれば、その二匹に対しては絶対に後ろに通さないように守ってくれる。
ここに三匹目が来た場合に、その三匹目はスルーしてしまうという事があった。
スルーされたヨーモンキーは、遊撃であるマリアが対処したり、それが間に合わなければ俺の所に向かってくる。
俺は俺でなんとか対応はしたが、ノームなどを召喚したりの防戦一方で、マリアの到着まで逃げたりするのでいっぱいいっぱいだった。
もちろん、スクゥトムゴーレムに『三匹目も頼む!』と指示すれば、守ってくれるだろう。
その指示が追いつかなかったりなんなりで、結局ぐだぐだな戦いになってしまったのだ。
召喚士の不人気の理由の一つ、召喚獣の指揮の大変さというのが身を持って分かった。
さらに、魔力の点でも、結構厳しかった。
潤沢な俺の魔力を持ってしても、マリアとスクゥトムゴーレム、それにベアルカスの常時召喚は、魔力を喰い過ぎてしまうようだ。
盾役のスクゥトムゴーレムだけは、念のために常時召喚しておきたかったので、ベアルカスの常時召喚を止め、戦闘時のみにしたが、それでも魔力の消費は大きかった。
常時召喚はマリアとスクゥトムゴーレム、戦闘時はベアルカスを加えて、緊急時にシルフやノームを追加で召喚となると……。指示の面でも魔力の面でも限界だった。
今も、戦闘を終えたばかりで、息も上がっているし、魔力も結構消費している。
「くそ……。召喚獣を揃えて攻撃も防御も大丈夫と思っていたのに……。まさかこんな事になるとは」
「確かに、ゴーレムもクマも強かったけれど、アキは大変だったわね。怪我はない?」
「それは大丈夫だ。かすり傷だったし、それも治したから。ちょっと休憩したら、戻るか……」
少しの休憩の後、クエストもクリアしているので、引き上げる事にした。
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