21 捕らわれと召喚
「おい、起きやがれ!」
「う……ん?」
何だ、冷たい。水でも掛けられたのか? 俺は寝ていたのか……?
「起きたか召喚士くん。状況分かるか?」
えっと、確かマリアとダンジョンに行って、それから……。そうだ! 盗賊に会ったんだ。
「マ、マリアはどこだ?」
「嬢ちゃんなら無事だよ、一応な。ほら、そこに居るのが見えるだろ?」
目の前にいる男が指差す方向を見ると、そこにマリアが座っていた。
見る限り怪我はしていないようだ。だが寝ているのか気絶しているの、気を失っているみたいだ。
「無事なのか?」
「まぁ無事と言えば無事だな」
男がそう言った。なら良かった。
それにしてもここはどこだ? 暗いし、地面は土のようだ。建物ではない? でも少し落ち着いてきた。マリアは無事だったし、助かったのか?
だけど、なんで土の上でうつ伏せにされているんだ。普通は仰向けだろう。マリアは座っている状態だったのに。
顔を上げ、もう一度マリアの様子を見る。
先ほどは気付かなかったが、俺を起こした男とは別な、もっと大柄でごつい男がマリアの肩に腕を回しているのが見えた。
なんだ、あいつ。なんでマリアにそんな事をしてるんだ? 馴れ馴れしいにもほどがあるだろ。俺だってした事ないのに。
「さて、早速で悪いんだが、この召喚獣の契約を切ってくれないか?」
「なん……だと?」
俺を起こした男が変な事を言ってきた。何を言ってるんだ? 契約を切る? なんで?
「あらら。まだ状況解ってない? 俺達盗賊で、ここはアジト。お前らは捕まった可哀想な冒険者。解るか?」
盗賊……! そうか、捕まってそのままか。
んにしても一体何が目的なんだ? 誘拐にしても、身代金なんか出る訳がないし。
「……殺すなら早く殺せよ」
「いやいや、目的はこっちの召喚獣ちゃんなんだよ。この娘、専属契約なんだろ?」
なんでマリアの事を知っているんだ? それにマリアが目的だって?
「専属契約ってのは術士を殺すことでも解除できるけど、そうすると召喚獣にも不具合が出ちゃってね。そうなるとこっちも困るんだよ。まぁ最悪それでもいいけど、俺らも穏便にしたいわけよ。だから術士自らが契約を譲渡してくれれば、何事もなく俺らの物にできるんだよ」
「何でマリアを狙う」
「そりゃ、可愛い人族タイプの召喚獣だからさ。召喚獣ってのは便利でね。従順だし、怪我も平気。だから高く売れるんだよ」
売る……? マリアを売るのか?
「まぁその前に俺らで楽しむんだけどね。でも術者じゃないと服とか変更出来なくてね。だから遊べないんだよ。ちゃんと楽しむなら、服が邪魔だろ?」
楽しむ? 服が邪魔? あぁ、そうか。そういう事か。
「下衆が! ふざけるな! 誰がそんな事させるか!」
そう叫んだものの俺は動けなかった。うつ伏せにされ、さらに手足は縄のようなもので縛られているのに今更気付いた。
「くそ、ほどけ!」
そうだ、何か召喚獣を出せば!
「うっせぇな。状況分かってんのか? お前の腕の一本くらいなら落としてもいいんだぞ? 死ななきゃいいんだしな」
マリアに腕を回していた男が、立ち上がり剣を構えた。
「ん……?」
「あれ、頭。起きたみたいですぜ」
頭と呼ばれた男が立ち上がった際に振動で起きたのだろう。それくらい密着していた訳だ事だ、くそ。
それにしても、でかい奴とか思っていたが、こいつが頭か。
「ここ……は?」
「マリア、逃げろ! 援護しろ、シルフ!」
見た限りマリアは束縛されておらず自由だった。マリアだけでも逃がす事が出来れば……。そう思い、敏捷が上がるシルフを召喚しようとした。
しかし、シルフは出てこなかった。
「なんでだ?」
「アキ? 一体どうしたの?」
「がはははは! 逃げろだよと。召喚獣だけ逃してどうすんだよ。それにお前の他の召喚獣は、まだボロボロの状態だろ。そんなんじゃ呼べねぇよ」
そうだった。くそ、どうしたらいいんだ。
目が覚めたアキにも俺と同じ説明がされた。
マリアの召喚契約を盗賊に譲渡し、マリアは盗賊の慰み者になった後に売られる。
そんなの嫌だ! マリアだけでも助けないと。
「アキ……、ワタシのことはいいから。契約、切ってよ」
おいおい、逃がす術を考えているのに、何を言っているんだよ。
「……何を言っているんだマリア。分かってるのか?」
「うん。分かってるわ。このままだとアキが殺されてしまう。ワタシはそれは嫌なの。だからお願い」
「おいおい、召喚獣ちゃんの方が物分かりがいいんじゃないか?」
「そうですね。人間の場合で賢いとなると面倒ですけど、召喚獣ならプラスになりますね」
今は生かされている状態だけど、マリアを譲渡してしまったらそれこそ俺に価値はなくなる。
マリアみたいな召喚獣を他にも生み出せるとかなら、恐らくは生かされるだろう。
でもそれは、生かされるであって生きているではない。監禁されて良いように使われるだけだろう。
何かを召喚すれば……って、そういえば全部倒されたままだったか。
くそ、どうすればいいんだ。このままだとマリアは奴らに奪われて俺は殺される。そんなの嫌だ。マリアを助けたいし俺も死にたくない。
マリアを召喚解除してみるか? 嫌ダメだ。逆効果だろう。すぐに俺が殺されるかもしくは拷問されるか。
「召喚士君。早くしてくれないかな?」
「嫌だと言ったらどうなる」
「言える状況じゃねぇだろ? 面倒だな。おい、やれ」
言うだけいってみたけど、さすがに拒否は出来ないよな……。頭が何か指示したけど、何をするんだ?
