19 祝杯と不穏な影
「乾杯ー!」
俺とマリアとイヴァン達の五人は無事に街まで戻る事ができ、冒険者ギルドに報告、イヴァン達三人はランクアップをしてDランクになった。
今日はそのお祝いということで、五人で祝杯という訳だ。ちなみにこの世界では十五歳で成人となるため、飲酒も解禁になるらしい。
「三人共、ランクアップおめでとう!」
「うん、ありがとうね」
「いやいや~、アッキー達のお陰だよ~」
「そうなのです。私達だけじゃ無理だったのです」
「三人とも強いわよ。さすがDランクね。ワタシ達も頑張らないとね、アキ」
俺とマリアはまだランクアップのポイントに達していない。ダンジョンに篭って頑張れば貯まるだろうが、俺達だけじゃボス撃破は無理だ。
「そうだなー。俺達も頑張らないとな。でもボスが倒せるかどうかだよなぁ」
「うん、その事だけどね。アキヒト君達が良ければ、このままパーティを組まないかい?」
「それは今後もって事か?」
「そうだね。今回は僕達のランクアップのためにお願いしてたんだけど、アキヒト君達は良い人だしね。今後も組みたいと思っているんだよ」
「うんうん、そうだねー。アッキーもマリっちも強いし可愛いし最高だよね!」
「私も、一緒に出来れば嬉しいのです」
嬉しい事を言ってくれるな。この世界に来てから友達と呼べる存在はいなかったが、イヴァン達がそういう存在になれたら俺も嬉しいと思っている。
まして、一緒のパーティなら楽しくもなるだろう。人も良いし実力もある。嬉しい誘いだ。
しかし、敢えて触れないでいるのか分からないけど、そういう事なら説明しておかないとな。
「ありがとうな。だけどその前に説明しておきたい事がある。マリアの事だ。いいよな、マリア」
「ワタシはアキに従うわ」
「そうだったね。気になってはいたけど、話してくれるのかい?」
一緒パーティを組むなら内緒にしておけないしな。しかし、これで嫌われたらそれはそれで仕方がない事だ。
「あぁ。もう分かっていると思うが、マリアは俺の召喚獣だ。正しく言うと、俺が継承した召喚獣だな」
イヴァン達の俺達の生い立ち――まぁ異世界云々は言えないので、生い立ち設定を話した。
孤児で身寄りが無い事。
召喚士である爺さんに拾われて育てられた事。
爺さんがマリアを作った事。
爺さんの死後、俺がマリアを継承して冒険者になるために街に降りてきた事。などなど。
「そっかー。マリっちは召喚獣? なんだね。うーん、でもどう見ても人族にしか見えないよー」
「そう、ですね。可愛い女の子にしか見えないのです」
「僕も召喚獣に詳しい訳じゃないけど……。でも確かにアキヒト君の声で消えて出てきたしね……」
うん、そうですよねー。俺もマリアとあんな出会いをしていなければ召喚獣だなんて分からなかったさ。
能力も人間風で見た目も人間風、ステータ石も人族って判断するのもおかしくはない……はずだ。
「アキの言う通り、ワタシは召喚獣よ。能力は……さすがに秘密って事にしておくわ」
あぁ、さすがに全部話すのもあれだし秘密にするのも分かるけど、それは言いたくないだけだろう?
「まぁそういう事だ。人型の召喚獣がどう思われるか不安で言えなかった。すまん」
「いや、いいよ。確かに普通とは違うみたいだしね。でもなんで話してくれたんだい? 僕が言うのもなんだけど、秘密って事でも良かったんだよ?」
「パーティに誘って貰ったからな。仲間って事になるだろうし、これくらいはいいさ。でも他の人には言わないでくれると助かる」
「って事は、パーティ組むのはいいの? やったね、ミーちゃん!」
「はい、そうですね! ってなんで私に振るんですか! いえ、組んでくれるのは嬉しいのです」
俺ら二人だけでは今後も不安だし、一期一会っていう言葉もある。折角のイヴァン達との出会いを大切にしたい。
「ありがとう、アキヒト君、マリアさん。うん、召喚獣ってことは秘密にするよ。みんなもいいね?」
「分かったよ! うーん、そうなると、アタシも一応教えておこうかな。アタシは実は獣族のクオーターなんだよ。お祖母ちゃんが獣族なの。お爺ちゃんは人族なんだけどね」
なん……だと……。獣族のクオーター? いやいや、そもそも人族と獣族で子ども? マジか、ありなのか?
