05 進撃と課題
王都をデート、ではなく散歩した三日後、俺達がクエストを行うためにダンジョンに来ていた。
金はあるが、俺達は冒険者だ。やはり冒険をしない事には始まらない。
なのでクエストを受注し、ダンジョンに来ていた。
受けたクエストは、ランクEのものだ。俺達はランクDだが、それは奇跡といっていい感じで得たもので、ちょっと前までランクFだったから、ランクEのを受注した訳だ。
そして現在はダンジョンの中である。ダンジョンと言っても、ここ王都には二種類存在するようだ。
一つは山タイプ。王都北東部にそびえ立つ山の一部が、ダンジョンになっている。山なので、それだけできついダンジョンではあるが、標高が低い所はそれほどきつくもないらしい。動植物の魔物が多く、初級者から中級者向けのダンジョンとなっている。
もう1つは洞窟タイプだ。山には洞窟があり、そこがダンジョンになっている。地下に広がっていて、様々な魔物が出てくるそうだ。こっちは、ワーズヴェシンにあったダンジョン――ウィルワーズに似ている感じだ。だが難易度はそれよりも高く、中級者から上級者向けらしい。
俺達が来ているのは、もちろん山の方だ。中級者向けとか行けません。俺達はまだ初級者ですから!
これらの情報は、冒険者ギルドで得た。さすがにダンジョンについての情報は、冒険者ギルドで得るのが一番いい。
ランクE向けのクエスト。山に生息する植物系の魔物の討伐、及びその素材の納品。
ランクE向けだし、その魔物がいる場所はまだ低い位置なので、難易度的には高くないはずだ。
それなのに、俺達は苦戦をしていた。討伐と素材の入手は成功した。対象はトレントと呼ばれる、木の魔物だ。標高が浅いこの辺りでは、森となっている。そのため、木や動物、昆虫といった魔物が出現する。
トレントを倒し、素材を回収し、戻ろうとしたのだが。
「くそ、数が多い!」
「アキ! 逃げるわよ!」
猿に追われていた。確かヨーモンキーという猿の魔物だったはずだ。それが五体追ってきている。
猿。日本では動物園くらいでしか実物は見たことはないが、ニュースの特集で猿が餌を奪うとか、人を襲うとかやっているのはよくやっており、見たことがある。
動物園にいたのは、それは人間に慣れていたが、野生のはそうではないみたいだ。仮に俺が野生の猿と対峙したら、戦おうとは思わないだろう。怪我とかしたくないし。
そんな猿の魔物は最初は六体いた。当初は迎撃しようと一匹を倒したのだが、意外にしぶとかった上に、仲間がやられて怒ったのか、攻撃が激しくなったような気がしたのだ。
そのため、作戦を変更し逃げる事にした。これは戦略的撤退である。
「分かった、シルフ! 頼む!」
「了~解!」
シルフに敏捷UPの補助を頼み、逃げる。逃げ続ける。
「……はぁ、はぁ。逃げ切れたか?」
「……大丈夫みたいね」
どのくらい走ったか分からない。一応、入り口方面への道を選んだはずだ。
そのお陰か諦めたのか、猿達から逃げ切る事が出来た。
「ふぅ……。休憩するか」
「そうね……。でもここはどこかしら? それにここも安全だとは限らないわ」
それもそうだ。疲れたので休みたいのだが、ここもまだダンジョンだ。どこから魔物が襲ってくるか分からない。
まずは現在位置の確認か。えっと、この辺に見覚えは……分からん。
山の頂上という分かりやすい目印はあるのだが、さすがに山というかこの辺りはまだ森なので、すぐに現在地は分からない。
そのはずなのだが、ここはダンジョンである。位置を特定するために、先人達が残した目印があるので、それを探せばここがどこなのか分かるのだ。
これらの情報も冒険者ギルドで得た。
「目印はっと……、あったあった」
目印は、案内立て看板みたいな物だ。目印の位置を示す数字が書かれている。
「ここは……よかった。入り口から少し入った所くらいだ」
目印に書いてあった数字を、冒険者ギルドで買った地図で探す。地図無しで山に入るのは、さすがに無謀だと思ったからだ。
どうやら、入り口からかなり近い所まで戻ってこれたようだ。
「良かったわ。この辺りなら、魔物も少ないでしょうし、ひとまずは安心かしら」
「そうだな。って事で、少し休むか」
入り口は近いは近い。そのまま戻ってしまってもよかったが、一気に進むには少し遠いし、なにより疲れすぎていた。
そのため座って休む事にした。
大きな木を背もたれにして、水を飲む。うん、水がうまい。
「それにしても、逃げ切れてよかったな。さすがにあの数であのしぶとさは厄介だ」
「そうね。一匹倒すのも結構大変だったわ」
そうなのだ。泥人形とかコウモリなんかとか訳が違った。数も多く、個々がタフで早い。それでいて、攻撃も鋭い。
厄介なダンジョンである。もっと奥になるともっときついのだろう。想像出来ない。
ダンジョン内であまり長く休むのも危険だ。疲れも幾分取れたし、後は入り口に戻るだけなので休憩を終えようとした。
その時、足音と話し声が聞こえた。
「お嬢様、何も一層から回らなくても……」
「先も言ったであろう。私達の役目は何も魔物を狩るだけではない。こうして見回るのも役目なのだ」
「それはそうですが……。さすがにこちらのダンジョンは大丈夫ではないでしょうか?」
「問題ないのなら大事ない。それを確認するために見回るのだ」
「お嬢様の仰る通りでございます。駆け出しの冒険者の方などがいるやもしれませんからな」
なんか冒険者に似つかわしくない内容に聞こえるのは気のせいだろうか。
しばらくすると、足音がさらに近づいてきた。ここも道だし、まぁ通りはするだろう。
「あそこに誰かいるようです」
通常、ダンジョンで他の冒険者にあった場合は、軽い挨拶や会釈程度が基本だ。何か情報交換や物資交換もする場合もあるが、それは顔見知りや切羽詰まった状況に限られる。
なので、近づいてくる足音も、そのまま通り過ぎるのだと思っていた。挨拶をしない冒険者も多いみたいだし、俺達に気付いたようだけど、きっとこっちには来ないはずだ。
だが、その考えに反して、その冒険者達は近づいて来た。
足音から分かっていたけど、結構な人数のようだ。姿も確認出来たけど、六人かな? 多いな。
「失礼。そなたらは冒険者か?」
その内の一人――まるで騎士のような格好をした人が近づいて来て、声を掛けてきた、ちなみに、他の五人は少し後ろで待機している。
うーん、それにしても重装備だ。手練の冒険者なのだろうか?
