20 成長と襲撃
イヴァン達と別行動をするようになってから十日間。
怪我が完治していなかった事と、これまではこの世界に来てからなんだかんだで忙しかったので、その休養も兼ねて休んでいた。
街を散策したり買い物をしたりなどで、冒険者業は行なってはいない。
そのお陰で怪我も治り、久々にダンジョンに行こうという所であった。
「クエストは……いきなり三階は無理だろうし、やっぱ二階向けのにするか」
「そうね」
イヴァン達はまだ帰って来ていない。二週間ほどと言っていたので、後数日は掛かるだろう。
なのでマリアと二人でダンジョンに挑む訳だが、さすがに二人で三階は無理だと思われるので無理をしないで二階のを受注した。
「はい、ホーンラビの角納品のクエストですね。あ、そういえば。最近、盗賊の被害が出ているので注意して下さい」
「盗賊ですか? 被害というのは?」
「確認出来ているのは、商人の積荷が奪われるそうです。冒険者は襲われていませんね」
「分かりました。気を付けますね」
盗賊か……。やっばいるんだな。冒険者は襲われていないけど、用心しておくか。
「はい、お願いします。それはそうと、そろそろステータ石で能力値の更新をされてはいかがでしょうか? 前回から期間も空いていますし」
「あー、そうですね。やっておきます」
アイテムの管理にクエストの進捗管理と色々便利な冒険証だが、ステータスだけは自動更新されない。
更新するには、冒険者ギルドにあるステータ石を利用する必要がある。更新しないと自分の実力が分からないので、適度にしておくのが推奨されている。
ちなみに更新料は一回銅貨五枚だ。ランニングコストも掛かるとか、いい制度だな。
俺とマリアの冒険証と銅板一枚を渡して、更新してもらう。
「はい、お二人とも更新完了です」
「ありがとうございます」
どれどれ?
腕力と体力は両方八か。両方上がってはいるが、腕力は一ポイントしか上がってないなー。筋トレしてるのに。
魔力は……めっちゃ上がってね? なんだよ六十って。十ポイントも上がってるじゃん。
使えば増えるらしいけど、これは偏りすぎだなー。魔力はそんなに使って……あー、マリアを常時召喚しているからか? なんだよ、簡単に上げられるんだな……。
マリアは平均的に一、二ポイント上がっていた。魔力は変わらずゼロだが。
さて、それじゃ行きますかね。
「アキヒト君達はもうダンジョンに潜っているのかな」
「怪我が治っているといいですが……」
「ミーちゃんは心配性だなー。アッキー達なら大丈夫でしょー」
僕らは冒険者ランクDに上がった事を報告するために、村に戻っていた。
思っていたよりも早く上がったため、それはもう熱烈なお祝いを受けた。ランクDになるのは珍しくないとは言え、僕達は運が良かった。
たまたまダンジョンで出会った他の冒険者パーティ、アキヒト君とマリアさんの協力のお陰で昇給クエストがクリア出来たのだ。
その二人は、これからもパーティを組んでくれる事になったので、これからも楽しみだ。
「ほら、喋ってないで早く行くよ」
今はアキヒト君達と合流するために、ワーズヴェシンに戻っている最中。この分だと後二、三日って所かな。
「はいはーい」
「待ってください、兄さん!」
合流したらアキヒト君達のランク上げを手伝わないとね。皆がランクDになったら、王都まで行ってみるのもいいかもね。
「ミーちゃん、早くー! 置いてくよー!」
「やっぱ三階は無理だったな」
「さすがに無理だったわね」
二階のクエストを無難に達成した後に三階挑んだものの、あっさりとピンチになったため三階攻略は諦めた。
なのでダンジョンから出て街に戻る途中だ。
二階は以前よりも安定して進む事が出来た。イヴァン達と一緒に潜ったお陰だろう。それでも三階のコウモリ達には手が出なかった。やはり二人では厳しい。
素直にイヴァン達の帰還を待つとするか。
さて、もう夜になってしまったな。やっぱりダンジョンに潜ると時間の感覚が分からなくなる。慣れるしかないのかなぁ。その辺りもイヴァン達とだな。
「街戻ったらイヴァン達を待つ?」
「そうだな。イヴァン達と合流して、次頑張ろう」
「お前らに次はねぇよ」
突然声を掛けられた。ダンジョンから街に戻る途中で他の冒険者とすれ違う事はあっても、声を掛けられたのは初めてだ。
いつの間にか、目の前には二人の男が立っていた。
「何だ、お前ら」
「無駄な抵抗はしないで大人しく捕まれ」
まさか……盗賊か? くそ! 盗賊がいるって注意されていたのに。しかし冒険者は襲っていなかったはずだ。今までは様子見って事だったのか?
