22 勇者降臨と盗賊の戦い
他のネタも思いつくけど、どっちも中途半端になりそうな罠
『勇者アーサーの冒険』
それは日本で大人気のRPGのシリーズである。
内容は勇者が魔王だったり悪の組織だったり倒していくという、単純なストーリーだ。
だがシステムややり込み要素、それになんといっても勇者になって、敵を倒していくという爽快感が人気の秘密となっている。
主人公である勇者は、王国に仕える騎士だったり、何の特徴もない村人だったり、時には雑魚魔物の一人だったりと様々だ。
それら所謂脇役だった者が勇者の力に目覚め、仲間と出会い戦っていくRPG、それがストーリーの根幹になっている。
ちなみに、勇者となる主人公の名前は、シリーズを通しアーサーになっている。
このシリーズ一番の見所は、『勇者降臨』というスキルである。
勇者となった人物は、他の一般人よりも強い力は得るには得るが、物凄い強いという訳ではない。ではどうやって強大な敵を倒すのかというと、勇者は『勇者降臨』というスキルを用いる。
『勇者降臨』は、言ってしまえば時間制限付きの変身みたいなものだ。『勇者降臨』状態になり、見た目も大きくなり、装備も専用の強力な物に変わり、ステータスも跳ね上がる。
主人公自体のレベルも存在し成長はするが、『勇者降臨』状態の強さも好きにカスタマイズする事が出来る。
武器や防具はもちろん、接近技や魔法などのスキルをどう育てていくかもユーザー次第だ。
一部には、この『勇者降臨』を用いずにクリアするという縛りプレイも存在するほどの要素である。
何を隠そう、昌人が異世界に召喚される前にやっていたのも、このシリーズの外伝に位置するゲームだった。
「なんだ、これは」
独り言ちる昌人。
目の前には、『勇者降臨』を用いた状態の勇者が立っていた。
身丈は三メートルに届かないくらい、専用の剣や盾と鎧と鎧と一通りの立派な装備を構えており、ウィルワーズにいた砂のゴーレムを余裕で凌ぐ威圧感がある。
目の前と言っても、昌人の視点はその巨体を斜め後ろから見下ろす感じであった。
ゲームの頃と同様の目線――三人称視点である。
「そうか、『勇者降臨』か。敵は……盗賊で、女の子が捕われていると。『勇者降臨』状態なら余裕だろ」
よくあるイベントの一つ、そう思って勇者を操作する。
襲ってくる盗賊を剣で薙ぎ払い、遠くからの弓や魔法の攻撃は盾で防御し、雷魔法で攻撃、逃げようとしている盗賊も雷魔法で攻撃する。
「普通の盗賊相手に『勇者降臨』って、過剰戦力だろ。チュートリアルか? それにしても、雷で炭素化か? 真っ黒になってるな。少しグロいわ」
近づいてくるのは剣で切り、遠くのは雷魔法でと作業のように行っていると、気づいたら盗賊も最後の一人になっていた。
姑息にも、女の子を人質にしようとしていた。だが、その行為も一時凌ぎにすらならなかった。
最後の盗賊も瞬殺したのである。
「さすがは勇者だな。これで終わりか。っと、もう『勇者降臨』の時間切れか。何気にギリギリだったな」
『勇者降臨』の時間切れが訪れ、昌人の前からその巨体は消えた。
「おいおい、なんだよありゃ」
捕えた召喚士のガキに平和的にお願いしている最中に、精神がぶっ壊れたかと思ったら、突然光って目の前に大きな、恐らくは男が立っていた。
立派な兜に鎧、盾に剣と、どこかのお偉いさんの騎士みたいな格好だ。
盗賊の頭になって、子分を率いて色々やってきた。でもあんな巨体は見たことがない。
「おい、召喚士のガキは何処に行った?」
さっきまで寝転がっていた場所に、召喚士のガキの姿が見えない。まさかさっきの状態で逃げたのか?
「……いやせんね」
召喚士のガキにお願いしていた子分も良く分からないといった感じで報告してきた。
くそ、どこに行きやがった。あのデカいのはガキの仲間か?
「ちっ。よく分からんが、そのデカいのに聞くか。おい、お前ら! 仕事だ! そのデカいのをぶっ倒せ! 話聞くからまだ殺すなよ。後、装備は高く売れそうだから、あまり傷付けるな!」
掛け声と共に三十人ほどの子分が出てくる。
ったく、こんな奴は早く倒して、あの女の召喚獣を輪姦して楽しみたいぜ。
「へへへ、確かに立派な剣だな。高く売れそうだ」
「さっきから動かねぇな。びびってんじゃねぇのか?」
「一番は俺が頂くぜ!」
三人ほどがデカい奴に向かっていく。まぁなんだかんだでオレの子分は優秀だ。幹部レベルになればそこいらの冒険者にも引けをとらねぇ。
「よっしゃあ! 死にやが……あぎゃ」
一番に向かってた奴がデカいのに近づいたと思ったら、変な声を出しやがった。
「あ? おい、どうした!」
デカい奴は立ったままだった。ただ剣を軽く振っただけに見えた。それだけで、子分数人の上半身と下半身を綺麗に真っ二つになっていた。
「ちっ。デカい割に早いな。おい、お前ら! 遠くからだ。魔法で攻撃しろ!」
くそ、なんだよありゃ。剣を振る動作が全く見えなかったぞ……。それに間合いも長い。なんで剣を振るだけで三人の人間があんな風になるんだよ、くそが!
