12 被弾と反省
休憩を終えた後、意気揚々とダンジョン攻略をしていた俺達だが、早々とさきほどの小部屋に戻ってきていた。
「いやぁ、油断はしていないと思っていたが、さすがダンジョンだな」
「アキ、怪我は大丈夫? 痛くない?」
「もう大丈夫だよ。ウンディーネのお陰だな」
時は少し遡る。
「敵、出てこないな」
「そうね。でも油断しちゃ駄目よ」
昼休憩の後、地下一階の先を進んでいた。しばらく歩いていたが、これまでのエンカウント率が嘘のように敵に遭遇しない。
「このまま階段まで行けそうだな」
楽勝、思わずそんな風に思っていた。これならさっき試算した時間よりも、全然少なく階段まで達する事が出来るだろう。前半で時間が掛かったのが嘘のようだ。
「……、そうも言っていられないみたいよ」
「敵か」
「少し多いわね」
曲がり角に差し掛かるという場面で、敵に遭遇した。泥人形二体のコウモリ二匹という複合構成だ。さすがに合計四は多い。やはりダンジョンといったところか。
「多いな。来い、シルフ! ノーム!」
召喚獣を二体召喚する。これで数だけは同じになった。混同構成だと面倒だな。どちらかを先に倒しておきたい。
「先にコウモリを片付けるか。マリアとシルフはコウモリを攻撃してくれ。ノームは泥人形を足止めだ」
「分かったわ」
「はーい!」
「行くぞい」
マリア達に指示を出す。空を飛んでいる上、そこそこ素早いコウモリから先に倒すことにする。泥人形は動きも遅いし、ノームで足止めを狙って分断だ。
シルフのウインドボールがコウモリを狙う。奇襲じゃないと直撃は難しいとはいえ、かすっただけでもかなりのダメージが期待できる。その上、マリアが追撃すれば、コウモリもお終いだ。
「せいっ! まずは一匹目!」
向こうは順調のようだ。俺とノームは泥人形に対する。ノームの攻撃で土の杭が泥人形を襲う。一体は上手いこと当たったようだ。見るからに瀕死状態になっている。これなら俺が殴って倒せることも出来そうだ。
もう一体の泥人形は、ノームが作った杭に阻まれて動けないでいた。瀕死状態の泥人形とは少し離れている。分断して先にコウモリを片付ける算段だったが、マリア達を待つまでもなく、このまま泥人形を倒してしまうか。
ノームにより、瀕死になっている泥人形に向かう。杖を握りしめ、大きく振りかぶる。
「喰らえっ!」
そのまま杖で泥人形を殴る。杖とはいえ、思いっきり殴れば、結構なダメージになるはずだ。コウモリは倒せなかったが、瀕死な泥人形なら倒せるはずだ。
その考え通りに、瀕死だった泥人形は地面に伏した。倒すのに成功だ。こっちは後泥人形が一体、マリア達もコウモリを倒しているだろう。敵の数は多かったが、危なげもなく処理することが出来そうだ。
この時、俺は油断していたのだろう。マリアの注意が聞こえるまで気付かなかった。
「アキ! 後ろにもう一体いるわ! 逃げて!」
「なっ!」
泥人形を倒した余韻に浸りつつ、残った泥人形の方を向いていたので、俺は無防備だった。マリアの声で振り向くと、目の前に腕を振りかぶっている泥人形がいた。
未だ動けない残りの一体の泥人形。それとは別に、曲がり角に隠れていたかのように泥人形が姿を現し、俺に向かっていたのだ。
近すぎる。避けるのは……、無理そうだな。そう判断した俺は、急いで杖と腕でガードする。
泥人形が殴りかかってくる。
「ぐっ…!」
予想以上の攻撃力だ。兎とは比べ物にならない。正直かなり痛いが、この場にいるといい的だ。ちょうど泥人形達に挟まれている状態なので、後ろに逃げることは出来ない。なのでマリア達の方に逃げる事にする。