「えぇ、そうですけど……?」
ダンジョン内で、こんなにはっきりとコンタクトを取られたのは初めてだ。もしかしたら何か困っているのかもしれない。見たところ、怪我人とかはいないように見えるけど、何の用だろうか?
「入り口付近で座っているので、何か問題があったのではないかと思ったのだが、二人だけなのか? もしかしたら、仲間とはぐれたのか?」
どうやら心配してくれたみたいだ。見た目ごついけど、優しい人なんだな。
「いえ。クエストの帰りで、ここで少し休憩をしているだけです。それに私達は元々二人のパーティです。だから何の問題もありません」
本当はヨーモンキーに追われてピンチだったけど、それは逃げ切れたし、何の問題もないよね?
「なるほど、分かった。気をつけて帰るようにな」
「えぇ。ありがとうございます」
その後騎士さんは仲間の元に戻っていった。
さて、それではご忠告通り気をつけて戻るとしますか。
と思ったのだが、先ほどの騎士さんパーティの一人がこちらに近づいてきたのに気付いた。
今度こそ何の用だろうか……?
近づいて来るのはさっきのごつい騎士さんとは違うが、これまた騎士の格好をした人――女性だった。
盾に片手剣、胸や肩などの要所には白っぽい素材で出来た鎧を付け、腰から下はプリーツスカートのような鎧を付けていて、まるで戦う女騎士――ゲームなどに出てくるヴァルキリーのような気品さと強さと美しさが漂っていた。
思わず萎縮してしまう。なんでだろうか。マリアはクール可愛い感じだが、あの女性は、もっと気高い美しさというか、オーラを感じる。
その女騎士が俺達の前に来て、開口一番。
「ふむ。本当に二人だけのようだな」
「……え? はぁ、そうですけど……」
「ワタシ達は最初から二人ってさっきの人にも言ったわよ?」
さっきの騎士さんにも言ったはずだが、何なのだろうか?
「そなたらは手練なのかもしれないが、ダンジョンに二人だけで挑むのは無謀であるぞ。信頼のおける仲間とパーティを組んで挑むべきだ。それに……盾持ちもいないではないか。せめて盾持ちを仲間に加えるべきだ」
盾持ち。文字通り盾を装備している人の事である。盾持ちは、魔物の引きつけ、その攻撃を耐える役目だ。その間に他の人が魔物に攻撃を加えたり、体勢を立て直したりする。
俺達で言えば、それはイヴァンだ。たしかに、イヴァンがいると、戦闘は安定する。それは分かっているのだ。
「えぇ。ちょっと訳あって別行動しているんですよ」
罰則で別行動なんですよと言って、変に見られるのも嫌だった。冒険者ギルド云々とかの説明が面倒だったのが大きいけど。
「ふむ? そうか。分かっているのならば良いが。あまり無茶をするでないぞ」
女騎士はそう忠告をし、今度こそ仲間と共に、奥へと進んでいった。
「さっきのは何だったんだろうか……」
「分からないわね。でも確かに二人というのも難しくなってきたと思うわ」
女騎士達と別れた後、予定通り入り口に戻り、そのまま冒険者ギルドへクエストの報告を済ませた。
ちなみに、報酬は銅板五枚だ。宿一泊が銀貨一枚なので、半分にしかならない。これがランクEの報酬と言う訳だ。ランクEのクエストにだったら、宿分くらいにはなるのだろう。
今は赤字である。
それよりも。
「そうだな……。イヴァン達がいれば五人になるし、イヴァンという盾持ちもいる。でも今の俺達二人だと、ちょっとバランスが悪いかもしれないな」
ヨーモンキーに手間取ったのもそのせいだ。盾持ちがいれば、守りに徹して三匹くらいを請け負って貰い、その間に他の三匹に攻撃を集中、その後は各個撃破していけばいいはずだ。
だが、今の俺達は盾持ちもいなければ、火力も無い。俺達二人の弱点と今後の課題が見えてきた。
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