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召喚獣による召喚で異世界で召喚士になりました  作者: bamleace
一章 ~ワーズヴェシン街~
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a3 晶人とマリアと調査報告

 綺羅びやかでなく、使いやすさ重視で選ばれたであろう事務用の机。随分と使いこまれており、年季を感じる。机の上には、書類が所狭しと置かれており、その多忙さが見て分かる。

 その机の前には、これまた上品ではあるが高価には見えない、それでいてモノは良さそうなソファが置いてあった。このソファも使い込まれてはいるが、くたびれているようには見えない。モノがいい証拠であった。

 これら家具の所有者であり、この部屋の主であるワーズヴェシン街のギルド長、モニカ・ヴィーベリは仕事の合間の休憩を取っていた。

 部屋には彼女一人しかいないため、誰もその休憩を邪魔するものはいない。休憩と言っても、寝ている訳ではなく、紅茶を飲んでまったりしているだけではあるが。

「失礼します、ギルド長」

 そんな休憩に終わりを告げる声とドアをノックする音。

 ギルド長の部屋に用事がある人物は限られている。長という立場であり、その部屋なのだ。普通の冒険者では入る事はが出来るのは稀である。

 だが、この街で本人以外で最も気軽に入室出来る人物がいる。

「ノーラか。開いておるよ」

「はい、失礼します……、また(・・)ご休憩中でしたか」

 ドアを開けたのは、副ギルド長であるノーラ・バーリルンドだった。

 言うまでもなく、気軽に入室出来るといっても、無許可で入る事がさすがに出来ない。ノックをし、許可を得て、やっと入室出来るのがギルド長の部屋であり上司の部屋である。

 しかし、ノーラはモニカの秘書のような立場のため、基本的に好きに立ち入ってもいい事にはなっていた、

 それでもノックをするのは、礼儀とノーラの真面目さ故であろう。

「い、いや。きちんと仕事はしとったぞ。たまたまじゃ、たまたま」

 もちろん仕事もきちんとしてはいたが、ノーラが来るタイミングがいつも休憩中の時なため、ノーラからすればギルド長はいつも休憩をしている、と思われてしまっている、

 もちろん、やるべき仕事は処理されているので、ノーラとしてもさほど困ってはいないが、それでも休憩が多いのは悩み種であった。

「はぁ……ご報告が二件ございます」

「う、うむ。聞こうか」


「はい、まずはアキヒト殿とマリア殿は無事に出立しました」

 見送りと書状の手渡しという名目でアキヒト達の出立場所にいたノーラであったが、その最大の目的は二人の出立の確認であった。

 二人がきちんとこの街を出て、王都に向かった、この事実を見届けるのがノーラの役目であった。

 冒険者ギルドの職員を向かわせるのが通常である。しかし、今回ばかりは副ギルド長という役職の人間が行う必要があった。

 それだけ、今回の事は大事(おおごと)というのが分かる。

「ほぉ。それは良かった。それで二人の様子はどうじゃった?」

 確認と書状を渡すというのが任務であったが、モニカは二人の精神状態も気にしていた。少なくとも、仲が良さそうに見えたパーティを引き裂いてしまったのだから。

 そのため、モニカとしては二人の様子が一番気になっていたことであり、ノーラに確認して欲しい事であった。

「はい、お二人とも特に問題なさそうでした」

 ノーラは見たままの感想を伝える。二人は少なくとも元気そうにみえた。……もちろん、怪我を負った晶人は元気とは言えないが、モニカが心配しているのは精神面であったためである。

「ほぉ? 大丈夫じゃったか。そうか……」

(普通なら仲間や街から離れる事で不安になるはずなんじゃが……。やはり召喚士という訳かのぉ。それだけ心配でもあるんじゃが……)

 普通の人間ならば不安に駆られる状況のはず。だからこそ心配していたモニカであったが、ノーラからの報告を受け、別の意味で心配をしていた。

 人間不信である。

 召喚士は変人が多い。それは人間不信から来るものが多い。通常ならば一人で寂しい思いをして、耐え切れずに心を許せる人間を見つけるという行為に出るが、召喚士の場合は召喚獣という存在がいる。

 ペットであり、パートナーとなりうる存在を自分で生み出せる召喚士は、その結果人間との関わりをさらに避けていく事になる。

 そのため、晶人達が大丈夫だったという事は、既に駄目な方に吹っ切れてしまっているという考えに至ったモニカであったが。

「いえ、ギルド長が心配しているような事ではないようです。行ったことの無い王都に期待しているようでしたし、何よりパーティメンバーとはまた会えるから、と」

「そう……か」

 モニカの心配は、ひとまず大丈夫のようであった。

(それはそれで甘いというか、楽観的というかで心配にはなるのじゃがな……)


