01 王都グーベラッハと冒険者ギルドの日常
新章です。
第三者視点です。
王都グーベラッハ。
その名の通り、国王が住む王城がある都であり、この国の名前でもある。もちろんこの国で最も大きく、最も栄えている都である。
遠くからみると、ちょっとした山の様になっており、その中央には城が見える。
その城こそ王族が住まう城であり、王都の象徴でもある。中央は王族や高い位の貴族が住んでいる区画で、騎士団や警護を行う兵士などの詰め所もここにある。城の周りは防壁で囲まれており、防御は万全である。
その王城のある区画より一段下がった部分には、他の貴族や裕福な商人などが住む区画がある。もちろん平民が立ち入る事は通常は出来ない。ここも周りには防壁があり、平民が入らないように門番が立っている。
そのさらに外側の一段下がった部分、王都の一番の外側は平民が住む区画である。最も広く最も人が多い。冒険者ギルドもこの区画に構えている。もちろん、この区画も周りには壁が建っており、王都の玄関が存在する。
この世界にはないが、知っている人が遠くから見れば、まるで三段のちょっとしたウエディングケーキのように見える、それがこの国の王都である。
北と西には山がそびえ立っており、東と南には平原が広がっている。
山にはダンジョンがあり、冒険者や騎士や兵士の訓練に人気の場所となっている。
平原には中型や大型の魔物はおらず、旅の商人が安心して歩けるようになっている。
貴族はその国の民を守る事を役目としており、そのために日夜仕事をしている。
農地の管理や民に危害を加える魔物への対応、街道の整備などその仕事は多様だ。その内容故、貴族は二種類に分類できる。
頭脳派と武芸派である。
武芸派といって頭を使うのが苦手ではなく、魔物を討伐したり騎士の訓練行い、武の面で国により貢献している貴族である。
それは王族も例外ではない。
そんな王族の武の代表とも言える人物、それがこの国の第三王女のエリーザ・ブリッツェ・グーベラッハ。通称姫騎士である。
日夜ダンジョンに潜り、魔物を狩り鍛錬を行っており、その実力は折り紙付きだ。
さらに、見る人が思わず立ち止まってしまう美貌も持っており、王女たるカリスマ性も兼ね備えている、天が二物も三物も与えた存在、それが姫騎士である。
そんな姫騎士は、いつものようにダンジョンに向かうべく冒険者ギルドにいた。普段は王族はおろか貴族さえ立ち入らない場所であるが、先の通り武芸派はダンジョンに潜るのは普通であり、姫騎士が冒険者ギルドにいるのも普通だったりする。
無論、だからと言って平民が気軽に接する事は出来ない。対応する職員は、教養と礼儀が完璧な貴族担当の者に限られるし、話しかける者も限られる。
そのはずであるが、姫騎士はその美貌とカリスマ性、そして強さをも持ち合わせているため、平民や冒険者に人気が高く、姫騎士自身も階級関係なく民に優しかった。そのため、話しかける者も多い。
「エリーザ様、どうかお気をつけを」
「エ、エリーザ様! あの、握手してもよろしいでしょうか!」
「姫騎士様、どうか私をパーティに。力には自信があります!」
「そんな奴よりも私めの方がお役に立てますわ。私の魔法なら、魔物なんて余裕でございます!」
「荷物持ちでも構いません。姫騎士様、是非ご一緒したく……」
このように、姫騎士の身を案じる者、姫騎士に心酔する者、そしてなんとかパーティに入れてもらおうとする者。
同じパーティになれば、姫騎士と一緒にいられる。その美貌と地位と強さ故に、姫騎士本人だけではなく、パーティメンバーも注目されるだろう。つまり、同じパーティに入り名前を売ろうとする者もいた。
「あぁ、うむ。皆の心配、ありがたく思う。握手は、すまぬ。王族故、簡単には出来ぬのだ。分かって欲しい」
「い、いえ。ありがとうございます!!」
「すまぬな。それとパーティの誘いも嬉しく思うが、それもすまぬ。見て分かる通り、私には既に良き同行者がいる。そなた等が決して良くないという事ではないのだが」