「まずは腕かなー?」
男――面倒だ、盗賊Aとしよう。そいつは剣を持ち俺に向かってきた。
まずは腕? まさか……。思わず腕に力が入る。
「と思わせて足でした!」
グサッと音がした。そしてやってくる痛み。足が……太ももが痛い!
「ぐあああ!」
「アキ! 止めて!」
「まぁ刺したくらいじゃ死なないから安心しなよ。痛いだろうけどね」
こいつ……俺の右の太ももを剣で刺しやがった!
痛い痛い痛い。死ぬ死ぬ死ぬ。
それでも……、マリアは仲間だ。渡せるものか!
「痛ぇけど……。まだ……」
「意外と耐えるねぇ。早くすれば楽になるのに」
足から剣を抜いた盗賊Aが、再度剣を構えるのが見えた……。思わず目で追ってしまう。すると……。
グサッ!
盗賊Aの剣は俺の左腕に刺さった。
「ぐあぁぁぁぁぁ!」
痛い……。なんだよこれ。こんなに痛いのかよ……。このまま死んでしまうのだろうか……。
これがゲームだったら勇者が来て助けてくれるんだろう。この世界にも勇者っているのかな……。
いたとしても助けに来てくれるものだろうか。普通だったら、捕われの姫とか可愛い女の子を助けるのが物語だ。
この場合だと、マリアがそれだろう。俺はついでに助けられるか、もしくは時すでに遅しって奴だ。
もっと俺に力があればなぁ。マリアを助ける事が出来るのに。そしたら俺がマリアの勇者って事になるな。
まぁ無理だ。俺の持ってる召喚獣じゃ、活路が見えない。もっと強い召喚獣を契約しておくべきだったな……。
俺の旅もここで終わりか。イヴァン達には申し訳ないな。地球にいる皆も心配してたりするんだろうか。
折角異世界に来たっていうのに、何もする事なく、か。
この世界に来て、最初に出会ったのがマリアで、ここまで楽しくやってきたつもりだ。
そうそう、マリアを創った爺さんにも申し訳ないな。折角創ったというのに、マリアがこんな目にあうなんて、あの世会えたらで謝ってくるかな。
そういえば、爺さんは嫁はおろか彼女も友達もいなかったからマリアを創ったんだよな。
創った?
俺はこいつらを倒せる召喚獣は持っていない。マリアを助ける召喚獣は持っていない。
なんだ簡単な事じゃないか。
イナイナラ、ツクレバイイ。
マリアを助ける召喚獣を。こいつらを倒せる召喚獣を!
昌人は所謂厨二病ではなかった。
しかし子どものころは男の子なりにヒーローや勇者に憧れていたし、いつか自分も成りたいと思っていた。
高校生にもなればそんな事も思わない。それはファンタジーの世界だと分かっているからだ。
でも漫画やゲームなどの世界には勇者は存在している。それはファンタジーの世界だからだ。ファンタジーの世界なら、剣を使えば岩をも切り、向かってくる銃弾を避け、敵の攻撃を受けてもびくともせず、魔法を無効化し、敵を倒してヒロインを救う、そんな勇者が存在する。
ならこの世界はなんだ? そんなファンタジーの世界じゃないのか? 異世界から召喚された人間ってのは勇者だろ。それがお約束って奴だ!
「アキ……。もうやめて! ワタシなら平気だから……」
「うーん? だんまりか。死んではいないだろうけど。おい、誰か回復出来る奴。こいつを少し治療してやれ」
「俺が……」
「ん? 起きてるのか? 話せるか? 契約は切る気になったか?」
「助けるんだ……」
俺が勇者に成ればいい。マリアを救う勇者に成ればいい。勇者を創る。勇者である俺を創る!
「あん? 何言ってんだお前。まだ懲りてないのか?」
「成るんだ……」
アニメやゲームの世界の勇者に。悪を倒す絶対的な勇者に。
「殴るくらいならまだ平気だよな。契約切る気になったら教えてくれよ?」
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
俺を殴ろうとしていた盗賊Aやアキ、頭に他の盗賊達も、俺の突然の声に驚いていた。盗賊Aは殴ろうとしていた手を止めるくらいに。
「なんだ、気でも狂ったか? いくらなんでも早すぎだろ。ったく。一回寝て貰うか」
再度俺を殴ろうとする盗賊A。でもそんなのはもう気にならない。
だって俺は、マリアを助ける勇者になるんだ!
「来い! 勇者アーサー!!」
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