02 王都とメイドさん
「まもなく王都グーベラッハですよ」
「やっとか……」
御者の声に安堵の感想が漏れる。
馬車に揺られる事数日、さすがに飽きて乗り疲れてしまったが、ようやく王都に着くようだ。
道中は平和だった。街道を通っていれば、魔物に遭遇する事は稀だし、一番厄介な盗賊の部類は出てこなかった。
そりゃ、この辺りを縄張りにしていた盗賊団は壊滅しましたからね。
「ほら、もう見えてきますよ」
「どれどれ……おー? あれは、山?」
「山みたいね」
遠くに見えた王都は、山のようだった。いや、なんか段々になってるし、豪華なケーキか?
「はは、皆さんそう仰いますよ。山のような中央が城です。その周りの中腹が貴族の方々が住まう区画で、一番下が我々平民の区画ですよ」
へぇー、凄いな。
山という表現もいいが、でかい日本の城みたいな感じか? 天守閣に相当する城の部分を攻めるのは大変だろう。いやまぁ、別に攻めたりしないけど。
それにしても、王に貴族か。異世界って感じがするなぁ。
「アキ。分かってると思うけど、貴族に関わるのはダメよ。碌な事にならないから」
「碌な事?」
「そうですね。貴族の方々に失礼があると大変です。罰せられたり、ひどい時は死罪ですよ。中には温厚な方もいらっしゃいますけどね」
マリアの注意を御者が補足をする。
この旅で仲良くなって話すようになったけど、王都が見えてからは随分で饒舌だ。もしかしたら、王都出身とかなのかもしれないな。
「なるほど……。まぁ俺達は冒険者だし、貴族の所には行かないから、大丈夫ですよ」
会わなければいいだけさ。貴族も、平民とか冒険者の所にわざわざ来ないだろうし。
ゲームだと、さも当然のように城に入れるし、王様にも話しかけたり出来るけど、やっぱ現実は違うもんだよなぁ。
「それもそうね」
「近くで見ると、でかいな……」
「そりゃ王都の玄関ですからね。城や貴族の区画にも門がありますけど、そっちも立派ですよ」
遠巻きに見ていた分にはでかさが分からなかったが、近くで見た王都の門はでかかった。比較対象がワーズヴェシンしかないが、それよりも大きい。
門には兵士らしき人が立っており、王都に来る者、王都から出る者をチェックしているようだ。
俺達二人も馬車の中にいたのに、確認を求められたが、冒険証を見せて通る事が出来た。
ワーズヴェシンの時は身分証なんかなかったから、街に入るのも緊張したが、今では冒険証がある。冒険証バンザイだ。
門を潜り、王都到着!
ここは平民の区画だが、それでもなんか品格と綺麗さがある。ワーズヴェシンもそれなりの街だったけど、さすがは王都というところか。
「それでは、私達はここまでですね。お疲れ様でした。また機会がありましたら、お願い致します」
「あ、はい。ありがとうございました」
門を潜り、王都に入るや否や御者とお別れした。なんかあっさりだったが、向こうも仕事があるんだろうし、仕方ない。
それにしても、王都だ。
この世界で街は二つ目になるが、さすがに広い。下手したら迷いそうだ。まぁ、一番外周だけだから、そうでもないのかもしれない。
「さて。着いたのはいいが、まずは飯と宿の確保か?」
特にキョロキョロもせずに、俺の横にいるマリアに相談する。
建物も人も多いけど、まぁ東京に比べれば……ね。
だけど洋風と言うか異世界風というか、まぁ異世界なんだけど、ワーズヴェシンとはまた違った雰囲気で少し見て回りたい気もある。
しかし、いくら馬車に乗っていただけと言っても、さすがに疲れたし、ゆっくりと食事もしたい。宿も多そうだし、どこかいい所を探したいという思いが強かった。
そうだと言うのに。
「ダメよ、アキ。まずは冒険者ギルドに行かないと」
まるで真面目な委員長の如く、俺の案は却下された。
「でもさぁ。疲れたし、お腹も空いただろ? どこかで休憩でもしようぜ。冒険者ギルドはそれからでも遅くないって」
「確かにそうだけど。でも冒険者ギルドだってそう時間は掛からないでしょ。そこで宿とかも聞けばいいわ」
マリアの言っていることは確かに正論だ。俺達は王都に遊びに来た訳ではない。一応罰則で来ているのだ。そのために、書状も受け取っている。
しかし、飯くらいはいいだろう? 別に忘れている訳ではないし、何時間も遅くなるって訳じゃない。飯食べて休憩をするだけだ。
「ほら、行くわよ。場所はさっき御者の人に聞いたから」
「分かった、分かったよ。行くよ」
なんだかマリアが元気というか、やる気だな。
「確かこの辺りって聞いたけど」
「うーん? あれは違う……よな?」
俺達は王都の西側に来ていた。ちなみに、王都に来るときに潜ったのは東門だ。なので、真反対まで歩いた事になる。
さすがに広くて時間も掛かった。真ん中を突っ切れば短縮になるんだが、それは出来ない。
真ん中は城だし、その周りは貴族の区画だからだ。なので。ぐるっと弧を描くように東から西に歩いてきたと言うわけだ。
冒険者ギルドらしき建物を見つけたので、マリアにそうは言ったものの、自信が持てなかった。
確かに建物は立派だ。ワーズヴェシンにあったのと似ているが、それよりもでかい。なので冒険者ギルドか、もしくはお高い店という事になるが、平民の区画にお高い店があるはずもないだろう。まぁ違ったら誰かに聞けばいいのだが。
「なんでメイドが立っているんだ?」
今ひとつ確信が持てなかった理由がメイドだ。若いメイドが、建物の前に凛と立っていたのだ。
もしかしてメイド喫茶とかそういう店なのか? いやでも、メイド喫茶とかあるのか? あるとしても、客引きにしてはやる気が感じられないし、看板みたいなものなのか?
「さぁ、なんなのかしら。別のお店なのかしら。とりあえず入ってみましょう」
マリアも分からないようだ。
「そうだな。さすがに俺達みたいな平民はお断りとかの店じゃないだろうし」
冒険者ギルドの扉に近寄り、開けようとした時、扉が勝手に開いた。
「もう! 今日もダメでした。……まずは父上の説得が先かしら」
自動ドアと呼ばれるものはさすがにない。勝手に開いたのではなく、向こうが開けたのだ。つまり、出てくる人とかち合ってしまった。
幸い、開かれたドアにぶつかる事もなかったが、ヒヤリとした。
開かれたドアから出てきたのは、どう見ても冒険者に見えない女の子と、これまたメイドの格好をした女性だった。さっきの建物の前に立っていたのは若い女性だったが、こちらは幾分かベテランの感じがする年齢だ。
そのベテランメイドさんは、ドア付近にいた俺達に気付くと、軽く会釈をしてくれた。
感じのいいメイドさんだ。
「何をしているの。さっさと行くわよ!」
「お待ちください、お嬢様。走られては危のうございます」
対して女の子は、俺達なんか眼中にないようで、先に進んでいた。
しかし、メイドにお嬢様と呼ばれた女の子か。まさか貴族とかなのか? いやでも、貴族がなんで(多分)冒険者ギルドに来ていたんだろうか?
ならば平民だけどいいとこのお嬢様か? それにしても、メイド二人を伴うなんて、かなり裕福なのだろう。
どっちにしろ、俺達には関係無いだろう。
「なんだったんだ?」
「なんだったのかしら?」
「とりあえず中に入るか」
「そうね」
これが、この街での貴族との出会いとも知らずに、晶人達は建物の中に入る。
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