03 オススメホテルと赤レンガ
建物の中は賑やかだった。
ワーズヴェシンのよりも大きく、人も多い。
「こんにちは、冒険者ギルドへようこそ。ご用件はなんですか?」
やはりここは冒険者ギルドで正解だった。それならば、さっきの女の子は何の用だったのだろうか。
まぁいいか。関係ないしな。用を済ませて早く飯にしたい。
受付のお姉さんが応対をしてくれる。そういえば、ワーズヴェシンでも受付は女性が多かったが、ここも女性が多い。何でだろうか? やはり女性のほうが人気が出るのかな。強面のおっさんとかだと、俺は行きたくないし、きっとそうだろう。
だから、この街でもお姉さんの受付に行ってしまうのは仕方のないことだ。
「はい。ワーズヴェシンから書状を届けに来ました」
用はそれだけなのである。
「はい、伺っております。こちらで承ります」
「お願いします」
「はい、確かに。ではこちらが、お約束の奴隷商店の紹介状になります。当ギルド提携のお店ですので、安心安全ですよ」
お姉さんに書状を渡し、代わりの紹介状を受け取る。
うむぅ。そういえば、そんな話だったような。しかし、提携の奴隷商店って……。
「……はい。ありがとうございます。提携ですか?」
「奴隷商店と提携している冒険者ギルドは多いんですよ。盗賊とか犯罪者討伐を冒険者ギルドのクエストで発行して、捕まえて貰う場合があるのですが、その時の受け皿になります。なので、円滑に進めるために、提携しているんです」
なるほどね。確かに盗賊を倒すというのもあるが、捕まえるのが人道的にいいしな。中には生死を問わないとかもありそうだけど、捕縛が基本になるのだろう。
……もしかして、俺達が倒したのも、捕まえた方が良かったのかなぁ。でも一応報奨金は貰えたし、平気だったのかな?
「そうですか。……これってやっぱ行かないとまずいですかね?」
でも気乗りしないんだよねぇ。奴隷って、そもそも縁がないし。それに、元盗賊とか、犯罪者ってなんか怖そうだし。奴隷といえど、近くにいたくない。
「奴隷はお好きではないですか? そういう方も実は多いんですよ。こちらとしては紹介するだけですが、行くだけ行ってみてはどうでしょうか。別に行かなくても、評価が下がるとかはございません」
「そうですか。では、考えておきます」
行かなくてもいいなら、気は楽になる。紹介して貰った手前、行かないと駄目! とかだったらどうしようと思っていたのだ。
「はい。お願い致します。他に御用はあるでしょうか?」
うーんと、特にないよな。早く飯にしたいし、どこか探すか。
「アキ、いいかしら?」
「ん? なんだマリア」
「宿もまだ決めていないけど、どこかいい所はあるかしら」
あぁそうだった。宿も決めないとな。冒険者ギルドでお勧めとか教えてくれるのかな。
「そうですね……。アキヒトさん達でしたら、ちょっと豪華にするならローベルトの宿、そこそこならモーネターブ、安い所でヨルバの酒場がお勧めですね」
ほむ。三つも提示してきたぞ? しかし、俺達ならってどういうことなのだろうか。
「ローベルトの宿はランクCの方にお勧めしている宿です。その分お値段も張りますが、ランクCの方ならば問題ないはずです。他のは、順にランクD、ランクEの方にお勧めしています」
なるほど。冒険者のランク相応というか、収入相応で宿のランクも大体決まるのか。確かに、冒険者のランクが上がれば、クエストの報酬も増える。その分、宿も豪華なところに出来るのか。
ワーズヴェシンの時の宿屋もそういうのあったのかな? でもあの街は宿屋ってそんなに無いだろうし、王都みたいなデカい街ならではなのかもしれないな。
「んー、どうする?」
「私はどこでも構わないけど?」
俺としても、駄目すぎなければどこでもいいのだが。
「そのモーネターブって、綺麗で食事も美味しいんですか?」
「そうですね……。特に汚いとか、食事がまずいとかのお話は出ていないですよ。場所も北門と西門の間くらいですし、ダンジョンにも行きやすいって評判です」
お、ダンジョンがあるのか。そういえば、王都の事全然知らないな……。少し探索がてら見て回るのもいいかもしれない。
うーん、まぁここはランク相応の宿にするか。お金は持っているけど、一回モーネターブに泊まってから考えてもいいだろう。
「それじゃそのモーネターブにします」
「はい、場所は先ほどの通り、北門と西門の間です。赤レンガで出来ている大きな建物ですので、行けば分かると思います」
「そうですか。分かりました」
「はい、他に御用はあるでしょうか?」
「いえ、ないです。よな? マリア」
「えぇ。大丈夫よ」
宿屋の場所も判明したし、まずはそこで宿の確保と飯かな?
王都の外周には、全部で四つの門が備わっている。
東と南は、主に行商や他の街からの旅人を迎える門である。
北と南は、ダンジョンがすぐあるため、主に冒険者向けの門となっている。
ちょうどきっちりに、東西南北に位置しているのではなく、微妙にずれているので、若干ややこしい。ずれているのは、冒険者向けの北と西であり、これはダンジョンに合わせた位置になっているので、仕方のないことではあるのだが。
教えて貰った宿屋に向かうとするか。
えーと、モーネターブだったか。なんでこう言いにくいんだろうか。なんとかホテルとかでいいじゃないか。
北門と西門の間だったか。えーっと、今は……西門はまだ見てないから、もうちょい歩くのかな?
