26 罰則と追放
街から出て行って頂きます?
副ギルド長さんは確かにそう言った。
「あの……どういう事でしょうか?」
「こればかりは申し訳ないと思っておる。仕方がないとはいえ、二人には辛い思いをさせてしまうのぉ」
二人の話はこうだ。
国を脅かしていた盗賊が倒された。国民を始め、多くの人が喜んだ。しかもそれを倒したのは名も無き冒険者らしいという話が広がった。
それはすごい、救世主だ、英雄だ!
話は広がり、噂になり、そして変な尾ひれが付き始めた。
――たった一人で、それも無名の冒険者が倒したらしい。
――盗賊は、それはもう無残な最期だったらしい。
――実はその人も盗賊で、盗賊同士の争いらしい。
――どこかの国の間者らしい。
――恐ろしい魔物を率いているらしい。
などなど。
聞いてみれば、なるほど噂だ。
しかし、国――とくにこの街では結構な規模になっており、一部の住民が信じているらしい。
一応、まだ人物の特定はされていないらしいが、それらしい冒険者の目星が付いていて、怖がられているとか。
まぁ強すぎる力というのも、怖がられてしまうという事だ。
おまけによく分からない冒険者というのも大きい。これがどこかの英雄とか騎士とかなら、なるほど納得出来る。
だけど、どこの誰とも知らない冒険者がというのが不安要素になっているようだ。
そのため、噂の根源である俺達を街から出す事で街の平和を守りたい、というのが冒険者ギルドの思惑だった。
「申し訳ございません。本来ならば歓迎される所業のはずですが、我々の力不足のせいで……」
「いえ……。そういう事でしたら仕方ないですよ」
既に一部の住人や店の人は、それらしい冒険者を無視したり嫌がらせをしたりなどしているそうだ。
このままでは無碍にされた冒険者がどう行動するか分からない、なので冒険者ギルドは苦渋の決断をしたという訳だ。
「他の街への移動は、こちらから馬車を用意致します。それと、他の冒険者ギルドへの書状も用意致します」
なので、他の街では不便はさせない、というお墨付きらしい。この街が一番噂が激しいらしいし、他の街ではそう大きい話でもないのだろう。
「ここからですと、西にある王都か、少し離れて南にある港街がお勧めです。その二つでしたら、馬車をすぐにでもお出し出来ますが、どちらに致しますか?」
馬車も用意してくれるし、お金も沢山貰った。ダンジョンから離れるのは嫌だけど、ホームを変えるのもいいか。
王都か港街か……。どちらも惹かれるものがあるなぁ。
「えーっと、すぐに決められないのですが、他のメンバーと相談してもいいですか?」
「はい、構いませんが……」
「む? 恐らく勘違いをしておると思うのじゃが。お主達は二人で行動してもらうぞ?」
二人? イヴァン達は違うって事か? ってか一緒のパーティって知って……あぁ、冒険者ギルドの長でしたね。情報はありますよね。
「それはつまり……。私達のパーティ全員ではなく、私とマリアの二人だけという事、ですか?」
「そういう事じゃ。本来ならば、冒険者の移動は自由じゃが、今回に限ってはしばらくは一緒の行動はダメじゃ」
何故だ? 別に一緒に行動してもいいと思うんだが。一体何故、何の権利があって?
「その理由は……。そうじゃな。私はさっき、このお嬢ちゃんの事を召喚獣と見破ったが、見破るのはかなり難しいぞい。この国でも私以外にいるかどうかくらいじゃ」
おぉ、そういうものなのか。見破れるのが少ないのなら、それは朗報なんだが。ってかやっぱこのギルド長、凄い人なんだな。
「そして、今回。お主達が盗賊に襲われた理由はなんじゃ?」
理由……。確か、マリアを狙って来たんだよな。人型の召喚獣は儲かるとかなんとか。可愛いから解るけど、でも許されない事だ。だからこそ勇者の出番だった。
「マリアですね」
ん? 盗賊達は、なんでマリアの事を知っていたんだ?
