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11 思い出と決断

「ふぅ……。ここは変わらないな」

 気づいたら俺は一人で森に来ていた。

 普通なら、一人で街の外を出歩くなんて危険極まりないけど、そうしたかった。

 一人で落ち着いて考える時間が欲しかった。


 ここは、俺がこの世界で初めて降り立った――マリアに召喚された場所だ。

 さすがにあの時の召喚陣や魔力は残っていないけど、周りの景色は覚えている限りではそのままだった。

「マリアは元気だぞ、爺さん」

 ここに眠っているのは、マリアを創った爺さんだ。

 墓らしい墓って訳でもないけど、一応手を合わせておいたほうだいいだろう。

 そういえば、この爺さんってどこ出身なんだろう。どっかに家とかあるかと思ったけど、無かったな。


 俺を取り巻く状況は変わった。

 元の世界に帰る方法はない。昔にここで確認した事だ。

 それが、今の俺は元の世界に戻れる。戸田が残した召喚獣を使えば戻ることが出来る。

 受験に失敗して、久々に羽を伸ばしてゲームをしていたあの時に戻る事が出来る。

 戻りたい……そう思う自分がいる。


 でも返りたくないという自分もいる。

 俺は……この世界が好きなんだ。


 フルト村。

 イヴァンとローザとミネットの故郷の村だ。

 長閑(のどか)で住民も優しくて、のんびりと過ごすのに最適な村だった。

 イヴァン達の赤ちゃんも可愛かったし、何もかもがほっこりする村だ。

 また遊びに行きたいし、住むのもいいかもしれない。


 デラクルス国。

 滞在期間は短くて慌ただしかったけど、ここもいい国だった。

 獣族の人が多くて、少し暑苦しい感じだったけど、冒険者としては過ごしやすい国なんだと思う。

 盗賊団の討伐なんていうのがあったから余り探検も出来なかったけど、ダンジョンとかもあるんじゃないかな。

 暇が出来たら一度落ち着いた行ってみたい所だ。


 王都ドックトン。

 ここは少しというかかなり特殊な国だった。

 女性ばかりだったけど、だからといって男である俺が過ごせないかと言えば、そうじゃなかった。

 ミネットがいたクラン――ヴィータネンの人たちにも良くして貰ったし、過ごしてみればいい国なんだと思う。

 ミネットとはここで再開して、そして仲間になった。

 さらに、俺の悩みの種である戸田の遺産との出会いもここだ。

 トキと出会って、元の世界に戻れるかもって分かったんだ。


 トーダ国。

 戸田が興した国だ。

 今に思えば、ところどころに日本っぽいモノが垣間見えていた気がする。

 あそこは王様がフレンドリーで、国民からも愛されている感じがしたので、いい国なんだろう。

 召喚に力もいれているし、まだまだ勉強にもなる事も多いと思う。


 エルフの里。

 トーダ国からの依頼で赴いたのがエルフの国だ。

 大変な思いもしたけど、出会いもあった。

 ヴァルマは楽しもしい仲間だけど、敵対していた時は本当に死ぬかもと思った。

 死を覚悟したのは、あれが三回目だ。

 それもなんとか無事に終わって良かった。

 エルフの長老さんや孫の元気なカティ、トーダの兵士達……ロベルタさんは元気だろうか。

 冒険者パーティのサブナックの風とも共同で作業して、交流も出来て良かった。


 王都グーベラッハ。

 ここでも色々あった。

 初めての王都だったし、観光って点でも楽しかった。

 冒険者としても出会いが多くて、アルルと出会ったのもここだ。

 初めての奴隷で緊張もしたけど、アルルがいい子で助かった。

 オーク達との戦闘もあった。中ボス――オークジェネラルだ。

 死ぬかと思った瞬間そのニだ。

 奥の手のイージスの盾がうまく機能してくれたからいいけど、あれは無計画な突撃だったな。

 その御蔭かそのせいか、カタリーナが仲間になって、王都から出ることになっちゃったけど。

 初めて王様とかお姫様と出会って、緊張したのもいい思い出だ


 ワーズヴェシン。

 初めての街。初めての異世界人。初めての冒険。初めて尽くしの街だ。

 マリアと散歩――デートみたいな事もしたし、冒険者になったのもここだ。

 ダンジョンに行って、苦戦もしたし挫折もした。

 そこで出会ったのがイヴァン達だ。

 初めて他の冒険者と絡んで、楽しかった。

 ここでも一悶着があった。

 初めての悪意だ。

 色々な人間がいるとは思っていたけど、実際に目の当たりにすると、自分が情けなくなる。

 守りたいって思った女の子。

 その子に迫る悪意。

 なんとしても守りたいって思った。自分がどうなってもいいとも思った。

 初めての死の覚悟と初めての人殺しを経験した。

 でも後悔はなかった。マリアも俺も無事だったからだ。

 もし、ここで俺がマリアを失っていたら、多分今の俺はいないと思う。

 絶望と後悔と、色んな負の感情が襲いかかってきて、きっと冒険者なんて続けていなかっただろう。

 そのままワーズヴェシンに引きこもっているか、もしくは自暴自棄になって自死を選んでいたかもしれない。

 今の俺があるのもマリアのお陰だ。

 マリアがいたからこそ、あの恐怖に立ち向かって、前に進む事が出来た。


 そしてこの森だ……。

 確か、ワーズフォレって名前だったかな。

 ここで俺とマリアは出会った。

 あの時は本当にびっくりした。

 部屋にいたはずなのに、いきなり知らないところにいて、知らない可愛い女の子が目の前にいたんだから。

 そうか……。色々考えてみたけど、俺は、最初からそうだったんだな。

 ……そろそろ、かな。

 ガサリ、と俺の後ろで音が聞こえた。

 その音が、俺の一人の時間の終わりを告げた。




「アキ……。やっぱりここにいたのね。皆心配してるわよ。アキがいなくなったって」

 誰が来ているかは分かっていた。

「マリアか……。ちょっと一人で考えたくてね。でも良く分かったな」

「分かるわよ……。アキはワタシのマスターだもの」

 マリアは俺の召喚獣だからだ。

「ここ……覚えてるか?」

「えぇ……ワタシがアキを召喚、した場所ね」

 マリアが産まれて、俺とマリアが出会った場所だ。

「あれから色々あったな……。最初は二人だったのに、今じゃ賑やかになった」

「そう、ね。皆女の子だけどね」

 二人の時は楽しかった。

 アルルが加わっても、それは変わらなかった。

 カタリーナが加わっても、それは変わらなかった。

 ヴァルマもミネットが加わっても、もちろん変わらなかった。

 いつもマリアがいたから。

「マリア……。大事な話がある。聞いて欲しい」

「……分かったわ」

 俺は……マリアに言わないといけない。

 自分の気持ちを。

 自分の想いを。


ご意見ご感想があれば嬉しいです。

が、豆腐メンタルなのでお手柔らかに……


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