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召喚獣による召喚で異世界で召喚士になりました  作者: bamleace
一章 ~ワーズヴェシン街~
26/126

23 ワタシとアキ

「アキ……アキなの?」

 目の前で繰り広げられている光景が信じられなかった。

 盗賊に捕まってしまった。何をされるかは解っていた。

 ワタシは平気。だってワタシは召喚獣だから。だからワタシなんていいから、アキには生きていて欲しかった。

 でも、アキは拒んだ。拒んで刺されて、それでも拒んだ。

 このままだと殺されてしまう。そう思ったとき、アキの魔力が大きく膨れ上がっていくのを感じた。

(何……? 何が起ころうとしているの? 何をするつもりなの、アキ)

 契約している他の召喚獣は全て倒されている。ワタシという唯一生き残っている召喚獣も、今は何も出来ない状態。もう手は残されていない。

 そのはずだった。

 なのにアキは何かをしようとしている。今のアキの光り方と似たようなのを見たことがある。

 あれは確か……アキと出会う事になった時だ。




 目の前には老人が寝転んでいた。下には大規模な召喚陣。

(ワタシは……生み出された召喚獣ね。(マスター)はどこかしら?)

 創造されたばかりだが、その際に基本的な知識は与えられる。なので混乱はしていなかった。

(まさか、あそこで寝ているのが(マスター)?)

 だが、創っておいて放置という現状には混乱していた。通常ならばなんらかのアクションがあるはずだ。名付けをしないと、召喚獣はその身を維持できなくて消えてしまうからだ。

「あの……(マスター)様?」

 声を掛けてみたが、反応はない。創造の成功に驚いているという訳でもない。

 動きがない。文字通り、人間としてあるべき動き――つまり瞬きや呼吸をしているような動きがない。

(創造にはかなりの魔力を使うから、失敗する場合もあるのよね……。その際、命の危険も……まさか!)

 (マスター)と思われる老人に駆け寄って確認してみる。

(呼吸……無し。心臓も……止まってるわね。そもそも魔力が空っぽになってるわ)

 かなり無茶な召喚だったのだろう。魔力が空っぽになり、それでも足りずに命を削ってしまったようだ。その結果が現状。

(他には誰もいない? って事は、ワタシはここで消えるのを待つだけ?)

 幸い、周辺には老人の物だったと思われる魔力が残留していた。ある程度はこれで存在はしていられる。

(でもここからろくに動く事も出来ないし、それにいつかは消えるわ。生まれて消えるのを待つのが決定って、そんなのイヤよ!)

 いくら召喚獣といえど感情はあった。そのため、死しかない今の状態を嘆いていた。

(まだ召喚陣は残っている……魔力もワタシとこの周辺にたくさんある……。一か八かね)

「誰でもいいから、助けて!!」

 自分の魔力と周辺に漂う魔力を用い、召喚陣に願った。

 召喚陣が光りだし、魔力が膨れ上がるのを感じた。




 アキが泣いていた。

 あの時、誰でもと願ったら男の子が現れた。その青年は異世界から来たという。

 黒髪黒目で、短髪。男にしては少し背も小さいしなんだか頼りないけど、異世界では普通なのかもしれない。

 それにどうもワタシを人間扱いしているし、門での判定でも人族とされた。

 なのでワタシ自信も自分が召喚獣なのか疑い始めていた。だからアキ――ワタシの(マスター)に召喚解除をお願い、解除は成功して再度召喚されたらアキが泣いていた。

(異世界からワタシが召喚しちゃったし、この世界で一人っきりだもんね……。ワタシが一緒にいなくちゃ!)




「アキ、ワタシ武器屋に行きたいわ。武器が欲しいの。後防具も」

 冒険者登録をした後、アキにお願いをした。ワタシだって冒険者として、ううん、違う。アキと一緒に戦いたいって思ったから。

 アキは最初は反対していたけど、最後には納得してくれた。ワタシの事を守るって言ってくれたのは嬉しかった。

 でもアキは召喚士で後衛だ。だから、ワタシがアキの事を守ってあげないと!




 アキの背後に魔物が近づいていた。このままだと危ない!

「アキ! 後ろにもう一体いるわ! 逃げて!」

 そう叫んだ。出来れば助けに行きたかった。でもワタシの前にも魔物はいた。たかがコウモリだけど、これも魔物。

(ワタシがもっと強ければ……。こんなコウモリ瞬殺してアキを助けに行けるのに)

 急いでコウモリ2匹を倒してアキの所に向かった。

(アキ……!)

 けれど、アキは魔物に攻撃され、転がっていた。

「アキ! 大丈夫?」

 魔物を倒し終えたけど、アキは怪我をしていた。ワタシが守るって言ったのに、アキを守るって誓ったのに……。

 アキは他の召喚獣を出して治療をしていた。ワタシには怪我を治す事は出来ない。

 ワタシに出来るのは戦う事だけ。だからワタシがもっと強くなればいい。もっと強くなってアキを守りたい。ワタシに出来るのはそれだけだから。

 あ、でも料理は美味しいって褒めてくれた。でもそれはワタシの能力だし……。もっとアキの役に立ちたいな。




「マリア! 後ろからゴーレムが来てる、速く!」

 ゴーレムの腕が迫ってきていた。

(何よ、あれ! あんなの聞いてないわよ! それに早い! もう駄目!)

