03 召喚契約と彼女
「え? 主? って何それ」
いきなり主になってねと言われても、俺にそんな趣味はない。いや、可愛い子に言われるのは嬉しいが。
「だから主よ。召喚獣としての契約してってこと。お爺さんはワタシを創ってすぐに死んじゃったから、契約も何もしてないのよ」
あぁ、なるほどね。召喚獣の契約をして、この子を使役しろってことか。どうみても人間にしか見えないけど、やっぱ召喚獣なんだな。それにしても、さっきから気になっていたんだが……。
「創ったってなんなんだ? 召喚獣ってのは、召喚するなり、相手に負けを認めさせるなりして、使役するものじゃないのか?」
ゲームでもそういう設定はよくある。基本的な召喚獣なんかだと、店で売っていたり、誰かから召喚の方法を教わったりで取得出来る。
もしくは、ダンジョンの奥底にいる魔物を、力なり知恵なりで屈服させて使役させたりもある。そういう方法はあれど、創るっていうのは聞いたことがない。この世界では普通なのか?
「えぇ、そういう方法が基本なんだけどね。自分だけの特別な召喚獣が欲しい場合は創ることが出来るのよ。召喚陣とか多くの魔力を使ってね。ゼロから想像と創造をしないといけないから失敗することのが多いの。召喚獣の創造はかなり高位な技術なのよ」
へー、創ることが出来るのか。それはかなり面白いな。難しいっぽいけど、あの爺さんは一応成功させたんだよな。死んじゃってるけど。
で、創ったのがこの美少女と。爺さんは何がしたかったんだか、外見に関しては激しくグッジョブだが。
「俺の知ってるのでは創るってのはなかったな。で、それと主っていうのは関係あるのか?」
「もちろんあるわよ。創造された召喚獣というのは、普通の召喚獣と違ってユニークな存在なのよ。基本的に創った人だけの召喚獣ね。他の誰かが召喚しようとしても出来ないのよ。そのためには、専属契約が必要になるの」
さらに続く美少女の説明をまとめると。この美少女のように、創られた召喚獣は特別な存在で、一人しか存在しない。そのため、複数の召喚士が召喚しようとしても出来ない。
他の普通の召喚獣だと、契約が出来れば基本誰でも召喚できる。それこそ召喚士五十人で召喚獣A五十匹とかも可能だ。
この美少女を召喚できるのは専属契約をした召喚士一人だけで、それをしろって言う訳だ。
「なんで俺なんだ? まぁ異世界からだけど普通の人間だぜ? 魔法とか召喚獣とか縁もゆかりも無い世界だったし、剣とかも扱えないぞ」
「別に誰でもいいって訳じゃないのよ。年寄りよりは若いほうがワタシも嬉しいしね。それに普通の人間って言うけど、多分召喚の影響かしら。アナタ結構魔力高いのよ」
なるほど、爺さんよりも若いほうがいいと。そこは女の子なんだな。で、魔力が高いって、それは異世界召喚によくあるチート能力かな?