この王都に来た時の門が東門だったかな。で、冒険者ギルドが西側にあるから、南側を歩いてきたんだよな。ってことは、もう少し進む感じかな。
頭の中に、ぼんやりと地図を浮かべながら、王都の外周を歩く二人。その途中にも沢山の屋台や店があり、歩く速度が遅くなってしまう。
「それにしても、色々なお店があるなぁ。お、あれなんて美味しそうじゃないか?」
「もう、アキ? 見るのもいいけど、まずは宿屋に行きましょうよ。疲れてるんじゃないの?」
確かに疲れていたが、それはそれだ。こういう色々なお店があると、どうも目移りしてしまう。まるでお祭りだ。
「いやだけどさ。色々あると楽しくないか?」
「そう? 確かに色々なお店があるけど、宿に行ってからにしましょう」
むぅ。なんだかマリアが真面目になってきたな。外見は可愛い女の子で、はたから見ると、俺が兄でマリアが妹に見えるはずなんだが、これでは兄の世話を焼きたい真面目妹という図式になってしまう。
まぁ確かに少し年甲斐もなくはしゃぎ過ぎたかもしれない。ここは大人になって、マリアに従う事にしよう。
「分かってるさ。んじゃ宿を探すか」
「これか?」
赤レンガの大きな建物。一応人に聞いたりもしているし、確実だ。
だけど。
「大きいなぁ……」
「なんか立派ね……。ここ、本当にランクD相当なの?」
建物の前で思わず立ち止まってしまったのは、その建物が原因である。
所詮宿屋。しかも異世界のである。日本のホテルや旅館だと、さすがに建造技術などではこの世界は劣っているはずだ。その証拠に、ワーズヴェシンでの宿屋は、木造の三階建てだった。
対して、俺達の目の前に建っているのは、全部赤レンガで出来ているであろう五階建ての建物であった。日本でも、これほどの建造物は珍しいと思う。
もう、ちょっとした城なんじゃないか? と思えるくらいである。
さすがに城はもっと立派なんだろうけど、ランクDが泊まる宿屋としては、これは合っているのだろうか? それとも、ランクDというのは、そこまで稼げるのだろうか。まだランクDとして活動したことがないから分からない……。
だけど、いつまでもこうしている訳にはいかない。中に入らないと……。
「……よし、入るぞ」
意を決して、中に突入をする。
立派ででかく、重い扉を開ける。
中は少し薄暗い感じがした。現代の蛍光灯に慣れていると暗いと思えるのかもしれないが、それでも少し暗いように見える。
だがその明かりも、ここでは合っている。どこかアンティーク調な作りのカウンターと相まって、落ち着いた雰囲気を作り出していた。
そのカウンターには、何処かの執事のような男性が立っている。
「いらっしゃいます、モーネターブへようこそ。お泊りでしょうか?」
やはりここはモーネターブで合っていたようだ。この執事さんは従業員さんなのだろうか。
しかし、こうも立派だと、お値段が気になるんだけど……。
「はい、そうなんですけど……ここって宿屋なんですよね?」
「はい。当店は宿屋でございます」
「随分と豪華ですよね?」
「ありがとうございます。当店は赤レンガを外壁に使用し、内装も落ち着いた物で揃えております」
うーむ。どうしよう。ワーズヴェシンの宿屋とは大違いだ。泊まっていた方は、女将さんが優しい、どこか家族の優しさを感じる宿だった。もう一つあったのは、豪快なおっさんがやっており、冒険者に人気の賑やかな宿だった。
対してここは高級ホテルだ。酒を飲んでガハハ! と笑っているおっさんなんていない。
「……ちなみに一泊いくらでしょうか?」
豪華で落ち着いた感じの宿だ。清潔なのは見て分かるし、食事にも期待出来る。
でも、お高いんでしょう?
「当宿は、一泊銀貨一枚でございます。御食事は別料金となっておりまして、そちらは一食銅板一枚でございます」
うーん? あれ、前の宿はいくらだっけ?
聞いたはいいが、高いかどうか分からなかった。そんな俺に気付いたのだろう。隣にいたマリアがコソッと教えてくれた。
「ワーズヴェシンは、宿泊が銅板二枚に、食事は銅貨三枚だったわ」
よく覚えているものだ。
とすると……宿泊施設は五倍で、食事は約三倍か?
そう計算すると高いけど、確か銅板が千円くらいで、銀貨は一万円くらいだから……そう考えると、日本の宿よりも安いのか?
この豪華さでこのお値段は、むしろお得なのかもしれない。
だけど、ランクFの収入では、到底無理だろう。ランクDでそこまで稼げるという事か。
コソッとマリアにお礼を言い、どうするかも相談した結果、ここに決める事にした。
お金ならあるのだ。金貨一枚で百日泊まれる。金貨五十枚貰ったから……、あれ、年単位になるな……。
「分かりました。まずは十日でお願いします」
王都にいつまでいるか決めていないが、まあ十日くらいはいるだろう。
銀板一枚を執事さんに手渡す。
このお金は、マリアを創った爺さんのだな……。ランクFだった俺逹には、そんなに稼げなかったし。
「ありがとうございます。それでは、お名前をお伺い致します」
「私が晶人で」
「ワタシがマリアよ」
「はい、承りました。お部屋は四◯四号室になります。ご案内致します」
四◯四か……。四という数字は、日本だと避ける傾向があると思うけど、こっちじゃ普通なんだな。それにしても、見つかりにくそうな番号だな……。
そんな訳もないのだが、執事さんに付いて行く事にする。
階段……なんだよな。エレベーターはさすがに無いのか。それにしても、ワーズヴェシンのよりは高いけど、その分期待が出来る宿屋――ホテルだな。部屋も楽しみだ。
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404は"Not Found"です。




