14 難航と勧誘
「くそ、難しいなー」
ダンジョン攻略を開始して数日後、野営も慣れてきた頃、俺達は詰み状態に入っていた。
ちなみにやはりと言うか、最初の頃は野営の時は、マリアは俺を起こさずに一人で見張りをしていた。もちろん怒ってきちんと交代するように言ったので、今ではきちんと交代してくれている。若干渋々という感じにも見えるが、俺だけずっと寝ている訳にはいかない。
「ちょっと厳しいわね」
ここは冒険者ギルド。思わず愚痴めいた事を呟いてしまったが、マリアも同調する。ダンジョンには慣れてきた。クエストも順調にクリアはしている。だけど……。
「ペアだと二階が限界かな」
通常パーティは最大六人まで可能なので、普通はその人数で組む場合が多い。人数が多ければ、ダンジョン攻略も楽になるだろう。
だけど俺達はペア。二人組だ。その分、魔物が多いと苦戦するし、戦闘時間も長くなる。召喚獣を複数召喚すれば楽になるが、そうなると今度は休憩の回数が多くなる。
そのため、思うようにダンジョン攻略が進まないのだ。一応二階は回る事が出来たが、消耗が激しく三階に行けるまでは出来ていない。
ならば人数を増やせばいいのだが、知り合いも気の合う同業者もいない。傭兵みたいに人を雇うという手もあるが、そこまでするのも……、といった状況だ。
ダンジョンに固執するつもりはないが、ランクアップのためにクリアしておきたい。じゃなきゃ他の街に移動でもするか……。
「君たち、ちょっといいかな」
そんな事を思っていたとき、誰かに声を掛けられた。冒険記ギルドとはいえ、俺達に声を掛ける人なんていないはずだが。
声のしたほうを向く。そこには、以前ダンジョン内で会った、三人組の冒険者がいた。あれから何回か顔は合わせているが、軽く挨拶をする程度で、交流はなかった。何故このタイミングで声を?
声を掛けてきたのは、唯一の男のようだ。
「えっと、なんでしょうか?」
「あ、突然ごめんね。警戒させてしまったようだね。えっと、二人にお願いというか相談があるんだけど、ちょっと話せないかな?」
どうやらイチャモンを付けにきたようではないようだ。友好的な話し合いだろうか。
「いいですよ。マリアもいいよね?」
「ワタシは構わないわよ」
「よかった。それじゃ向こうのテーブルで話そうか。あ、飲み物は奢らせてね」
椅子に座り、飲み物を注文する。男の他に、パーティメンバーの女性二人も着席していた。皆の飲み物が来たタイミングで、男が話し始める。
「まずは自己紹介からするね。僕はイヴァン、片手剣を使っているんだ。こっちの子は妹のミネット。魔道士だよ。こっちはローザ。斧使いの前衛だよ。三人共ランクEなんだ」
声を掛けて来たのがイヴァン。人が良さそうな青年だ。歳は同じくらいだろうか。学校にいたら、クラスの委員長をやってそうな、地味だけど真面目そうな感じだ。
右にいる一回り小さいのが妹のミネット。なるほど、魔法少女という格好の女の子だ。見た目的にはマリアよりも幼く見える。こちらも真面目そうだけど、可愛い。人見知りするのだろうか。目を合わせてくれない。
左にいるのがローザ。元気そうな女の子だ。斧使い……、力が強いのだろうか。クラスのムードメーカーといったところか。歳は少し上に見える。
おっと、自己紹介されたからこちらもするのが礼儀だな。
「私は昌人、召喚士です。こっちはマリアで武器はレイピア。私達もランクEです」
「え! 召喚士なのかい! 若いのに凄いね。」
召喚士だと自己紹介をすると、三人とも驚いていた。やはり召喚士の絶対数は少ないし、若いとなるとさらに少ないみたいだ。
「あぁ、ごめんね。えっと、早速だけど相談というのはね、僕達のクエストを手伝ってくれないかなって事なんだよ」
「クエストの手伝いですか?」
「うん。僕達はランクEなのはさっきも言ったけど、もうすぐランクアップが出来るんだ。知っていると思うけど、ランクアップのクエストが難しくて。中々クリア出来ないんだよ。三人だときついって事で、皆で相談して仲間を探していたんだよ」
「そのクエストってダンジョンですか?」
「うん、そうだよ」