「無茶な召喚だったし、多分お爺さんの魔力がそのままアナタに流れたんだと思うわ。さすがに全部じゃなかったみたいだけど、それでもかなり高い部類に入ると思うわよ。それに鍛えればアナタ自身の魔力も上がるだろうし」
爺さんの魔力を継承したって感じか。んでさらに成長もできると。初期魔力パラメータがチートってことだな。ちょっと楽しくなってきた。
「そんな訳で契約して、お願い」
さらにお願いをしてきた。こんな美少女にお願いされたんじゃ仕方ない。異世界で一人っていうのも寂しいのもあるけど。
「よく分からんが、いいぞ。可愛い子の頼みだしな。んで契約ってどうすればいいんだ?」
「そ、ありがと。契約は簡単よ。創造された召喚獣の契約の場合は、契約主が名前を付けてくれればいいの。誰かから受け継ぐっていうのもあるんだけど、ワタシはまだ創られたばかりで主もいないしね」
意外に簡単だな。名前ね……、確かに無いって言ってたしな。うーむ、爺さんも思う名前というのあったんだろうが、ここは俺のセンスで付けるしかないな。
美少女……、天使……、可愛い……、でも召喚獣なんだよな。それっぽい名前のがいいのかな。横文字風のがいいよな。ってことはだ。
「よし分かった。君の名前はマリアだ」
「マリア……。うん、いい名前ね。コホン。創造されし召喚獣であるワタシ、マリアはアナタを主と認め、アナタに従うことを誓います」
マリアがそう宣言をすると、俺とマリアは光の柱に包まれた。不思議と眩しくはない。しかし契約って簡単なんだな。
マリアって名前は、実は初恋の相手だったりするんだが、でも聖母とかの意味もあるし、まぁ可愛い子の名前にはぴったりだろ、うん。
そう思っているうちに光の柱は消えた。
「ふぅ、これで契約完了ね。よろしく、主」
「あぁ、よろしくマリア。それと主っていうのはなんか止めてくれ、恥ずかしい。ってか自己紹介もしてなかったな。俺は社やしろ 昌人あきひと。十八歳だ。社ってほうが苗字で昌人が名前な」
「アキヒト=ヤシロね。えっと、ワタシは創られたばかりだし一応ゼロ歳って事になるわね。それと主と呼ぶのが普通なんだけど、それじゃアキって呼んでもいいかしら」
「あぁ、構わない」
「それでは改めて、よろしくね、アキ」
マリアはニッコリ笑ってそう答えた。アキヒト=ヤシロか……。やっぱ名前は逆になるんだな。異世界に動揺して自己紹介すらしていなかったなんてな。それにしてもやばいな、可愛いぞ。こんな子の主とか、超勝ち組じゃないか?
「そういえば、専属契約しなかった場合はどうなっていたんだ?」
「その場合はね、ワタシは消えて死んじゃっていたのよ。召喚獣は召喚士の魔力をエネルギーにしているしね」
「え、まじかよ……」
「それに創られて契約もされないって、召喚獣として不良品って意味なのよ。だから、もしアキが契約してくれなかったら、ワタシは最悪の状況でおさらばしてたって訳。結構ギリギリだったのよ、だからありがとね」
おいおい、意外にやばい状態だったんじゃないのか?
契約も無事完了したし、いつまでもここに居る訳にもいかない。
「それじゃっと、とりあえずこれからどうするか」
「そうね、とりあえず近くの街に行くのがいいと思うわ。さすがにこのまま森の中って訳にはいかないでしょ」
マリアの言うことも最もだ。生きていくためには衣食住を揃えないといけない。この世界のことも何も知らないし、まずは情報を集めて仕事をして生活基盤を整えていくしかない。差し当たっては、この森を出ることだ。
近くに街があると言ったが、マリアは知っているのだろうか。ってか召喚獣ってこんなに会話するものなのか?
「なぁマリア。いくつか疑問があるんだが、聞いていいか?」
「はい、どうぞアキ」
「えーと、まずマリアは何の召喚獣なんだ? 召喚獣ってこんなに喋るのか?」
「ぐ……、それを聞いちゃうのね……。まぁ最もな疑問だわ。ワタシは、……の召喚獣よ」
「え? 何だって?」
「だから、『彼女』の召喚獣よ、『彼女』!」
彼女? 彼女が召喚獣で召喚獣が彼女で? いやいや違うだろ。普通は、『炎』の召喚獣で、炎による攻撃が出来るとか、そういうのだろう。それとも彼女の召喚獣なんてものが一般的なのか?
「えーっと、分からないから教えて欲しいんが、『彼女』の召喚獣ってなんだ?」
「はぁ、あのお爺さんがね。そういう風に創ったのよ。いつでもそばにいる彼女。自分を支えてくれる彼女。可愛い彼女。そんなのを望んで創られたのがワタシ」
ふんふん、なるほど。あの爺さんは召喚術にのめり込んでいて、若き青春もなんのそので召喚術の研究をしていて、気づいたら召喚士としては立派な人間になったが、友人も、もちろん彼女すらいたことがなかったと。
その爺さんは何を思ったか、いなければ創っちゃえばいいじゃない。とか考えて、自分好みの召喚獣を創ったらしい。
「それはなんというか、才能の無駄使いというか。アホだな爺さん」
「まぁ創られてしまったものは仕方ないのよ。『彼女』の召喚獣ってことだけど、基本的な知識と、何故か炊事洗濯掃除とかの家庭スキルが高いのよ」
可愛いだけじゃなく、家事スキルも高いとか、爺さんマジでグッジョブだな。
ってことは戦闘面はどうなんだ?
