13 邂逅と野営
魔力も予想外に使ってしまっていたので、しばらく回復する事にしていた。
さっきの戦闘で素材も結構確保出来たし、さてどうするか。一階の探索もまあまあ出来たし、クエストの素材も足りるだろう。休憩を終えたら帰るのも手だ。
「今日はもう帰るか? 一階はもう十分だし、二階はまた今度でいいだろ」
「素材も平気だし、それがいいかもね」
さすがにいきなり二階には行かない。こういうのは、慎重に時間を掛けて進むものだ。決してびびった訳ではない。
まぁ、時間も結構経っているだろうし、今帰れば宿に着く頃には夜中だろうな。
「それじゃ、もうちょい休憩してから帰るか」
まだ少し魔力が回復していないように感じたので、休憩を続ける事にした。
休憩をしていると、何かが近づいてくる足音が聞こえてきた。
泥人形か? 休憩中だってのに、空気を読まない奴だ。
「何か来るわね」
「だな。足音って事は、泥人形か?」
魔物に備え、休憩を中断し戦闘態勢に入る。
数は……、二つは聞こえる。羽音はしないので、泥人形だけだろう。だが、聞こえないだけかもしれない。油断はもうしない。
音が近づいてくる。マリアが前に立ち、俺が後ろという陣形で待機する。
……来る!
「ん?」
「あら?」
俺もマリアも思わす声が出てしまう。
何故なら、見えてきた姿は人型だった。だが、泥人形よりも大きい。他に人型の魔物はここにはいないし、もしかして……。
「あ、どーも。こんばんは」
喋った! 喋ったよ! 人だよ! 第一冒険者と遭遇だよ! 街の外で初めて冒険者に会ったよ!
「こ、こんばんわ」
戸惑いながら挨拶を返すが、相手は特に何事も無かったように通過、ダンジョンの奥に消えていった。
「なぁ、あれって他の冒険者だよな?」
「みたいね。魔物じゃなかったわね」
冒険者と邂逅するのは珍しい事でもないのかな。挨拶だけして先に進んでいったし。
しかし、やっぱ他にも冒険者いるんだな。よかった。
「まぁ警戒するに越したことはないだろ」
「そうね」
初めて他の冒険者と出会うも、あっさりしすぎていて、少し残念だった。
まぁ同業でもあり、ライバルでもあるんだしな。
そんなに注意深く見れなかったが、三人組だった。男が一人の女が二人だ。
両手に華ですか、いいですね。
でも、このダンジョンにいるってことは、同じEか上のDランクだろう。
Eに成り立ての俺達よりは、確実に先輩で格上だ。
まぁ俺達に関係はないな。
「とりあえず、もう少し休憩したら戻るか」
ダンジョンを進んでいた三人組の冒険者は、一階で男女ペアの冒険者と出会った。ダンジョンで冒険者に出会うのは珍しくない。不審がられないように、軽く挨拶をした。
そのまま進み、ペアの冒険者が見えなくなった頃。
「さっきの子たちは二人組だったのかな、珍しいね!」
「そうだね。ダンジョンに挑むなら、人数が多い方がいいからね」
「兄さんもローザさんも、私たちだって三人だし、あまり変わらないのです」
「えー、ミーちゃんは細かいよー。イヴァンもそう思わない?」
「ミネットの言うとおりだね。僕らも似たようなものだよ。でも二人組は確かに珍しいね。腕利きなのかな? 年齢も同じくらいに見えたし、また会えるといいね」
彼らも冒険者なのだ。ペアとは言え、順調に進めばいずれ会う機会もあるだろう。だけど、僕たちは早めにこのダンジョンから卒業したいという思いもある。
クリアしてしまえば、もう二度と会うことはないだろう。冒険者とはそういうものだ。
雑談を終えた三人組の冒険者は、ダンジョンの奥へと進んでいった。
「やっと入口か。うぉ、もう真っ暗だな……」
休憩を終え、ダンジョンの入口まで戻って来た俺達は、予想はしていたが外が真っ暗な事に驚いた。
という事は、さっき出会った三人組の冒険者は、夜からダンジョン攻略している事になる。
危険ではないのか? いや、ダンジョンの中なら夜でも関係ないな。むしろ、帰る時に明るい方がいいはずだ。その辺を計算しているのかもしれないな。
「真っ暗ねー。光お願い」
さすがに街道には外灯はない。ダンジョンでは魔法の袋の肥やしだった懐中電灯の魔法道具を取り出す。
「一応歩く分には困らないが、これ平気か?」
懐中電灯で歩くくらいは出来る光量を得たが、万が一魔物と遭遇すれば危険だろう。それに、この世界にも無法者と呼ばれる人間がいるはずだ。夜中に歩き回るのはリスクが高いだろう。
「ちょっと暗いかしら。夜が明けるまで待つ?」
マリアも危険だと判断したのだろう。明るくなるまで待機を提案してきた。
うーん、宿に戻っても風呂がある訳でもないし、せいぜいベッドくらいか。野宿と比べると、ベッドは凄い魅力的だ。悩ましい所だ。だけどここは……。
「野宿するか……」
街まで徒歩三十分とはいえ、この暗さに懐中電灯のみで歩くのは危険だ。なので、野宿を選択した。苦渋の選択だ。
「それじゃ準備しましょうか」
女の子に野宿は酷だろうなぁ。今度からは明るい時間に帰るようにしよう。時計欲しいなぁ……。
ダンジョン入口そばの小部屋まで戻り、野宿の準備をした。と言っても、火と食事だけだ。
テントがある訳でもないし、寝袋も無い。寒くはないし、これだけで平気だろう。魔物が来る可能性もあるしな。
食事はマリアに作って貰った。変わらずテキパキで、味も最高だった。美味しいと感想を言うと、喜んでくれた。なんか俺ってリア充だな。ここがダンジョンではなく、日本の俺の部屋なら最高のシチュエーションだ。
飯も食べ終えたので、寝る事にする。一応交代で見張りをする事にした。
ここはダンジョン入り口の小部屋で、少しばかり結界みたいなものがあるみたいだ。転移の魔法陣を守るためだろう。そのため魔物はあまり近寄ってこないが、万が一ということもある。
マリアが、ずっと起きているからアキは寝てていいわよ、と言ったがさすがにそれには了承出来なかった。
まぁ召喚獣は基本睡眠を必要としないらしい。寝るというか、活動を停止する事で魔力の消費が減るので、意味が無い訳ではない。なので、マリアも寝た方が俺も楽になるからと説得した。
渋々だったが、納得してくれたみたいだ。なので交代で寝る事にする。
こんな風に外で寝るのは、子供の頃のキャンプ以来だな。両親と叔父さん夫婦と従妹で行ったけど、あの時は従妹と一緒に寝たなぁ。今は隣にマリアがいる。昔は従妹とは言え、まさかまた女の子と外で寝ることになるとは思ってもみなかった。
「それじゃ先に寝る。一時間くらいで起こしてくれ。ちゃんと起こすんだぞ?」
「分かってるわよ。ワタシも後で寝るから。お休みね、アキ」
「あぁ、お休み」
野宿なので、眠れるか心配だったが、さすがに疲れていたんだろう。すぐに眠気が来て眠ることが出来た。
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