ランクアップのクエスト。ランクEに上がるためにはポイントを稼げばいいだけだが、それ以上に上がるためには、冒険者ギルドが指定する幾つかのクエストのどれかをクリアしないといけない。昇級クエストって奴だ。
ランクDからは対魔物のクエストも多くなり、戦闘は避けられない。そのため、相応の実力が必要になるので、冒険者ギルド側も相応のクエストを用意している訳だ。つまり、薬草だけ採取してランクDに成る事は出来ない。
街ごとに昇級クエストの内容は違うが、この街のランクDへの昇級クエストは、ワーズウィルの踏破。つまりはダンジョンの地下五階にいるボス敵の討伐になる。冒険者になるなら、このくらいのダンジョンのボスくらい倒せないとねって事だ。
まぁ俺達はボスフロアはおろか三階にも行けていない訳なんだが……。
他にも、商人などを他の街まで護衛するという護衛任務があるが、そもそも発生頻度も少なく、護衛任務の場合は三回しないと昇級出来ない。時間も掛かるし、他人の命も預かるというので、昇級クエストとしては不人気だ。
「どうかな? きちんとお礼はするし、ボスを倒せれば報酬もポイントも美味しいと思うよ。」
ふむ。いい人そうに見えるし、人数が少なくて苦戦しているのは俺達も同じだ。マリアとペアでは、ボスを倒すのはいつになるのか分からない。
「アタシ達は南東にある村出身で、冒険者になろうって来たはいいけど、他に知り合いもいなくて困ってたんだよー。ミーちゃんは魔導師だけど、回復とか補助が出来なくてねー」
「ロ、ローザさん! 出来ないんじゃないんです。ちょっと苦手なだけです!」
「えー? そうだっけ? まぁそういう事にしておくよ」
「ローザにミネットも。今はアキヒトさんたちにお願いをしている最中なんだよ?」
「あはは、ごめんごめん」
「ごめんね、アキヒトさん。ローザも言ったけど、僕らは同郷出身なんだ。冒険者になるために街に来たんだけど、手詰まり状態でね。ミネットは攻撃魔法は得意なんだけど、回復とかが出来……、苦手だから、ダンジョン攻略となると厳しくてね」
なるほど。同じ村出身なのか。仲が良い訳だ。先ほどの発言に対して、妹のミネットがジト目で抗議している。うん、苦手なんだよね。分かってるさ。
「誰か誘おうにも知り合いもいないし、同じランクとなるとさらにいなくてね。そこで、前衛と後衛のペアなアキヒトさん達に協力して貰えると嬉しいなって思ったんだよ。まさか召喚士とは思わなかったけどね」
「最近、ダンジョンで見かけるし、多分同じランクなんじゃないかなーって思ってたのさ。だから誘ってみたら? って、アタシがイヴァンに提案したんだよ!」
なるほど。俺達もイヴァン達の事は気になっていた。一緒にダンジョン攻略をしている仲間でありライバルでもある、みたいに勝手に思ってはいた。
組むのは俺達としても渡りに船だが……、だからと言って簡単に信用するのも不用心というものだ。
ネットゲームなんかでも、クエスト達成のために一時的に見知らぬ人とパーティを組むという行為はあった。それはもちろんゲームの世界だからだ。悪人がいたとしても、精々PKをされるか、金銭やアイテムを騙し取られるかで、ゲーム画面に向かって怒るなり泣くなりすればいい。
だけど、ここはゲームじゃない。現実だ。PK……、殺されれば俺は死ぬ。ネットゲームでは、一見いい人そうに見えて、実はってパターンもあった。そういう人は大抵晒される事になり、調べれば分かる。
だけどここではそんな情報は……。うーん。出来るなら信用したいし、この協力関係は俺としてはいいと思うけど、マリアの意見も聞かないと駄目だな。俺達はペアなんだから。
「マリアはどう思う?」
「そうね……。私達も人数不足なのもそうだし、悪い人達じゃないと思うわよ」
ふむ。あっさり信じてしまうのはどうなのかと思うが、マリアは人を見分ける力でも……、無いよね。能力的に。しかし、ここは信じてみるか。
「えっと、仲間もこう言っていますし、是非ご一緒させて頂ければと思います」
他の冒険者と協力するのも冒険者ってものだろう。色々勉強も出来ると思うし。
「本当かい? 良かったよ。断られるかと思っていたからね」
「良かった良かったよー。こう見えて、イヴァンは弱気だからね!」