「ローザ……良かったのかい?」
「うん、アッキー達なら平気だよ」
「いや、驚きだ。人族にしか見えないけどな」
「外見にはあまり特徴が出てないんだよねー。耳も尻尾も人族のだし。でも腕力とか敏捷が少し高いんだよ!」
そうなのか……ケモミミやモフモフはありなのか。いや、驚きだ。
「中には他の種族との婚姻や子どもを嫌う人達もいるんだよ。そのせいで大変な思いをしている人達もいるらしいしね。僕達はそうは思わないし、ローザは仲間だしね」
あー、ハーフとかだな。確かに日本でも外国の人との結婚は許しません! って頭の硬い人もいるだろう。
ましてここでは他の種族だ。色々あるのだろう。だから秘密にしておきたかったんだな。
「俺は別にどうも思わないけどな。ケモミミとか可愛いと思うし」
「そうかい? そう言ってくれるなら良かったよ」
「……ケモミミ。どうしたら生えるですかね……」
「そういえば盾は本当に僕らが使っていいのかい? 良い物だったし、アキヒト君達にもその分を分配するのが筋なんだけど……」
「あぁ、いいよ。俺は使わないし、それに同じパーティ組む事になればその方がいいだろう」
ボス戦で出た盾はイヴァン達――正確にはイヴァンにあげる事になった。
本来はイヴァン達が買い取る形で俺らにお金渡すのが正しいが、どうせ同じパーティになるんだからイヴァンにあげる事にした。
ゴーレム戦でイヴァンの盾は結構ボロボロになっていたので丁度よかった。ゴーレムの盾は、イヴァンが問題なく扱える代物だったというのもその理由だ。
「それじゃイヴァン達は一旦、故郷に戻るのか?」
「うん、そうだね。パーティに誘っておいてなんだけど、ごめんね」
「すみませんです。前からそうと決めていたので……」
「いや、分かったよ」
イヴァン達はランクアップの報告のために一旦故郷に戻るらしい。凱旋だな。イヴァン達の故郷は、ここワーズヴェシンからは歩いて数日の村らしい。
「二週間くらいで戻ってくるから、それまではアキヒト君とマリアさんだけになってしまうけど、ごめんね」
「だからいいって。二人でダンジョンの浅い層でポイントを稼いでおくさ。だからポイント貯まって昇級クエストが受けられるようになったら、頼むよ」
「うん、それはもちろんだよ。戻ってきたらギルドに伝言残していくからね」
イヴァン達が戻るまでは、マリアと二人で行動だな。前まではいつもそうだったのに、二人だけって寂しいな。
まぁ元々はダンジョンの戦い方や攻略法を勉強出来ればって事で、イヴァン達と組んだんだし、二人だけで三階に行けるかどうかを試すのもいいな。
前は三階に行けなかったしなぁ。今回ので色々分かったし、前よりはうまく行動出来るだろう。
しばらく食事も酒も会話も進んだ頃。
俺は大分まいっていた。やはり酒は結構厳しいな。まだ十八歳だし、日本では飲酒は駄目な年齢だ。
これが酔うって事なんだろうか。
それに、ゴーレム戦での怪我もまだ完治していない。普通の生活には問題はないが、戦闘は無理だろう。なのでイヴァン達の帰省中に養生するつもりだ。
「うーん、ちょっと疲れたわ。俺は先に休む事にするよ」
酒もだが、怪我のせいもあって本調子ではない。申し訳ないが、ここは先に脱落させてもらおう。
「えー、アッキー。駄目だよー。アタシともっと飲もうよー」
あ、ローザは絡んでくるタイプだ。
「ローザさん、駄目なのですよ。すみません、アキヒトさん。お疲れです?」
「あぁ、ごめんな。マリアはまだ平気なのか?」
「それならワタシも戻る事にするわ。ミネット、またね」
「ん、分かった。それじゃ、イヴァン、ミネットにローザ。戻って来たらまたダンジョン行こうな」
「うん、楽しみにしているよ」
