01 ワーズヴェシン到着と困惑
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ワーズヴェシン。
高さニメートルほどの外壁で囲われており、南北に少し大きい長方形の街。南北が約ニ.五キロメートルで東西が約ニキロメートル。
東京ドーム……、いや分からないな。人口約五万人いるらしいが、冒険者も多いので実際はもう少し多い。
東西に門を構えており、ここから出入りできる。
東側は森が広がっており、魔物も少なからず生息している。西側には初級者から中級者に人気のダンジョンがある。
「ようやく街か……」
森を抜けるのに約三十分、街道らしき道を歩いてさらに三十分歩いてやっと街が見えてきた。
さて、街に入る前にマリアと決めた設定がある。さすがに異世界から召喚されました、とか他の人に言える訳がない。
俺は山奥に捨てられていたところを、とある老人の召喚士に拾われた。その召喚士は俗世間に疲れ山奥に住んでおり、他の誰とも交流はしていなかった。
その召喚士は世話役として召喚獣であるマリアを創造し、ニ人と召喚獣との生活が続いた。
俺は捨てられていた頃の記憶はないが、五体満足に過ごしていた。
しかしその召喚士も歳のせいか死んでしまい、一人になった俺はマリアと一緒に山を降りて暮らしていくことを決めた。ちなみにマリアはその際に、継承した。
「とまぁ、こんな設定だ。召喚士に育てられたのに俺が召喚獣を他に契約していない理由は、その爺さんが普通の子供として育てたかったとかでいいだろ。つまり、この世界について何も知らない青年の誕生だ」
「よくもまぁ、色々考えるわね」
「仕方ないだろ。どこかでボロが出るかもしれないんだ。まだまだ知らない事だらけだし」
この年齢で何も知らないとか普通はあり得ないからな。ボロが出て、怪しい奴とか思われても嫌だし。
「そういえば、街に入る前に確認したいんだけどさ。マリアみたいな人型の召喚獣って、普通なのか? 出しっぱにしているのもいいけど、召喚したり解除したりするのを誰かに見られるとマズイとかないのか?」
「んー、小さい獣型の召喚獣をペットみたいにしている人はいるみたいね。人型は少数で珍しいみたいよ」
あー、やっぱそうなのか。この歳で可愛い女の子の召喚獣を使役していると、なんか残念な奴とか思われたり、変な奴とか思われたり、変態とか思われたりするんじゃないだろうか。それなら平時はマリアを解除したほうがいいのだろうか……。でも、見た目人間にしか見えないからなんか解除も可哀想だし、可愛いし出来れば一緒にいたい。
「あぁ、きっと大丈夫よ。少数とはいえ、人型の召喚獣を使う人もいるみたいだから」
やっぱ目立つことになるんじゃないだろうか。しかし、出しっぱにしていれば目立たないかも?
「さあ、行くわよー」
あぁ、待ってまだ心の準備が。
「ようこそ、ワーズヴェシンへ。朝早くからご苦労だな。冒険者か?」
門番ってことになるんだろう。おっさんニ人が門のところにいた。しかし外壁も立派だし、門番もいるしで結構厳重な守りなんだな。
「おはようございます。えっと、旅人です。冒険者になろうと思って来ました」
「冒険者希望か。ふむ、一応身分証を確認させてもらうぞ」
あー、身分証ねー。門番だし、そういうのも確認するよねー。ってか平民も身分証って持ってるのか?
マリアの方をちらっと見ると、どうもマリアも困った顔をしていた。どうやら知らなかったみたいだ。
返答によっては怪しまれる可能性もあるが、仕方ないので設定を繰り出す。
「すみません、田舎の山奥に住んでいたので身分証とか持ってないのですが……」
「なるほど、そういうことなら新規発行になるな。ニ人共、ちょっとこっちに来い」
よかった。新規発行も出来るみたいだし、どうやら疑われてはいないようだ。それにしてもやっぱマリアは人と認識されてるんだな。
「ニ人とも、この石版を持ってくれ。あぁ、一人ずつな」
石版? 身分証を発行するのに使うのだろうか。なんか近代を通り越してファンタジーだ。あぁ、ファンタジーな世界だった。
だがマリアはどう認識されるのだろうか、一難去ってまた一難だ。
とりあえず俺からやってみる。お、石版が光ってなんか表示されたぞ。文字みたいだけど、見たことない字だな。こんなの読め……るな……。なんでだ。これも異世界召喚のなせるチートって奴なのか?
まぁいいか、表示された内容を見てみよう。
「名前:アキヒト」
「種族:人族」
「階級:平民」
「備考:なし」
へー、なんかステータスみたいな内容だな。人族に平民ね。レベルとかはないのか。確認した後で石版をおっさんに渡した。
「よしよし、いいぞ坊主。次はお嬢ちゃんだ」
内容がOKだったのだろう。おっさんはマリアにもやるように言ってきた。召喚獣にも身分証が発行されるのか? それはありなのか?