「そう……ですか。分かりました……」
大抵は、姫騎士の丁寧な対応で納得し引き下がる。彼らも本気ではなく、万が一にもうまくいけば御の字、くらいに考えているためだ。
だが、中にはそれでも強引に迫る者もいた。
「で、でも! 私の方が……!」
「お嬢様には我らが付いております。ご安心下さいませ。それとも、我らの実力にご不満がおありでしょうか?」
そういう者には、姫騎士のパーティメンバーであり、姫騎士の執事であるセバスが対応を行っている。
執事としての能力はもちろん高く、戦闘力も高い。仮に冒険者に当てはめれば、ランクBに相当するだろう。
姫騎士のパーティメンバーには他にも、国の騎士が二名、仲が良く信頼のおける伯爵家から兵士二名で、姫騎士とセバスを含めて、パーティとしての上限であるこの六名が、姫騎士のパーティであった。
どの者も優れた人材であり、彼らを超える冒険者はそうはいない。
そのため、姫騎士のパーティに加わるのは実質不可能なのであった。彼らを超える人材など、そうはいない。
先ほどのセバスは暗に、
『パーティに加わりたいのであれば、もちろんお強いのでしょう? 是非お手合わせをしたいものですな』
と威圧しているのある。
「ひっ! い、いえ、そのような事では決して……。申し訳ありませんでした……」
「いえいえ、姫様を心配するお気持ち、感謝致しますぞ」
冒険者が姫騎士に声を掛け、断られて、それでも食い下がる者は威圧される、このような一連の流れは、日常の光景であった。
「姫様! 今日こそ私を連れて行って下さい!」
そんな光景には続きがある。
先ほども他の冒険者が断られたばかりなのに、果敢にも、そして無謀にも声を掛ける少女がいた。
冒険者相手ならば、またセバスが対応をすれば良い。しかし、この少女相手には姫騎士自らが断る必要があった。
その少女は、伯爵家の娘であり、姫騎士とも仲の良いカタリーナ・クルーグハルトだったからだ。
「カタリーナ殿。嬉しいのではあるが、ダンジョンは危険だ。お父上も心配されるであろう」
「しかし姫様。私は弓と魔法が得意です。姫様のお役に立てることでしょう」
「確かに貴女の弓と魔法はいい腕だ。しかし、魔物は厄介であり、ダンジョンも一筋縄ではいかない。浅い層ならば良いが、我らが向かう奥深くでは苦戦するであろう」
「確かに私はまだ未熟なのかもしれません。しかし、姫様の事が心配なのです。お供をさせて下さい」
姫騎士からすれば、カタリーナは妹同然に可愛がっている女の子であり、そのため強くは断れない。しかし、ダンジョンの浅い層ならばいざというときに守ってやれるが、深い層ならばそうはいかない。そのくらいになると、カタリーナの実力では、かなり辛くなるレベルであった。
「心配してくれるのは嬉しいが、既にクルーグハルト家からは優秀な兵士をお借りしている。クルーグハルト家は、その私兵を信用出来ないという事か?」
パーティメンバーである伯爵家からの兵士二名というのは、クルーグハルト家に所属する兵士であった。
「いえ、そういう訳ではありませんが……」
「カタリーナ様。クルーグハルト様も心配なさるでしょうし、申し訳ございませんが、本日はこの六名で潜らせて下さいませ」
「う……。セバスはいつもそう言うな。分かった、分かりました! 次こそは絶対ですからね!」
傍から見ていると、カタリーナが我儘を言って、姫騎士とセバスが宥めているようにしか見えないが、さすがにそれを言える者はこの場にいない。
もちろん、カタリーナがパーティに加わることが出来る、次の機会はいつまでも来ない。いつも何だかんだで断られてしまい、カタリーナがパーティに加わる事は出来ない。だからこそ、カタリーナの我儘も冒険者ギルドでの日常の一幕になっているのであった。
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