こんな事なら、夜に出歩くんじゃなかった。
捕まえるって、金目の物目当てって訳ではないのか?
どちらにしろ捕まっていい事はない。相手は人間だけど倒すしか無い。
「くそ、マリアにサラマンダー、シルフ、頼む!」
そもそも倒せるのかも分からないし、最悪なんとか逃げるしかない。
「分かったわ、アキ。行くわよ!」
「抵抗してくるのか。面倒だな」
「どうしやす?」
「ちっこいのはぶっ潰せ。後は殺すな」
二人の内の一人がこちらに向かってくる。一人で戦う気か? 分からないけど、好都合だ。
手にはナイフを持っている。あれがあいつの武器か。
「サラマンダー、シルフ。補助と攻撃だ!」
「さてっと、ちっこいのはいいんだっけ」
「ぎゃおー!」
「行っくよー!」
まずはサラマンダーとシルフの攻撃、炎の玉と風の玉だ。盾も持っていないただの人間相手なら十分な攻撃だろう。このまま撃破だ。
「おー怖い怖い。よっと」
「ちっ!」
思わず舌打ちをしてしまう。サラマンダーとシルフの攻撃が避けられてしまったからだ。コウモリ相手でも避けられてしまう事もあったが、二匹の同時攻撃を難なく避けるというのは予想外だ。
でもその後にマリアの追撃がある。さすがに避けられまい。
「せいっ!」
「こいつは駄目なんだよなぁっと」
「なっ! くそ、ノーム! 援護だ!」
マリアの懇親の突き攻撃も盗賊が持っていたナイフで逸らされてしまった。
こいて、強いな……。ノームも召喚して全力で行く!
「おい、あまり遊ぶな。早くしろ」
「分かってやすよ」
やり取りからすると、後ろで立っている男の方が偉いみたいだ。とすると、向こうのが強いのだろう。
くそ! 手前の男も強いというのに。
「という訳なんで、ちっこいのは退場して貰いやすよ」
そう男が言うやいなや、男が視界から消えた。
何だ? 何処に行った?
と、次の瞬間。サラマンダーとシルフ、それにノームが両断されていた。
「ぎゃ……おん」
「え……?」
「がぁぁ!」
三体の召喚獣が光となり消えていった。
召喚獣は基本、戦闘行為では死なない。あれは維持できないレベルのダメージを負ったため、強制的に召喚が解除されただけだ。しかし、しばらくは呼ぶことが出来ない。
それにしてもいつの間に……。さっき消えたと思ったのは、単に早くて見えなかっただけなのか?
やばい……。勝てない……。ここで俺は死ぬのか?
「さて、お次はお嬢ちゃんだねっと」
「くっ!」
気づいたら、男はマリアにも襲いかかっていた。だがさすがはマリアだ。男の攻撃を凌いでいる。
「マリア! くそ、ウンディーネ!」
手持ちはもうウンディーネしかいない。攻撃手段はないが、マリアを回復しつつ乗り切るしか、もう手は残っていない。
「お? これで最後だよな。それじゃっと」
男はそう言うと、先ほどのと同じように俺のまえから姿を消した。俺が気づいた時にはウンディーネは光となって消え始めており、マリアは地に伏せていた。
「マリ……ア?」
まさか……。一瞬でマリアまで?
「あぁ、安心しろよ、坊主。あの嬢ちゃんは気絶してるだけだ」
「ちくしょー!!」
あったのは恐怖。ここで死ぬという恐怖。マリアを失うという恐怖。それらを誤魔化すかのように、叫び、走り、男に向かって杖を振った。
しかし、決死の攻撃も宙を舞った。
「うんうん、威勢がいいな。まぁ無駄だったけど。それじゃお休み」
「ぐ……はっ」
「終わりやした」
「あぁ、召喚獣はさっきので全部か?」
「はい、坊主が持ってるのはさっきので全部です。後はこの嬢ちゃんですね」
「よし、それじゃ運ぶか。お前は召喚士を運べ。俺はこっちの女を運ぶ」
盗賊達はそう言うと、アキヒトとマリアを担ぎ、どこかに去っていった。
後に残ったのは、アキヒトが気絶する際に落とした杖だけだった。
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