そう言い、イヴァン達と別れた。
「いやー、でもマリっちみたいな可愛い召喚獣がいるなんて、アッキーってすごいよね!」
アキヒト達が帰った後も、三人で祝杯をあげているイヴァン達。
ランクアップと酒のせいもあり、盛り上がっていた。
ここはどこにでもある酒場。特に壁もないため、大声での会話は聞かれてしまう可能性もある。
そこに知らない男がイヴァン達に近寄って来た。身なりは小奇麗にしている男性だった。
酒場は情報交換の場としては最適であり最悪である。
それは周りに聞かれてしまう可能性が高いためだ。秘密の話には向かない。そういう話は別の場所でするものだ。
しかし、面白そうな話や酒の肴になりそうな話などを求めて、冒険者や商人といった人達が集まってくる場でもある。そういう情報交換にはいい場であった。
恐らくはこの男性も後者目的の商人か何かだろう。
「お、にーちゃんにねーちゃん。ずいぶん機嫌がいいな。いいことあったのかい?」
「えぇ、そうですやっと冒険者ランクがDに上がったんですよ」
丁寧に受け答えるイヴァン。こういう場では下手をすると争い事に発展する事もある。なのでよほどの事がない限りは丁寧な対応をするのが当然であった。
イヴァンの性格が真面目という事もあるのだが。
「そりゃすごいな。ここだとダンジョンのゴーレムかい?」
「そうなのです!」
「へぇ~。三人でってことはずいぶんやり手だな」
「いえ、実は僕達では無理だったので他のパーティと組んだんですよ。それでも全部で五人ですけどね」
「そうそう、アッキーは凄い召喚士だし、マリっちも可愛い召喚獣だし、凄いよねー!」
「ほ~、若いのに召喚士ってのはすごいな。可愛い召喚獣ってのも強いのか?」
「そうそう! 強いのにさらに可愛いの! どこからどう見ても人族なんだけどねー!」
声が大きくなるだけならまだしも、知らない人にマリアの事を喋ってしまったのも、酒場ならではの空気のせいであった。
「へー、若くて可愛い人族の召喚獣ね。そりゃすごいな。まぁにーちゃんたちもすごいんだろ? これからも頑張れよ!」
男性はそう言うと、イヴァン達から離れていった。
「若いくて可愛い人族の召喚獣だと? それは本当なのか?」
「えぇ。冒険者がそう言っているのを聞きました」
酒場から少し離れた路地裏での会話。そこには先ほどの男性と、身なりが怪しいもう一人の男性が立っていた。
「ふむ。まずは頭に報告だな。他に売れそうな娘はいなかったのか?」
「へい、その冒険者の娘も中々でしたが、ランクDらしいです」
「ランクDか……。まぁその召喚獣の話が本当なら、そっちを売れば冒険者の方が不要だな。引き続き見繕っておけ。俺は報告に戻る」
「へい、分かりました」
そう言うと、怪しい男性は姿を消した。後に残ったのは酒場にいた男性だけであった。
「アキ、大丈夫?」
「あぁ、酒が初めてだったしな。マリアは平気なんだな」
って召喚獣は酔うのか? そもそも食事自体が不要なんだよなぁ。
「ワタシは平気よ。あんまり飲んでないもの」
「そうなのか。まぁ早く寝よう。色々疲れたわ」
イヴァン達が戻る前に怪我も治して、ダンジョンに潜ってポイント貯めて……。うん、楽しくなってきたな。
でもその前に、まずは宿に戻って休みたい。
うーん、酒は飲んだのは初めてだけど結構くるもんなんだなぁ。味が良かったけど、チューハイみたいな物だったしな。さすがにビールを美味いと言える年齢ではない。
まぁいつかはそう思えるのだろう。だって、俺まだ十八歳だしな!
怪しい影が蠢いているのを、昌人達はまだ知らなかった。
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