「良いか? このお嬢ちゃん……人型の召喚獣はかなりレアじゃ。それこそ私も欲しいくらいじゃ」
「駄目です、ギルド長」
おお! やっぱレアなのか。別にレアではないって誰か言ってた気がするけどなぁ。
「この子は私の妹にします!」
う……ん?
「……ノーラよ。私のは半分冗談じゃぞ」
「……失礼しました」
何が起こったんだ……。
「おほん。えーと、実はじゃな。盗賊達にそこのお嬢ちゃんが召喚獣という情報を渡したのが、お主のパーティメンバーだったのじゃよ。まぁ意図したものではなかったようじゃが」
「ですが、冒険者ギルドは今回の事を重く受け止めています。冒険者が、パーティメンバーの情報――それも重要な情報を晒してしまった行為についてです。わざとではないにしろ、その情報のせいで、アキヒト殿達は襲われてしまいました」
「まぁ、そのお陰で盗賊も壊滅出来たんだがね。じゃが、さっきも言ったように、パーティメンバーの情報を軽んじ、あまつさえ危険に晒してしまった、という訳じゃ」
そう……だったのか。
確かに、マリアが召喚獣だって知っているのは、俺のパーティだけだ。つまりは俺以外ではイヴァン達だけになる。
何故盗賊達がマリアの事を知っていたか気になっていたが、そういう事だったのか。
「そのような訳でして、パーティメンバーを危険に晒したという行為に対する罰則として、パーティ解散――今回の場合は、アキヒト殿とマリア殿の二人と、イヴァン殿達の三人を分ける、というのが冒険者ギルドの決定となります」
「まぁ、そこまで強い決定でもないのでな。しばらくは別行動してもらうという事になる、という訳じゃ」
むぅ……。俺も無事だったし、イヴァン達だってわざとではないだろう。それなのに、そこまでするのか?
「イヴァン殿達には既に説明をしていて、了承済みです」
……なんでだ。
「勘違いをしてはならんぞ? 別にお主達を売ったとか、嫌いとかではない。頭を冷やせと言っておる。パーティというのは簡単な事ではないのじゃ。組んでいれば、いざこざもある」
「はい。今回は故意では無かったので、少ししたらこの罰則も解除されます。解除されましたら、パーティを組み直すのも自由です」
そういう事か。また一緒に冒険出来るようになるんだよ……な?
本来ならば冒険者同士の争いや喧嘩は、冒険者ギルドは大きく関与しない。多少の争い事は冒険者として当然の事だからだ。
しかし、今回の事で言えば、故意ではないとはいえパーティメンバーを売ったと思われても仕方ない行為だった。これが大きく広がれば、冒険者同士の関係がギスギスしたものになる。
そうなると、パーティの解散やクエストの失敗などに絡んでくる可能性もある。
冒険者ギルドとしてもそれは望むものではない。
故意――つまり本当に売ったという場合ならば、その冒険者を捕縛するのが筋だが、今回は色々と情状酌量の余地があるため、一時的なパーティの解散という決定になったらしい。
……うん。なら従うしかない。ここで反対した所で、冒険者ギルドに敵対することになる。
いくら何でもそれは愚策だ。
「マリアも、そういう事らしい。いいか?」
「……残念だけど、アキが一緒ならワタシは構わないわ」
「分かりました……。俺達二人で街を出ます」
「うむ、そうか……。すまぬの」
さて、ではどこに行くか。聞けばイヴァン達や他の幾つかのパーティも他に移動させるらしい。森を隠すなら木の中ではないが、複数パーティを動かすことで、誰が盗賊を討伐したのかを分からなくさせる目的のようだ。
つまり、イヴァン達とは違う方向にしないと意味がないって事になる。
俺達の決定とは反対方向にさせるらしいので、俺達が先に決めるようになっているみたいだ。
しかしなぁ……。二人になると、戦力の面でも心配になる。いくら対盗賊で強くなったとはいえ、二人では敵わない魔物もいるだろう。だからこそのイヴァン達とのパーティだったのだが。
「二人でも冒険者として活動するのにおすすめなのはどちらでしょうか?」