「きゃ!」

 腕に捕まってしまった。不覚だった。砂なのに硬くて強い。脱出を試みるもうまくいかない。

「この! 離しなさいよ!」

 このままではミネットの魔法は撃てないだろう。イヴァンやローザが助けようとしてくれるも、うまくはいかない。

 その内に、助けようとしていたイヴァン達が遠くに離れていく。

 恐らく魔法を撃っても大丈夫な間合いなのだろう。でもワタシがいるのに魔法を撃つの? アキならそんなことはしない。

(アキは助けてくれるはず……。ワタシはアキを守るし、アキはワタシを守るって言ってくれた。だから!)

 共に守り合うと誓った。

(アキならどうする? どうやってワタシを助けてくれる? 召喚獣であるワタシを……あ!)

 そこまで考えて解った。アキがしようとしている事が解った。

「マリア、召喚解除!」

 と、ワタシはゴーレムの腕から消え、次にはアキの前に立っていた。

「助かったわ、アキ。よく思いついたわね」

 召喚の解除と再召喚だった。

 そう、寂しいからと召喚解除はしたくないって言っていたのに。でもワタシを守るためにやってくれた。嬉しかった。

 アキの頑張りを無駄にしたくない。あのゴーレムは絶対に倒すんだから!




 盗賊に襲われた。アキを守るために戦ったけど、相手は強かった。何も出来ずに倒されてしまった。

 目が覚めた時にはワタシもアキも捕まっていた。

 盗賊の目的はワタシのようだった。盗賊はワタシと契約したがっていた。

「アキ……、ワタシのことはいいから。契約、切ってよ」

 このままだとアキは殺されてしまう。だからワタシは願った。盗賊を倒せない時点で、捕まった時点でワタシは役立たずだ。

 またアキを守る事が出来なかったのだから。

 だから盗賊の物になって、アキを逃がすくらいしか思いつかなかった。

 それを拒んでいたアキは、いきなり叫び光り出した。

(あの魔力は……それにあの光はワタシがアキを呼んだ時と同じ光だわ! まさか、何かを呼ぼうとしているの? ダメよ、召喚陣もないのに無理よ!)

 その光はさらに大きくなり、そして見知らぬ騎士が現れた。


 その騎士は盗賊を一太刀で倒し、恐らくは魔法で盗賊を倒し、倒し、倒し尽くした。

 気付いた時には騎士とワタシと、そして盗賊の頭の三人だけになっていた。

(信じられない……盗賊達は、ワタシよりも強い人ばかりだったはずだ。それをあっさりと……。あれはアキなの?)

 今だに目の前で起こっていた出来事を信じられないでいた。

(あの騎士はアキなの? アキじゃないの? アキはどこにいるの?)

 何もかもが分からないままだった。一つ分かっていることは、もうこの盗賊団はおしまいという事だった。

 その時だった。このままいけば、残っていた盗賊の頭もあの騎士に殺されていただろう。

「おいそのデカいの! この女が見えるだろ! こいつがどうなってもいいのか!」

(あ……。そうだった。頭はずっとワタシの隣のいたのよね……。最後の最後にワタシって間抜けね……)

 人質だ。騎士とマリアは仲間だと思われている。だからマリアを盾にすれば、盗賊の頭は逃げることが出来るだろう。

 マリアも盗賊の頭もそう思っていたはずだった。そのはずだった。

 だが次の瞬間、盗賊の頭は絶命していた。騎士が剣を投げたのだ。

(あの騎士……ワタシがいるのに? アキじゃないの?)

 盗賊を全て倒し終えたからなのか、騎士が大きく光りだした。

(あ、消える)

 出てきた時と似たような光。それがあの騎士の消滅だと解った。その光が消えた時、騎士が立っていた場所にアキがいた。

(え? やっぱりあれはアキだったの? でも魔法も使ってたし、何よりあの強さは……)

 アキの様子がおかしい。立ってはいるが、ふらふらだ。ワタシにも気づいていないように見える。

「アキ? ねぇ大丈夫?」

 声を掛けるが反応が無い。嫌な予感がする。ワタシは似たような状況を知っている。声を掛けて反応がない状況を知っている。

 近寄ってみるが、まだ反応はない。ふらふらと立っているままだ。

 と、ふらふらだったアキが倒れた。

「アキ!」

 駆け寄り、倒れ始めているアキを支える。ギリギリで地面にぶつかる前に支える事が出来た。

 そのまま寝かせ、膝枕をする。

 アキは酷い怪我だった。全身がボロボロだった。魔力もほぼ空っぽだった。

「アキ……ねぇ、アキ!」

 引き続き声を掛ける。心臓は動いているし、呼吸もしている。大丈夫だ。アキは大丈夫。

 だから。

「お願い。返事をして、アキ!」

 反応のないアキ。

(このままじゃ……。お願い、誰でもいいから助けて!)


 マリアの願いに応えるかのように、アキが目を覚ます。

「よかっ……た。マリ……ア。無事だった……んだな。怪我は……」

「ワタシは平気……。アキこそ大丈夫なの?」

 アキは大丈夫そうに見えない。目が覚めただけでも信じられないというのがアキの状態だ。

「はは……。俺、マリアを……守る事が出来たよ……」

 守る。それはアキがマリアに誓った事だった。

「ワタシは平気だったのに……。それでアキがボロボロじゃ意味がないじゃない!」

「ごめんな……。泣かせ……ちゃったな……」

 気づいたらマリアは泣いていた。涙がボロボロと出ていた。

「せっかく守れたけど……もう限界みたいだ……。ごめん……な、マリア。少し……眠る事にするよ……」

「待って! 待ってよアキ! お願いだから待っ……」

 マリアの声は最後まで続かなかった。

 マリアの体は光と共に消えた。

「おや……すみ……」


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