「知らない人と話すのは苦手なんだよ……。でも良かったよ。宜しくね」
「よろー!」
「よ、よろしくお願いします」
ローザはやっぱ元気系だな。ミネットはやはり人見知りだな。
「はい、よろしくお願いします」
「えぇ、よろしくね」
「それじゃパーティ登録をするね」
イヴァン達のクエストを協力する事にした俺達は、イヴァンのパーティに加わる事になった。ちなみに、同じランクEだし歳も近いだろうし、敬語はいらないって事になった。
今はダンジョンに向かう前に、お互いの情報交換や交流をしている。
「アキヒト君は回復とか補助とかの召喚獣っているかい?」
「えっと、まだ初歩的な召喚獣しかいないけど、回復と腕力と敏捷アップかな」
「それは嬉しいね! アッキーは凄い召喚士なんだね!」
アッキーって言うのは俺の事だ。ローザは他の人の事をアダ名で呼ぶのが好きなようだ。イヴァンも俺の事は呼び捨てでいいって言ったのに、君付けで呼ぶ。これも癖というか性格みたいなものらしいので、そのままにしておいた。
「これならダンジョン攻略も進みそうだね。良かったよ」
「兄さん? 私だって使えるんですよ?」
「あー……、そうだったね……。いや、使える人が増えるなーって事だよ」
「え! 魔法の袋を持っているのかい! それも銀三の?」
銀三っていうのは、銀貨三枚の魔法の袋って意味らしい。変な略称だ。
「あぁ、あったほうが便利かなって。実際に便利だよ」
「うーん。便利なのは分かってるけど、やっぱ銀貨三枚ってなるとちょっとね……。もしかしてアキヒト君って貴族だったりするのかな?」
あー、やっぱ銀貨三枚って高いのか……。
「いやいや、平民だから。これは師匠が残してくれたものなんだよ」
軽く自己紹介はした際に、師匠の事は説明したし、嘘はいっていないはずだ。
マリアが召喚獣というのは一応内緒にしておいた。依然考えた師匠に拾われた設定と同じく、マリアも一緒に拾われて育った、という事にしておいた。
「マリっちってクールだよねー。クール可愛いみたいな」
「マ、マリっち? 別にクールって訳でもないけど」
「ローザさんはこういう性格なので、クールなマリアさんは憧れるのです」
「ミネットも可愛いし、魔導師でしょ? 凄いじゃない」
「ちょっとー。こういう性格って何かな!」
女の子達も話が弾んでいるな。マリアも同年代の女の子と話せて楽しそうだ。仲間か……。さすがにペアだと厳しい世界だと思うし、いずれは考えていかないとな。
それにしても、マリっちか。アダ名のほうがむしろ長くなっているんだけど、それでいいのか。
イヴァン達もいい人そうだし、このままパーティを続けてっていうのもいいかもな。マリアも女の子がいたほうが楽しいだろうし。
「イヴァン達は何階まで行ったんだ?」
「僕達は三階の途中までだね。距離的には半分くらいだけど、それ以上は厳しくてね。アイテムを買い込むにしても、魔法の袋がないから荷物になるんだよ」
なるほど。回復役もいないし、回復薬の持ち込み数も限られているため、中々先に進めていないって事か。その制限で三階って事は、やはり俺達よりかなり凄いな。
「凄いな。俺達はまだ二階だよ。三階はまだ行ってないな」
「でもアッキー達がダンジョンに来たのって最近でしょ? 見かけるようになったの最近だし。それでもう二階って凄いよ!」
「そうでもないさ。マリアがいるお陰だよ」
「マリアさん凄いのです!」
情報交換を続ける。イヴァン達の進捗は、俺達より進んでいる。それでもまだ三階だ。
イヴァン達は、イヴァンが片手剣と盾で敵の攻撃を受けつつ、ローザの斧とミネットの魔法で殲滅する戦法らしい。それに俺達二人が加わる形になる。
俺は召喚獣での補助と回復をメインに、マリアは遊撃をしつつって形になる。
昇級クエストは通常のクエストと同時に受注する事が出来る。なので、まずお互いに慣れるためという事もあり、ダンジョンの三階のクエストと、念のため昇級クエストを受注した。
「よし。そろそろ行こうか。皆、よろしくね」
まだ見ぬボスよ、待っていろ。と言っても、会えるのはまだ先になるだろうけど。
ご意見ご感想があれば嬉しいです。
11/4:名前間違い修正……
12/14:誤字脱字修正