 晶人達の精神面のダメージは問題無いと判断し、二件目の話に進むモニカとノーラであった。

「まぁ二人の事は大丈夫という訳じゃな」

「はい、それで二つ目の報告ですが……。特にこれといって解ったことはありませんでした」

「ほぉ? 聞こうか」

「はい。まずはマリア殿ですが……。召喚獣だと気付いているのはいないようです。普通の人間――可愛い女の子と思われているようです。少し口数が少ないようですが、行動も落ち着いており、真面目な冒険者のようです」

 ノーラの報告はマリアについてであった。

 巻き込まれた系で被害者ではあるが、事件の関係者ということで近辺調査が行われていたのであった。

 無論これもモニカの指示によるものであった。

「ふむ、そうか。やはり召喚獣と見破れたのはいないようじゃの」

 人型の召喚獣は珍しい。召喚士自体の数が少なく、また召喚獣というのもその字の通り、獣系が主である。仮に人型の召喚獣がいたとしても、人間と同じように会話したり行動できるレベルではないだろうというのが、普通の人が認識しているレベルである。

 それでも、その魔力などから見破ることは可能である。可能ではあるが、それもかなり難しいレベルではある。

「召喚獣としての能力は不明です。ですが、普通の人間と同じように戦闘が出来るようです」

「さすがに能力までは分からぬか。そういえば冒険証は発行されていたと思うんじゃが」

「はい、発行されてます。能力値も……ランクDからE相当といった感じですね」

 召喚獣ならば何かしらの能力を保有しているはず。

 それを調べていたのだが、さすがに晶人自体がマリアが召喚獣である事自体を隠していたため、情報は得られなかった。

 ……まさか、家事全班が行える『彼女』という能力であるとは知る由もなかった。

「まぁ普通の人間みたい、という感じじゃな」

「はい。解ったのはそこまでです」

「ふむ……。まぁ仕方ないのぉ。それで次は」

「はい、アキヒト殿ですが、こちらも余り情報は得られませんでした」


「ふーむ……。こちらもあまり分からずか……」

「すみません、ギルド長」

「いやなに。解らなかったのは仕方がない。さすがにここまで不可思議だとは思わなんだが」

 ノーラからの晶人に関する報告を受け、感想を漏らすモニカ。その報告内容には、さすがにそう思ってしまうものがあった。

 ――冒険者になったのもごく最近だが、どこから来たのかは不明。

 ――武器である杖は立派であるが、それ以外は街で購入した普通の物。

 ――お金はそれなりに持っている。

 ――召喚獣として、四属性の基本的な物は使える模様。

(冒険者ギルドに登録した時点で既に魔力は高かった……。それほどあるならば、それなりに名前は知られているはずなんじゃが……。出身も不明か)

 優秀な召喚士ならば、その名前くらいはどこかで噂になっているはずであり、晶人の事が何か解るかもしれない、そんな気持ちで調査依頼をしたモニカであったが、その思いは外れてしまった。

(マリアちゃんを創ったのは誰じゃ? あのレベルの召喚獣はそう簡単に創れはせん。魔力だけが優れていても不可能じゃ。つまりは……)

 誰かが創ったマリアを晶人が受け取った、もしくは奪ったという考えに至る。

 しかし後者の可能性はすぐに捨てた。晶人がそんな人間に見えないためだ。

「あの……ギルド長?」

 長い事考えこんでいたモニカを心配してノーラが声を掛ける。こんなに真剣な顔をするモニカは、そうは見られないためだ。

「ん? あぁ、すまんの。うむ、ご苦労じゃった。どちらも特に問題無いじゃろう。調査はこれで終わりじゃ」

「? はい、分かりました。それでは失礼致します」

 こんな内容で良かったのかと思うノーラであったが、ギルド長であるモニカが問題無いと言うので、反論もせずに立ち去る。


 ノーラが立ち去り、再び一人になったモニカ。冷めた紅茶を片手に先ほどの報告を振り返る。

 ノーラに命じた調査は、もちろん冒険者ギルドとしての人物調査が目的である。今まで表立って来なかった冒険者が被害者になり、そして盗賊を打ち倒したのだ。今回は良かったが、実は危険な人物だった場合は、しかるべき処置をしないとならない。

 しかし、モニカは個人的に晶人達の事が気がかりであった。

(能力ある若者か……。これからどうなることやら……。益になれば良いが、混沌を生み出すのであれば……)

 モニカ自身も昔は冒険者としてバリバリに活躍をしていた。能力もあり運もあったため、今まで生きてこれたし、その実績を買われたギルド長をいう職位に就いてもいる。

 若い頃は、色々と厄介事に巻き込まれたりもした。能力が高いというのは、それだけで争いの種になりかねない。

 そのため、晶人達の事も、街から追い出したという負い目もあり、心配していたのである。

「……王都か。貴族の厄介事に巻き込まれなければ良いがのぉ……」

 モニカの心配をよそに、晶人達の王都への旅路は続く……。


ご意見ご感想があれば嬉しいです。

次回から新章開始です。

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