07 転身?と実はいい杖?
防具が揃った所で、次は武器だ。
ちなみに、ゲームとかだと俺は武器から買う派だ。別に防具を後回しという訳ではないけど、攻撃が最大の防御だ。喰らう前に倒せばいいし。
でも、ここだとそうはいかない。仮に大ダメージを負えば、攻撃だってままならない。それに痛いのはやった嫌だ。だから、まず防具を重視したのだ。
さて、ここでもまずはマリアの武器から見ていく。
武器屋も防具屋と同様に、ある程度の種別訳で展開されていた。俺達が来ているのは、やはり軽戦士向けの店だ。
ナイフに片手剣、弓矢もある。棒のような物もあるが、これは棍だろうか。
「武器はやっぱりレイピアのままでいいのか?」
「そうね……。盾と片手剣というスタイルがいいのかもしれないけど……。どうかしら?」
パーティとしてはその方がいいのかもしれない。盾役は大事だ。
マリアが盾役。基本的に攻撃よりは防御を優先する戦い方になるだろう。そうなると、敵を倒す役目は俺……というか俺の召喚獣になる。
現状の手持ちでは、どう考えても厳しい。補助や牽制などは出来るだろうが、与ダメを稼ぐというのは難しい所だ。
うーん。って事は、他の召喚獣を揃えればいいのかも? 現状は四種類プラスマリアしかいない。魔力も増えたし、召喚獣を揃えた方がいいだろう。
「……ワタシが盾を持った方がいいわよね?」
マリアもマリアで、色々と考えているみたいだ。さすがに俺に盾役は無理だと、俺も分かっている。そうなると、消去法でマリア自身しかいなくなる。
だがしかし……! マリアの特徴は、高い敏捷と器用さにある。器用さは盾を使う面ではいいかもしれない。敏捷も、素早く窮地に向かえるという点でもいいだろう。
でも、一番大事なのは腕力と体力だ。俺よりは高いとはいえ、さすがにメインで盾役が出来るものではないだろう。
つまり、他の選択肢が無いのが問題なのだ。イヴァンみたいな人が他にいればいいのだが……。
うん? マリアが盾役だと、それはそれで心配だし、攻撃面で心配。なら攻撃出来る召喚獣を揃える……。
ならば、盾役が出来る召喚獣を揃えて、マリアはこれまで通りの遊撃でいけるんじゃないか?
召喚獣だって色々いるはずだ。前に見た本では、それらしいのはいなかったけど、あれは初級向けだしな。盾役とか、前衛が出来る召喚獣を見つけて、契約出来れば……。
一気に問題解消じゃないか!
「アキ……? 大丈夫?」
どうやら結構長い間自分の世界に行ってしまっていたようだ。マリアが心配してしまっている。
「あぁ、大丈夫だ。ちょっと思いついた事だあるんだけど……」
今しがた考えた事を、マリアに伝えた。
「うーん、そうね……。確かにそういう召喚獣はいるのかもしれないけど……。契約出来るの?」
「それについては分からない。まずいるのかどうかを調べないといけないんだが……」
前の本では駄目だ。どこか本屋で新しい本を手に入れないと行けない。ゲーム時代でも、そういう召喚獣はいたし、きっといるだろう。
「分かったわ。それじゃ武器は保留?」
「だな。あ、俺の武器はどうせ杖だし、見ていっていいか?」
同意が得られた。マリアの武器種別は俺の召喚獣次第ということになる。この考えでうまく行って欲しい。
俺の武器はどうせ杖だ。魔力だけはあるし、いい杖にすれば、もっと強くなるだろう。
「いいわよ。それじゃ行きましょうか」
「この杖にしようかな」
杖専門店に移動した俺達であるが、特に悩みもせずに、性能重視で杖を選んでみた。ここも、値札と共に、必要能力値が書かれている。
今の俺の魔力は、数値上ではMAXである。故に、売られているのは大抵扱える。扱えないのは、殴打にも向いている杖であり、これには腕力が必要であった。
さすがに、敵が強くなると、杖で殴った程度ではダメージにならないだろう。それをするなら、魔法の一つを撃ったほうがマシだ。
なので、俺が選んだのは必要魔力が一〇〇の杖! ではなく、六〇の杖である。一〇〇の杖は魅力であるし、十分な性能もあるのだが、値段もいい値段するし、なによりも目立ちそうだったからだ。
見るからに強い杖という感じがして、俺が持つには不相応な感じがしたのだ。それに、因縁とか付けられそうじゃん?