そう思い、逃げようとしたのだが、泥人形がさらに殴りかかって来ていた。動きが遅いとは言え、こう近いとあまり意味が無い。
「くそっ!」
泥人形の追撃を転がるように回避する。なんとか回避は出来たが、このままではジリ貧だ。もう一発くらいは覚悟しておくかな……。
「とりゃ!」
いつの間にかマリアがそばにおり、俺を攻撃してきた泥人形を攻撃していた。
「アキ! 大丈夫?」
「助かった。大丈夫だ。コウモリは倒したのか?」
「えぇ、二匹とも倒したわ。アキは無理しないで下がって!」
後衛の召還士とは言え、女の子に守って貰うなんて格好悪いな、俺……。
マリアの言葉に従い、後ろに下がり状況を確認する。二匹のコウモリは死んでいるようだ。マリアが泥人形の正面に位置している。ノームで拘束状態だった泥人形も、自由になりつつあった。
あれに動き回れると、面倒だな。
「シルフとノームは、もう一体を頼む!」
召喚獣達に指示をする。
「せいっ!」
「えーい!」
「どりゃー!」
……マリア達の活躍により、敵を殲滅した。強いですね!
「シルフとノーム、ありがとな」
活躍を労い、解除する。
「ふぅ。アキ、殴られたところ大丈夫?」
マリアはテキパキと解体と回収を終えたいた。
「実は結構痛い」
さっきは戦闘中だったが、冷静になってくると、段々と痛みを感じてきた。骨は折れてはいないと思うが、動かすのが辛いくらい痛い。よく見ると、青く腫れていた。
「え、大変じゃないの! 早く治さないと!」
「そうだな、ウンディーネ頼む」
「かしこまりました、主」
さすがに兎の比ではない痛みなので、さっさと回復する。
ウンディーネは回復が出来る召喚獣だ。怪我をする機会もあまりなかったので、呼ぶ機会が少なかったが、この怪我も治せるだろうか?
ウンディーネの魔力が、俺の殴られた部分を覆い光る。
「終わりました。どうでしょうか、主」
しばらくすると、回復完了したようだ。動かして見ると、痛みが嘘のように無くなっていた。腫れも引いているし、大丈夫のようだ。
「ありがとう、大丈夫みたいだ」
「よかったです、主」
ウンディーネにお礼を言って解除する。
「治ったのよね? 大丈夫よね?」
「あぁ、大丈夫だ。心配掛けたな、ごめん」
「別に……心配はするわよ。大事な主だから」
誰かに心配されるのは嬉しい事だが、少し大袈裟ではないだろうか。マリアさんは心配性だな。
しかし、確かに痛かった。動きが遅い分、パワーが高いんだな、泥人形。
「で、どうするの? 先進む?」
「んーと、そうだな。すまないけど、休憩したい」
「そうね、無理しちゃ駄目だしね。それじゃ、さっきの小部屋まで戻りましょ」
という訳で、休憩と反省会中なのだ。
「曲がり角の先に伏兵がいたんだよなぁ」
「私が気づいた時には、もう近くにいたわね」
魔物を分断するつもりで、コウモリから片付けようとしていたが、どうやら分断されていたのは俺達だったようだ。
最初に見える範囲にいる敵ですべてと思い込み、伏兵、今回の場合は曲がり角の先にいて、まだ見えていなかった敵の可能性を忘れていた。
それを確認しないまま、調子に乗って突っ込んで、奇襲を喰らった訳だ。
「むー、索敵が重要だなぁ」
「それよりも調子に乗らない方が大事だと思うわよ?」
怪我が大丈夫になったので、マリアの心配も無くなり、辛口の意見が出てくる。
「まぁ、確かに今回は調子に乗りました。すみません」
「うん、分かればいいのよ。ワタシが前衛なんだから、もっと頼ってね」
とは言うが、やはり女の子に守って貰うスタイルは、なんだかなと思う。もっと鍛えるかなぁ……。
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