石版をマリアに差し出すおっさん。マリアを見ると、少し困ったような、オドオドしたような感じに見える。ええぃ、成るように成るしかない。
「マリア、大丈夫だよ」
別に召喚獣ってバレてもいい。変な目で見られるのはどうせ俺だ。
マリアが石版を受け取った。俺と同じように光る。
とは言ったものの、さすがに気になる。種族は召喚獣って出るのか? マリアの持っている石版を横から見てみた。
「名前:マリア」
「種族:人族」
「階級:平民」
「備考:なし」
石版には俺と同じ、名前だけはマリアだが他の内容は同じだった。種族も人族だと? 一体どういうことだ?
マリアが石版をおっさんに渡す。マリアも平然を装っているが、動揺しているのが分かる。
「よし、お嬢ちゃんもいいぞ」
「あ、あの。この石版って」
召喚獣は判別出来ないんですか? と聞きたかったが、聞くのもあれだ。だが、俺の口からつい疑問が出てしまった。
「あぁ、ステータ石を使うのは初めてか? これはステータ石っていうのを使った石版でな。人の情報を表示することが出来るんだよ。それでもここにあるのは簡易版で、表示される項目も少ないけどな」
ステータ石……。それステータスって意味じゃないのか?
でも簡易版ね。だからマリアのことが判別出来なかったのか? ってことはちゃんとした奴なら判別される可能性もあるのか。なんにしても召喚獣ってバレなくてよかった。主に俺が。
「うん、ニ人とも犯罪者じゃないし、ちゃんと新規登録だな。たまに失くしたのに新規登録のフリをする奴がいるんだ、これが。新規登録が一人銅貨五枚だから、ニ人で銅板一枚になるぞ。金は持ってるよな?」
備考欄がなしだったからだろうか。犯罪を犯していると何か出るのかなぁ。
しかし、お金掛かるのかよ。先に言って欲しかった。でも登録しないわけにはいかないし、仕方ないか。
えっと、銅板だったか。銅貨十枚分で銅板一枚になるのか。
爺さんから貰った有り難いお金の中に、十円玉を四角くしたようなのがあったな。銅板って言ってるし恐らくそれだろう。
そう考えつつ、不自然にならないように探すフリをする。やっと見つけたという感じを装って出した銅板一枚をおっさんに差し出す。
「銅板一枚ですね。え~っと、あったあった。はいどうぞ」
「確かに。んじゃこれが身分証な。正式なものじゃなくて仮のだから注意しろよ。この街でしか有効じゃないからな。ちゃんとしたのは役場で発行するのもいいんだが、冒険者になるなら冒険者ギルドで冒険者登録をすれば冒険証が貰える。それが正式な身分証になるから、そっちのが楽だぞ。あぁ、その身分証は無くすと再発行が必要で、銅板ニ枚必要になるから無くすなよ」
おっさんはそう言ってカードをニ枚渡してきた。電車の定期を半分にしたくらいの少し固いけど薄いカードだ。表面には、さっきの石版に表示されていた内容が書かれている。
これが身分証ね。しかも仮なのか。まぁ門番のおっさんがきちんとしたのも発行出来るのもおかしいしな。
役場ってことは、役所みたいな公的な機関なのだろうか。なんか面倒そうだ。冒険者の登録で代用出来るなら、おっさんの言うとおり冒険者登録するのが確かに楽だろう。
「ありがとうございます。後、教えて頂きたいのですが、食事が出来る所と宿を取れる所でおすすめはないでしょうか? 出来れば安くていい所で。冒険者ギルドの場所も出来れば」
俺はおっさんに礼を言いつつ、情報収集をする。何せ召喚されてから何も食べてないし、森から一時間近く歩いて疲れたのだ。まだ朝みたいだけど、もう宿屋で一休みしたい。
おっさん曰く、ここは東門らしい。宿屋は東側と西側の両方にある。どっちも変わらずいい宿屋らしい。東門の宿屋は入ってすぐの所にあるので行けば分かると。宿屋で食事をすることも出来る。
北西側は店が多く、色々な品を揃えることが出来る。冒険者ギルドは街の北西側にあって、公園の隣にある大きい建物を目指せばいいらしい。
「んじゃ頑張れよ、ニ人とも」
「色々とありがとうございます。マリア? 行くよ」
マリアはステータ石の結果からまだ返って来ていない。人族と判断されたのがそんなにショックだったのだろうか。
俺としては召喚獣というよりかは、人間、それも美少女と認識していると言うのに。
そういえばもう一人の門番おっさんは空気だったな。
「疲れたし、お腹減ったし、まずは宿の確認をしつつ食事にしないか?」
「え、えぇ。そうね。分かったわ」
声を掛けると、マリアは半分放心状態から戻ってきた。少し心配だが大丈夫そうだ。
さて、まずは飯だ。しばらくこの街に滞在することになるだろうし、宿も取っておかないと駄目だろう。アパートみたいのがあるのかどうかは分からないし、そもそもお金の価値観も分からない。今持っているお金でどれだけ生活出来るのかが重要なポイントだ。
身分証の発行が高いのか安いのか分からなかったし、宿と食事の生活基板を基準にしてその辺りも把握しないといけない。
色々と悩む点もあるが、まずは無事に街に到着だ。
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