なので、六〇くらいの杖という訳だ。確か、今持っている杖は、前に武器屋に見てもらった時に三〇だったはずだ。一気に倍になるので、その性能も段違いになる。
魔物素材――恐らくは木だろうか。先端には赤い拳大の宝石のようなものが付いている。さすがに硬いけど、殴ったら傷付きそうだ。もちろん、殴打には向かない杖だ。
テンションロッドという名前らしい。赤いとテンションが上がるのだろうか? 闘牛か?
「すみません、この杖を下さい」
何にしろ、新しい武器というのはいい。それだけで嬉しくなる。
「ありがとうございます。こちらの杖ですね……。能力値は大丈夫でしょうか? こちらは魔力が六〇の杖となっております」
「大丈夫です。確認しましたから」
「失礼致しました。それでは、古い杖はお持ちでしょうか? 買い取れる物でしたら、こちらで買い取りもしておりますが」
お、そうなのか。うーん。一応爺さんの遺品みたいな物だし、売るっていうのはどうだろうかなぁ。取っておきたい気もするけど、荷物になるしなぁ……。値段次第か?
「えーと……。マリア、この古い杖って、売っても平気か?」
一応マリアに確認を取ってみる。マリアにとっては、創造主の持ち物だった訳だし、そういう意味では形見に近いのかもな。
「ワタシは別にいいわよ」
気にしないらしい。でも値段次第かな。
「これなんですけど、いくらくらいですかね」
「はい、お預かり致します。……あの、お客様。こちらの杖ですが、かなりいい杖ですね。本当に買い替えをされますか?」
これはもしかして、高く売れるパターンか? 別にお金には困ってないけど、二束三文なら売らないで置こうと思ったのに。
「えーと……。もしかして、高いですか?」
「はい。お預かりした杖のほうが、性能が良いですね。魔力が六五はないと扱えません。買い替えられますと、性能が下がってしまいますが、よろしいのでしょうか?」
あれ? この杖、そんなに強い杖だったのか? 俺の記憶違いかな?
「ちょっと待ってください! ……この杖ってこんなに強かったっけ?」
「確かもっと低かったはずだと思うわ」
だよなぁ……。
「えーと、すみません。私が持っていた杖の方が、強いんですよね?」
「はい、そうですが……。どうなさいますか?」
うーむ。これはあれか……? ワーズヴェシンの武器屋のおっさんの目が節穴だったのか。それとも、この店員が節穴なのか。
でも、ここは王都だ。沢山の冒険者がいるし、ここでそういう人はいないだろう……と思いたい。
「じゃ、じゃあ。買うの止めます……。すみませんでした」
「はい。かしこまりました。またのご来店、お待ちしております」
悩んだ挙句、買わずに古い杖を使う事に決めた。
いっそ、もっと強い杖、例えば必要魔力が八〇とかのにすればよかったかなぁ。でもそれくらいので、かなり豪華で強そうな感じがしたし……。
「良かったの? その杖がそんなに強いとは思えないんだけど……」
「うーん、でもこっちのが強いって言うしなぁ……。別に不満があった訳じゃないし」
唯一の不満は、弱かった事だ。弱い杖から強い杖にランクアップというのが、今回の目的であった。
でも、実はこの杖は弱くなかったらしい。なら何の不満もない。見た目も……まぁ変じゃないし。
「そう? ならいいのだけれど。でも何でかしらね? もっと弱かったはずだけど?」
「うーん。ワーズヴェシンの武器屋かさっきの店員か、そのどっちかの鑑定にミスがあるとしか思えないけどな」
「ワタシ達には分からないものね。こっちが弱いのが分かったら、やっぱり買い替えかしら」
ゲームみたいに、手持ちの武器も数値化して欲しいものだ。そもそも、この杖は店売り品ではないのだろうか? どこかに売っていれば、本当の強さが分かるのだが……。
「そうだな。弱かったら、さっきの店員にクレーム言って、買い替えだな」
「ふふ、そうね」
武器の新調は、俺もマリアも結局しなかった。マリアは保留だけど。
さて、次は召喚獣の補強かな。本屋か、魔法道具を扱ってる店を探すか。
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