「彼女ってよりか嫁みたいだな、それ。にしても、戦闘は出来ないのか?」
「そうね、戦闘系の能力はないわね。そこら辺は普通の女の子と一緒。だから早めに街に行った方がいいわ。今は朝だし、この辺は魔物も出ないだろうけど、さすがにね」
マリアの案内で街に向かうことにした。
そうそう、爺さんの遺体はきちんと埋葬してきた。死者に対しては失礼だが、埋葬する前に漁って爺さんの所持品を確認した。
杖にローブに、金属製の丸いのや板状のもの、恐らくはこの世界のお金だろう。それくらいしか確認出来なかった。身元が分かるようなものとか、召喚に関するものとか何もなかった。
杖とローブとお金は頂いておこう。いきなり異世界に来てしまったので、服装も部屋着のままだし、お金も持っていない。これくらいは許してくれるはずだ。
まぁお金は日本円じゃ通用しないだろうから、持っていたとしても意味はないのだろうけど。
杖はかなり長かった。百三十センチくらいだ。そんなものなのか? 木っぽい材質で、上部には青い宝石のようなものが付いている。結構しっかりした杖だし、宝石も簡単には壊れなさそうだ。少しくらいならこれで殴ったり突いたりで攻撃も出来そうだ。
ローブは普通の布みたいだ。装備品というよりかは、日常の服みたいなものなのかな。
そして金属製のはやっぱりお金だった。内容は分からないけどあるだけ貰っていく。少し数が多いので、ポケットがいっぱいだ。
街への道中は、マリアからこの世界の事を教えて貰った。『彼女』の召喚獣は色々物知りのようだ。
この世界は、剣あり魔法あり魔物ありダンジョンありの王道系だった。魔王はいないみたいだ。亜人っていうのも多いらしい。獣系とか爬虫類系とかのようだ。後はエルフ。やっぱりいるんですね。人間たちと亜人は、敵対はしておらず一緒に生活しているようだ。亜人嫌いの人間とか、人間嫌いの亜人っていうのもいるみたいだけど、人それぞれらしい。
後は、いくつかの国が存在していて、王族や貴族なんてものいるらしい。俺の身分は平民ってことになるらしいので、不敬を働くと処罰されてしまうらしい。気をつけないといけない。そうそう、奴隷もいるらしい。
魔物を倒したりダンジョンに挑んだりする冒険者っていう職業があるようだ。冒険者ギルドってところで、クエストを受注して達成するとお金が貰えるらしい。さらに冒険者ランクというのもあって、クエストをやっていくと上がるらしい。
うーん、まさにRPGの世界だ。とりあえず冒険者になって、クエストをやって生活していくのが手かな。戦う手段は今のところないけど、戦闘用の召喚獣を覚えることが出来れば戦えるだろう。
それにしてもマリアがいて助かった。俺一人じゃ、あの森で訳も分からず死んでいたかもしれない。こうして美少女と歩いているなんて夢のようだ。夢じゃなかったけど。
「それにしてもマリアは召喚獣なんだろ? ずっと召喚しっぱなしだけど、それって平気なのか?」
「召喚獣は召喚するときと、召喚している間、後は能力を使うときに召喚士の魔力を必要とするのよ。ワタシはかなり燃費がいいみたいだし、後はあなたの魔力が高いせいもあるから、よっぽどの事がない限り出したままでも平気みたいね」
なるほどね。『彼女』の召喚獣だから基本常にいるわけね。そのよっぽどの事は、マリアの能力、つまりは家庭スキルをかなり無茶に行使させたときらしいけど、普通に生活する程度の行使には問題ないらしい。
「ほら、もうすぐで街に着くわよ」
会話している内に街の近くまで来ていたようだ。
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