「うん? あぁそうか。お主達は二人じゃったの。パーティの人数は自由とはいえ、さすがに少ないのではないか?」
「お言葉ですが、ギルド長。そうさせたのは我々冒険者ギルドです」
「あぁ。そうじゃったの……。ふむ、二人か……。安全のために人数を増やした方がいいんじゃが、そうさせないのは我々じゃし、パーティを組む心構えを言ったのも私じゃしな……」
うん、そうだね。折角五人パーティになったのに、また二人に逆戻りですよ。
「マリアちゃんが召喚獣だというのは秘密にしておいたほうがよい。その上で、誰かを加えるとなると……」
いつの間にか、ギルド長はマリアの事をちゃん付けで呼ぶようになっていた。
「私も秘密にしておきたかったのですが、戦闘中に召喚解除の必要が出まして……。なのでずっと秘密にするというのは、その、無理です」
今回も、砂のゴーレムに捕まらなければその必要もなかっただろう。
しかし、パーティを組む上で秘密にしているのもなんだか後ろめたい。なので、いつかは告白してしまっていただろう。
「じゃろうな。ならば打ち明けても問題のない者を見つけるのがいいんじゃが。そう簡単にいく訳でもあるまいし」
「ならば、奴隷を買われてはいかがでしょうか?」
奴隷。この世界には奴隷制度がある。
奴隷という言葉を聞くと、物凄くマイナスなイメージしかない。地球にも昔はあっただろうけど、少なくとも現代にはないはずだ。
「おぉ、そうじゃな。お金もたんまりあるし奴隷がいいじゃろうな」
ギルド長はそんな俺の気も知らないでノリノリだ。
あれ? 奴隷っていいの? ありなの?
「ということは王都のがよいな。あそこはいい店がある」
あれ? 店があるの? 奴隷ってそんなにオープンなの?
「どうじゃ? 王都ならば冒険者ギルドお抱えの店に紹介状を書いてやる事が出来る。港町にも店はあるじゃろうが、質までは分からん。ノーラは知っておるか?」
「はい。ですが王都のほうが良いお店が多いです」
「ふむ、じゃろうな。まぁ決めるのはお主達じゃ」
「ではアキヒト殿とマリア殿は王都に行く、でよろしいでしょうか?」
「はい」
奴隷とかはまだ決めていないけど、やはり王都というのは惹かれる。なので王都に行くことに決めた。
「ふむ……では馬車を用意するかの。事情が事情だけにいつでも、という訳にもいかんのじゃ。明日の昼の鐘が鳴る頃に西門に来るようにの」
「馬車の他に少数ですが護衛も付けます。食事などもこちらで準備しますので、お二人に準備頂くのは特にありません。書状も馬車でお渡しします」
結構時間がないな。今は昼くらいのはずだから、後丸一日ってところか。準備はいらないのが救いか。
「明日の昼に西門ですね。分かりました」
「うむ。さて、決まるものは決まったし、まだ病み上がりじゃろうしな。疲れたじゃろ?」
「いえ……はい、少し」
「ふむ。そうか、残念じゃの。私の昔話でもと思っておったんじゃが」
「アキヒト殿、マリア殿、本日はありがとうございました。ギルド長の話は聞かないで結構ですよ」
ギルド長達との面会も終え、冒険者ギルドを後にする。
街から出ることが決まった、か。一気に話が進んでしまったが、さてどうするか。特に準備もいらないらしいし、手ぶらでもいいんだろうけど。
「色々話が進んで疲れたな……。さて、じゃあ明日までどうする?」
「……そうね。準備はしなくていいって言われたけど、さすがに冒険者としてある程度はしておくべきよ。アキはまだ休んでいた方がいいし、ワタシがやっておくわ。後は……ローザ達にお別れを言わないとね……」
「そう……だな」
せっかく一緒に冒険出来ると思っていたのに、お別れすることになってしまったんだしな。
しかし、冒険者ギルドって単なるクエストの初受注だけかと思っていたけど、こういう事にも関与しているんだな。おまけに罰則とかもあるし。
んー、冒険者って意外と不自由か?
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