「炎よ、敵を撃ち燃やす槍となれ! フレイムランス!」
「土よ、敵を打ち砕く球となれ! アースボール!」
炎の槍が、土の珠が現れてデカい奴に向かっていく。
デカイ奴はその場から動かずに盾を構えた。
「はっ! 盾如きで俺らの魔法を防げるかよ! おら、お前ら! もっと撃ちやがれ!」
「喰らえ! 土の槍の針地獄、ストーンスパイク!」
地面から土の槍が現れ、デカイ奴に襲いかかる。
どんどんと撃ち込まれる各種の攻撃魔法。
あの魔法を前に逃げない度胸は認めてやるが、オレの子分の魔法は盾でどうにかなるレベルじゃねぇ。あぁ、しまった。殺すなって言ったのに、あれじゃ死んじまうじゃねぇかよ。
くそ! こりゃ盾の性能が良くて、死んでない事を祈るしかねぇか。
「おい、お前ら! 殺すなっつたろ! あれじゃ死んじまうじゃねぇかよ!」
くそ、剣でやられた奴らを見てビビったのか? 見ろよ、砂埃でデカいのが見えねぇじゃねぇかよ。
「誰か、デカいのが生きてるかどうか見てこい! 回復出来る奴、準備しとけよ」
「行ってきやす!」
子分の一人が向かって行った。
ったく。まぁ良さそうな盾だったし、鎧も似たような物だろう。ギリギリ生きているんじゃないかと思ってはいる。
お、砂埃が収まってきたな。ん? 見に行った奴は何してんだ?
「おい、どうした。生きてるのか? それとも死んじまってるのか?」
何やってんだよ、報告は大事だろうが。ただ生死を確認するのに、何を手間取っていやがるんだ。
「おい、聞いてんのか?」
それでも声は帰って来ない。
駄目だな。使えない奴はいらない。後で殺す事にするか。
お? デカイ奴が見えて来たな。あれだけ喰らっても鎧は無事そうだな。中々いい鎧みたいだ。高くうれそうだ。
でもまぁ中の人間は死んでるだろうな。
ん……。今動いたような?
「おい……あれ、さっき見に行った奴じゃないか?」
誰かがそう言った。
確かにさっき見に行った奴が、デカイ奴の前に突っ立っている。だが様子がおかしい。
なんで子分の腹から剣が生えているんだ?
「剣で……刺されて、死んでるな……」
「おい、あのデカいの動いたぞ! 生きてる……。生きてやがる!」
あれだけ喰らって生きてるだと……? どんなカラクリだよ。近づけばあの剣で殺られるって訳だな。魔法も耐えるだと? 化け物かよ。
「おい、あいつは何しようとしてるんだ? 手をこっちに向けてるぞ」
「分からん! くそ! 魔法追撃急げ!」
魔法の追撃が行われようとした瞬間、轟音と光が辺りを襲った。
「ぎゃああああああああ!!」
「ぬわああああああああ!!」
しばらくして音と光が収まった。
「おい! なんだ! 何が起こった! 誰か報告しろ!」
何が起こった? 今の音と光は何だ? 魔法か? でもあんな魔法見たことねぇぞ。
「頭……魔法部隊がいません……」
何? さっきまでそこに五人くらい立ってたじゃねぇかよ。
……おい。あれはなんだ? あの真っ黒い人間みたいな塊は何なんだ? あいつは何なんだ。一体何をしたんだ。
「ば……化け物だ。化け物だ!」
「死にたくねぇ、死にたくねぇよ!」
「おい、くそ! お前ら逃げるんじゃねぇ!」
仲間が死んだ事と、分からない攻撃のせいで、混乱してやがる。
「嫌だ……止めてく……ぎゃああああ!!」
「助け……助けてあああああああ!!」
逃げる子分がさっきの音と光に襲われている。どんどんと黒い塊が増えていく。
「ふざけんな、この野郎……」
「殺す……、殺してや……」
武器を持って近づいた子分は剣で両断される。
「何なんだよ……。オレが何したっていうんだよ」
逃げる子分は真っ黒に、近づく子分は斬られる。
「ふざけんなよ……」
気づいたら、オレの子分はいなくなっていた。仲良く胴体が半分になっているか、真っ黒になっているかだ。
全滅だ。このままだとオレも死ぬ。どうすればいい。どうすれば倒せる? どうすれば逃げられる?
うん? 何か足に当たって……。ははは、オレはツイている! 最後の最後にツイている! そうだ、オレはこんな所で終わる人間じゃねぇ! もっと盗んで、もっと殺して、もっと犯して!
「おいそのデカいの! この女が見えるだろ! こいつがどうなってもいいのか!」
召喚獣の女だ。忘れていた。ずっと足元に座り込んでいやがった。こいつを人質にすれば逃げられる。あのデカいのは、この女の仲間だろ? このまま逃げてやる。子分は全滅したが、まぁいい。この女を売れば金は手に入る。それでまた盗賊を集めればいいさ。
「動くなよ! 動けばこの女が死ぬ事にな……。動くなって言ってるだ……ろ」
視界が半分に割れる。頭が半分に割れる。
おい、まじかよ……。女がいるのに……人質がいるのに、剣を投げて……。あぁ、真っ黒よりはマシなのかな……。
平和を脅かしていた盗賊団が壊滅した瞬間であった。
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